前置
ヒュージ・リーダーズというフォーマットがある。
マジックの公式ホームページには載っていない。MTG wikiにも個別のページは無い。そんなフォーマット、実在していると言えるだろうか。まったくのヨタではないかと言われるかもしれない。
しかしかつて統率者戦もそうだった。それが今や「最もプレイされているフォーマット」だ。この記事を書いているのは2021年9月のことである。近い将来、この記事が読み返され、驚きを持って共有されることを願っている――
2018年6月。それは「些細」な一言だった。
「重たい呪文だけの統率者戦ってのをやってみないか?」
あるコミュニティで誰かが思いついてしまったのが始まりです。それは「タイニー・リーダーズ」の逆、マナ総量の重い呪文だけのフォーマットでした。
「タイニー・リーダーズ」マナ総量3以下の呪文、3色以内の固有色で構築する統率者戦。
マナ総量5以上の呪文だけが使用できる統率者戦、「ヒュージ・リーダーズ」が生まれました。
ヒュージ・リーダーズは実店舗でもイベントが開かれるほどの広がりを見せています。
晴れる屋トーナメントセンター大阪やBIGMAGIC秋葉原店で交流会が開かれるようになり、「コマンドフェストオンラインのサイドイベントフォーマットに選ばれ、晴れる屋の本店ことトーナメントセンター東京の統率者戦イベント「コマンダーサミット」にも公式種目として採用されます。いまや、統率者戦に次いで注目を集めているカジュアルフォーマットと言えるでしょう。これほどまでに多くのプレイヤーを取り込むことになった理由は何なのでしょうか。それはきっと、「ヒュージ・リーダーズ」がほかの統率者戦変則ルールと比べても圧倒的にへんてこなフォーマットだったからでしょう。
ヒュージということ
統率者戦の禁止カードははじめ、レガシーと同じでした。現在ではそれぞれの独立した禁止カードリストを持っていますが、統率者戦も強さを求めるとレガシー同様、デッキリストは「より軽い」呪文が占拠します。
すべてのマナ総量4以下のカードを禁止するヒュージ・リーダーズでは《タッサの神託者》どころか《神秘を操る者、ジェイス》でさえ許されず、「教示者」はすべて締め出され、軽量マナ・アーティファクトの存在しない世界です。こんなに極端なフォーマットはなかなかありません。
ヒュージな統率者
統率者戦ではより軽い統率者が強いといわれる傾向があります。マナ総量5の統率者は重い部類です。
では、最も軽い統率者でも5マナのヒュージ・リーダーズではいったいどんな統率者が人気なのでしょうか。一緒に見てみましょう。
デカいしマナコストを軽減する
マナ総量5以上の呪文しか入らない以上、マナ加速の手段は限られています。そこで、マナを増やせないならマナコストの方を軽くすればいいという発想です。例えば《凶暴な見張り、ガーゴス》はハイドラ呪文のマナコストを4も軽減します。次のターンには《頂点壊滅獣》も唱えられそうです!ライフが25点しかない以上、パワーが大きいクリーチャーを出すというのはそれだけで非常に強力!
ヒュージ・リーダーズはカードのマナ総量が重いだけに1枚のカードが及ぼす影響は大きいので、1ターンを先んじることで非常に大きくリードすることができます。
デカいしコンボする
統率者戦の半分の枚数のライブラリーでゲームが始まるヒュージ・リーダーズではサーチカードがなくともコンボパーツを手に入れやすいですね。
例えば《東の樹の木霊》は統率者戦でも活躍する強力な統率者候補です。《猛り狂うベイロス》《死者の原野》のような「土地が戦場に出ることでトークンを戦場に出す能力」と《ギルド無しの公共地》のような「戦場に出たときに土地を手札に戻す能力を持つ土地」との組み合わせで無限ループが形成できます。
そうでなくても、1ターンに2度行動するのが非常に困難なヒュージ・リーダーズにおいて簡単にパーマネントを並べられる統率者は非常に強力ですね。
「続唱」を呪文に与える《報奨の祝賀者、イモーティ》が稼ぎ出すアドバンテージは尋常ではありません。たとえ打ち消されたり除去を差し向けられてもほとんどの場面で有利な交換となります。
「続唱」する統率者と言えば《大渦の放浪者》ですが、21年9月10日現在では禁止されています。「続唱」で何がめくれても強いヒュージ・リーダーズでは、そもそも「続唱」というメカニズムが非常に強力であることの表れですね。
ほかにも、まったく想像しえないコンボが日々開発されています。
《西涼の戦士 馬超》は「馬術」を持ちほとんどブロックされることがありませんが、単独で攻撃することで完全にブロックされなくなります。
このデッキが擁するコンボが「無限馬超」。追加の戦闘フェイズを得る呪文《凶暴な打撃》をあらかじめ墓地に落としておき、《勝利への高まり》で追放します。ブロックされない《西涼の戦士 馬超》で攻撃し、戦闘ダメージを与えたことで《凶暴な打撃》のコピーを唱えます。《西涼の戦士 馬超》が起き上がり追加の戦闘フェイズを得ます。以下繰り返し……無限に戦闘フェイズを得ることができ、全員を殴り倒せます。
こんな奇妙なコンボが他にもまだまだこのフォーマットには埋もれているはずです。ぜひ独自のコンボを模索してみてください。
デカい。
大きいことはだいたい、いいことです。マジックの世界では必ずしも「大は小を兼ねる」とは限りませんが、ヒュージ・リーダーズではどうでしょう?たとえ統率者戦ではスピード不足でもここでなら輝けるかもしれません。レッツチャレンジ。
否定されるマジックの定説
ヒュージ・リーダーズの面白さはマナ確保の手段にあると言ってもいいでしょう。
1枚から2マナ以上出る土地を利用するというのはわかりやすいですね。これは統率者戦でもよく見られる手段です。
さて、エターナル環境で非常に魅力的な土地と言えば「デュアルランド」です。アンタップインで、すぐ好きな色マナが出せますし、フェッチランドでサーチも可能。みんなのあこがれ。しかし「ヒュージ・リーダーズ」では場面によってデュアルランドよりももっともっと強い2色のマナを出す土地があります。なんでしょうね。
ここまでご覧いただいた手を止めてちょっと考えてみてください。
トライオームも悪くないですね。惜しいですが、それよりももっとクセのある土地です。
さあなんでしょう。きっと皆さんのおうちのストレージにも入っていますよ。
~~~シンキングタイム~~~
~~~シンキングタイムおわり~~~
正解は「占術ランド」と「バウンスランド」です。
5ターン目まで行動できることが極端に少ないヒュージ・リーダーズではドローの質を高める占術をさせてくれる土地がデュアルランドより強力に働くことがあるのです。アンタップインしても使い道無いんじゃしょうがないもんね。
なにか意図が無い限り敬遠されがちな「バウンスランド」。手札を減らさずに土地を出せるのはいいのですが、タップインというテンポの悪さが気になるところでした。まあ、そんなこともヒュージ・リーダーズでは些細なことですね。
ヒュージ・リーダーズでは「拠点」ルールによって無色5マナは確実に出ますが、色マナの確保に困る場面があります。ヒュージ・リーダーズではマナ総量の重い呪文だけではなく、普段なら敬遠されてしまうような土地にもスポットライトがあたります。
5ターン目まで何もしない土地として知られる《邪神の寺院》は時に《古えの墳墓》よりも強い土地となります。まあ5ターン目までやることないもんね。
いや、5ターン目までにやることがありました。
《地形形成装置》は起動型能力で手札から基本土地カードを置けます。《太陽の指輪》が無い世界ではすごく強そうです。
《無限地帯》はカジュアルな統率者戦でも見かける良カードです。起動型能力によって基本土地を2枚ライブラリーから戦場に出してマナ加速と色の安定化を担います!
そして極めつけが《溺墓の寺院》。3マナ払うと墓地にある自身を戦場に出すことができるという土地なのですが……一体どう使うのでしょう?
ここで重要になってくるのが「拠点」にまつわるルール。《溺墓の寺院》を含む7枚でゲームをスタートし、ドローして8枚に。ここで統率領域から《荒地》をセット。すると手札が8枚なのでディスカードフェイズで手札を捨てます。ここで《溺墓の寺院》を捨てることで、のちに墓地で能力を起動してマナ加速が可能になるのです。
よく思いつくなそんなこと……
俺たちもでっかくなろうぜ。
このフォーマットはまだ誕生から間もなく、統率者戦と比べるとまだまだプレイヤーの少ない「奇妙なルール」です。しかしながら、このフォーマットは交流会を重ねていくごとに少しずつ大きく育っていきました。きっとこれからもそうです。
まだまだ開拓の余地が広く残されているこのフォーマットで己のビルダーぢからを試すのもよし。もちろん、カジュアルにでっかい恐竜を出して遊ぶのだっていいでしょう。
このフォーマットが一時のブームに終わるのか。長く続き、多くの人に愛され、ウィザーズから「ヒュージリーダーズセット」なるものが発売されるほどのメジャーフォーマットに育つのかは全く分かりません。
ばかばかしいと思うかもしれませんが、言葉にすることで広がっていく夢もあります。2018年の6月、誰かがつぶやいた「タイニー・リーダーズの逆をやってみようぜ!」の一言のようにね。
仰々しい前置にもあるように、近い将来、この記事が読み返されて「《溺墓の寺院》のことをわざわざ書かなきゃいけない時代があったのか……」と驚きを持って共有されるようになるかもしれません。そうなれば素晴らしいことです。
残念ながら11月3日に延期となってしまいましたが、統率者戦の大規模イベントコマンダーサミットでも公式種目として取り扱うことが決定しています。この大きな舞台でヒュージ・リーダーズがまた一段とサイズアップするのを夢見ています!
皆さまにはご迷惑をおかけいたしますがご理解・ご協力をお願いいたします。
今後の情報につきましては弊社ツイッターアカウント(@hareruya_mtg)をご確認ください。
延期は残念ですが、「ヒュージ」になるための十分な時間ができました。さあ、ストレージをひっくり返す時です。
それではみなさん、「ヒュージ・リーダーズ」のテーブルでお会いしましょう!