挑戦者インタビュー: 斉藤 伸夫 ~誰よりもレガシーを識る、その理由~

晴れる屋

By Atsushi Ito


 【エターナルパーティー2012】3位。【エターナルパーティー2013】トップ8。【The Last Sun2013】トップ4。【第1期レガシー神決定戦】準優勝。【グランプリ・京都2015】67位。

 国内の大型レガシートーナメントで上位に常に名を連ね、【第4期レガシー神挑戦者決定戦】でついに「神」への挑戦権をも獲得した男。


 斉藤 伸夫(東京)。


 人気連載だった【のぶおの部屋】のライターとしても知られており、レガシー界でも随一の強豪と目されている彼が、この度「レガシー神」川北 史朗と激突することとなったのだ。

 だが、ここで1つの疑問が生じる。すなわち。

 斉藤は、いったい何故ここまでレガシーが強いのだろうか?

 確かに斉藤は強い。プレイングが早い上に正確で、1つ1つのプレイの理由を他者に説明できるだけの論理的な思考力も持ち合わせている。挑戦者の資格を獲得する日もそう遠くないだろうと考えていた。

 しかし、だからこそ疑問にも思うのだ。レガシーといえば誰もが《Force of Will》を撃ち、誰もが《渦まく知識》を撃てる環境だ。使っているカードに大差はない。デッキについても、インターネットが発達した今、プロが作り上げた最新のものをコピーすることは誰にとっても容易なはずだ。

 それなのに、斉藤はレガシーというフォーマットで極めて安定して勝ち続けている。

 その差は、どこにあるのだろうか。

 というわけで、斉藤の強さの理由と、そして神決定戦への意気込みについて、この機会にインタビューを試みた。






レガシーはプレイの選択肢が多いところが好きなんですよ

--「斉藤さんはどういった経緯でレガシーを始めたんでしょうか?」

斉藤 「僕は小学校のときにマジックを始めて、中学の終わりで一旦やめちゃったんですよね。で、大学生になって復帰したときに、とりあえずスタンダードを始めてジャンドのパーツを一式揃えたんですが、勝てはするけども『なんか違うなー』と思って。それで『昔持っていたカードを使いたいな』と考えたのがレガシーを始めたきっかけです。やめる前に集めたデュアランとか《Force of Will》とかが全部手元に残っていたので。まあでも一番使いたかった《ドルイドの誓い》《ネクロポーテンス》がレガシーでも禁止だったのにはちょっとがっかりしましたが(笑)」

--「そんなに昔からマジックをされていたんですね。それからはずっとレガシーを?」

斉藤 「そうですね。といっても、ちゃんとやり始めたのは2011年~2012年くらいのことだと思います。AMC (Ancient Memory Convention: 関東の草の根レガシー大会) にちょくちょく出るようになって、最初に大きな大会で結果を残せたのは【日本レガシー選手権2012】だったと思うんですけど、7-1で迎えた最終戦で今年日本代表になった玉田(遼一)さんと当たって、ガチるか悩んでIDしたらオポ落ち9位で。オポネント計算の重要さを学ぶと同時にすごくがっかりしたのを覚えてます。しかもその年の【エターナルフェスティバル2012】でまた玉田さんと最終戦で当たって、今度はIDしたら実は残れたのにガチって負けて11位っていう。そういうわけで玉田さんとは、何だかちょっとした因縁がありますね」





--「斉藤さんは【The Last Sun2013】のときにスタンダードも触っていましたし、【晴れる屋のモダンPTQ】でもトップ8に残っていたと思うんですが、そういった経験を経て今でもやはりレガシーをメインにプレイされているわけですよね。他のフォーマットも遊んでみた上で、改めて斉藤さんにとってレガシーの魅力はどんなところにあるんでしょうか?」

斉藤 「やっぱり、一番面白いからですね。僕の場合、レガシーはプレイの選択肢が多いところが好きなんですよ。カードプールが広いので読み合いがとても深くなりますし、インスタントやピッチスペルも豊富にあってケアする範囲も自ずと広くなって、難しいけれど突き詰めがいがあると感じます」

--「確かにレガシーは呪文も軽いしタイミングを選ばないカードが多いので、一手一手がかなり繊細ですよね。セットランドですら考えどころになりますし」

斉藤 「そうですね。あとは不利な局面をまくる要素がたくさんあるのが良いですね。スタンダードやモダンは一度負けの流れにハマっちゃうとまくりようがなかったりするので。それと、他のフォーマットと比べて環境の変化が早くないから、やり込めばやり込むほど経験を蓄積できるというのは何より重要だと思います。積み重ねたものがプレイに生きると、自分の成長が実感できて嬉しくなりますからね」



近年のレガシー大会の対戦動画は大体目を通しています

--「それにしても斉藤さんはどうやってそこまでレガシーが強くなったんでしょうか?レガシーの師匠的な存在が誰かしらいらっしゃったんでしょうか」

斉藤 「師匠……っていうと思い浮かばないですね。一緒に切磋琢磨した仲間という意味でなら、【ボルト算】土屋 洋紀が一番ですかね。彼が成田に引っ越すまでは、彼の家で練習したりしていました」

--「でも同じレベルの友人だけだと目指すべきものがないというか、お手本にはならないですよね。斉藤さんは一体誰に『良いプレイ』『上手なプレイ』とされるものを教わったんでしょうか?」





斉藤 ネットにあがってる動画ですね。たとえばSCG (【StarCityGames.com】) なんかは大会のシステムが変わる前は毎週フィーチャーマッチの動画がアップされていたので、それをひたすら全部見ていました。あとは【Channel Fireball】とかBazaar of Moxenとか、とにかく大きい大会のレガシーの対戦動画を見て、色んなデッキのプレイを覚えるんです。今までずっと続けているので、多分近年のレガシー大会の対戦動画は大体目を通していますね」

--「それはすごいですね。でもそんなに動画ばっかり見てたら他のことが何にもできなくなっちゃったりしませんか?」

斉藤 「そうでもないですよ。動画を見るのは通勤などの移動時間にスマホで見ることが多いですし。あと僕は寝る前にレガシーの動画を見ることが多いですね」

--「なるほど、他に何もできない暇な時間や余った時間をうまく活用しているわけですね」

斉藤 「ですね。ジムで走ったりバイク漕いでる間に目の前の画面でレガシーの動画流したりしてます(笑)

--「そこまでしてるんですか!でも走りながら動画見てる斉藤さんを想像すると確かにちょっと面白いですね(笑)」

斉藤 「動画以外だと、あとはネット上にあるデッキレシピを使って同じアーキタイプ同士で比較するというのはよくやりますね。定番のスロットが何かというのと、人によって変えている部分はどこか、そこには大抵どんなカードが入っているのかが把握できるので。それからメタ上のデッキはプロクシーでもいいので一通り全部作って回しますね。レガシーで勝ちたい場合、自分のデッキの理解はもちろんですが、対戦相手としてよく当たるアーキタイプのレシピと動きは把握しておいた方がいいと思います。僕の場合は、オムニテル/ミラクル/マーフォーク/グリクシスデルバー/感染/デスタク/土地単……などなど、なんだかんだで15種類くらいのデッキを作ってありますね」

--「凄まじいですね……しかし斉藤さんは海外のレガシーグランプリに遠征したりはしていないと思うんですが、そのモチベーションはどこから湧いてくるんでしょうか?」

斉藤 「うーん、何でですかね……最初はただ『誰よりもレガシーに詳しくなりたい』と思って始めたことは覚えているんですが……まあ、昔からコツコツやるのが好きなんですよね(笑) でもやり込めばやり込んだだけ強くなる環境なので、やりがいはかなりありますよ」



サイド後にお互いのデッキの不要牌がなくなった状態で駆け引きができるようにデッキを構築したい

--「今回の神決定戦の話に移しますと、対戦相手のレガシー神・川北さんとはお知り合い同士ということですが、第一印象って覚えていますか?」

斉藤 「第一印象はさすがに覚えてないですね……たぶん初めて会ったのはAMCの会場だと思います。その頃は今と違ってよく親和と《実物提示教育》を使っていたイメージがありますね」

--「現在の印象でいうと、川北さんはどういうプレイヤーだと思いますか?」

斉藤 「やっぱり、アドバンテージを取るのが好きだなぁと思います(笑) カードパワーが高いカードをよく使っていますよね。《Hymn to Tourach》《時を越えた探索》《精神を刻む者、ジェイス》みたいな。テンポとかビートよりもアドバンテージを第一に取ってくるイメージがありますね」


Hymn to Tourach時を越えた探索精神を刻む者、ジェイス



--「わかります(笑) そういえば川北さんは【前回の神決定戦のインタビュー】のとき、『私はマジックとは突き詰めれば確率のゲームだと思っている』と言っていましたが、斉藤さん的にはマジックは、特にレガシーはどういうゲームだと思いますか?」

斉藤 「僕も基本的には確率のゲームだと考えていますが、ただマジックを確率のゲームにするためには、大前提として経験則が必要になるのかなとも思います。ただ確率を計算するだけなら誰でもできますが、ゲーム中に相手の手札のカードの可能性について『これを持っているのかも』と思い浮かんだり、『これを持たれてたらやばいな』っていうケアを思いつくかどうか、あとは『何ターン目だからこれは持っていそうだな』と考えたりするかどうかなど、そもそも経験則があって初めて確率の領域にたどり着くと思うんです」

--「前提となる知識がないと、確率を論じるところまでいかないと」

斉藤 「そうですね。特にレガシーはアーキタイプごと、マッチアップごとに膨大なセオリーの蓄積がありますから。そのセオリーを知るために練習をしていますね」

--「その考えでいくと、あらゆるデッキの対戦動画を見てプレイを蓄積しているという斉藤さんはやはり最強の挑戦者ということになるかもしれませんね。さて最後に神決定戦、自信のほどはいかがでしょうか?」

斉藤 「川北さんは間違いなく強敵ですが、しっかり調整して、特にサイド後にお互いのデッキの不要牌がなくなった状態で駆け引きができるようにデッキを構築したいですね。あとは今回、挑戦者があんちゃん (高橋 優太)、シゲキ (高野 成樹)で3人とも知り合いなので、ぜひとも3人で一緒に勝ちたいですね。『挑戦者チーム』みたいな連帯感があります(笑) 3人ともみんな『神』になれたら嬉しいですね」

--「ありがとうございました」





 斉藤 伸夫の強さの秘密。それは膨大な量の動画鑑賞にあった。

 斉藤は幾多のレガシーの対戦動画を見ることを通じて、様々なデッキの様々なマッチアップでのマリガン・平均的なゲーム展開・ゲームの焦点・サイドボードなどの要点を吸収していったのだ。

 それはいわば地球の反対側で行われたレガシーの対戦の数々を疑似体験しているに等しい。その意味では、斉藤以上にレガシーの経験を持つ者は日本中を探してもほとんどいないことだろう。

 通勤中。トレーニング中。就寝前。仕事以外、行住坐臥これレガシーという斉藤は、まさしく「誰よりもレガシーを識る男」にふさわしい。

 そんな斉藤が、「レガシー神」と激突する。【第1期レガシー神決定戦】の決勝戦以来のリベンジマッチ。

 斉藤と川北が繰り広げる激闘がどんなものになるのか。今から楽しみでならない。