はじめに
みなさんこんにちは。晴れる屋メディアチームの富澤です。
先週に『イニストラード:真夜中の狩り』の全カードリストが公開となりました。新しいプレインズウォーカーや使い勝手の良さそうな多色地形、強力なクリーチャーと、どれを使おうかと目移りしています。今週の17日にはMTGアリーナで実装になりますので、デッキを夢想しながら指折り数えて待つ日々ですね。
しかし、注目すべきは何も新カードばかりではありません。かつてスタンダードで名を馳せたカードが最新エキスパンションへと再録されて、再びスタンダードへと現れることがあります。《秘密を掘り下げる者》や《真髄の針》が『イニストラード:真夜中の狩り』に再録されたことはご承知かと思います。
ではそれらに混じって、懐かしの打ち消し呪文が再録されたことをご存知でしょうか?
今回の情報局では『イニストラード:真夜中の狩り』に再録が決まった《雲散霧消》にスポットを当てていきたいと思います。
《雲散霧消》とは
呪文1つを対象とし、それを打ち消す。その呪文がこれにより打ち消された場合、それをオーナーの墓地に置く代わりに追放する。
《雲散霧消》は《取り消し》などと同じ3マナの確定打ち消し呪文であり、解決時に打ち消した呪文を追放する効果が付随しています。確実に1対1交換しつつ、ゲームから追放することで再利用を許しません。打ち消し呪文としては申し分ないデザインです。
しかしながらカードパワーのインフレとは恐ろしいもので、近年の3マナ以上の打ち消し呪文は《中和》や《君は悪党の住処を見つけた》のように、打ち消し以外の用途が付与されています。「後手で撃つタイミングがない」「戦場に出てしまったパーマネントを対処したい」などの場合も無駄になりません。そんな親切設計のカードに比べると、《雲散霧消》はやや前時代的といわざるを得ません。
ローテーション後のスタンダードでは《君は悪党の住処を見つけた》や《襲来の予測》が主力の打ち消し呪文となりそうですね…いやいや、ちょっとお待ちを。おまけ程度に思われがちなこの追放ですが、過去には立派に活躍してきました。むしろ《雲散霧消》でなければ対処できなかったカードすら存在していたのです。
それでは過去の《雲散霧消》の活躍を見ていきましょう。
《雲散霧消》の歴史を振り返る
『ミラージュ』
『ミラージュ』で初登場となった《雲散霧消》はスタンダードの標準打ち消し呪文として活躍しました。『アイスエイジ』+『ミラージュ』ブロック期のカウンターポスト、『ミラージュ』+『テンペスト』ブロック期のユーロブルーと打ち消し呪文が強かった時代を象徴とする2つのパーミッションデッキに採用されました。特に世界選手権98(リンク先は英語)でランディ・ビューラー/Randy Buehler氏(現マジック・プロツアー殿堂)が使用したユーロ・ブルーは好成績を残しています。
『ミラージュ』+『テンペスト』ブロック期のユーロブルーはデッキの1/3以上が打ち消し呪文で構成されたかなり防御的なデザイン。スライなど軽いデッキが多かったことから打ち消し呪文も軽いものが優先的に選択されています。その3マナ域として選択されていたのが《雲散霧消》でした。
当時のスタンダードはナイトメア・サバイバルとスライの二強時代。ナイトメア・サバイバルは『エクソダス』によって誕生した《適者生存》と《繰り返す悪夢》のキーカードとするリアニメイト型のコントロールデッキであり、もう一方のスライは《ジャッカルの仔》から始まる赤きビートダウンデッキであり、序盤の攻勢を《火炎破》や《ボガーダンの鎚》など多数のバーンスペルにより強烈にバックアップしていました。
《繰り返す悪夢》と《ボガーダンの鎚》に共通するのは1枚のカードを何度でも使い倒す再利用の概念。特に《ボガーダンの鎚》はマナさえ支払えば毎ターン3点のダメージを与えられるため、時には打ち消し呪文が足りなくなってしまうこともありました。
《雲散霧消》におまけのように書かれた追放の二文字は、まさに終わりなき悪夢を断ち切るカードだったのです。
『イニストラード』
時代は流れて『イニストラード』が発売されると、ここに《雲散霧消》が再録されました。同ブロックは墓地をテーマの一つにしていることもあり、《熟慮》や《禁忌の錬金術》などコントロール向けの「フラッシュバック」カードが多数登場し、メタゲームの一角を担うようになります。『ミラディンの傷跡』+『イニストラード』ブロック期ではエスパーやディミーア、『イニストラード』+『ラヴニカへの回帰』ブロック期にはさらにジェスカイやバントといったコントロールデッキが登場しました。
しかしながら「フラッシュバック」を得たのは何もコントロールだけではなく、アグロやミッドレンジも同様でした。《未練ある魂》や《掘葬の儀式》は特に強力なカードであり、打ち消しや単体除去、手札破壊で対処しようとするとあらゆるアドバンテージ面で損な交換となってしまいます。
そこでスポットライトは《雲散霧消》の元へと傾きます。プロツアー「ギルド門侵犯」でトップ8に入賞したベン・スターク/Ben Stark選手(現マジック・プロツアー殿堂)のエスパーコントロールをみていきましょう。
1 《平地》
4 《神聖なる泉》
2 《神無き祭殿》
2 《湿った墓》
4 《水没した地下墓地》
4 《氷河の城砦》
4 《孤立した礼拝堂》
4 《ネファリアの溺墓》
-土地(27)- 4 《ボーラスの占い師》
2 《瞬唱の魔道士》
3 《修復の天使》
-クリーチャー(9)-
4 《熟慮》
2 《肉貪り》
1 《劇的な救出》
1 《究極の価格》
4 《スフィンクスの啓示》
2 《雲散霧消》
4 《至高の評決》
2 《次元の浄化》
-呪文(24)-
《雲散霧消》があれば「フラッシュバック」付きの呪文を根本から対処でき、しかも《掘葬の儀式》や《瞬唱の魔道士》で使い回される心配もありません。《雲散霧消》は2枚と少な目に思うかも知れませんが、一度使えば《瞬唱の魔道士》で再利用できるようになっています。
「フラッシュバック」蔓延るスタンダードだったからこそ、《雲散霧消》はこの時代のコントロールにとって欠かせない1枚だったのです。
『基本セット2015』
『イニストラード』が環境を去って1年も経たずに、《雲散霧消》は『基本セット2015』にてスタンダードへと復活します。しかし、『テーロス』で登場した《解消》は打ち消し呪文に占術が付いた画期的なカードであり、無条件でその座を奪うにはいたりません。さらに悪いことに墓地に関する戦略もそこまでなく、追放が活きる機会はなかな巡ってきませんでした。
『タルキール龍紀伝』にて打ち消しや除去に強い耐性を持つ《死霧の猛禽》が登場すると、「変異」をフィーチャーしたオジュタイ・バントが誕生して《雲散霧消》にも活躍の機会が訪れますが、残念ながらこれだけでは取って代わることはありませんでした。
現代では活躍するのか?
さて、ここまで過去の《雲散霧消》の活躍を見てきましたが、果たして現代のスタンダードに居場所はあるのでしょうか。早速、カードプールへと目を移していきましょう。
リアニメイト
リアニメイト戦略などクリーチャーを使い回すカードをあげてみました。《アガディームの覚醒》は呪文/土地の両面カードであり、採用しやすいカードです。軽めのデッキとも相性が良く、ディミーアローグが残ることからも今後も見かける機会はあるかと思います。
《忘却の虚僧》はリアニメイト戦略を全面に押し出したカードであり、6マナとやや重いものの制圧力の高いクリーチャーと組み合わせればアーキタイプとして確立できそうです。《ヴェロマカス・ロアホールド》や《星界の大蛇、コーマ》を釣り上げるのは夢がありますね。
フラッシュバックと降霊
『イニストラード:真夜中の狩り』からはお馴染みの「フラッシュバック」に加えて、クリーチャーの「フラッシュバック」版ともいえる「降霊」が登場します。《敬虔な心霊、デニック》は戦場にいるだけで自軍に「調査」を付与してくれるため、「降霊」と合わされば雪だるま式にカードアドバンテージ差が開いてしまいます。
さらに対コントロール戦では「上陸」するだけで《ボガーダンの鎚》のごとく繰り返し使える《スカイクレイブの影》もいます。ダメージレースで優位に立たない限りは無視できない存在です。
いずれも使うだけでアドバンテージがとれるカードばかりであり、墓地を活用するカードは揃っているようです。《雲散霧消》の出番は近いかもしれません。
おわりに
今回は再録される《雲散霧消》の過去をみてきました。「フラッシュバック」やリアニメイト戦略、繰り返し使えるカードがある時代と密接に関係しており、それらに対抗するコントロール側の武器として《雲散霧消》は存在していました。今週末から実装されるMTGアリーナでは、早くも活躍がみられるのでしょうか。
次回はローテーション後のスタンダードをお届けしたいと思います。