はじめに
みなさんこんにちは。晴れる屋メディアチームの富澤です。
前回はスタンダードのビッグ4と呼ばれるイゼット系と2種類の単色アグロを見てきました。メタゲームは日々変化していきますが、その根本にあるのはこの4種類のアーキタイプであり、Red Bull Untapped 2021予選でも間違いなく主力となるはずです。
今回はRed Bull Untapped 2021 International Stop IIとStandard Challengeの結果を振り返っていきます。
先週末の注目トピックは?
冒頭でも述べた通り、現在のスタンダードにはビッグ4と呼ばれるデッキから成り立っています。ターンとドラゴンの2つのイゼットデッキ、緑と白の2種類の単色アグロですが、驚くべきは環境トップに黒が存在していないことがわかります。在りし日のスゥルタイ根本原理やディミーアローグの栄光はすでになく、上位アーキタイプと対等に渡りあうことはもはや不可能なのでしょうか?
ご安心ください。スタートこそ出遅れてしまったものの、黒いアーキタイプは着々と順位を上げて大会上位でも見かけるようになってきました。アグロからコントロールまで戦略は多岐にわたり、単色と多色それぞれが優位性を持ち合わせています。干渉領域が広い黒だからこそ、環境に合わせた可変的な構築が成り立つのです。
前置きが長くなりましたが、それでは大会結果をみていきましょう。
Red Bull Untapped 2021 International Stop II
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | Pedro Silva | イゼットドラゴン |
準優勝 | Scott McNamara | イゼットターン |
トップ4 | Connor Flotten | 白単アグロ |
トップ4 | Thierry Ramboa | イゼットターン |
トップ8 | luca boldrini | 黒単アグロ |
トップ8 | Gabriel Nassif | グリクシスターン |
トップ8 | Tim Schaufert | 緑単アグロ |
トップ8 | Michael Carmody | ジャンドミッドレンジ |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
参加者1172名で開催されたRed Bull Untapped 2021 International Stop IIはイゼットドラゴンが制しました。イゼット系が上位の半数を占めており、戦略は多少違うもののこのギルドの強さを改めて知らしめた結果となりました。
メタゲーム
デッキタイプ | 1日目 | 2日目 |
---|---|---|
緑単アグロ | 274 | 18 |
白単アグロ | 158 | 12 |
イゼット天啓 | 154 | 10 |
イゼットドラゴン | 133 | 5 |
ティムールミッドレンジ | 86 | 6 |
ディミーアコントロール | 42 | 0 |
アゾリウスコントロール | 27 | 1 |
ジャンドミッドレンジ | 22 | 3 |
グリクシスターン | 20 | 3 |
その他 | 256 | 6 |
合計 | 1172 | 64 |
2日目に進出した上位64個のアーキタイプですが、勝ち数が突出したデッキはありませんでした。
トップ8デッキリストはこちら。
黒単アグロ
トップ8の中でも異彩を放つのがこの黒単アグロ。1マナ域から展開していく由緒正しいアグロ戦略ですが、白単や緑単のクリーチャーと比べるとややスタッツで見劣りしてしまいます。正攻法では敵わないため、強力な除去呪文やプレインズウォーカーを使うことで自分有利なボードを構築していきます。
いくつかのカードは追加コストとしてクリーチャーを生け贄に捧げる必要がありますが、それこそがこのデッキの肝となります。死亡したときに何らかの効果を誘発するクリーチャーと組み合わせることで、カード枚数で損をせずにテンポ面でリターンを得ることができるのです。
見慣れないカードが多く採用されています。これらは低コストながらカード1枚分以上の効果を持つクリーチャーです。《ひきつり目》はサイドボードから状況に合った「講義」をもたらし、序盤に隙間を作らずに行動を確保してくれる繋ぎとなるカードです。それでいてロングゲーム用に《マスコット展示会》のような高コスト呪文も用意されています。メインボードは一貫してアグロ戦略をとりながら、任意のタイミングでハイコストカードを加えられる対応力の高さこそ「履修」の強みなのです。
《ひきつり目》に比べると《よろめく怪異》は地味なクリーチャーですが、ブロックに回ればタフネス2のクリーチャーを対処でき、白単アグロには複数交換も狙えるいやらしい存在なのです。宝物トークンを選択すれば、《蜘蛛の女王、ロルス》や《食肉鉤虐殺事件》への到達を早めることになります。相手のアーキタイプを問わず効果を発揮するため、1マナのクリーチャーとは思えませんね。
《ネファリアのグール呼び、ジャダー》は本体を除去しない限り、毎ターン2点のダメージをもたらしてくれます。直接ダメージではなくトークンのため、仮に相手の場にブロッカーが立っていようものなら《踊り食い》や《命取りの論争》の追加コストにあててしまいましょう。
先ほど紹介した死亡しても美味しいクリーチャーと相性の良いカードたちです。《踊り食い》は追放除去であるため、厄介な《老樹林のトロール》の対処手段にも適しています。
《食肉鉤虐殺事件》はコントロール向けの全体除去に思えますが、その下に書かれた常在型能力に注目です。自分のクリーチャーが死亡するたびに対戦相手から1点のライフを奪います。仮に戦場が固まったとしても、相手の攻撃をチャンプブロックし続けるだけでライフを削ることができます。押された盤面をひっくり返すだけではなく、自分が有利な場合は2マナで設置しておくだけで追加のダメージソースとなるのです。
追加のクリーチャーとハンドアドバンテージをもたらしてくれるのが《蜘蛛の女王、ロルス》。このプレインズウォーカーは面白いデザインであり、自分がコントロールするクリーチャーが死亡するたびに忠誠度を増やすことができます。全体的に線が細く、クリーチャーを追加コストに持つカードが多いこのデッキでは尽きることなく蜘蛛トークンを生成してくれるのです。
ジャンドミッドレンジ
ラクドスの優れたクリーチャーと除去呪文をベースに《エシカの戦車》をタッチしたジャンドミッドレンジ。《厚顔の無法者、マグダ》と《隠棲した絵描き、カレイン》が初動であることからジャンドトレジャーとも呼ばれています。
前述の通り、宝物トークンによるマナ加速を経て緑単アグロよりも早く《エシカの戦車》が着地できるのが特徴です。加えて《イマースタームの捕食者》や《黄金架のドラゴン》など攻めの強いクリーチャーが選ばれており、ダメージレースで優位に立つことができます。
特に《イマースタームの捕食者》はほかにクリーチャーがいるだけで除去することがほとんど不可能であり、攻守にわたって活躍が見込めます。ただし、マナコストが4ということで《粗暴な聖戦士》に加えて《スカイクレイブの亡霊》でも対処されてしまうことには注意しましょう。
ミッドレンジ戦略に不可欠なのはスタッツの優れたクリーチャーと除去、そしてリソース確保手段です。《ヴォルダーレンの末裔、フロリアン》は3マナ3/3先制攻撃と攻防で活躍でき、対戦相手にダメージを与えれば追加のリソースを供給してくれます。手札に加わるわけではないので、自分の土地総数と見比べてカードを選択する必要はありますが、複数の候補から選択できるため唱えられず無駄になる心配はありません。
また、この効果は戦闘ダメージに起因しないため、《火遊び》などの火力とも相性が良いクリーチャーとなります。
《無謀な嵐探し》は生きた《ヤヴィマヤの火》ともいえるクリーチャーであり、毎ターン1体のクリーチャーに速攻を付与してくれます。3ターン目には自分自身を対象にとり3点のダメージを与え、続くターンには着地したばかりの《エシカの戦車》を走らせることもできます。先出し有利といわれる《エシカの戦車》ゲーにおいて、《無謀な嵐探し》は後手番の不利をひっくり返す貴重なカードなのです。
Standard Challenge #12349442
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | _Batutinha_ | ディミーアコントロールタッチ白 |
準優勝 | Xuxa | 緑単アグロ |
トップ4 | Cabezadebolo | セレズニアミッドレンジ |
トップ4 | Hamuda | 白単アグロ |
トップ8 | Kedrip | 白単アグロ |
トップ8 | shir kahn | 緑単アグロ |
トップ8 | beraldi | 緑単アグロ |
トップ8 | duofanel | 白単アグロ |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
Standard Challenge #12349442を優勝したのはディミーアをベースにした3色コントロールを使用した_Batutinha_選手。同デッキ以外すべて緑か白のデッキであり、イゼット不在の極端な結果となっています。
トップ4に入ったセレズニアミッドレンジは《ドーンハルトの主導者、カティルダ》と《絡みつく花面晶体》によるマナベースを軸に、緑単アグロより一歩先に《エシカの戦車》や《レンと七番》を展開していきます。《傑士の神、レーデイン》や《鎮まらぬ大地、ヤシャーン》といったメタクリーチャーも採用されており、《予想外の授かり物》入りのイゼットターンを強く意識しています。
メタゲーム
デッキタイプ | 使用者数 | トップ16 |
---|---|---|
緑単アグロ | 11 | 7 |
ティムールミッドレンジ | 5 | 2 |
白単アグロ | 4 | 3 |
イゼットドラゴン | 3 | 2 |
イゼットターン | 3 | 0 |
その他 | 6 | 2 |
合計 | 32 | 16 |
全体の1/3を占める一大勢力となった緑単アグロ。ティムールミッドレンジなどがマナ加速で差をつけようと画策していますが、単色アグロに軍配が上がっています。序盤の《エシカの戦車》+《レンと七番》は脅威となりますが、ミラーマッチを含めた地上戦は《タジュールの荒廃刃》と《吹雪の乱闘》のコンボが支配することになります。
トップ8デッキリストはこちら。
ディミーアコントロールタッチ白
ディミーアコントロールに《消失の詩句》をタッチした3色の《溺神の信奉者、リーア》デッキが優勝しました。これまでのディミーアコントロールのような完全防御的なデッキではなく、各種干渉手段で相手をさばきながら《セッジムーアの魔女》でコツコツとダメージを稼いでいく、やや前のめりな構築になっています。
呪文過多のこのデッキとシナジーを形成し、攻防の起点となるのが《セッジムーアの魔女》です。端的にいえばすべてのインスタントとソーサリーにトークン生成効果を付与してくれるため、除去されるか手札が尽きてしまわない限りチャンプブロックが続きますし、コントロール相手には全体除去を気にせずに追加のクロックを用意することができます。「護法」がライフを要求するためバウンスしにくく、火力の少ないイゼットターンからするとかなり厄介なクリーチャーとなります。
《僧院の導師》には及びませんが、誘発条件が緩く使いやすいクリーチャーとなります。タップアウトで召喚して除去されてしまってはもったいないので、手札に1マナ呪文がある場合には4マナ揃えてからプレイして、少しでもリソースを稼ぐようにしましょう。
このデッキの最大の特徴がこの《消失の詩句》になります。あらゆる単色パーマネントを追放する万能カードですが、どのカードを想定しているのでしょうか。
アグロ筆頭である緑単は、コストパフォーマンスが高いクリーチャーに加えて、複合的な攻め手を持っています。ここでの複合的とは、クリーチャー以外を意味しています。リソースを伸ばすカードだけでも《レンジャー・クラス》や《レンと七番》、《エシカの戦車》とあり、どれも対処手段が異なります。
《消失の詩句》はこれらタイプの異なるパーマネントすべてに対応しながら、クリーチャーへのガードを下げません。むしろ《老樹林のトロール》のような除去耐性のある厄介なクリーチャーさえも対応可能となっています。アグロだけに限らず《黄金架のドラゴン》や《溺神の信奉者、リーア》相手にも無駄になりません。環境のパーマネントが単色傾向にあることを見抜いた素晴らしい選択といえますね。
Standard Challenge #12349454
順位 | プレイヤー名 | デッキタイプ |
---|---|---|
優勝 | Lennny | イゼットターン |
準優勝 | hcook725 | ティムールミッドレンジ |
トップ4 | McWinSauce | ディミーアコントロールタッチ白 |
トップ4 | yerffej03 | 黒単コントロール |
トップ8 | Rocardito | イゼットターン |
トップ8 | MatheusPonciano | 白単アグロ |
トップ8 | Mcleskey | 緑単アグロ |
トップ8 | beraldi | 緑単アグロ |
(※デッキタイプをクリックするとリストが閲覧できます。)
Standard Challenge #12349442はコントロール優勢の結果となりました。優勝したLennny選手のイゼットターンは白単アグロを強く意識しており、メインボードから《棘平原の危険》3枚を含んだ9枚の火力を採用しています。《感電の反復》の効果を最大限に発揮できるように構築されており、必須と思われていた《記憶の氾濫》が《多元宇宙の警告》へと置き換わっているなど細かな調整がみてとれます。
メタゲーム
デッキタイプ | 使用者数 | トップ16 |
---|---|---|
緑単アグロ | 6 | 3 |
ティムールミッドレンジ | 5 | 3 |
イゼットターン | 4 | 2 |
イゼットドラゴン | 4 | 2 |
白単アグロ | 4 | 2 |
その他 | 9 | 4 |
合計 | 32 | 16 |
トップ8デッキリストはこちら。
黒単コントロール
上で紹介した黒単アグロをより重く、戦場をさばくことに主眼を置いたのが黒単コントロールになります。分類としてはコントロールですが、「履修」によるパッケージがあるため軽いカード多く採用されています。
このデッキ最大の売りは、ボードを一掃しながらリアニメイトできる《雪上の血痕》です。このリアニメイト部分がポイントであり、コントロール相手にはクリーチャーやプレインズウォーカーを戻せる万能カードとなります。6マナとややマナコストは重いものの、リセットとボード形成を6マナで行える破格のカードであり、問答無用で4枚採用されています。
《雪上の血痕》が6マナのため、フィニッシャーとして《蜘蛛の女王、ロルス》に加えて《オニキス教授》が採用されています。この魅惑のプレインズウォーカーはドローと除去に加えて、「魔技」で貴重なライフドレイン効果を持っています。対アグロマッチでのライフ回復はありがたく、これによりたとえ自分のライフが2だったとしても《冥府の掌握》をプレイできるようになるのです。
ほかのデッキの「履修」パッケージと比較しても、おそらく最多となる数の「講義」カードが採用されています。目を引くのは《過去対面法》であり、《レンと七番》などのプレインズウォーカー対策でありながら、《マスコット展示会》に次ぐ勝ち手段となる攻防両面を備えた1枚となります。
さらに注目すべきは《封印突破法》と《才能の試験》です。メインボードをいくら探しても《冠雪の島》も《冠雪の森》もありませんが、9枚の宝物トークン生成カードと組み合わせることでタッチが実現しているのです。イゼットターン対策で採用される《才能の試験》ですが、このデッキの場合は青マナのない状況からいきなりプレイされることになります。サイドボード後はいたずらに宝物トークンを消費せず、来るべき時へ備える必要があるのです。
おわりに
今回は黒をベースにしたデッキを紹介してきました。メタゲームが過度に4つのデッキへ向いているからこそ、ほかのデッキにも付け入る隙があるはずです。最後にご紹介した黒単コントロールは単色ながら、宝物トークンによって《才能の試験》をプレイする意表を突いた構築となっていました。構築の可能性はほかにも眠っています。改めて、スタンダードのカードプールを見返してみようと思います。
今週末にもRed Bull Untapped 2021予選が開催されます。次回はそれらの情報をお届けしたいと思います。