決勝: 和田 寛也(東京) vs. 木寺 聖太(神奈川)

晴れる屋

By Hiroshi Okubo


 ジャッジから優勝賞品とその分配方法について説明を受ける際、どちらからともなく賞品のスプリット(山分け)が打診された。 

 「昔はスプリットとか絶対しなかった。勝敗が歪んじゃうからって。俺も丸くなったなぁ」

 目を細めてそう語るのは和田 寛也(東京)だ。本人の言うとおり、かつて【PWCC決勝でスプリットを断る】など、益荒男と称されるほどの情熱的な姿勢と、巧緻を極めたプレイスタイルで【グランプリ静岡2015】9位、【プロツアー『タルキール龍紀伝』】35位などの好成績を残してきたシルバーレベル・プロだ。

 最近では【BIGMAGIC ユニフォーム契約プレイヤー】として活動しており、今日もそのユニフォームに身を包んでここまで勝ち進んできた。


 そんな和田に相対するは木寺 聖太(神奈川)。アマチュアのマジックチーム「梅木会」のメンバーであるという彼もまた、【BMO Standard vol.2】にてトップ4に入賞した経験があり、【PWC】でも上位の常連として知られている。まさに草の根で叩き上げられた強豪プレイヤーである。


 両者の持ち込んだデッキは同じ「アブザンアグロ」【プロツアー『戦乱のゼンディカー』】で瀧村 和幸が使用し優勝を収めたアーキタイプだ。

 木寺のリストは純正アブザンとでも言えそうな構成で、プロツアーのリストと比較するとメインボードには《ドロモカの命令》1枚が《黄金牙、タシグル》に差し替えられていること以外に変更点はない。

 一方、和田のリストはメインボードに《白蘭の騎士》が採用されているのが特徴的だ。【デッキテク】でも語られているとおり、これによって先手後手を入れ替えることが可能で、先手ゲーと言われるアブザンアグロの同型対決で優位を築きやすいそうだ。


 どちらが勝ってもおかしくない、第5期スタンダード神挑戦者決定戦。この同型対決を制し、現スタンダード神・高橋 優太への挑戦権を得るのははたしてどちらのプレイヤーになるのか……


 至高のアブザン同型対決。その火蓋が切って落とされる。






Game 1


 第1ゲームはスイスラウンドを1位で通過した木寺が先攻。7枚の手札を即座にキープした。

 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を始め、《風番いのロック》《搭載歩行機械》など、先攻でプレイした際により強力な働きを見せるカードが多いアブザンアグロの同型対決において、この先攻は値千金と言えるだろう。


 反対に和田は初手としばし睨み合い、マリガンを選択。さらに1枚減った手札を見て考え込む。

 後手には後手のベストムーブがあり、特に和田のデッキはそれを追求した形である。《白蘭の騎士》を探し求めるべきか否か。じっくりと悩み、キープを宣言した。


 ゲームが始まると、木寺はややゆっくりとした立ち上がりを見せた。最初の2ターンをセットランドに費やし、3ターン目に「変異」クリーチャーを裏向きでプレイする。

 対する和田は1ターン目にタップインを処理すると、2ターン目に《始まりの木の管理人》をプレイし、木寺の「変異」の返しには《先頭に立つもの、アナフェンザ》を戦場に送り込んだ。


 木寺はこれを《アブザンの魔除け》で追放するが、受けに回る展開が続くこととなってしまう。この隙を突いて和田の手札から現れたのは、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》


ゼンディカーの同盟者、ギデオン


 が、これには木寺も返しのターンに《棲み家の防御者》を表向きにして《アブザンの魔除け》を回収し、これをプレイ。これによって二回り大きくなった《棲み家の防御者》が和田の《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を打ち倒す。


 とはいえ木寺の変異クリーチャーが《棲み家の防御者》であることも、それによって《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》が倒されてしまうことも和田にとっては織り込み済みだ。まずはトップデッキした《白蘭の騎士》をプレイし土地を伸ばし、手札の《アブザンの魔除け》で木寺の《棲み家の防御者》を追放する。

 後手後手に回った木寺はなかなか反撃に転ずることができず、《先頭に立つもの、アナフェンザ》をプレイするのみでターンを終えるというやや心もとないプレイを余儀なくされる。


 もちろん和田の猛攻は止まらない。手札からもう1枚の《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》をプレイし、トークンを出す。さらに余ったマナで2体目の《始まりの木の管理人》。盤面にクリーチャーが並び始め、着実に戦力差が広がっていく。



和田 寛也


 続くターン、木寺は変異クリーチャーをキャストするのみ。和田は延々とギデオンでトークンを増やし続け、さらに《包囲サイ》を追加する。これは《アブザンの魔除け》で追放されてしまうが、よもやゲームは完全に和田が掌握している。

 木寺は再びの《棲み家の防御者》《アブザンの魔除け》《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を落とすが、ついに和田が《乱脈な気孔》2枚をクリーチャー化できるようになると、その総攻撃の前になすすべはなかった。


和田 1-0 木寺


 「今の試合、何分くらいかかってましたか?」和田の問いに、ジャッジが「25分くらいですね」と答える。

 「体感もっと長く感じた」「たしかに」と言葉を交わす和田と木寺。ここまでスイスラウンド9回戦、シングルエリミネーション2回戦を戦い抜いてきた2人に疲労があるのは当然だろうが、それでもなお目の前のゲームに没頭する集中力は凄まじく、見ているこちらまでピリピリとしてくるようだった。



Game 2


 「先手もらいます」再び木寺の先攻。第1ゲームは動き出しの遅い初手をキープし、終始《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》の対応に追われることとなった木寺だったが、今度こそはとキープを宣言する。対する和田も逡巡ののち、キープを宣言する。


 両者1ターン目に《始まりの木の管理人》をプレイし、2ターン目に3/3にし、攻撃する。

 鏡打ちの展開。続く3ターン目にプレイされた木寺の《先頭に立つもの、アナフェンザ》《アブザンの魔除け》で追放され、やはり戦場は動かない。とはいえ、こういった展開になると後手で動いている和田がわずかに不利か。



木寺 聖太


 ここで木寺が和田を一気に突き放す。墓地の2枚のフェッチランドを追放し、土地を4枚寝かせると《黄金牙、タシグル》が戦場に飛び出した!


黄金牙、タシグル


 4/5を前に攻撃が止まってしまった和田。不幸にも土地まで止まってしまい、一気に形勢が不利に傾くが、冷静に《精神背信》をプレイし木寺の二の矢を折りに行く。

 公開された手札は《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》と土地が2枚。間一髪のところで《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を事前処理できたことで、ひとまず追撃の心配はなくなった。2枚目の《始まりの木の管理人》をプレイし、木寺にターンを返す。


 しかし木寺のトップデッキは《自傷疵》! これをプレイされ、和田はやむなく1/1の《始まりの木の管理人》を生贄に捧げる。さらに木寺の2体のクリーチャーがレッドゾーンに向かってくると、《始まりの木の管理人》を同士討ちさせつつ4点のダメージを享受することとなり、残りライフは3まで落ち込んでしまう。

 万事休すか。トップを確認した和田は、静かに土地を片付け始めるのだった。


和田 1-1 木寺


 先刻と打って変わって、わずか5ターンで決着がついた第2ゲーム。アブザンの同型対決においては、いかに対戦相手よりも先に脅威を展開し、攻撃側に回ることが重要かよくわかる。

 和田にとっては、このマッチで初めての先攻。元々《白蘭の騎士》など、後攻でも“受けられる”ように組まれたメインボードだったためか、ここでのサイドボーディングには少し時間を割き、入念にインアウトを吟味する。

 木寺も1ゲームを取って表情がやや明るくなる。はたして勝利の女神はどちらに微笑むのか。第5期スタンダード神挑戦者決定戦、最後の1ゲームが始まる。


Game 3


 オープンハンド。和田は即座にマリガンを選択。対照に木寺は悩ましげにキープを宣言する。0ターン目の攻防、それぞれの判断は果たして吉と出るか凶と出るか。

 6枚の手札をキープした和田は占術1を行い、「うーん?」と声を漏らす。その後初手を再度確認。そして再びトップを確認。それから何かに気づいたのか、「あ」と漏らすとトップにカードを残す。


 和田の第1ターン。手札から《樹木茂る山麓》をプレイし、即座にクラック。《森》を探して、流れるように《始まりの木の管理人》を戦場に出す。占術1で見たカードは当然シャッフルされる。「(先攻だと)よくあるよね」と小さな笑いが起きる。

 一瞬和みムードが流れたが、すぐに勝負師の顔に戻る和田と木寺。木寺は1ターン目《乱脈な気孔》をタップイン。早くも展開に差が出始めるが、はたしてどうなるか。


 2ターン目。《始まりの木の管理人》が3点クロックとなり、木寺に攻勢をかける。対する木寺は《精神背信》で和田の手札を攻める。

 公開された手札は《樹木茂る山麓》《アブザンの魔除け》《包囲サイ》《先頭に立つもの、アナフェンザ》。木寺はここから次ターンのアクションとなっていたであろう《先頭に立つもの、アナフェンザ》を抜き去った。

 3ターン目の大本命ムーブである《先頭に立つもの、アナフェンザ》が追放された和田は《始まりの木の管理人》で引き続きクロックを刻みつつ、3マナを立ててターンを終了する。


 ここでようやく緑マナに辿り着いた木寺。《始まりの木の管理人》をプレイする。が、和田の手札に《アブザンの魔除け》があことは分かっている。迂闊な能力起動は避けるべきだろう。わずかに逡巡し、木寺は全ての優先権をパスすることを選ぶ。

 そこで和田が《アブザンの魔除け》《夜の囁き》モードでプレイする。これに対して除去の憂き目に遭う心配のなくなった《始まりの木の管理人》を木寺が育てる。


 拮抗した盤面に、和田は次なる戦力を戦場に送り込む。現れたのはアブザンの主力クリーチャー、《包囲サイ》! しかしこれに対し、木寺も負けじと《包囲サイ》をプレイ。2ゲーム目を彷彿とさせる鏡打ちのゲーム展開となるかと思われた。

 しかし、和田はタップアウトで戦場に出された《包囲サイ》にまったく動じない。場の均衡を破壊する手段は、和田の手にすでに握られていたのだ。


ドロモカの命令ドロモカの命令


 和田の手札から放たれたのは、2枚の《ドロモカの命令》

 これによって木寺のクリーチャーが壊滅する。もはやトップデッキを確認するまでもない。木寺は握手の手を差し出し、シルバーレベルプロ・和田が「優勝」を勝ち取った!


和田 2-1 木寺





第5期スタンダード神挑戦者決定戦、優勝は和田 寛也(東京)!

おめでとう!!




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