モダンにおける勝利の秘訣とは何か。おそらくはプレイヤーの数だけ答えがあり、そのいずれもが正解とも不正解とも言えない、空々漠々とした命題。
この問いに対し、【トップ8プロフィール】にて「同じデッキを使い続ける」「好きなデッキを使い込む」とほぼ同様の回答をしたプレイヤーがいる。そんな二者が決勝戦で相見えるというのは、はたして偶然か必然か。
行弘 賢(東京)。
元グレイビートレイン、現在シルバーレベル・プロとしてプロツアーやグランプリを駆け巡る彼は稀代のデッキビルダーとしても知られ、【硬化した鱗】や【人間リアニメイト】、時に【オリスチャント】といった数々の名(迷?)デッキを世に送り出してきた。
今回、行弘は愛機である【おやつカンパニー】を携えてスイスラウンドを7-0-2の4位で通過。
「おやつカンパニー」とは某お菓子メーカーを髣髴とさせるデッキ名だが、「アブザンカンパニー」や【かつての「ジャンクアリストクラッツ」】のモダン版と言い換えることもできるデッキで、【GPシンガポール】で記事に取り上げられたことで世間にその名が知れ渡ることとなった新進気鋭のアーキタイプだ。
従来の形では《ツカタンのサリッド》などが採用されていたが、『戦乱のゼンディカー』から《膨れ鞘》や《ズーラポートの殺し屋》を得たことで一層強化されている。
そんな行弘に対するは、佐藤 啓輔(東京)。
【GP静岡2014】でTOP8入賞、【第4期モダン神挑戦者決定戦】でTOP4入賞など、確かな実績を持つ強豪プレイヤーだ。前回に続き、【第5期モダン神挑戦者決定戦】でも決勝の舞台にまで上り詰めたその実力に疑いの余地はないだろう。
そんな佐藤の操るデッキはご存知「トリコトラフト」だ。その名を冠する《聖トラフトの霊》をフィニッシャーに据え、《稲妻》や《電解》といった火力でダメージレースをバックアップするデッキである。
すでに型として完成されているアーキタイプであり、打ち消し・除去・高品質なクリーチャーと三拍子揃った「トリコトラフト」は環境に合わせてユーティリティスペルやサイドボードの調整を重ねつつモダン・フォーマットで活躍してきた。
佐藤はそんな「トリコトラフト」の名手として知られており、この決勝ラウンドでも「青緑感染」や「赤緑トロン」といった戦略を異とする対戦相手たちをその柔軟なプレイスタイルで打ち倒してきた。
どちらが勝ってもおかしくない実力者同士の決勝戦。果たして勝利の女神はどちらに微笑むか? 決戦の火蓋が切って落とされる。
Game 1
先攻は行弘。第1ターンから《宿命の旅人》をプレイし、続くターンには《ズーラポートの殺し屋》を呼び出す。キーカードの1つであるこれは《呪文嵌め》されてしまうも、3ターン目には《潮の虚ろの漕ぎ手》が着地し、佐藤の手札に控えていた唯一のクリーチャー除去手段である《流刑への道》を抜き去る。
次々とクリーチャーを展開する行弘に負けじと佐藤も《ヴェンディリオン三人衆》をプレイするが、ここで行弘が《集合した中隊》を合わせる! これによって《カルテルの貴種》と《臓物の予見者》が戦場に追加されてしまう。
《ヴェンディリオン三人衆》の能力によって明らかにされた行弘の手札は《ズーラポートの殺し屋》と《吹きさらしの荒野》。逡巡するも、すでに《カルテルの貴種》が戦場にいるとあっては《ズーラポートの殺し屋》を見逃すことはできず、これをライブラリーの下へと送らせる。
返す佐藤のターン、《ヴェンディリオン三人衆》を戦闘に向かわせる。これに行弘も《カルテルの貴種》で《宿命の旅人》を生贄に捧げ、スピリットトークンで応戦の構えを見せたが、そこは佐藤も織り込み済み。《稲妻》でトークンを薙ぎ、3点のダメージを通すことに成功する。
行弘の《復活の声》は《瞬唱の魔道士》から《呪文嵌め》され、中盤戦に差し掛かったところで盤面はほぼ五分。さらにここまでのゲームで行弘は土地からのペイライフもあり、ライフレースは行弘11 対 佐藤14とまだまだわからないか……
と思われた次の瞬間、《戦列への復帰》が「召集」によって唱えられる! タップアウトしている佐藤にとっては大誤算だったこの一手により、《復活の声》、《宿命の旅人》、《ズーラポートの殺し屋》が並んだ!
突如として現れた軍勢に成す術のない佐藤。行弘は次のターンに総攻撃を仕掛け、「(残り)7点か……」と佐藤のライフを確認する。一瞬の計算を挟んだ後、《カルテルの貴種》が次々にクリーチャーたちを生け贄に捧げ、《ズーラポートの殺し屋》が佐藤のライフを奪い去っていった。
行弘 1-0 佐藤
かつてのISD~RTR期のスタンダード環境で活躍を見せた【ジャンクアリストクラッツ】。その独特の挙動は多くのプレイヤーたちを魅了し、当時から3年の月日が経過した現在でもモダンでも同様のコンセプトのデッキが組めないかと試行錯誤を続けてきた。
しかし、数多のデッキがひしめくモダン環境では中途半端な完成度のデッキは押し潰されてしまう。もとよりシナジー重視でデッキとしての線が細かった【ジャンクアリストクラッツ】というコンセプトはモダンのカードプールを以ってしてもトーナメントを勝ちきるには一歩及ばず、ファンデッキの域を出ることはなかった。
【プロツアー『運命再編』】で【David Heinemanが組んでいたデッキ】から着想を得て、行弘の手によって独自のチューンを施され形を成したこの「おやつカンパニー」は、まさに新時代の【ジャンクアリストクラッツ】と呼ぶにふさわしいデッキであり、デッキビルダーの行弘だからこそ辿り着いた75枚だろう。
対して、比較的トラディショナルなデッキとも呼べる「トリコトラフト」は、新時代のこのデッキに対する回答を持ち合わせているだろうか。
Game 2
両者ともタップインを処理する立ち上がり。後手ながら先に動いた行弘の《潮の虚ろの漕ぎ手》は《差し戻し》され、カウンターパンチの《血染めの月》の設置を許してしまう。
返す行弘のターン。《ドライアドの東屋》が山・クリーチャーとして戦場に出される。これが健気に1点のクロックを刻みに行くも、佐藤の手札からは《修復の天使》が飛び出す。
是非もなし。行弘の「負けましたー!!」の声が響き渡る。
行弘 1-1 佐藤
緻密なライフのやりとりがあった1ゲーム目に対し、(実質的に)3ターンキルが発生した第2ゲーム。
佐藤は【トップ8プロフィール】にて、上述の「好きなデッキを使い込む」の他に「サイドボードの選択」という勝因を挙げていた。
事実、第2ゲームはサイドカードの《血染めの月》がゲームを決めている。行弘のデッキに込められたギミックに気を取られすぎないクリティカルなサイドボーディングはお見事だ。
伝統と実績の「トリコトラフト」。75枚のそのデッキには、明確な隙が存在しない。はたして続く第3ゲームも“対応”しきれるだろうか。
Game 3
行弘の初動は佐藤の《平地》スタートを咎める2ターン目《復活の声》! ここに《呪文嵌め》を合わせることができなかった佐藤は、やむなしと《仕組まれた爆薬》を「X=2」で設置する。
さっそく《復活の声》でクロックを刻み始め、《ブレンタンの炉の世話人》をプレイする行弘。さきほど《血染めの月》に痛い目を見せられた経験からか、2マナをオープンにしてターンを返す。
続く佐藤のターンに戦場に現れたのは《聖トラフトの霊》! 「呪禁」を持ったこの亡霊に対処する手段を持ち合わせない行弘は、せめて後の展開のためにと《仕組まれた爆薬》を《突然の衰微》で割る。
返す行弘のターン、《吹きさらしの荒野》で《平地》を探すと、手札から現れたのは《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》! 「+1」「±0」「-4」のどの能力も選択肢として有力な状況だ。最大効率の手を探すため、逡巡した末に「±0」能力を使用することに決めた。
第2メインフェイズに《稲妻のらせん》をプレイするが、《ブレンタンの炉の世話人》がそのダメージを軽減する。
行弘のドローステップに佐藤の手札から《ヴェンディリオン三人衆》が飛び出す。公開された行弘の手札は《宿命の旅人》と土地のみで、そのままにすることを選択する。行弘はデッキボトム送りを免れた《宿命の旅人》を戦場に送り込むと、トークンたちで佐藤のライフを攻め立てる。
佐藤も《ヴェンディリオン三人衆》で果敢に攻める。返しに行弘がプレイした《潮の虚ろの漕ぎ手》には《呪文嵌め》を合わせ、再びの全軍突撃には《瞬唱の魔道士》から《稲妻のらせん》でエレメンタルトークンにダメージを与え、《瞬唱の魔道士》で騎士・同盟者トークンをブロックする。
この攻防で佐藤のライフは4に。代わりに行弘のエースアタッカーだった騎士・同盟者トークンとエレメンタルトークンを打ち落とすことに成功した。
ダメージレースで後れをとった佐藤だが、決死の《瞬唱の魔道士》のブロックもあって行弘の盤面に残されたクリーチャーは《宿命の旅人》と《膨れ鞘》のみ。《ヴェンディリオン三人衆》で邪魔者のない空から反撃にを転じ、行弘のライフは6となる。
返しの行弘の2点クロックをその身に受け止め、佐藤のライフも2。ギャラリーが固唾を呑んで見守る中、「トリコトラフト」の手から放たれたのは《瞬唱の魔道士》!
「フラッシュバック」される《稲妻》が行弘の身を焦がすと、《ヴェンディリオン三人衆》が波乱のシーソーゲームに幕を引く最後の一撃を加えた。
行弘 1-2 佐藤
第5期モダン神挑戦者決定戦、優勝は佐藤 啓輔(東京)!
おめでとう!!