Round 4: 楊 塑予(東京) vs. 春日 亮佑(千葉)

晴れる屋

By Yuya Hosokawa


 【ワールド・マジック・カップ2015】、日本悲願の三日目進出。

 惜しくも決勝ラウンドでは敗れてしまったものの、ワールド・マジック・カップという大会を苦手としていた日本の初日突破。そしてプレイオフ進出には、日本中のマジックプレイヤーが湧いた。

 プロツアー準優勝の玉田、殿堂の津村、そしてワールド・マジック・カップ発足からリーダーとしてチームメイトを牽引し続けてきた渡辺。確かに今年のチームジャパンは強い。国内外関わらず、日本は好成績を期待されていただろう。

 それでもジンクスというものは恐ろしい。このメンバーをもってしても日本は勝てないのではないか。そんな不安を胸に秘めていたプレイヤーも少なくなかったはずだ。

 だが、蓋を開けてしまえばその心配は杞憂だった。勝利する日本代表。その中心には、今年の日本代表で唯一プロツアーに出場したことのない男の笑顔があった。

 楊 塑予である。



楊 塑予



 レガシーやモダンを主戦場としていた楊にとってスタンダードは、チームメンバーの助けがあったとはいえ、五里霧中のフォーマットだったに違いない。

 それでも楊は勝った。予選ラウンドの成績はなんと6勝1敗と堂々のチームの勝ち頭となった。そして三日目進出を決め、自らの得意なフォーマットであるモダンで行われるプロツアーへの参加権利を手に入れた。

 スペインの地でアタルカレッドを駆り、強者をなぎ倒し続けた楊。すっかりスタンダードに自信がついたようで、ここまでの成績は危なげなく3勝0敗。

 そんな、今最も勢いに乗っているプレイヤーと相対するのは、【グランプリ・名古屋2014】チャンピオン、春日 亮佑。

 三原 槙仁や有田 隆一といったプロプレイヤーたちと千葉の大会、LMCで切磋琢磨し、腕を磨く春日。その実力は折り紙つきで、前述の通りグランプリチャンピオンである他、国産TCGでも数多くの優秀な成績を収めている。

 今最も勢いに乗っている日本代表とグランプリチャンピオンにしてカードゲームのスペシャリスト。熱戦必至の戦いが今始まる。






Game 1



 春日は7枚を見るなりすぐにマリガンを選択し、それを聞いて楊はノータイムでキープを宣言。

 6枚で戦うことを選んだ春日はその権利である「占術」でトップを見ると、大いに悩み、結局下に置くことに。

 春日は《汚染された三角州》《窪み渓谷》をサーチし、一方の楊は《進化する未開地》を置く。どうやらアタルカレッドではないらしい。

 春日が2ターン目に《強迫》を唱え、ここで楊のデッキが明らかとなる。

 《ヴリンの神童、ジェイス》《エルフの幻想家》《ズーラポートの殺し屋》《ナントゥーコの鞘虫》《先祖の結集》。楊のデッキはスタンダード最強デッキとの声もある4色ラリーのようだ。

 一方の春日も、デッキのキーカードを3ターン目にプレイした。その名は《僧院の導師》。春日のデッキは【グランプリ・神戸2015】で活躍したエスパーメンターだった。


僧院の導師

 
 ラリーではクリーチャーを対処することが難しい。楊はこの恐ろしい生物を前に、《ナントゥーコの鞘虫》を出すにとどまる。

 《僧院の導師》が生きてターンが戻ってきた春日だが、プレイするのは少し寂しい《強迫》。楊の手札に何もないことを確認した上で、《ヴリンの神童、ジェイス》を追加する。

 ここでの楊のドローは《集合した中隊》。しかし確実に場に脅威を展開することを選び、《ヴリンの神童、ジェイス》《ズーラポートの殺し屋》とクリーチャーを並べる。《ナントゥーコの鞘虫》が僅かに狂気を帯び始めた。

 この楊の選択は裏目に出る。春日は《ヴリンの神童、ジェイス》を変身させ、墓地の《強迫》をもう一度使うことを選んだのだ。

 ならば、と墓地に落ちた《集合した中隊》を《束縛なきテレパス、ジェイス/Jace, Telepath Unbound》で使用する楊。ライブラリーから戦場に集合したのは《シディシの信者》《地下墓地の選別者》

 この陽の圧倒的な展開に対し、春日は手札に《強迫》《ヴリンの神童、ジェイス》しかなく、とにかく苦しい。

 更に楊から《不気味な腸卜師》まで追加されると、今ドローした《宝船の巡航》もかすんで見える。

 《僧院の導師》で戦線をなんとか維持していた春日だったが、間もなくして楊が《先祖の結集》を公開すると、サイドボードに手をかけた。


楊 1-0 春日




Game 2



 《窪み渓谷》《大草原の川》とタップインを並べる春日だったが、楊の《ヴリンの神童、ジェイス》には《絹包み》と、一方的な展開を許さない。

 そして異変が起きる。2枚目の《ヴリンの神童、ジェイス》をプレイするまでは良かったのだが、楊は土地を持っていなかったのだ。

 春日がこの《ヴリンの神童、ジェイス》にも《絹包み》を差し向けると、楊の事故は深刻なものとなる。今度は《ズーラポートの殺し屋》と、プレイするカードには困らないものの、春日が《僧院の導師》でトークンを生み出し始めると、楊は一刻も早く土地を引く必要が出てきた。

 ようやく土地を引き始めた楊を横目に、春日は今回は絶好調。《苦い真理》でまずは呪文を確保し、続けて《宝船の巡航》と手札がこぼれそうなほどドローする。



春日 亮佑



 《集合した中隊》が2体の《不気味な腸卜師》を場に送り込むも、落ち着いて1体を《絹包み》

 手札をたくさん持つ楊からは次々とクリーチャーが出てくるのだが、《僧院の導師》をコントロールする春日は、呪文を唱えるだけで生物が増えていく。

 チャンプブロックでライフを守る楊だが壁はすぐに尽き、やがて《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を春日が追加して、王手。

 春日のサイドボード後のデッキを見るために《無限の抹消》を打つことが、楊のできるせめてもの抵抗だった。


楊 1-1 春日




Game 3



 オープニングハンドを見るなりデッキのシャッフルを始める楊に対し、春日は少し悩むも「キープします」と丁寧に告げる。

 《溢れかえる岸辺》から《進化する未開地》と少しぎこちない楊を尻目に、春日が初めて先行して呪文を唱える。2ターン目に出てくる青い悪魔、《ヴリンの神童、ジェイス》だ。

 返す刀で楊が打ち込んだのは《強迫》。春日の手札は《ヴリンの神童、ジェイス》《僧院の導師》《究極の価格》で、この唯一のインスタントを落とす。

 強力な手札に加えて戦場にはアクティブな《ヴリンの神童、ジェイス》。だが明るいニュースが待っていた。春日はアンタップで置くことのできる土地を引かなかったのだ。《僧院の導師》はおあずけとなる。だが楊が喜べたのはこの1ターンだけ。春日が次のターンにタップした3マナは、《僧院の導師》にあてたマナではなかった。


無限の抹消


 春日が唱えたのは《無限の抹消》。レスポンスで楊が唱えた《集合した中隊》が2枚の《ズーラポートの殺し屋》を戦場に届けるも、構わず指定「《ナントゥーコの鞘虫》」。

 勝ち手段を大きく制限されてしまった楊。サクリファイス手段である《ナントゥーコの鞘虫》を失ってしまった以上、《先祖の結集》コンボによる勝利が難しいため、殴り勝つしかない。一縷の望みに賭けてメインで《集合した中隊》を唱えると、ここでめくれたのは更に2枚の《ズーラポートの殺し屋》《不気味な腸卜師》。4枚の《ズーラポートの殺し屋》が集合するのでは、と期待していたが冷静に楊は《不気味な腸卜師》《ズーラポートの殺し屋》を選択する。

 この《集合した中隊》に面食らう春日ではあったが、戦場の《ズーラポートの殺し屋》さえ処理してしまえば、《ナントゥーコの鞘虫》をリムーブしている以上、ほとんど負けはなくなる。場の沈静をはかるべく、《ズーラポートの殺し屋》のうち1体を《絹包み》で対処し、《不気味な腸卜師》《究極の価格》を打つ。

 更に次のターンに2枚の《僧院の導師》をプレイすると、後は春日が守りきり、やがて攻勢に向かう――と思われたのだが。

 激戦は、時間を奪っていた。

 無情にも時計は0を表示する。

 そして《ズーラポートの殺し屋》で30近くまで膨れ上がった楊のライフを削るには、エクストラ5ターンはあまりにも短すぎたのだった。


楊 1-1-1 春日

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