日本で最強のレガシープレイヤーと言えば、一体誰が思い浮かぶだろうか?
【グランプリ・京都2015】を制したHareruya Prosの高橋 優太の名前が真っ先に上がるかもしれない。
あるいは【レガシー神】として第一回目から防衛を続けている川北 史朗か?
それとも、そんな川北 史朗の神の座を虎視眈々と狙う、レガシー神への次の挑戦者、土屋 洋紀であろうか。
確かにこの三人は非常に強いレガシープレイヤーだ。現役プロである高橋は勿論のこと、川北や土屋も、レガシーで輝かしい成績を残し続けている。レガシーの大会で川北や土屋が優勝しても、それは日常の風景のようなものだろう。
そんなレガシーの強豪である川北、土屋とは切っても切れない男がいる。この2人に冒頭の質問をしたら、きっと同じ答えが返ってくるに違いない。
「”のぶ”ですね」
【レガシー神、川北との死闘】、【The Last Sun 2013】での活躍、レガシー日本選手権などの数々のレガシーの大会でとにかく入賞者に名を連ね続ける男。
青白奇跡を使えば無敵の男、斉藤 伸夫だ。
青白奇跡を使う斉藤の姿をレガシーのトップテーブルで見ないことのほうが少ない。トップテーブルにいなければそのときはフィーチャーテーブルに呼ばれているのだ。
そんな斉藤に、愛用する奇跡デッキについて訊ねてみた。
ちなみにこの奇跡デッキのリストは、Hareruya Prosの井川良彦や「英知」板東 潤一郎にもシェアしているようで、プロや古豪からの信頼の厚さも見て取れる。
■ フィーチャーマッチを終えた後の斉藤さんに突撃
――こんにちは!
斉藤 「こんにちは。どうもです」
――今日も奇跡ですね。
斉藤 「そうですね。奇跡強いです。不利なデッキほとんどありませんし」
――今のラウンドは勝ちましたか?
斉藤 「勝ちました。相手はエルフだったんで相性は良かったです」
――さすがです。今日は斉藤さんの使用する奇跡デッキについて少し詳しくお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?
斉藤 「大丈夫ですけど、レシピはめっちゃ普通ですよ(笑)」
■ 奇跡ってそもそも強いの?
――さっきさらっとさわやかな笑顔で「不利なデッキが少ない」って言ってましたが、どんなデッキに強くてどんなデッキに弱いのでしょうか?
斉藤 「本当に大体のデッキに強いですよ。デルバーとかエルフ、ジャンドにマーフォークみたいなフェアデッキから、ANTにも強いです」
――それはすごい! でもジャンドって《時を越えた探索》がなくなったせいで《Hymn to Tourach》や《思考囲い》が刺さるから、結構キツかったりしませんか?
斉藤 「そうでもないですね。《師範の占い独楽》さえあればなんとでもなります。《時を越えた探索》があったときはそれこそ楽勝でしたけど。そもそも相手には《天使への願い》を止める手段がないので、だらだらゲームしていればそのうち勝ちます。基本、クリーチャーデッキですから《終末》とかもきちんと刺さりますし」
■ もしかして最強……?
――話を聞く限り、もしかして奇跡って最強では?
斉藤 「最強……ではないですね(笑)そんなに、特定のデッキに明確に不利、というのが存在しないのが奇跡なんですけど、本当にどうしようもないぐらいキツい相手はいます」
――ずばりなんですか?
斉藤 「ポストですね」
――ポスト!
斉藤 「ポストだけはきついです。本当にどうしようもありません。《師範の占い独楽》《相殺》効かない、除去効かない、カウンターにも強いので」
――中々最強のデッキってないものですね。
■ リストができるまで
――そもそもこのデッキ、1人で作ったんですか?
斉藤 「いえ、身内で組み上げました。ラインで話したり、勿論対戦をしたり、大会に出たときのフィードバックをしあったり」
――なるほど。同じデッキを使う知り合いが何人もいると、デッキの洗練度は何倍にもなりますよね。
斉藤 「はい。しかも同じデッキを使ってみんなどこかで毎回勝つんです。やっぱり自分達で作っているデッキが勝つとモチベーションにも繋がりますし、この方法が正しいんだな、って思えます」
――調整チームとしてそれほど嬉しいことはないですね。洗練されたリストにも期待が持てそうです。
■ クリーチャー選択
――まずはクリーチャーについてですが、どうしてこの二種類なのでしょうか?
斉藤 「どちらも序盤から終盤まで活躍するクリーチャーだからですね。ただ《瞬唱の魔道士》と《ヴェンディリオン三人衆》はどちらも序盤に2枚欲しいカードじゃないんですよね。だから散らしています。《造物の学者、ヴェンセール》も使っていた頃はあるんですけど、少し重いので抜けちゃいました」
――人によっては《僧院の導師》が入っていたりしますよね。どうですか?
斉藤 「良いと思いますよ。でも少しデッキ構成を変える必要があると思います。少なくとも《ヴェンディリオン三人衆》をそのまま《僧院の導師》にする、みたいなのは難しいと思います。」
■ 3枚ずつの《剣を鍬に》と《Force of Will》
――まず気になるのは、《剣を鍬に》と《Force of Will》ですね。ここは大体のリストが4枚だと思っていたのですが。
斉藤 「そうですね……《剣を鍬に》は、そもそも4枚必要なカードではないですね。これしか除去が入っていないようなら別ですけど、奇跡の場合は《終末》とか、僕のリストは《至高の評決》が入っていますから、クリーチャーをそこまで執拗に除去しようと考えていないんです」
――なるほど。《Force of Will》はどうなんでしょうか? レガシーの青ならまず4枚なのでは、と勝手に思っていたのですが。
斉藤 「奇跡って結構ハンド増えないんですよね。単純に手札が減るのが辛いです。それとコンボより非コンボデッキのほうが僕は意識していますから3にしています。コンボにも《師範の占い独楽》《相殺》のパッケージで勝つことが多く、綺麗にコンボに回られるときって《Force of Will》あってもなくても負けるんですよね。加えてフェアデッキには強くないので3です」
――《時を越えた探索》があるときは手札が増えるから4だったんですね。
斉藤 「そうですね。あ、ちなみにメインに《僧院の導師》を入れるならさすがに4枚にしますね」
■ 全体除去の枚数について
――《終末》は4枚じゃないんですね。
斉藤 「はい。全体除去枠は合計で4枚で良いかな、と思ってまして。それなら《至高の評決》を抜くわけにはいかないので、必然的に3:1にせざるを得ないじゃないですか!」
――《至高の評決》激推しですね。
斉藤 「めちゃくちゃ強いですよ、このカード。何せカウンターされないんです。すごい強いです。デッキに1枚入れておくだけで安心です。奇跡を使うなら1枚は入れるべきです」
■ 1枚差しの3種類のカウンター
――《呪文嵌め》と《対抗呪文》、《紅蓮破》はそれぞれどうしてこの枚数なのでしょうか?
斉藤 「《呪文嵌め》と《対抗呪文》は序盤を凌ぐ枠で、ここは《対抗呪文》が2枚だったりします。人によっては《呪文貫き》も入っていたりしますが……僕の好みは《呪文嵌め》と《対抗呪文》です。《呪文貫き》は後半になるととてもじゃないけど何も貫けない……のに対して《呪文嵌め》はいつでも嵌めなんですよね。《対抗呪文》は言わずもがな」
――後半弱い、軽いカードは嫌なんですね。
斉藤 「そうです。軽いカードは好きですけど、弱いカードは嫌ですね。《紅蓮破》も序盤、後半と強いカードなので好きです」
――なるほど。言われてみれば。
斉藤 「《剣を鍬に》を4枚入れるなら、3枚と《紅蓮破》が良いと思います。デルバーにはどちらも刺さるし、《剣を鍬に》で除去したいのって大体デルバーなんで」
■ 奇跡のデッキ構築で意識していること
――先ほどのお話であった「軽いけど後半もしっかり強いカードが好き」ということですけど、デッキリスト自体にも何か思想などはあるのでしょうか?
斉藤 「序盤をとにかく意識していますね。このデッキ、というかずばり《師範の占い独楽》ですけど、このカードってターンが経つごとに強くなりますよね。相手が常にカードを1枚引いて手札との選択を行うのに対して、僕は手札とめくった3枚でゲームプランを決められるじゃないですか。そこにフェッチが絡めば更に3枚。だからターンが経過する=勝つ、に等しいんですよ」
斉藤 「逆に言うと、ターンが経過しているにもかかわらず、軽くて弱いカードがデッキに残っているというのが嫌です。せっかくこっちの望んだ土俵で戦ってるのに負けるかもしれないんですから」
――例えばさっき例に挙げていた《呪文貫き》ですか。
斉藤 「その通りです。序盤に強いだけのカードは奇跡に入れたくない」
斉藤 「それと、とにかく選択肢を広げることが勝ちにつながると思っています。これは構築面でも言えることで、《剣を鍬に》と《紅蓮破》は散らせば、どちらも引いたときにプレイの選択肢が広がりますし、《思案》は序盤にライブラリーの3枚を知ることでやはり選択肢が広がります。《師範の占い独楽》なんてもうカードそのものが『選択肢を広げる』カードですよね」
――サイドボードもかなり枚数が散らしてありますが、どんな意図があるのでしょうか?
斉藤 「そうですね。僕はレガシーのデッキのサイドボードを作るときに、『ジャンド相手に○○を抜いて××を入れて、これで合計6枚』みたいな方法は取らないんです」
――普通はサイドボードってそうやって構築しますよね?
斉藤 「そうですね。スタンダードとかならそれで良いと思います。想定したデッキリストと実際のデッキにほとんど差異はないですから。アブザンアグロが自分の想定しているリストと10枚違うようなこと、まずないじゃないですか。でもレガシーではそれがあります。クリーチャーが想像より少なかったり、逆もまた然り」
――言われてみるとそうかもしれませんね。
斉藤 「そうなったときに、ただ特定の相手に枚数がある、ってだけじゃ不安なんですよ。なので、同じような役割のカードを少しずつ入れています」
――この1枚ずつのカードは大体そういったカードなのでしょうか?
斉藤 「そうですね。言うなればサイドボード後も、選択肢を広く持ちたいんです。枚数が欲しい対策カードなど以外は、全て1枚にしています」
■ キラーカード、《封じ込める僧侶》と《狼狽の嵐》
――《封じ込める僧侶》はやっぱり強いですか?
斉藤 「かなり強いですね。奇跡を使うならサイドボードに2枚は欠かせません。ショーテルは勿論のこと、発掘、リアニ、エルフ……どのデッキに対してもとても強いです。かゆいところに手が届きすぎます」
――《狼狽の嵐》はコンボデッキに対して強いですよね。
斉藤 「コンボ相手には1マナの確定カウンターですからね。序盤から終盤まで結構いつでも強いカードなので気に入っています。ちょっと《渦まく知識》とか絡めれば土地が並んでも十分カウンター出来ます」
■ 《僧院の導師》は特定のデッキに強いわけではないが2枚
――最近、《僧院の導師》はかなりメジャーなテクニックになりましたよね。
斉藤 「そうですね。単純に強いです。ただメインに入れたいとは思わないですね。大体このスロットって《天使への願い》なんですけど、僕は《天使への願い》のほうが好きです。《僧院の導師》は《罰する火》で焼かれちゃうんで嫌です」
――ある程度バレていてもサイドに入れる意味はあるのですか?
斉藤 「あると思います。相手は除去をある程度抜いてくると思いますし、もし残していればそのまま腐らせることも出来ます。例えば《ヴェンディリオン三人衆》で見ていればそのまま放置して《僧院の導師》を《師範の占い独楽》でトップに残し続ければいいですし、それこそ《ヴェンディリオン三人衆》で抜いてしまってもいいんです。どちらにせよ相手の選択肢は狭まり、僕の選択が広がります」
――やっぱり、選択を広げることを重んじているのですね。
斉藤 「そうですね。とりあえず2本目はどんな相手にも大体入れてみます。それで相手が除去を抜くサイドプランを取ってればそのまま勝てますし。後は、奇跡ってゲームを3本やりきれないことのほうが多いので、残り5分とかならとりあえず《僧院の導師》を入れますね」
■ まとめ
・最序盤を生き延びることが何よりも大切なため、軽いカードはなるべく多く入れ、重いカードは極力減らす。
・序盤を生き延びた後、きちんと勝ちきるために、序盤はすごく役に立つが後半不要になるカードはあまり使わないようにする。
・とにかく選択肢を広げられるようにする。
これらの指針を守って組み上げた奇跡デッキで、斉藤は今回のThe Last Sun2015でもレガシーラウンドを5-1-1してトップ8に進出している。
斉藤をはじめとしたレガシー界の頭脳が集結して完成した【至高の奇跡】。この奇跡、一度体感してみてはいかがだろうか。
4 《島》 2 《平地》 3 《Tundra》 2 《Volcanic Island》 4 《溢れかえる岸辺》 4 《沸騰する小湖》 2 《乾燥台地》 1 《Karakas》 -土地(22)- 2 《瞬唱の魔道士》 2 《ヴェンディリオン三人衆》 -クリーチャー(4)- |
4 《渦まく知識》 3 《思案》 3 《剣を鍬に》 1 《呪文嵌め》 1 《紅蓮破》 1 《対抗呪文》 2 《天使への願い》 1 《議会の採決》 1 《至高の評決》 3 《Force of Will》 3 《終末》 4 《相殺》 3 《精神を刻む者、ジェイス》 4 《師範の占い独楽》 -呪文(34)- |
2 《封じ込める僧侶》 2 《僧院の導師》 2 《狼狽の嵐》 1 《ヴェンディリオン三人衆》 1 《紅蓮破》 1 《赤霊破》 1 《対抗呪文》 1 《摩耗+損耗》 1 《至高の評決》 1 《Force of Will》 1 《安らかなる眠り》 1 《仕組まれた爆薬》 -サイドボード(15)- |