今大会でも屈指の好カード。
トップ8を見渡せば半数がGPチャンピオンという「濃い」メンツの中でも、最も注目度が高いであろうテーブルがこの森と高橋の対戦だ。
プロフィールにあるように世界チャンピオンの座に輝いたこともある森 勝洋は、一昨年の記念すべき【The Last Sun 2013】での入賞歴も持つ。
2015年においては【グランプリ・千葉2015】でトップ4にまで駒を進めるなど、「帝王」と呼ばれた実力は今もそう衰えを見せない。
対する高橋 優太の今年の戦績はというと、そこにもまた素晴らしい戦歴が並ぶ。
【グランプリ・京都2015】優勝
【グランプリ・シンガポール2015】6位
【プロツアー『マジック・オリジン』】15位
【プロツアー『戦乱のゼンディカー』】17位
日本人プロプレイヤーの中でも高いレベルで安定していた高橋だが、特筆すべき実績は日本初のレガシーGPにおける優勝。
屈指のレガシープレイヤーでもある彼が今大会の優勝候補筆頭であることに疑いを持つ者はいない。
【スイスラウンド】では「のぶ」こと斉藤 伸夫のミラクルさえも退けて危なげなく入賞を決め、初戦のフォーマット選択権を手中に収めている。
そして高橋が選んだフォーマットはスタンダード。
「高橋はレガシーだろう」という予想を裏切る選択だが、デッキ選択理由が「アブザンに強いから」とあればそれも納得だ。
レガシー環境への理解度の差はあれど、それが森ほどのプレイヤーを甘く見る理由にはならない。
Game 1
望むところであろうスタンダードでの対戦で、大事な先手をダイスで勝ち取ることに成功した森は、
森 「先手だけど勝率四割かな(笑)」
と言いながらもフェッチランドを起動して《始まりの木の管理人》のロケットスタートを匂わせる。
……がそのまま《森》を置いてターンエンド。
森 「《もみ消し》ケア(笑)」
と嘯きまずは舌戦での優位を取っていく。そのまま2ターン目にもクリーチャーを出さずにターンを終える森。アブザンアグロにあるまじき動きのように見えるが果たして。
その間に高橋はバトルランドをフェッチしてマナ基盤を整え、《ヴリンの神童、ジェイス》を召喚する。
3ターン目、森はようやく動きを見せる……と思いきやここでもターン終了。
何かを構えているとあっては高橋の思考が巡る。迂闊に隙を見せることはせずにターンを終了。と、森はここでようやくファーストアクション。《アブザンの魔除け》ドローモードで手札を補充する。
森は続いて《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》で盤面を作り始め、対応して高橋が《ヴリンの神童、ジェイス》のルーティング能力を起動。トークンの生成を見届けてから《はじける破滅》で除去すると共に忠誠値を削ると、自ターンでは再度ルーティングして手札を整え、《カマキリの乗り手》で《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を落としつつ《黄金牙、タシグル》をも召喚。
《カマキリの乗り手》、《黄金牙、タシグル》、反転済のジェイスと、ジェスカイ・ブラックの主戦力が揃い踏みしている高橋の場を見て思わず森からも、
森 「完璧じゃないですか……」
と弱気な声が漏れる。
森 勝洋 |
とはいえ森は冷静に《アブザンの魔除け》で《カマキリの乗り手》を、《残忍な切断》で《黄金牙、タシグル》を除去し、続くターンでは《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》でトークンを出して、《始まりの木の管理人》を召喚。《乱脈な気孔》もセットして戦線を固めていく。
高橋は《束縛なきテレパス、ジェイス/Jace, Telepath Unbound》の忠誠値を高めていき。森への応手は《コラガンの命令》。《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》に2点のダメージを与え、森の手札を奪う。さらに《はじける破滅》を墓地から唱え、《焙り焼き》で《始まりの木の管理人》と全て捌いていく。
森は3枚目の《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を戦場に送り込み長考に入ると、トークンを出すことはせず、忠誠値を1上げてターンを返す。
これを受け、墓地を片手に今度は高橋の思考が渦巻く。森が「いい勝負だね」と声をかけるが、それも耳に入っていない集中ぶりだ。
高橋の選択はジェイスの能力で《コラガンの命令》を墓地から唱えて《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》の忠誠値を削り、回収した《黄金牙、タシグル》を、3マナと残った墓地すべてを「探査」にあててキャスト。
先ほど《アブザンの魔除け》で《カマキリの乗り手》を追放していた森の好プレイが光った。
森の《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》が《束縛なきテレパス、ジェイス/Jace, Telepath Unbound》へと殴り掛かり、高橋はそれを受け入れる。
手番をもらった高橋の《黄金牙、タシグル》が《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》へと攻撃すると、森は《乱脈な気孔》でチャンプブロック。
さらにトップデッキした《ドロモカの命令》で、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》と《黄金牙、タシグル》を格闘させ、《乱脈な気孔》と共に戦闘に行くと高橋のライフは6まで落ち込む。
起死回生を求めて高橋は《時を越えた探索》を唱え、《魂火の大導師》を場に。
森が《乱脈な気孔》と《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》をクリーチャー化させたところで、《はじける破滅》で後者を処理する。
《魂火の大導師》と《乱脈な気孔》が殴り合いを始め、8マナ揃った高橋が《オジュタイの命令》を擬似的に「バイバック」し始めると、森はここでカードを畳んだ。
森 0-1 高橋
Game 2
2本目は初手を見るなり森が「これはいけるな」とキープを宣言。
しかし森はまたもクリーチャーを出すことはできず、2ターンの間土地を置くのみでターンを返す。
対する高橋はマリガンを感じさせない2ターン目《ヴリンの神童、ジェイス》。これは《絹包み》で処理され、続く《カマキリの乗り手》も《アブザンの魔除け》の餌食となる。
高橋は土地が3枚で止まってしまうが、再び《ヴリンの神童、ジェイス》を戦場に送り込む。
森は《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》を唱えるが、除去能力ではなく追加ドローでアドバンテージを稼いでいく。
高橋は生き残った《ヴリンの神童、ジェイス》のルーティングで土地を手に入れ、《魂火の大導師》を追加。
森はまたも《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》のドロー能力を使い、《黄金牙、タシグル》、《先頭に立つもの、アナフェンザ》、《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》と自分の盤面を作ることに注力する。
高橋は森の繰り出すクリーチャー達を次々と除去し、《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》に攻撃を仕掛けていくが、森の《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》が《ヴリンの神童、ジェイス》を攻撃し《風番いのロック》を「強襲」でキャストすると、これ以上抵抗することができないことを悟り、ゲームカウントはイーブンに。
森 1-1 高橋
Game 3
先手高橋はまたもマリガンに見舞われるが、しかし三度目の二ターン目《ヴリンの神童、ジェイス》。
森 「三回連続じゃん!勘弁してよ!」
高橋 「この環境の苦花だからね。手に吸い付くよ。」
とご機嫌の高橋。
これには《究極の価格》で応じる森だが、高橋の手札からはまたしても2枚目の《ヴリンの神童、ジェイス》。
森 「おいおいおいおいおい」
森は今度は除去することができずにターンエンド。
《アブザンの魔除け》ドローモードで回答を求め、なんとか《完全なる終わり》で変身を食い止める。
森が続けてプレイした《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》がトークンを呼び出すと、それを受けて高橋は《オジュタイの命令》で《ヴリンの神童、ジェイス》をリアニメイトし、1ドロー。
ルーティングで《ヴリンの神童、ジェイス》を変身させると、墓地に1枚の《龍王シルムガル》を残して《黄金牙、タシグル》を召喚。
《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》がクリーチャー化すると《はじける破滅》。
追加された《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》には《黄金牙、タシグル》を除去こそされるものの、《束縛なきテレパス、ジェイス/Jace, Telepath Unbound》が再利用した《はじける破滅》でトークン諸共始末する。
森は《乱脈な気孔》でジェイスに一撃を入れるが増援はなく、もう一度の攻撃は《はじける破滅》で許さない高橋。
着実にゲームをコントロールし、ジェイスの忠誠値を高めていく。
森の次の一手は《精神背信》。高橋は対応して《時を越えた探索》を唱え、手札は
《はじける破滅》
《はじける破滅》
《焙り焼き》
《オジュタイの命令》
となった。
追放できる3枚のうち、森は《オジュタイの命令》を選択し、《黄金牙、タシグル》を続けてターン終了。
高橋がやはりジェイスの忠誠度を上げ、《黄金牙、タシグル》起動に対応して《はじける破滅》を唱え、除去したばかりの《黄金牙、タシグル》を手札に戻させてターンを返す。
再度《黄金牙、タシグル》を召喚した森は、さらに「強襲」せずに《風番いのロック》も召喚。
高橋は残った2枚の除去をそれらに使ってジェイスを守ると、マイナス能力で《時を越えた探索》をフラッシュバック。
手に入れた《軽蔑的な一撃》で《包囲サイ》をいなし、《苦い真理》でさらに手札を補充。
森も《アブザンの魔除け》で「ギデオン」と声に出して後続を探すが祈りは届かず。
森のターン終了時に《オジュタイの命令》で《ヴリンの神童、ジェイス》をリアニメイトしながら1ドロー。
これには即座に《究極の価格》が飛ぶが、しかしこのドローで手に入れた《黄金牙、タシグル》を《オジュタイの命令》《ヴリンの神童、ジェイス》を墓地に残して唱え、能力によって《オジュタイの命令》が再び高橋の手札に加わる。
森はタシグルを《アブザンの魔除け》し、変異クリーチャーをキャスト。
高橋がこれを《影響力の行使》で奪い取るのに対応して《棲み家の防御者》を表返して《アブザンの魔除け》を手札に加える森。
《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を《軽蔑的な一撃》されるも、《アブザンの魔除け》で《棲み家の防御者》を除去。
「長いぞこの試合!」果てしなく続く一進一退の攻防に思わず声が上がる森。
さらに《オジュタイの命令》で戦場に帰ってきた《ヴリンの神童、ジェイス》を《完全なる終わり》が捉え、なお二人の手札は尽きない。
まだ長引くぞと言わんばかりに高橋は《時を越えた探索》を唱えると、とある2枚のカードを見つけ計算を始める。
森の残ったマナ数とライフを確認し、2枚のカードを手札に加えて自ターンに入ると、1体、2体、3体と《カマキリの乗り手》を繰り出し森のライフを一挙に2まで落とし込む!
カマキリの群れ全てを1ターンのうちに除去することはさしもの森もかなわず、長い長いシーソーゲームがついに終わりを告げた。
森 1-2 高橋
Game 4
4度目の高橋の初手に今度こそ《ヴリンの神童、ジェイス》の姿はない。
だが、先ほどの自身の言葉通りか、高橋の手に吸い付いてきたかのように最初のドローでそれを引き当て、息を吐くように最速で戦場に送り出す。
森は対照的に、このマッチにおいて2ターン目までにクリーチャーを出したゲームはない。
やむなく《絹包み》で対処するが高橋は《カマキリの乗り手》で軽快に殴り始める。
これも《完全なる終わり》で追放するが、高橋は3色のマナを使って《苦い真理》。完璧に近い動きでゲームを進行する。
《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》を出す森を高橋は《カマキリの乗り手》、《黄金牙、タシグル》の2アクションで引き離す。
森は非常に苦しそうだが、ドローしたカードを見て「まだいける」と力強くつぶやき、《アブザンの魔除け》で《カマキリの乗り手》を排除し、《先頭に立つもの、アナフェンザ》で追い縋る。
高橋 優太 |
だが高橋は傾いた天秤を押し戻させるつもりは毛頭ない。
《はじける破滅》、《焙り焼き》で森の戦場を一挙に奪い尽くすと、さらに2枚の《はじける破滅》と《黄金牙、タシグル》の攻撃で、抵抗の暇を与えない鮮やかな手並みを見せつけ、準決勝への進出を決めた。
森 1-3 高橋