20年以上にも及ぶMagic: the Gatheringの歴史は、クリーチャー呪文と除去呪文の戦いの歴史でもある。
環境に蔓延るクリーチャーたちを除去呪文が根こそぎ、その除去呪文を躱す工夫をしたクリーチャーが再びメタゲームを騒がせる。古くは《ワイルドファイアの密使》vs《剣を鍬に》、最近では《搭載歩行機械》を巡る除去選択が記憶に新しい。
こうした追って追われてのイタチごっこは長い歴史の中で幾度も繰り広げられてきた。
クリーチャーたちが身を躱しきるのか、それとも除去呪文がそれを照準にとらえるのが速いのか。この繰り返しのなかで、時折、極端な方向へと走り抜けるデッキが登場することがある。
今回は会場で見かけた、そんな一風変わったアプローチをとったデッキたちを紹介しよう。
◆ 白ウイニー
19 《平地》 -土地(19)- 4 《ドラゴンを狩る者》 4 《探検隊の特使》 4 《アクロスの英雄、キテオン》 4 《マルドゥの悲哀狩り》 2 《結束した構築物》 4 《族樹の精霊、アナフェンザ》 4 《領事補佐官》 4 《白蘭の騎士》 -クリーチャー(30)- | 4 《まばゆい神盾》 4 《秘儀術師の掌握》 4 《絹包み》 -呪文(12)- | 4 《搭載歩行機械》 4 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》 3 《神聖なる月光》 2 《見えざるものの熟達》 2 《光輝の粛清》 -サイドボード(15)- |
「たとえ世界が滅亡しても、ゴキブリと白ウイニーだけは生き残る」
こんなコメントを添えて語られることの多い「白ウイニー」は、そのシンプルな戦略ゆえにいかなる環境でも存在できると太鼓判を押されている。軽いクリーチャーをより多く展開すること。質は無視してもいい。とにかく量を展開することで相手を手数で圧倒する戦略だ。
この教科書通りの教訓を丁寧に再現したものが、このデッキである。
合計18枚の1マナ2/1 、12枚の2マナパワー2、あとは12枚の疑似的な軽量除去。このデッキを成分分析にかけると驚くほどの均一性をもって構築されていることがよくわかる。各カードにはそれぞれ持ち味はあるものの、それが額面以上の期待をされることはない。1マナ2/1にちょっとしたおまけがついている程度の感覚だ。
この一様な構成は、デッキに安定性をもたらすとともに、特定のキーカードを意識して重い除去を選択したデッキに効果的だ。たとえば彼らが《包囲サイ》を恐れて《はじける破滅》を採用していても、こちらは1~2マナのパワー2以外は犠牲になることはない。相手の除去がいくら強力であろうとも、それが単体除去である限りはこちらの被害はいつだって最小単位なのだ。
除去を避けるための駆け引きをするのではなく、除去されたときの被害を最小に抑える工夫をする。これによって重い除去を握った対戦相手は手数で敗北し、軽い除去を持った相手にも、質を失わずに物量で戦うことができる。
また、《アクロスの英雄、キテオン》、《領事補佐官》、《族樹の精霊、アナフェンザ》といった「おまけ能力」をもったクリーチャーたちは、どれもクリーチャーの数が多いほど活躍する能力を持っている。デッキに採用されたクリーチャーはただの1マナ2/1かもしれないが、これら3枚によって本来のスペックよりも高く評価できる。
どんな単体除去が飛んでくるかわからないけれど、どれにも被害を最小限に、手数で圧倒する。《衰滅》や《光輝の炎》のような全体除去には困ってしまうが、古き良き「白ウイニー」の戦略から、クリーチャーと除去のイタチごっこへの解答を見出した素晴らしいデッキだ。
◆ 《前哨地の包囲》コントロール
2 《山》 2 《平地》 2 《沼》 2 《梢の眺望》 2 《大草原の川》 2 《燻る湿地》 4 《汚染された三角州》 4 《樹木茂る山麓》 2 《血染めのぬかるみ》 4 《乱脈な気孔》 -土地(26)- 4 《魂火の大導師》 2 《黄金牙、タシグル》 -クリーチャー(6)- | 4 《強迫》 4 《焙り焼き》 4 《はじける破滅》 3 《破滅の道》 2 《完全なる終わり》 1 《残忍な切断》 4 《絹包み》 4 《前哨地の包囲》 2 《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》 -呪文(28)- | 4 《光輝の炎》 4 《目覚めし処刑者》 3 《精神背信》 2 《見えざるものの熟達》 2 《苦い真理》 -サイドボード(15)- |
「なにで除去されても構わんよ」と開き直った戦略をとった「白ウイニー」に応えるように、真逆のアプローチとなる「なに出されても構わんよ」と万全の態勢で迎え撃つのが、「《前哨地の包囲》コントロール」だ。
《ヴリンの神童、ジェイス》には《アブザンの魔除け》が効かず、《包囲サイ》に《乱撃斬》が無力であるように、あらゆる除去カードには何かしらの裏目がある。そこで、どれも裏目があるならば全部採用して裏目を失くしてしまおう、と思い切ったのがこのデッキだ。
《焙り焼き》。《絹包み》。《はじける破滅》。古今東西の除去呪文をもって対戦相手のクリーチャーすべてと1:1で交換し、《前哨地の包囲》と《魂火の大導師》、《黄金牙、タシグル》がもたらす枚数の優位で消耗戦に勝利する構成となっている。
クリーチャーデッキならばどれとも渡り合えるが、特に有利なのは「アブザンアグロ」に対してだろう。「アブザンアグロ」の持ち味は、デッキすべてのカードが優秀で交換されにくいことだ。しかし、その無茶な理屈は、このデッキには通用しない。ほぼすべての除去呪文が「アブザンアグロ」のクリーチャーに有効だからだ。《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》だけは本当に厳しいカードだが、前もって《強迫》で落としてしまえば問題ない。
サイドボードも死角がないつくりになっている。単体除去へのアンチであるトークン戦略は《魂火の大導師》+《光輝の炎》のコンボで封殺し、苦手なコントロール系とのマッチアップには、秘密兵器である《目覚めし処刑者》と《見えざるものの熟達》が用意されている。
どんなクリーチャーがきても撃ち落とす。そんな気構えを感じさせる総除去体制は、クリーチャーvs除去戦争のまた一つの解答だ。