◆総合勝率
順位 | 名前 | 総合成績 | 勝率 |
1位 | 八十岡 翔太 | 23勝10敗 | 70% |
2位 | 渡辺 雄也 | 20勝13敗 | 61% |
3位 | 三原 槙仁 | 19勝14敗 | 58% |
4位 | 瀧村 和幸 | 18勝15敗 | 55% |
5位 | 井川 良彦 | 15勝15敗 | 50% |
5位 | 山本 賢太郎 | 3勝3敗 | 50% |
7位 | 覚前 輝也 | 10勝11敗 | 48% |
8位 | 津村 健志 | 7勝11敗 | 39% |
9位 | 中村 肇 | 5勝10敗 | 33% |
9位 | 中村 さら | 5勝10敗 | 33% |
9位 | 服部 太紀 | 4勝8敗 | 33% |
12位 | 伊藤 光英 | 2勝13敗 | 13% |
◆3-0アーキタイプまとめ
ドラフト | プレイヤー | アーキタイプ |
【1stドラフト】 | 三原 槙仁 | 赤緑タッチ青黒 |
【2ndドラフト】 | 井川 良彦 | 緑黒タッチ白 |
【3rdドラフト】 | 八十岡 翔太 | 白黒 |
【4thドラフト】 | 八十岡 翔太 | 白黒 |
【5thドラフト】 | 渡辺 雄也 | 青赤タッチ白 |
【6thドラフト】 | 瀧村 和幸 | 白黒 |
【7thドラフト】 | 三原 槙仁 | アブザンタッチ青 |
【8thドラフト】 | 三原 槙仁 | 緑黒タッチ赤青白 |
【9thドラフト】 | 八十岡 翔太 | アブザンタッチ青赤 |
【10thドラフト】 | 山本 賢太郎 | 青赤 |
【11thドラフト】 | 井川 良彦 | アブザンタッチ青 |
◆リミテッドの地力の高さが問われた菊名合宿『運命再編』
前回の【菊名合宿『タルキール覇王譚』】から引き続き、勝率トップ3をマークしたのは八十岡・渡辺・三原の3名。
もとより彼らの実力が別格ということもあるが、それを踏まえても『タルキール覇王譚』のリミテッド環境は明らかに実力が出やすい環境と言える。
察するにその原因の1つはコモンの2色地形であろう。
2色地形によってデッキの可能性は無限の広がりを見せる。そんな中で自分にとって何が勝率の高いピックか、今必要なのは土地なのかスペルなのか。どこまでマナベースを犠牲にしてカードパワーを取りにいくのか。そういった極めて微妙な判断が求められるため、勝つためにはピックの判断基準として、未来予測にも等しい確度で最終形のヴィジョンを頭の中で描き出さなければならない。
もちろんヴィジョンが必要なのは昨年の『テーロス』環境も同様だったが、あのときはマナベース的に単色~2色がデッキの広がりの限界だったし、そもそも「英雄的」や「信心」といったリミテッド的にデッキの芯となりうるコンセプトがあらかじめ用意されていた。だから例えば「今『英雄的』のクリーチャーが3体いるから、『授与』が足りないな。これをピックしよう」とか、「このデッキは『信心』に寄せた方が3パック目の期待値が大きいな。こちらをピックしよう」といった判断が容易だった。デッキの強さは単体のカードパワーではなくシナジーの絡み合いで決まることが多かったため、いわば最終形のヴィジョンに対して補助輪がついた環境だったと言える。
それに対し、『タルキール覇王譚』『運命再編』のキーワードは「変異」「予示」や「長久」「強襲」「疾駆」など単体のカードパワーを定義するための能力が多く、デッキ全体の真芯となりうるような骨太なコンセプトが存在しない。
いや、正確には存在する。ただそれが今回は「氏族」という「色の枠組み」そのものであるため、存在するにしても圧倒的に見えにくい。
だからプレイヤーはピック中、自らが作るであろうデッキのコンセプトを、『英雄的』や『信心』といった補助輪に頼ることなく、己の想像力だけで見出さなければならない。
その場合コンセプトと呼ばれるものはきっと、「2~3ターン目は壁役を置いて、4~5ターン目には壁を厚くするか除去を構える。6ターン目以降はマナを立たせて『変異』のフェイスアップを牽制しつつアドバンテージの獲得を目指す。飛行クリーチャーに対してはn枚の受けを用意する」といった、原始的なアクションの連なりといった感じになるのだろう。
しかしそれら個々のアクションの必要性と有効性を、全く新しい環境のドラフトにおいてピック中その場で判断できるかは、結局のところ個々人が持つリミテッドの地力の高さに依存してしまう。
地力の高さとはすなわち、「ヴィジョンを描く力」。
それはドラフトにおいて正しいピックをするために最も必要な要素であり、全てのドラフト練習はこの力を養うために行われているといっても過言ではない。
問題は、様々な環境のドラフトでヴィジョンを自覚的に描いた経験がこの力を培っていくという点にある。
自覚したプレイヤーは日々のドラフトで「ヴィジョンを描く力」を研鑽し、日増しに強くなっていく。
八十岡・渡辺・三原といった面々の強さの秘訣はだから、早期にヴィジョンの必要性を自覚し、プロツアーなどの一流の舞台で長きにわたってこの力を磨いてきたという点にあるのだと思う。
他の参加メンバーは様々な環境で自覚的にヴィジョンを持ってドラフトした経験値が絶対的に不足しているため、彼ら3人と勝率においてどうしても水をあけられてしまう。
その点、合宿初参加となった瀧村の健闘は特筆に値しよう。瀧村も序盤は1-2や0-3を連発していたが、中盤から後半に入るに連れて尻上がりに調子をあげていき、終盤は2-1で安定するところまで来ていた。この卓のレベルで安定2-1できるようになったということは、「ヴィジョンを描く」ということを自覚し、適切なピックで思った通りのデッキの最終形を仕上げられるようになったのだろう。
現在の構築&リミテッドの混合フォーマット方式のプロツアーは、リミテッドラウンドで大負けするようでは絶対に勝てない。
八十岡・渡辺・三原の3名はもちろん、プロツアー『運命再編』での瀧村の活躍にも期待したい。
◆結局『運命再編』によって環境はどう変わったか
【戦前の大胆予想!『運命再編』によって環境はどう変わったと思うか?】で言及したテーマだが、実際のところはほぼ全員の予想を超えた結果が待ち受けていたといっても過言ではない。
「呪印シリーズ」や「疾駆」といった環境の高速化を導く要因よりも、《龍火浴びせ》《砂爆破》《影の手の内》などの表返った「変異」を軽く捌けるほどの強力な除去の増加、そもそも強力だった「変異」が外れやすい「予示」に一部取って代わってしまった、パワー4以上で使い勝手がいいクリーチャーと《凶暴な殴打》そのものの減少による【赤緑「獰猛」戦略】の破綻、《ラッパの一吹き》《戦場での猛進》《子馬乗り部隊》の減少によるトークン戦略の弱体化、などの様々な環境の低速化の要因の方がはるかに強かったのだ。
結果として、環境はかなり遅くなったと言っていい。
しかし、八十岡や三原が頻繁に組んでいたような5枚以上の2色土地に依存したアブザン多色やスゥルタイ多色が最強戦略かというと、必ずしもそうではない。
『運命再編』でも引き続き多い「戦士」クリーチャーと『タルキール覇王譚』の「戦士」シナジーにフィーチャーした白黒戦士は、《大物潰し》《必殺の一射》といった条件付除去や単にタフネスが堅いだけの壁では止めにくいシステムの形成を武器に、多色系コントロールへの対抗馬として最強アーキタイプの一角に名を連ねている。
また渡辺や山本が組み上げたような中盤のテンポ獲得に長けた青赤ビートは、《ナーガの意志》や《蓮道のジン》《エイヴンの偵察員》といった一部の強力な青いカードが『タルキール覇王譚』での青が弱い都合上比較的流されやすいため、アブザン優位な環境の隙をつくのに最も適したアーキタイプと言える。
つまり環境の強力なアーキタイプは、白黒/青赤といった中速殺しのシステム/テンポビートダウンと、多色コンという中速殺しのコントロールに二極化している傾向にあるのだ。
……とはいえ、これはまだメタゲームの始まりに過ぎない。
プロツアー『運命再編』まであと2週間。それまでにはマジックオンラインで『運命再編』が解禁され、目まぐるしい速度でプレイヤーの環境理解が進んでいくことだろう。そうなったとき、『運命再編』入りのドラフトはまた新しい姿を見せるに違いない。
ドラフトというゲームはどこまでも奥が深く、先はまだまだ見えない。
このカバレージが読者の皆さんにとってヴィジョンを養う助けになったことを祈りつつ、今回は筆をおかせていただく。
それでは3月末の『タルキール龍紀伝』でまた会おう。