マジックの華は、デッキリストだ。
そのデッキに込められた意思を汲み取ろうとするとき、75枚の物言わぬ文字列はしかし、何よりも雄弁に製作者の心情を物語ってくれる。
だから、デッキリストを見るということは。
そのデッキを作った人物について、より深く知ろうとする行いに等しいのだ。
この連載は【happymtgのデッキ検索】から毎週面白そうなデッキを見つけて、各フォーマットごとに紹介していく、というものだ。
もし気に入ったデッキがあれば自分で作って試してみてもいいし、Magic Online用のtxtフォーマットでダウンロードすることも可能だ。
それでは、それぞれのフォーマットで気になったデッキをご紹介しよう。
■ スタンダード: 魂込めビートダウン
8 《島》 2 《森》 4 《ヤヴィマヤの沿岸》 4 《神秘の神殿》 2 《茨森の滝》 4 《ダークスティールの城塞》 -土地(24)- 4 《霜歩き》 4 《氷羽のエイヴン》 3 《海の神、タッサ》 4 《波使い》 -クリーチャー(15)- |
4 《頑固な否認》 3 《凶暴な殴打》 4 《アーティファクトの魂込め》 4 《雲変化》 2 《タッサの二叉槍》 4 《幽霊火の刃》 -呪文(21)- |
3 《巫師の天啓》 3 《僧院の包囲》 2 《囁きの森の精霊》 2 《軽蔑的な一撃》 2 《ギルドパクトの体現者、ジェイス》 1 《再利用の賢者》 1 《霊気渦竜巻》 1 《宝船の巡航》 -サイドボード(15)- |
『ラヴニカへの回帰』~『テーロス』時期の【青単信心】は本当に強力なデッキで、登場してからは『ラヴニカへの回帰』がローテーション落ちするまでほとんどずっとメタゲームに居座り続けていたほどだった。
だがローテーション落ち以降は、『タルキール覇王譚』に「信心」を稼げるまともな青のパーマネントがなかったため、《海の神、タッサ》と《波使い》が環境に残っていたにも関わらず、全く活躍を聞かなくなってしまっていた。
となれば、在りし日の最強デッキの姿を追い求めたくなるのもまた人情というものだろう。
それを可能にしたのは『運命再編』だった。《雲変化》はそれ自体ダブルシンボルかつ回避能力持ちの「予示」を呼び出すという、かつての《夜帷の死霊》を彷彿とさせる能力を持っており、久しぶりに登場した「信心」を稼げる有用なパーマネントである。
また、緑をタッチすることで《氷羽のエイヴン》と《凶暴な殴打》へのアプローチを試みているのが面白い。【青単信心】の肝といえばやはり回避能力を持った軽量クリーチャーだが、《氷羽のエイヴン》はその条件を満たすだけでなく、「変異」でプレイすることで《幽霊火の刃》を持たせ、容易に「獰猛」を達成することができるのだ。
《アーティファクトの魂込め》と【青単信心】という、誰もが一度は考えて諦める羽目になる一見相性が悪いコンセプトをきちんとデッキの形にまとめあげ、結果を残した構築力には感服というほかない。
【「魂込めビートダウン」でデッキを検索】
■ モダン: クイックントースト
3 《島》 2 《沼》 1 《山》 2 《湿った墓》 2 《蒸気孔》 1 《神聖なる泉》 1 《血の墓所》 4 《沸騰する小湖》 2 《汚染された三角州》 2 《沈んだ廃墟》 1 《滝の断崖》 1 《硫黄の滝》 4 《忍び寄るタール坑》 -土地(26)- 3 《瞬唱の魔道士》 1 《ヴェンディリオン三人衆》 1 《ザルファーの魔道士、テフェリー》 -クリーチャー(5)- |
4 《稲妻》 2 《呪文嵌め》 3 《マナ漏出》 2 《終止》 1 《イゼットの魔除け》 1 《遠隔+不在》 3 《電解》 1 《スフィンクスの啓示》 4 《謎めいた命令》 2 《神秘の指導》 1 《残忍な切断》 1 《弱者の消耗》 2 《残酷な根本原理》 1 《殴打頭蓋》 1 《月の賢者タミヨウ》 -呪文(29)- |
3 《機を見た援軍》 2 《神々の憤怒》 2 《滅び》 2 《大祖始の遺産》 1 《呪文滑り》 1 《ヴェンディリオン三人衆》 1 《否認》 1 《焼却》 1 《対抗変転》 1 《殴打頭蓋》 -サイドボード(15)- |
クイックントーストといえば【プロツアー京都09】で優勝したこともある由緒正しいコントロールデッキだが、時代の移り変わりとともに《残酷な根本原理》のフィニッシャーとしての性能は相対的に物足りなくなっていき、エクステンデッドがなくなってモダンがフォーマットとして正式に採用された頃には、既にこのカードを使う者はほとんどいなくなっていた。
しかしそれでも、【津村 健志】をはじめとして《残酷な根本原理》というカードにはファンが多かった。彼らはモダンという魑魅魍魎が跋扈する環境で《残酷な根本原理》をフィニッシャーにしたコントロールを諦めることなく組み続け、ついにはたまにその執念が実って大会の上位に顔を出すくらいのことができる程度にまでデッキを磨き上げた。
それを可能にしたのは皮肉にも《残酷な根本原理》を家の押入れに追いやった近年のパワーカードたち、とりわけ《瞬唱の魔道士》だった。単体除去を連打して序盤~中盤をしのぐこのデッキに必要なのは、《残酷な根本原理》につなげるための軽いアドバンテージ獲得手段であり、その役割にはこのカードがうってつけだったのだ。
また、地味に白をタッチしているのがポイントで、メインの《スフィンクスの啓示》はともかくとしても、サイドから《機を見た援軍》というオプションを取れるのは、バーンが平然とトップメタに居座るモダン環境では明確な強みだろう。
【「クイックントースト」でデッキを検索】
■ レガシー: エンチャントレス
11 《森》 4 《樹木茂る山麓》 4 《吹きさらしの荒野》 1 《ドライアドの東屋》 -土地(20)- 4 《シラナの岩礁渡り》 4 《アルゴスの女魔術師》 4 《ヤヴィマヤの女魔術師》 -クリーチャー(12)- |
4 《緑の太陽の頂点》 4 《怨恨》 4 《踏査》 4 《楽園の拡散》 4 《繁茂》 2 《蜘蛛の陰影》 2 《ミリーの悪知恵》 4 《祖先の仮面》 -呪文(29)- |
3 《外科的摘出》 2 《たい肥》 2 《原基の印章》 2 《窒息》 2 《孤独の都》 1 《ナイレアの信奉者》 1 《地の封印》 1 《ドライアドの歌》 1 《掻き集める梢》 -サイドボード(15)- |
レガシーのエンチャントレスといえば《エレファント・グラス》や《独房監禁》を軸に据えたロックデッキという印象が強いが、このデッキはどちらかといえばモダンの【白緑オーラ】のように、《シラナの岩礁渡り》や《ヤヴィマヤの女魔術師》をひたすら強化するというアプローチをとっている珍しいエンチャントレスとなっている。
何よりも注目すべきは値段の安さだろう。スタンダードのプレイヤーがレガシーを始めようとするとき、デュアランや《Force of Will》といったカードの値段の高さが参入障壁になることが多いが、このデッキはそういったカードとは潔く決別しつつもしっかりと結果を残している。
レガシーという最もデッキパワーが高くなる環境で、勝利を貪欲に追求しつつもオリジナルのコンセプトを貫き通すのは至難の業だ。
それでも己の初志をあくまで貫徹しようとする意思が、このデッキリストからは垣間見えた。
【「エンチャントレス」でデッキを検索】
いかがだっただろうか。
すべてのデッキリストには意思が込められている。
75枚から製作者の意図を読み解くことができれば、自分でデッキを作るときにもきっと役に立つだろう。
読者の皆さんも、是非色々と面白いデッキを探してみて欲しい。
また来週!