By Atsushi Ito
これが、プラチナレベル。
これが、プロプレイヤー。
プロツアーがモダンだった分の経験値があるとはいえ、昨年末も【The Last Sun2014】でトップ8に入り、先月の【GP静岡2015】でもトップ4に入賞と、大きな大会で立て続けに入賞を重ねる市川 ユウキのここ最近の勝率には舌を巻くばかりだ。
しかもデッキは【松本 友樹にシェアされた】ものだという。もちろんその構築思想を共有された上で自ら細部を調整はしたのだろうが、《僧院の導師》という扱いが難しいカードを難なく使いこなし、ついにはデッキ製作者本人をも倒して、この決勝の場に立っている。まさしく破竹の勢いと言っていい。
市川 「いやーもう十分でしょ、頑張ったよ。帰っておいしいご飯食べよ!」
席に着くなり嘯く市川。しかしその鋭い眼光は既にいつもの、【勝負師の顔】のそれなのである。
市川の対戦を間近で見るたびに思うが、その強さの一端は、こういった「集中」と「弛緩」との切り替えの早さ、メリハリのきき具合にあるのではないかと思う。
だが、これは「神シリーズ」だ。
「神シリーズ」には、第1期は【八十岡 翔太が木原 惇希の前に倒れ】、第2期は【中村 肇が砂田 翔吾に焼き尽くされた】という、いわば「プロ殺し」のジンクスがある。
それを連想させるかのように。
決勝の相手、安福はここ2~3年で頭角を現した市川とは対照的な、最古参レベルのプレイヤー。
しかもデッキはこちらもオリジナルの《裂け目の突破》《引き裂かれし永劫、エムラクール》コンボ入り赤緑ランプ。コンボが決まれば、いかに市川といえど抗う手段はない。
互いにデッキリストが非公開の今回、安福が市川を刺す刃たりえるには、あまりに十分な材料が揃っているのだ。
それでも。市川には準々決勝で松本から受け取ったバトンがある。託された思いがある。
デッキ製作者の松本が市川の背後で見守る中で。
安福と市川の、今日最後の戦いが始まった。
Game 1
いきなり市川は選択を突きつけられる。後手のオープニングハンド、《コジレックの審問》《思考囲い》に土地が5枚。だが、市川は迷う素振りを見せずにキープを宣言する。
《コジレックの審問》で公開された手札は、
《銅線の地溝》
《根縛りの岩山》
《火の灯る茂み》
《業火のタイタン》
《召喚の罠》
《内にいる獣》
というもの。ここから《内にいる獣》を落とすが、6マナの脅威が2枚も残っている。
それでも、市川は3ターン目に2枚目の《思考囲い》を引き込むと、《猿人の指導霊》と《原始のタイタン》が増えた安福の手札から《原始のタイタン》を奪い去る。
そして、ターンを終えた。そう、《思考囲い》を「1枚だけ」撃って終えたのだ。その意図は、すぐ次のターンに明らかになる。
安福が《草茂る胸壁》を引き込んで6マナ到達にリーチをかけた返しのターン。市川のドローは……デッキのメインエンジン、《僧院の導師》!!まるで市川には未来が見えているかのような最高のドロー。あるいは市川の正確無比なプレイングにデッキが歓喜し応えているのか。いずれにせよ市川は《僧院の導師》をプレイしてから《思考囲い》を叩き込み、トークン1体を生み出すことに成功する。
市川 ユウキ |
しかし。
市川、ここで痛恨のミスを犯してしまう。
《召喚の罠》と《業火のタイタン》との2択で、後者を選んだのだ。
もし《業火のタイタン》を残していれば、市川は《殺戮の契約》を引き込んでいたので、ダメージ割り振りに対応して「果敢」を誘発させつつ《業火のタイタン》を除去し、被害をゼロにできるプランすら見えていた。
だが、市川は《召喚の罠》を残した。それはすなわち、《引き裂かれし永劫、エムラクール》が降臨するチャンスを許してしまうことを意味する。
無論、聡明な市川がそのリスクを許容したはずもない。ただ市川は、知らなかった。安福がどうやってここまで勝ちあがってきたのかを。【準々決勝でどのように佐藤のバーンを屠った】のかを。
この瞬間、ゲームの趨勢は神の領域、安福のライブラリートップに委ねられた。
《引き裂かれし永劫、エムラクール》がめくれたなら、その時点で安福の勝ち。それ以外なら何がめくれても市川が依然有利。
緊張の一瞬。
安福が6マナをタップし、7枚を手に取る。
はたしてそこには、
安福 「残念、ハズレ」
それが分岐点だった。
《未練ある魂》を表裏で撃ち、一気にクロックを拡大した市川は、慎重に安福のライフを詰めた後で、《流刑への道》《殺戮の契約》で《草茂る胸壁》2体を薙ぎ払いつつ「果敢」を多重誘発させ、安福に致死量のダメージを与えたのだった。
安福 0-1 市川
Game 2
先ほど《召喚の罠》であわやというところだった市川だが、2ターン目の《草茂る胸壁》を即座に《呪文嵌め》する。
市川 「大変なことが起きそうな気もするけど……手札的にやらないわけにもいかないんだよね」
そして安福の手札に《召喚の罠》は……ない。
安福 「……持ってないんだよねー。勇気あるよ、さすが」
幸運にも危機を乗り越えた市川、勢いづいて《未練ある魂》でトークンを並べる。さらに安福が《根の壁》《草茂る胸壁》と並べ、6マナ到達を匂わせたところで《思考囲い》を突き刺す。対応しての《内にいる獣》が《否認》された上で明らかになった安福の手札は、
《猿人の指導霊》
《神々の憤怒》
という寂しいもの。将来を見越して《神々の憤怒》を落とすと、安福はトップに頼るしかない。
《業火のタイタン》が《殺戮の契約》され、《怒り狂う山峡》は《残忍な切断》で処理される。おまけに《原始のタイタン》には《瞬間凍結》。全ての回答を持っている市川。
もはや安福に残された術は、素出しの《猿人の指導霊》を《怒りの穴蔵、スカルグ》で強化して殴ることくらいだ。
そして、ついに市川のフィニッシャーである《僧院の導師》が着地してしまう。
ターンを渡せば「果敢」による強烈な一撃が待ち受けているのは確実。
安福、力のこもったドロー!
《原始のタイタン》!
安福 昭浩 |
だが、それすらも市川の計算のうちだった。
《猿人の指導霊》に殴られ続けながらもここまで引きつけた、たった1枚のカード。
《瞬唱の魔道士》が、《瞬間凍結》を再利用しつつ《僧院の導師》でトークンを生み出すビッグムーブ!!
そして、それが安福の最後の抵抗となった。
2枚の《忍び寄るタール坑》を含めた全力のアタックが、瞬く間に安福のライフを刈り取った。
安福 0-2 市川
対戦が終わると、市川のあのギラついた、真剣で張りつめた表情がふわっと綻んだ。
そういえば市川はここ1年ほどの間、様々なイベントで驚異的な勢いでトップ8や入賞を重ねたものの、「優勝」のトロフィーを掲げている姿は見ていなかったように思う。
市川 「トーナメントを優勝したのは、去年3月にPTQ抜けて以来かな……だからやっぱり、素直に嬉しいですよ」
そして市川の優勝のもう1人の立役者、《僧院の導師》でモダン環境に革命を起こした松本にも賛辞を贈りたい。
松本 「これまで自分のデッキを他の人にシェアするという経験があまりなかったので、何というかすごくありがたいですね。負けたら自分のせいかもと思うと見ていてドキドキでしたが、プラチナプロはやっぱりさすがの強さでした」
市川のこの勢いは、一体何処まで続くのだろうか。
もしかすると我々は、あの渡辺 雄也以来の、新たな伝説の誕生を目の当たりにしているのかもしれない。
だが、物語は終わっていない。
そう、市川はまだモダン神への挑戦権を獲得したに過ぎないのだ。
市川は第3期の「神決定戦」で、第2期モダン神の砂田 翔吾(神奈川)と激突する。
そこでまた、新たなドラマが生まれるに違いない。
第3期モダン神挑戦者決定戦、優勝は市川 ユウキ(Magic Online)!おめでとう!!