By Atsushi Ito
もう4年前になるか。
【PWCC2011】、その決勝で斉田と和田(寛也)との決勝戦のカバレージを私が書いたのは。
そのときは正直斉田のことはよく知らなかったけれど、どんな盤面でも冷静に相手の手札と先の展開を読んだプレイをする姿から、「きっとすごいプレイヤーになる」と思ったものだ。
そして4年が経った今、その予想は間違っていなかったと改めて思う。4年分の経験を経て研ぎ澄まされた斉田の感性は、再び彼をPWCCの決勝テーブルに連れてきたのだから。
4年ぶりのPWCC決勝ということだけでも、斉田の心の内にはきっと言葉にできない様々な思いが去来していることだろう。
しかもそれだけではなく、決勝の対戦相手は中道。最大の親友にして、【誰よりも尊敬するプレイヤー】なのだ。
【昨年のミスターPWC】でもある中道だが、彼が出場したトーナメントで好成績を残さなかった姿をほとんど見たことがない気がする。
それもそのはず、このhappymtgに載っているカバレージに限っても、昨年の【PWCC2014】、【第1期モダン神決定戦】、【第1期レガシー神決定戦】、そして【第3期モダン神挑戦者決定戦】と、この1年間に中道は大型イベントで少なくとも4度のトップ8進出を(フォーマットを問わず!)達成しており、関東のマジックプレイヤーで彼の名を知らない者はモグリと言っていいほどだろう。
だがそれだけに、中道も悔しい思いを抱えてきたはずである。中道にとってはトップ4止まりに終わることも等しく「負けた」経験に過ぎないのであり、上述の成績は全て「トップ8に入れた」のではなく「優勝できなかった」と評されるべきものだからだ。
そんな中道が、自身最も足繁く通っている草の根大会であろうPWCの総決算イベントPWCCで、決勝戦まで勝ち上がった。
心が奮わぬはずがない。
まして対戦相手は斉田。最強の好敵手(ライバル)にして、【日々ともに切磋琢磨し合うチームメイト】なのだ。
斉田と中道。ともにPWCに精力的に参加し、2人の仲もその中で育まれた部分が大きいことだろう。
PWCという大会は様々な形で人と人とを結び付けてきた。PWCで出会った友人、PWCでよく戦う知り合い、PWCにいつもいる人。PWCが形成した関係性が、関東マジック界のネットワークとして機能しているのだ。
今やPWCという大会は、大から小まで幾多のコミュニティを内包するに至っている。
その代表例が斉田と中道、「なげるやふぁいあぼーる」の2人なのだ。
そんな2人の戦いはだから。
このPWCCの決勝戦に、きっと何よりもふさわしい。
決勝戦はデッキリストが公開ということで、互いのデッキを交換する斉田と中道。その間も仲の良さそうな軽口が飛び交っていた。
斉田 「うわ、やりたくねー(笑) これBen Starkの完コピ?……ではないね、《静翼のグリフ》とか入ってなかったよね?w」
中道 「メタ通りの相手と対戦できて嬉しいよw おや、サイドに《悲哀まみれ》がないようですが?w」
斉田 「昨日自分で赤白使って1-3したから勝たないと思ったんだよ!そのデッキ使ってどうやって勝つのか教えて欲しいよw」
中道 「言うて(3Byeがあるので)5勝しかしてないからね」
斉田 「いやーこれは……フリーでやってても思ったけど、相性2-8でしょー……」
中道 「環境最強デッキ使ってて2-8はないでしょw」
斉田 「いやどう見ても2-8www《乱撃斬》でキープしてもらって《羊毛鬣のライオン》いっぱい出すくらいしか勝ち手段がないんですがwww」
2人とも、本当に楽しそうで。
この決勝戦で互いと対戦できることが、何よりも嬉しそうで。
そんな姿を見ているだけでも、PWCというのがマジックというゲームにおいていかにすごい場なのか、いかに優れた大会なのかについて、思いを巡らせずにはいられないのだが。
やがて2人とも示し合せたかのように口数が少なくなり、互いのデッキをシャッフルし終わるころには。
たった1人、ただ独りの、互いに敬意を払うプレイヤー同士として、向かい合っていた。
そして、そのときが来た。
斉田と中道という、これ以上ない巡り合わせ。
PWCC2015の決勝戦が、幕を開けた。
なお、閉場時間の関係で、決勝戦のみゲームスペース柏木に場所を移して行われた。
快く場所を提供してくださったゲームスペース柏木の皆様には、心より感謝を。
Game 1
先手はスイスラウンド1位の中道。「占術1」でトップをそのまま維持すると、斉田が「7枚キープで『占術』トップとか、もうやる気がなくなるw」と文句が漏れるが、はたしてそのまま《道の探求者》スタートから斉田の《羊毛鬣のライオン》を《稲妻の一撃》で処理しつつ3点アタックという好調なスタートを切る。
斉田も事前に「最も勝ちやすい展開」として挙げていた《羊毛鬣のライオン》の2体目を展開するのだが、中道はちょうどよく引き込んだ《稲妻の一撃》の2枚目でこれを処理。《道の探求者》の2体目は《胆汁病》を警戒してプレイしない。
斉田 逸寛 |
そしてここで、斉田の土地が詰まってしまう。
中道も《英雄の破滅/Hero’;s Downfall》される前提で《道の探求者》をレッドゾーンに送るがこれすらも通り、中道が警戒してそのままターンを終えると斉田はエンド前に《アブザンの魔除け》をドローでプレイ。ダメージランドから追加1点入り、斉田のライフは既に残り7点。
それでも、斉田はようやく4枚目の土地に辿りついた。ということはアブザンの代名詞、あの最強の4マナ域をプレイできるということ。
すなわち、《包囲サイ》。3点をゲインし、これからようやく斉田の反撃の時間……が、始まらなかった。
中道 「プレイするのに1点食らって、ライフ6点?」
スタックで《乱撃斬》《かき立てる炎》、6点!!
中道 1-0 斉田
Game 2
斉田の《荒野の後継者》に対し中道が《道の探求者》を送り出すと、斉田は《ラクシャーサの死与え》をプレイし、防御網を固める。《道の探求者》のアタックは《荒野の後継者》で受け止めるが、《稲妻の一撃》が《ラクシャーサの死与え》に飛び、盤面は一旦更地に。
そして斉田が今度こそ《包囲サイ》を着地させることに成功する。
しかし中道も《軍族童の突発》から、1ターンをおいて《魂火の大導師》をプレイ。これにはスタックでトークンに《胆汁病》が飛ぶが、対応して中道も《かき立てる炎》と《乱撃斬》で《包囲サイ》を処理し、不利なダメージレースを解消しつつ《風番いのロック》の「強襲」を封じにかかる。
その《魂火の大導師》も少し殴ったところで除去されてしまい、互いにドローゴーが続く。
やがて中道がようやく追加のクロックとなる《道の探求者》を引き込んだところで、斉田も《風番いのロック》を「強襲」なしでプレイするのだが、これは《岩への繋ぎ止め》で《山》に封じ込められてしまう。中道、徹底して斉田の「強襲」を許さない姿勢だ。
さらに《軍族童の突発》をプレイして《道の探求者》で攻撃したところで、斉田が勝負に出る。
《自然に帰れ》。《岩への繋ぎ止め》を破壊し、インスタントタイミングで《風番いのロック》をブロッカーに立てたのだ。もし中道の手札に何もなければ、かなり勝機が見えるというところ。
中道 大輔 |
だが。ここまで数ターンのドローゴーを繰り返した中道の手札に、何もないはずがなかった。
すぐさま《かき立てる炎》が《風番いのロック》に飛ぶ。「果敢」で4/4に成長した《道の探求者》には《英雄の破滅》を合わせるが、斉田の目論見は崩されてしまう。
続く中道の《嵐の息吹のドラゴン》も《英雄の破滅》で処理したものの、3体のゴブリントークンが止まらない。
ライフ9まで押し込まれたところで斉田、やむなく《風番いのロック》を「強襲」なしでキャストする。
だが、エンド前に《かき立てる炎》が本体に飛ぶ。残り5点。
そのまま中道は《風番いのロック》を《岩への繋ぎ止め》すると、トークン3体でアタック。斉田も虎の子の《残忍な切断》を切るが、残り3点。中道の手札は。
《稲妻の一撃》!!
中道 2-0 斉田
「おめでとう、みっちー。やっぱ【尊敬してるプレイヤーは中道 大輔】はフラグだったなー」
相性差から予想はしていたとはいえ悔しい。そんな思いを滲ませながらも斉田は、親友の勝利を称えた。
来期のPWCで当たったら次は絶対倒してやる、と心の中で誓いながら。
「ありがとう、ナゲ。良い勝負だったよ」
勝利の余韻に浸りながらも、敗者を貶めたくない。そんな思いから中道は、親友の健闘を称えた。
100年早いよ、と心の中で応えながら。
そう、PWCは2015年度も続いていく。
そこで斉田と中道は再び相見えることだろう。彼らのゲームもまた、終わることはない。
友ができる場所がある。強敵(とも)ができる場所がある。
Planes Walker’s Cup。あなたがマジックを楽しめるプレインズウォーカーであるならば。
是非一度、足を運んでみて欲しい。
PWC Championship 2015、優勝は中道 大輔(東京)!!