プロツアー『タルキール龍紀伝』直前!観戦ガイド・初日編

高橋 純也



 ついにタルキール覇王譚ブロックの最終エキスパンションとなる『タルキール龍紀伝』が発売された。

 『タルキール覇王譚』とは異なるパラレルな時間軸にある『タルキール龍紀伝』の世界は、「楔の氏族」ではなく、「龍王の氏族」による争いが絶えない。そこには馴染み深い「楔の氏族」のカンたちの姿もある。アナフェンザやズルゴらが立場や境遇を変え、それでも根っこにある彼ららしさは変わらずに登場したことを喜んだ人も少なくないだろう。

 同じ世界だけど、まるで違う。そんな真新しくも懐かしいタルキール次元を巡る戦いは、僕達の世界でも繰り広げられる。
 

 なんと今週末の4月10日~12日にベルギーのブリュッセルで【プロツアー『タルキール龍紀伝』】が開催されるのだ。


※ プロツアーとは?

 プロツアー(PT)とは、1年に4回、新エキスパンションが発売されてまもなくに行われる完全招待制のイベント。世界中の強豪が一堂に集い、総額2500万円にものぼる賞金と世界最強という名誉をかけて、技術と知識の粋を尽くして3日間にわたり競うトーナメントである。



 以下のリンクは、公式ページによるプロツアー『タルキール龍紀伝』の紹介と、ニコニコ生放送で行われるライブ・ビデオカバレージの予定表だ。ヨーロッパで行われるため7時間ほどの時差がある日本からのライブ視聴は、夕方過ぎから深夜にまたがる時間帯になる。連日の夜更かしで体調を崩さないように気をつけて、世界屈指の実力者たちの熱戦を楽しんでいただきたい。


日程 時間帯  フォーマット 放送ページ
4/10 (金)金曜16時~1stドラフト-3回戦放送ページ
4/10 (金)休憩 (※)
4/10 (金)休憩終了~土曜4時スタンダード-5回戦放送ページ
4/11 ()土曜16時~2ndドラフト-3回戦放送ページ
4/11 ()休憩 (※)
4/11 ()休憩終了~日曜4時スタンダード-5回戦放送ページ
4/12 ()日曜16時~月曜2時トップ8 (スタンダード)放送ページ

※ドラフトラウンド終了後に1時間ほどの休憩時間があります。
※※表記時間はすべて日本時間です。
※※※4/10 14:15 左列の日程を修正しました。






 【プロツアー『タルキール龍紀伝』】は、『タルキール龍紀伝』『運命再編』ドラフトと、スタンダードの2種目で競われる。

 現地時間の4/10(金)と4/11(土)の2日間は予選ラウンドで、それぞれ『タルキール龍紀伝』『運命再編』ドラフト3回戦とスタンダード5回戦が行われる。1日目の成績が4勝4敗以上のプレイヤーが2日目に進出し、2日目では予選全ラウンド計16回戦の成績上位8名が4/12(日)の決勝ラウンドに進出する。

 決勝ラウンドとなる3日目のフォーマットはスタンダード。予選ラウンドの上位8名によるシングルエリミネーション3回戦(勝ち抜きトーナメント)で栄えある優勝者が決まる。



 ここまでを簡単にまとめるならば、ドラフトとスタンダードで世界一を決める大会が3日間開催されるという話である。参加者は世界でも選りすぐりの名手ばかり、総賞金額は2500万円を超え、使用するのは発売直後の未知なるエキスパンションともなれば見なきゃ損ってものだ。

 この記事では、僕が選んだ”プロツアー『タルキール龍紀伝』の見どころ”をいくつか紹介したいと思う。大会1日目、2日目、3日目と日程ごとにわけて紹介するので、放送スケジュールと見合わせて観戦する際のガイドとして使ってほしい。




 それでは、まずは初日の見どころから紹介しよう!




■ 初日の見どころ その1:
【観戦】今大会注目のプレイヤーは誰だ?! フィーチャーマッチを見逃すな!


 フィーチャーマッチとは、ライトアップされたフィーチャーエリアで行われる「注目のマッチ」のことだ。ここでの対戦は生放送で解説され、公式ページではテキストの観戦記を書かれることになる。

 そして初日のフィーチャーマッチに選ばれる対戦は、有名な強豪同士、特別招待選手、今大会で活躍しそうな注目のプレイヤーであることが多い。もちろん彼らがどんな誰なのかは生放送やテキストで丁寧に解説されるので、選手の名前や経歴は知らなくても楽しめる。

 おそらく、3大会連続のプロツアーTop8入りが期待されているアジアの星であるLee Shi Tian、特別招待選手であり昨年10月に将棋の「竜王」のタイトルを獲得した糸谷 哲郎【プロツアー『運命再編』】優勝者のAntonio Del Moran Leonは登場するのではないだろうか。




 また、スタンダードのラウンドでは、各地域や調整グループが持ち込んだデッキの中身をいち早く見ることができる。世界中から名デッキビルダーだと賞賛されるPatric Chapin八十岡 翔太三原 槙仁のアイデアには是非とも注目したい。




 ここでお気に入りの選手が見つかれば観戦の楽しみはきっと増える。優勝候補のお披露目の場でもある初日のフィーチャーマッチは是非ご覧あれ。



■ 初日の見どころ その2:
【ドラフト】 最良の戦略はなに?環境把握が問われる1日目のドラフト!


 1日目のドラフトポットはランダムに組まれ、様々な調整グループや地域で練られた未知数の戦略がぶつかることになる。ある地域は「赤系」が最強の戦略だと考えられていても、また違うグループでは「赤系」が最弱だという前提で練習してきたかもしれない。それぞれが用意してきたロジックの成否、つまりは環境把握の精度を問われるのが1日目のドラフトなのだ。

 そして見どころは、端的に「どの色と戦略が強いのか」である。

 『タルキール龍紀伝』では友好2色による「龍王の氏族」、『運命再編』では敵対3色による「楔の氏族」と、推奨される色の組み合わせとシナジーがそれぞれ違う。もちろん優先度という観点では、3パック中の2パックが『タルキール龍紀伝』ということからおそらく友好2色の組み合わせが有力になるはずだ。

 これは先日掲載された【金 民守の環境分析記事】でも、環境の特徴のまとめとして挙げられていた。

・基本は友好2色環境(青白は例外)
・ゲームスピードは速い
・生物のサイズがかなり重要
・従来の環境よりもソーサリー除去に死角がある

what we need -DTKドラフトクイックレビュー-


 「反復」、「疾駆」、「圧倒」、「大変異」と、『タルキール龍紀伝』のキーワードはすべて主導権を持っている状況で輝くものばかり。結果として止まらない戦線はゲームの決着を早め、力技で戦線を膠着、逆転するためにはクリーチャーのサイズが重要となるのだ。

 色の強弱についても金の的確な分析のとおり、「疾駆」や火力など攻撃的かつ瞬発力が高い「赤」が最強色であることは間違いない。しかし、金が次善の候補としてあげている「緑」はやや議論を生むかもしれない。

 というのも、『タルキール龍紀伝』発売週末に行われた菊名合宿と呼ばれるプロプレイヤーたちの練習会では、緑主体のデッキの3-0率は5色のなかで最も低いという結果が出ているからだ。ここでは「緑」の代わりに「白」や「青」が注目を集めていた。




菊名合宿 -総合成績-まとめ-


 この記事には、合宿を見守った伊藤 敦による分析と感想が載っている。どれも説得力のあるコメントばかりだが、特に印象的だったのは好成績を収めた行弘 賢の勝因についてだ。

“この合宿において、行弘はかなり早い段階から「反復」の有用性に着目していた。”

 並み居る強豪のなかで66%もの勝率を叩き出した行弘が重視した戦略は、「赤」のピックと、「反復」を重視したことだという。最強色である「赤」のピックについては当然とも言えるが、「反復」を意識した構築や選択は面白い。

 たしかに伊藤が言うように“攻め合いの中で「反復」がもたらすテンポは驚異的”である。「疾駆」が「マナを損することで一時的なテンポを得る」ならば、「反復」は「マナを得することで一時的なテンポを得る」仕組みだとも言えるからだ。「反復」の効果によって呪文が唱えられたターンは、自由なマナ+呪文の効果という贅沢な状況で戦えるため、呪文の効果分の優位を盤上のテンポやダメージに変換することができる。

 そのため、強力な「疾駆」と火力を有する「赤」の次は、攻め合いを制する反復をもつ「白」や「青」が強いのではないか、という指摘だ。

 金と伊藤が口を揃えて言うように、この環境は攻撃的なアプローチが有力だ。その上で最強色はきっと「赤」だろう。では、それはどのような「赤」で、友好色の組み合わせを好むならば相方は「黒」なのか「緑」なのだろうか。そして次善策となる色や戦略は何か。

 この答えは1日目のドラフトラウンドで明かされる。



■ 初日の見どころ その3:
【スタンダード】 混沌としたマウントゲームを制するアイデアはなに?!


渡辺 「今回のプロツアーはアブザン系、ジェスカイ系、赤単、緑赤ミッドレンジ、緑白信心。どのデッキも強くて一度優位にたったらズルズルと有利なままゲームを終局までもっていく力を持っているから」

 Team Mintの契約プロとして活躍している渡辺 雄也は、出発前の練習中にスタンダード環境をこう評した。どのデッキも使用するカードが強く拮抗しているため、どちらかが優位にたつと、同じ手数を交換しているだけでは不利が覆されることはないというのだ。

渡辺 「近年のスタンダード環境はこういう傾向が強いけど、今回は特にそうかもしれない。《雷破の執政》《包囲サイ》《囁きの森の精霊》なんかが象徴的で、対応側が1枚で対処してもなにかしらの損をするから、対応し続けたのにいつの間にか押し切られている、なんてことが多い。」

 かつては《スラーグ牙》、今や《包囲サイ》。対応されても何かしらのリソースの不利を押し付ける「出し得」なクリーチャーは現在も増え続けている。


スラーグ牙雷破の執政包囲サイ


 《雷破の執政》《包囲サイ》が蝕んだライフは、不利な側のプレイヤーに逆転するための時間を与えない。これこそが渡辺が指摘した”終局までもっていく力”の正体だ。

 では、プレイヤーたちは先出し有利な環境で何を考えればいいのだろうか?

 それは以下の3つに違いない。

・相手よりも早く有利にたつ工夫をする(マナ加速、軽いゲームプランなど)
→「緑赤ミッドレンジ」、「赤単系」、「ジェスカイ系」、「アブザンアグロ」

・相手と同じ土俵では戦わない(ボードコントロール、ライフ回復など)
→「青黒系」、「緑白信心」、「アブザンコントロール」

・相手と同じカードを使いつつ逆転できる工夫をする(先手後手を入れ替える、絆魂など)
《ドロモカの命令/Dromoka`s Command》《龍詞の咆哮》《真面目な訪問者、ソリン》


 上から2つはデッキコンセプト、3つ目はカードの取捨選択をするにあたって重視される要素だ。そして今回の【プロツアー『タルキール龍紀伝』】において多くのプレイヤーたちが意識して調整してくるのは1つ目の内容に違いない。

 特に「緑赤ミッドレンジ」については誰もが調整し、倒すべき仮想敵として練習しているだろう。その発端は【TCGPlayer.com】に掲載された【Seth Manfieldの記事】だった。

 そこでは有力なデッキの構造が丁寧に解説され、その強さと理由が明らかにされていたのだ。そして、この記事が掲載された数日後に開催された【SCG Open Syracuse】では、【やや調整が施されただけのほぼ完全コピー】を手にしたChris Van Meterが優勝を飾った。

 プロツアー直前に参加者である強豪のひとりが好成績を残しつつリストを公開し、そのアップデートがプロツアー前週に結果を残す。このニュースは多くの調整グループを刺激したに違いない。少なくとも「緑赤ミッドレンジ」を無視することはできなくなったからだ。

 果たして「緑赤ミッドレンジ」がこのまま邁進するのか。それともその流行を踏まえての対応策を用意するグループが現れるのか。そしてSeth Manfieldが持ち込むデッキは何なのか。

 1日目のスタンダードラウンドでは高度な情報戦の真偽が明かされるだろう。メタゲームの姿さえあやふやなマウントゲームを制するアイデアは登場するのか?今から楽しみで仕方がない。


※編注:記事内の画像は、以下のサイトより引用させて頂きました。
『マジック:ザ・ギャザリング 日本公式ウェブサイト』
http://mtg-jp.com/
『MAGIC: THE GATHERING』
http://magic.wizards.com/en