Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2022/9/2)
はじめに
プレインズウォーカーのみなさん、はじめまして!私はブライアン・ホーンズ/Bryan Hohns。長年リミテッドをやり込んできたプレイヤーで、光栄にも今回晴れる屋のスペシャルゲストライターとして記事を寄せることになりました。普段はDraftsimというサイトで戦略記事を書いたり、DraftsimがリリースしているMTGアリーナアプリ、Arena Tutor向けにリミテッドの点数表を手がけています。
この記事を読めば、自信をもって今週末の『団結のドミナリア』プレリリースに参加できるはずです!
1. メカニズムを理解する
どんな新しいセットであれ、まずは収録されているメカニズムを知らなくては始まりません。『団結のドミナリア』には新しいメカニズムが2つ、再録のメカニズムが2つ、新しいタイプのカウンターが1つ収録されています。
キッカー
「キッカー」は昔ながらのリミテッドメカニズムであり、嬉しいことに『団結のドミナリア』で再録されました。キッカーを持つカードはキッカーコストを払うとボーナスが得られるオプションがついています。
たとえば、《蔦形成師の神童》はキッカーで唱えるとキャントリップ付きになります。カードの評価をするときは「キッカー」カードはモードを持つカードとして認識しましょう。《蔦形成師の神童》なら1の2/2として使うこともできれば、2で《予期》+2/2のクリーチャーとしても使えるわけです。
『団結のドミナリア』で特徴的なのは、どのキッカーコストもその呪文本体のマナコストと違う色を含んでいる点です。その呪文のキッカーを使いたいなら、デッキの色をその2色にするか、要求される色マナを生成する何らかの手段を採用する必要があります。これは次に紹介するメカニズム「版図」と重複する部分であり、色をタッチしたり、マナサポートを重視することが求められます。
『団結のドミナリア』では各色に「キッカー」呪文が9種(コモン4種、アンコモン4種、レア1種)が収録されていて、色ごとに完全に平等に割り振られています。前回キッカーが登場した『ゼンディカーの夜明け』とは異なり、キッカー軸のアーキタイプはありません。
版図
「版図」は再録メカニズムのひとつであり、スタンダードでは『コンフラックス』以来の再登場です。版図を持つカードは自分がコントロールしている基本土地タイプの種類を参照し、通常は「Xダメージ与える」「Xマナ軽くなる」など特典が増減する形で恩恵を得られるようになっています。版図はできる限り色を増やした欲張りデッキを推奨するメカニズムです。
『団結のドミナリア』が単色戦略を推奨していないセットだと踏まえると、「版図」カードは2~5色分の恩恵があるカードだと捉えておくべきでしょう。たとえば、《ヤヴィマヤの滞留者》は2色デッキなら6マナですが、5色デッキならたったの3マナです。
「版図」のボーナスが重要かどうかはカードによって大きく異なります。2色デッキでも《日光浴するルートワラ》や《ガリ骨のボータック》は悪くないカードですが、《属地のマロー》や《ジョダーの写本》はそうではないでしょう。
『団結のドミナリア』では「版図」がすべての色に存在していますが、緑がメインです。版図を最大限活かす代表的な組み合わせは青緑ですが、青緑「版図」はほかの色をタッチできる強みもあります。『団結のドミナリア』リミテッドを遊ぶときは、版図にどれだけ寄せるのかと常に自分に問いかけることになるでしょう。
後援
「後援」は攻撃的な新メカニズムであり、ベテランプレイヤーでも一度や二度はうっかり間違えてしまいそうなメカニズムですね。「後援」を持つクリーチャーが攻撃するとき、アンタップ状態で攻撃も召喚酔いもしていないクリーチャーをタップすることができます。そうすると、タップしたクリーチャーのパワーが攻撃クリーチャーのパワーにプラスされるのです。
ただ、「後援」は必ずしも使い勝手が良いとはいえません。クリーチャーのパワーをアタッカーにプラスしたいとしても、そのクリーチャー自身が召喚酔いをしていない状況だとすれば、そもそもなぜそのクリーチャーも攻撃に参加させないのでしょうか?
その疑問に答えられる状況はいくつかあります。
・限定的な盤面状況(2/2の《ヤヴィマヤの鋼潰し》と3/2の《カリスマ溢れる先兵》はどちらも2/5の《樹皮織りの破壊者》がいる状況で攻撃できないが、「後援」で《ヤヴィマヤの鋼潰し》を5/2にすれば攻撃できる)。
・回避能力を持つ「後援」クリーチャーがいる。
・パワーを上げる動機がある(《バルデュヴィアの狂戦士》《溶鉄の大怪物 》《アルガイヴの徴募人、ベイルド》《ケルドの炎賢者》)。あるいは「後援」そのものに動機がある(《新ベナリアの守護者》)。
基本的に「後援」は状況を選ぶ能力なので、後援がなくてもプレイアブルなクリーチャーにちょっとしたおまけが付いたと考えるべきでしょう。後援は白・赤・緑の3色に存在し、コモンに2種、アンコモンに1種収録されています。
先読
『ドミナリア』で導入されたメカニズム、英雄譚に新たに加わった能力が「先読」です。『団結のドミナリア』の英雄譚はどれも「先読」を持っており、好きな章から英雄譚を始めることができます。
最大限のアドバンテージを得たいのか、即座に大きなインパクトを出したいのか、あるいはそれらの中間を選びたいのか、好きなものを選べるようになり、英雄譚がモードを持つカードのようになりました。
セット内に英雄譚は10種あり、各色に2つずつ、いずれもアンコモン以上の収録です。
麻痺カウンター
アンタップステップにアンタップしないことを表すものとして新たに「麻痺カウンター」が登場しました。麻痺カウンターを持つクリーチャーがアンタップする場合、アンタップする代わりに麻痺カウンターが1つ取り除かれます。
「麻痺カウンター」を置くカードは『団結のドミナリア』には3種しかなく、どれも青関連です。麻痺カウンターはダメージレース、時間稼ぎ、あるいはタップ状態のクリーチャーを除去する《弩弓破》や《ルーン撃ち》のサポートとして使えます。
2. サイクルを知る
サイクルを知っておくと、新しいリミテッド環境の感触をつかみやすくなります。サイクルはセットの大部分を占めることが多く、ドラフトのピック、デッキ構築、プレイングなどの共通パターンを理解できるようになるのです。
コモンサイクル
マナ軽減サイクル
テーマに従ってデッキを構築することでマナコストが軽減される呪文がコモンに5種存在します。白はクリーチャーの横展開、青はインスタント・ソーサリー、黒は切削、緑は「版図」です。《溶鉄の大怪物 》は大きなテーマに沿っていませんが、「後援」と合わせて使うと良いでしょう。
2色土地サイクル
『団結のドミナリア』には基本土地タイプを持つタップイン2色土地がコモンに10種あり、「版図」には嬉しい収録となっています。「版図」のために色の合っていない2色土地を採用するのも手です。
「キッカー」サイクル
どの2色の組合せにも「キッカー」を持つコモンが2種ずつあります。《沼アナグマ》や《ファイレクシア流諜報術》などは「キッカー」せずともプレイアブルなカードです。
アンコモンサイクル
「キッカー」サイクル
アンコモンにも各2色の組合せに「キッカー」カードが2種ずつ収録されます。《芽吹くゴブリン》や《ファイレクシアの宣教師》はこのサイクル内でトップクラスのカードですね。
伝説サイクル
2色の組合せごとにアンコモンの伝説クリーチャーが2種います。2色の「キッカー」呪文を合わせて見ると、その2色の組合せのテーマが見えてきます。
レアサイクル
楔3色の「キッカー」サイクル
「キッカー」持ちのレアは5種あり、キッカーコスト込みで楔3色になっています。3色なのはあくまでおまけです。《怒りの大天使》と《時の火炎嵐》はどちらもボムレアです!
2色の伝説クリーチャー
各2色の組合せに伝説のクリーチャーが1体ずつ割り当てられています。どれもコストパフォーマンスに優れていますが、《爪のライヴァズ》《古代学者、メリア》《刃を持つ者、アスター》はセット全体で見てもサポートがほとんどありません。
《穢すもの》
各色に存在する《穢すもの》はファイレクシア・マナを付与することでマナコストを軽減し、同色のカードを採用することに価値を生み出します。どれもカードパワーが高いですが、《活力を穢すもの》がサイクル内でも最強です。
部族ロード
特定のクリーチャータイプのロードが各色に収録されています。本セットにゴブリンやマーフォークがほぼ存在しません。
孤3色の神話レア
孤3色には神話レアのクリーチャーがいます。《永遠の策謀家、ズアー》は例外ですが、どれもタッチに値するボムレアです。
3. 2色のアーキタイプを学ぶ
白青 スペル/横展開
白青はテンポ系デッキであり、飛行クリーチャー、トークン、インスタント・ソーサリーをバランス良く取り入れましょう。《ウェザーライトの重鎮、ラフ》とシナジーのある《隊長の号令》はこのアーキタイプで最高の1枚です。
青黒 スペル/コントロール
青黒はコントロール型のアーキタイプで、墓地にインスタント・ソーサリーを溜めることでリターンを生むカードが何枚か存在します。《トレイリアの恐怖》、除去呪文、若干のカードアドバンテージ源の3種は青黒の完成度を高める方程式です。
赤黒 アグロ/サクリファイス
赤黒は若干のサクリファイス要素を含むアグロデッキです。《骨の粉砕》は《奈落のとりこ》や《憎悪の手、ラゴモス》と相性抜群。《戦元の熱狂》や《ケルドの血拳、ガルナ》があれば、ゲーム終盤になっても無茶なアタックをしかけられます。
赤緑 ミッドレンジ/版図
赤緑やアグロ寄りのミッドレンジで、「版図」のボーナスついでに色をタッチできます。《芽吹くゴブリン》こそ優秀なアドバンテージ源ですが、相手の顔を狙うにはうってつけなカードが揃っているのが赤緑です。
白緑 横展開/版図
白緑はトークン戦略がメインですが、そのほかの緑系と同じく「版図」に寄せることもできます。《ルアダッハの女王オーリナル》はテーマに沿ったカードである《隊長の号令》や《アルガイヴの騎兵》をさらに強く使えるようにしてくれます。《英雄的突撃》や《連合の力》を使ってとどめの一撃を刺しましょう!
赤白 アグロ/横展開
赤白もまたクリーチャーを横に展開する戦略を用いますが、白緑と比べるとトークン要素が少なく、速攻が多くなっています。ボロスというカラーリングから察しがつくと思いますが、5色ドラフトをしたプレイヤーを瞬く間に圧倒する”遅いデッキ殺し”のアーキタイプです。《槌手》は超攻撃的なカードでありながら《アルガイヴの徴募人、ベイルド》と《憤怒の乗り手、アヴナントのトーリ》のどちらとも相性抜群であり、赤白で魅力的な1枚になるでしょう。
白黒 サクリファイス/横展開
白黒は2つ目となる生け贄テーマで、1/1のトークンが《骨の粉砕》や一部の優秀なアンコモンとシナジーを発生させます。《ファイレクシアの宣教師》などのアドバンテージ源となるカードがあることから、赤黒よりもミッドレンジのように立ち回れることでしょう。
青赤 スペル/果敢
3つあるスペル系アーキタイプのなかでも、特に攻めっ気が強いのが青赤です。(『団結のドミナリア』に「果敢」こそありませんが)お馴染みの「果敢」デッキのような動きをします。強力なインスタント・ソーサリーや《戦闘魔道士の隊長、バルモア》《ギトゥの増幅士》といったクリーチャーを優先して採用しましょう。
黒緑 墓地/版図
黒緑は唯一の墓地活用テーマです。見返りの大きいカードはあるものの、サポートカードの枚数がやや心もとないですね。黒緑の自主的な墓地肥やしは《不気味な魂の守護者》と《影の予言》しかありません。青をタッチして《アーボーグのルアゴイフ》や《怪物的戦ヒル》を採用するのが良さそうです。
青緑 ランプ/版図
5色版図デッキを組むなら、青緑以上に適したカラーリングはありません。たっぷりの2色土地と若干のタッチをした欲張りデッキでは《エイヴィーゾアの空士、ナエル》と《潮に仕えるもの、タトヨヴァ》は最高のカードですね。《蔦形成師の神童》などのアドバンテージカードを忘れず採用しましょう!
4. サブテーマを知る
アーティファクト
アーティファクトデッキは罠以外のなにものでもありません。見返りとなるカードがわずかしかなく(《ヨーティアの宣戦布告》《老いざる革新者、ジョイラ》《古代学者、メリア》)、強いアーティファクトもほとんどありません。《古代学者、メリア》だけは地味なアーティファクトを採用する理由になりそうですが、それ以外は避けたいところです。
防衛
防衛は小さなテーマであり、見返りとなるカードがアンコモンに3種、チューターがコモンに1枚、そのほかは枠を埋めるようなカードがちらほらとあります。《花咲く蔦壁》は防衛テーマでなくても良いカードであり、4~5色の版図コントロールでサブテーマとして防衛を組み込むことはありえそうですね。
5. 締めのアドバイス
「版図」のバランス
先述したように、「版図」はその強さの代償として速度や安定性という点でバランスがとられています。色を足すことで強く使えますが、裏目に出る可能性があります。
・デッキの土台となる色を狙ったターンに揃えられる確率が下がる。
・タップイン土地の枚数が増える。
・引き次第では序盤に色が出ない。
この問題に対する普遍的に正しい答えはありませんが、以下の事項に照らして色の数を決めると良いでしょう。
・タッチすることで使えるようになるカードの質
・「版図」カードの枚数/質
・カードプールにあるマナサポートの枚数/質
・自分のデッキが攻撃的かどうか
さいごに「版図」をサポートするカードをいくつか並べておきましょう。
《隕石》や《発掘されたマナ労働機》は弱いですが無色で使えるマナサポートであり、必要に応じて入れると良いでしょう。
トップコモン
白
《市民の拘束》:コモンであり、ほぼ《忘却の輪》。
《隊長の号令》:横展開戦略に最高のコモン。
《アルガイヴの騎兵》:スタッツが良く、2体分になる。
青
《タラスの見張り》:優秀なスタッツ。
《飛翔するドレイク》:強化された《風のドレイク》、2/2を止められる。
《本質の散乱》:2マナと軽く、ツーアクションがとりやすい。
黒
《ファイレクシアの憤怒鬼》:簡単に2対1交換できる。
《光の消滅》:手堅い確定除去。
《跳ね散らすゴブリン》:ブロッカーにも適した優秀な2マナ域。
赤
《稲妻の一撃》:除去として使ってもよし、相手の顔を狙ってもよし。
《連合の戦暴者》:「後援」+トランプル+タフネス4。
《流動石のカヴー》:有利なブロックをされづらい。
緑
《マグニゴスの歩哨》:優秀なスタッツに加えて到達がおまけでついている。
《噛み締め》:インスタントタイミングで使えるようになった《狂気の一咬み》。
《花咲く蔦壁》:「版図」、サクリファイス、防衛テーマで使える便利なクリーチャー。
プレリリースのデッキはこう組もう
・パックを開けたら、ボム・2色カード・マナサポートを取り分け、残りのカードは色別に分類する。
・カードプール内で特に強いカードを探すとともに、もっとも層が厚く軸となる色を見分ける。
・健全なマナカーブ、2色ベースにすることを意識しつつ、できるだけ強いカードをタッチできないか検討する。
・(「版図」、クリーチャーの横展開、インスタント・ソーサリーなど)大きなテーマはサポートカードが多い。その内のひとつに寄せよう。
・土地の枚数は17~18枚、色は3~4色が基本。
おわりに
こうして晴れる屋で記事を寄せることができ、光栄に思います。今週末のプレリリースでみなさんが大成功することを願っています!