モダンを制する鍵 ~やり込みかデッキ選択か~

晴れる屋

By Kenji Tsumura


 スタンダードとレガシーの架け橋として、エクステンデッドを受け継ぐフォーマットとして、今では多くのプレイヤーに愛されるフォーマットとして定着したモダン。

 プロツアー予備予選、グランプリ、そしてワールドマジックカップ予選と大型イベントが目白押しで、今現在最も旬なフォーマットだと言える。

 使用可能なセットが多いゆえに、思い出のカードやデッキを再び使用できることはモダンの大きな魅力のひとつだが、個人的にモダンフォーマット最大の醍醐味だと感じているのが、新旧のカードが織り成すシナジーやコンボである。


グリセルブランド引き裂かれし永劫、エムラクール御霊の復讐

精力の護符花盛りの夏シミックの成長室


 時代を超えたカードの組み合わせは、時に我々の想像を遥かに上回るほどの化学反応を巻き起こす。スタンダードで見向きもされなかったカードが、モダン環境では一級品だったという事案も決して珍しいことではないし、数千種類ものカードが存在するこのフォーマットには、まだまだ多くの可能性が残されている。

 だが、しかし。

 これだけ多くのカードが使えるその自由度は、このフォーマットを魅力的なものにしている一方で、環境を複雑化する要因にもなっている。日本が世界に誇るトッププレイヤーたちでさえ、モダン環境には苦戦を強いられているほどだ。


惑いの迷路


 では、そんな広大なモダン環境を攻略する鍵はどこにあるのだろうか。



■ ひとつのデッキを使い続ける

 その答えのひとつが、特定のデッキを使い続けることだと言われている。

 モダンフォーマットは、度々”やり込み環境”と評される。ひとつのデッキを使い続けたその経験が、自らの血となり肉となり、周囲の変化に惑わされることなく、安定した成績に繋がるというわけだ。

 様々なバージョンの「《欠片の双子》コンボ」デッキを使いこなすPatrick Dickmannは、その好例と言える。






■ デッキ選択で差を付ける

 もうひとつの答えが、メタゲームを読んでデッキを変えること、つまりデッキ選択の段階で有利を得る戦略だ。これを遂行するのは非常に難しいが、実際にデッキ選択を効果的に行い、見事に結果を残すプレイヤーがいる。




 言わずと知れた香港のスーパースター、Lee Shi Tian。彼は、過去に3度のモダンプロツアーで決勝ラウンドに進出する快挙を成し遂げているが、その都度デッキを変えている。

 ひとつのデッキを環境に合わせてチューニングするのではなく、環境に合わせたデッキ選択を行うのだ。


 ひとつのデッキを使い続けるのか。それともデッキ選択で差を付けるのか。

 このふたつに優劣を付けることは難しいが、プロたちがどのように感じているのかを実際に聞いてみることにした。



■ 八十岡 翔太の場合




 俺はデッキを変える派だね。というより、モダン環境で同じデッキを使ったことは1回もない。「青黒テゼレット」のイメージが強いかもしれないけど、あれも【去年の神戸だけ】だし、同じデッキを使っても勝てないんだよね。

 《野生のナカティル》が禁止解除されて復活した「Zoo」とか、《宝船の巡航》が禁止になって弱体化した「デルバー」系のデッキを見れば分かると思うけど、モダンは禁止カードとか新セットで環境が大きく変わるから、特定のデッキを使い続けてずっと勝つのは難しいと思うよ。

 それこそ、普遍的に強いデッキって「双子コンボ」くらいじゃない?あとはギリ「親和」もかな。



■ 行弘 賢の場合




 理想はデッキ選択で差を付けることですが、その場合でもデッキを使い込むのは大切だと思います。

 具体的に僕はひとつのデッキを使うと決めたら、最低でも1ヶ月はそのデッキを練習するようにしています。モダンは強いデッキが多い性質上、サイドボードが非常に重要になるので、相性の良し悪しを把握したうえで、サイドボードの枚数やサイドボーディングをしっかり確定させたいですね。

 あとはモダンのデッキを選ぶときに個人的に注意している点として、Magic Onlineの結果をそこまで参考にしないようにしています。最初に作ったデッキで練習を重ねて、そのまま使い続けるプレイヤーは多いでしょうし、現実世界の方がひとつのデッキを使い続ける傾向が強いと思うので。



■ 三原 槙仁の場合




 時間次第かなぁ。もしも練習にたくさん時間が取れるなら、全てのデッキを試して、そのうえでベストなデッキ選択をすべきだと思うけど、なかなかそうもいかないし。だから自分は特定のデッキを使い続けるようにしてる。

 やっぱりモダン環境は経験がなにより大切だと思うよ。経験が浅いデッキを使って、知らないルールで負けたりだとか、サイドボーディングミスして負けたりだとかもったいないし。

 ただし、ひとつのデッキを使い続けて得られる経験値にも限界があると思うから、ひとつのデッキだけじゃなくて、2つか3つのデッキを使えるようにしておいて、環境の変化に合わせてその中からベストなチョイスができるといいかな。


■ 砂田 翔吾の場合




 ひとつのデッキを使い続けることが重要だと思います。自分は新しいデッキが好きで、今回は最近結果を残した【Patrick Chapinのグリクシス・コントロール】を使っているんですけど、慣れていないデッキはどうしてもミスが多くなっちゃうんですよね。

 モダンは一定の水準をクリアしたデッキなら、どのデッキにもチャンスがあると思うんですよ。だからこそ、経験に勝るものはないと思います。

 【第2期神決定戦】や、【第3期神決定戦】は1対1の特殊な大会なので、対戦相手のデッキを予想してデッキを使い分けていましたが、基本的には経験を重視します。特に今日みたいな大型のイベントだとどんなデッキにも当たりうるので、しっかり練習して、どのデッキにも自信を持って対応できるようにしておきたいですね。



■ 松本 友樹の場合




 私は大会毎にデッキを変えています。なんとなく同じデッキを使っても勝てる気がしない、というのがその理由です。

 あと新しいデッキを作るのが好きなので、大会前には現在のメタゲームを踏まえたうえでカードリストを眺めながら、今の環境で強いカードを探すところからデッキ構築を始めます。

 そこで好きなカードを1枚見つけたら、2枚目、3枚目と続けていって、最終的にはそれらを生かせるようなデッキを目指します。【今回使用しているデッキ】もそのような発想からスタートしました。



■ まとめ

 トッププレイヤーたちの回答は、「デッキ選択で差を付ける」派が僅かにリードする結果となった。

 ただし、行弘や砂田の言葉からも読み取れるように、彼らも「経験」を重要視していることに留意してほしい。

 どれだけデッキが環境的に強くとも、それを使いこなす技量がなければ宝の持ち腐れだ。デッキを急に変えるためには、そのデッキを使って勝てるという自信=経験値が必要不可欠となる。

 三原の「ひとつのデッキを使い続けて得られる経験値にも限界がある」という言葉が示すように、ひとつのデッキを極めてから次のデッキへとシフトし、自分の引き出しを増やしていくことが、モダン環境を制するための鍵なのかもしれない。