最近は「家眠杯」なるものがあるらしい。
もし私、平林が出るとしたら、何を持っていくだろうか。
そう考えたとき、5つのデッキに思い至った。
18年のマジック歴の中でも、特に思い入れの深い、大好きなデッキたち。
私の好きな5つの物語を、語らせて欲しい。
私の一番好きなデッキと聞かれたらNWOと答えるし、一番好きなカードと聞かれれば《適者生存》と答える。
実のところトーナメントシーンで使った回数がそれほど多いわけではないのだが、それでも愛着があるのはサバイバルが一番だ。
デッキレシピを書くのが大変で、毎回指が痛かったこともいい思い出だ。
疲れてきて《吸血の教示者》をプレイした後に《適者生存》を起動してしまったこともあるし、はたまたまだ手札にあるままの《適者生存》を起動しようとしたこともある。
何より、こんな失敗談も逐一覚えているぐらい、私はサバイバルを愛している。
今回はそんな、《適者生存》の物語。
1.サバイバルの起源
サバイバルと名の付くデッキの全てに共通すること――― それはマナクリーチャーと《適者生存》だ。
緑に許された特権、クリーチャーによるマナ加速を駆使し、ボードを掌握しようとする。これはいつの時代のサバイバルでも変わらないものだ。
若干趣旨から外れた話になってしまうが、このコンセプトそのものはサバイバルの特権というわけでもない。
例えばリス対立(*1)、トリニティ(*2)などのデッキ。これらのデッキもマナ加速からのボードコントロールを主軸に置いたデッキである。
では、これらのデッキの起源はどこになるのだろうか。
私見ではあるのだが、おそらく5CG(5 Color Mono-Green)(*3)になると思われる。
元々《冬の宝珠》を駆使したアグロデッキだった5CGは、テンペスト発売後に《貿易風ライダー》を手に入れると、ボードコントロールへと変貌した。
この5CGこそが、多色緑コントロールの先駆けでは無いだろうか。
純粋に単色ということなら、他にもLLL(*4)やスチューピッドグリーン(*5)もあるではないか、ということになるのかもしれないが、ここでは割愛することにする。
そして純粋なサバイバルの祖先ということなら、それはNWOに他ならない。
《適者生存》を使ったデッキもNWOという呼ばれ方をすることもあるのだが、元々のNWOは《自然の秩序》をフィーチャーしたデッキだ。
後にシークレットフォース(*6)と呼ばれるこのデッキ、マナ加速からコントロールを志す部分は他の緑コントロール系と類似しているが、他のアーキタイプと違い、《自然の秩序》からの《新緑の魔力》という必殺技を隠し持つ。
初期のサバイバルも《繰り返す悪夢》→《夜のスピリット》という一撃性を持っていたこともあって、似たアーキタイプとして語られることも多かった。
*1 リス対立
《対立》《錯乱した隠遁者》のコンボを内蔵したボードコントロール。ウルザ限定構築~スタンダードで活躍した。
中村聡が愛用していたことでも有名。→戻る
*2 トリニティ
《ティタニアの僧侶》《ラノワールの使者ロフェロス》から《すき込み》を撃ついやらしいデッキ。
当時環境を支配していた《補充》デッキのアンチとして台頭し、アングリーハーミット、ノンハーミットとデッキ名が迷走していた。→戻る
*3 5CG
直訳すると五色緑単、矛盾しているようだが聞こえがいいので気にしてはいけない。→戻る
*4 LLL
リージョンランドロスの略称。
殿堂入りしているRaphael Levyの作で、緑の土地破壊デッキ。→戻る
*5 スチューピッドグリーン
《根の壁》《花の壁》を《暴走するヌー》で使いまわそうとする野心作。
stupid(愚かしい)という名前は誰が付けたのだろうか。→戻る
*6 シークレットフォース
由来は《自然の秩序》から《新緑の魔力》をプレイするところから。
名前がやたらとかっこいい。→戻る
2.適者生存
世に言うサバイバルが初めてトーナメントシーンで台頭してきたのは、今から15年ほど前のこと。
テンペストブロックの3rdセット、「エクソダス」(*7)に《適者生存》が収録されたその時から、瞬く間にスタンダード環境を席巻してしまった。
何しろその時の世界選手権のベスト8に4人。
如何にこのコンセプトが強固なものか分かるだろう。
8 《森》 1 《沼》 2 《地底の大河》 2 《カープルーザンの森》 3 《真鍮の都》 2 《知られざる楽園》 1 《宝石鉱山》 2 《反射池》 1 《ヴォルラスの要塞》 -土地(22)- 4 《極楽鳥》 4 《花の壁》 2 《根の壁》 1 《オークの移住者》 1 《スラルの外科医》 2 《ウークタビー・オランウータン》 2 《スパイクの飼育係》 1 《雲を追う鷲》 1 《大クラゲ》 2 《ネクラタル》 1 《貿易風ライダー》 1 《スパイクの織り手》 1 《新緑の魔力》 1 《夜のスピリット》 -クリーチャー(24)- |
2 《炎の嵐》 2 《ロボトミー》 4 《適者生存》 4 《繰り返す悪夢》 2 《巻物棚》 -呪文(14)- |
4 《沸騰》 3 《エメラルドの魔除け》 2 《紅蓮破》 2 《夜の戦慄》 2 《ファイレクシアの炉》 1 《堅牢な防衛隊》 1 《宝石の広間》 -サイドボード(15)- |
このデッキの目的は至極単純だ。
1.マナクリーチャー&多色地形でマナベースを整備する
2.《適者生存》から調達した各種ユーティリティクリーチャーで相手を妨害
3.《繰り返す悪夢》で《新緑の魔力》か《夜のスピリット》をリアニメイトするか、前述のユーティリティクリーチャーを使い回す
そして、この環境でサバイバルを咎めることは難しかった。
何しろ《名誉回復》や《突然の衰微》といった便利なカードは全く無かった時代であり、エンチャントに対抗する方法としては、《エメラルドの魔除け》や《解呪》のような専用ツールを使うしかない。
そうなれば《適者生存》は必然的に、対応されづらいパーマネントになってしまう。
デッドガイレッド(*8)の《投火師》や《不毛の大地》はたしかに効果的だったが、同様にサバイバルの《花の壁》《根の壁》も強固な存在だった。
どちらのデッキが優位であったか考えるのは難しいところだが、ベスト8に入った人数、そして結果的に優勝はサバイバルだったという事実から考えれば、自ずと窺い知れるのではなかろうか。
また、同じセットに《適者生存》《繰り返す悪夢》があったのだから、当然のようにテンペストブロック限定構築ではナイトメアサバイバルがメタ最上位の立ち位置となった。
有名なエピソードとしては《落とし格子》(*9)がある。
限定構築というあまりプレイされないレギュレーションであったことに加え、現在のようにMO等で情報が出回っている時代では無かったことを示すトピックと言えよう。
*7 エクソダス
実験的なメカニズムが用意されがちな第3エキスパンションは当たり外れが多かった。
《適者生存》に加え《ドルイドの誓い》や《裏切り者の都》があるエクソダスは前者、プロフェシーは後者の典型例。→戻る
*8 デッドガイレッド
Jon Finkel、Chris Pikula、David Priceらチームデッドガイが持ち込んだ赤単アグロ。
《鉄爪のオーク》が入っている辺り時代を感じさせるが、《ボガーダンの鎚》《呪われた巻物》を持つ事により長期戦にも強かった。
RDW(レッドデッキウィン)の先駆けと言えるかもしれない。→戻る
*9 《落とし格子》
世界選手権2日目までで好成績を残していた中村聡が決勝ラウンドに残れなかった最大の原因。
ナイトメアサバイバル同型用のシークレットテクで、テンペストブロックには《ウークタビー・オランウータン》が居ないため知らないとケア出来なかった。→戻る
3.悪夢の去った世界
テンペストブロックの後、悪名高き「ウルザズサーガ」の登場により、MoMa(*10)やメグリムジャー(*11)等のコンボデッキが環境を荒らす、嵐の時代が幕を開けた。
そうなるとサバイバルのような悠長なコンセプトは日陰者になる・・・・かと言えば、全然そんなことにはならなかった。
まず、早々に《トレイリアのアカデミー》《意外な授かり物》が禁止になりMoMaが環境から退場すると、プレイヤーたちは新たなコンボデッキを捜し求めた。
その中にはカニクラフト(*12)のような純粋なコンボデッキもあったのだが、サバイバルにも組み込めるコンボがあったのだ。
《巨大鯨》《繰り返す悪夢》による無限マナ。
のちにエラッタ(*13)が出ることになるこのコンボ、他のコンボデッキほどの速度は無かったものの、サバイバルの特性上コンボパーツがデッキの邪魔になりにくい。
そんなこんなでついにサバイバルからも、《繰り返す悪夢》が他のコンボカードと運命を共にすることになった(*14)。
しかし、その選択が正しかったかどうかは分からない。
サバイバルというデッキ名が示すとおり、あくまでキーカードは《適者生存》だったからだ。
《生ける屍》《グールの誓い》《犠牲》。《繰り返す悪夢》がなくなっても、墓地活用カードなら他にもいくらでもある。
一時的に衰退こそしたものの(*15)、結局それを証明するかのようにサバイバルデッキは再び結果を残していった。
日本選手権99では優勝を逃したが、日本代表に2つのサバイバルデッキが滑り込み、また今は無きAPAC選手権(*16)でも優勝を成し遂げている。
6 《森》 2 《沼》 1 《山》 2 《カープルーザンの森》 1 《低木林地》 1 《硫黄泉》 3 《真鍮の都》 2 《スランの採石場》 2 《反射池》 1 《ヴォルラスの要塞》 1 《ファイレクシアの塔》 -土地(22)- 4 《極楽鳥》 1 《腐肉クワガタ》 4 《花の壁》 2 《スパイクの飼育係》 1 《棺の女王》 1 《骨砕き》 1 《ギトゥの投石戦士》 1 《ウークタビー・オランウータン》 1 《ヤヴィマヤの農夫》 3 《なだれ乗り》 1 《アカデミーの学長》 1 《陶片のフェニックス》 1 《ファイレクシアの疫病王》 1 《スパイクの織り手》 1 《無政府主義者》 -クリーチャー(24)- |
1 《吸血の教示者》 2 《解呪》 2 《犠牲》 3 《生ける屍》 4 《適者生存》 1 《グールの誓い》 1 《崇拝》 -呪文(14)- |
4 《急速な衰微》 2 《解呪》 2 《日中の光》 1 《ウークタビー・オランウータン》 1 《スパイクの織り手》 1 《夜の戦慄》 1 《グールの誓い》 1 《聖なる場》 1 《汚染》 1 《崇拝》 -サイドボード(15)- |
しかし。
最終的には、勝ち残ることが出来なかった。
何故なら、「ウルザズデスティニー」でマナ基盤を整備しきった赤茶単(*17)が台頭してきてしまったからだ。
《燎原の火》。
サバイバルデッキにとって、マナ基盤は生命線そのもの。
したがってマナクリーチャーごと薙ぎ払われるこのソーサリーは、まさしく致命的だった。
特にサバイバルはデッキの性質上、相手の行動を受けてから捌くため、非パーマネント呪文はどうにもならない。
こうしてサバイバルは有終の美を飾ることができないまま、スタンダード環境から退場していくことになった。
*10 MoMa
別名トレイリアンブルー。
《魔力の櫃》を初めとしたマナアーティファクトを展開し、《トレイリアのアカデミー》からのマナ、《意外な授かり物》《時のらせん》で手札を補充、最終的には《精神力》に繋ぎライブラリーを引ききりつつ莫大なマナを生み出すコンボデッキ。
スタンダードでも1ターンキルが可能なマジック史上最悪のコンボデッキの一つ。
段階的ではあったのだが禁止カードになる期間が早く、プレミアイベントでは1998年プロツアーローマ優勝ぐらいしか結果を残せていない。→戻る
*11 メグリムジャー
MoMaに続く凶悪コンボデッキ。
その名の通り《記憶の壺》をマナ加速で連発し、《偏頭痛》で止めを刺す。
《修繕》と同時に登場していたのもひどすぎた。
数多のプレイヤーが「またコンボデッキか」とうんざりしたせいか、公式戦解禁後一週間で禁止になってしまった。→戻る
*12 カニクラフト
《大地の知識》《カブトガニ》《繁茂》、もしくは《肥沃な大地》とのコンボデッキ。
コンボパーツにエンチャントが多いことから《アルゴスの女魔術師》も良く使われた。→戻る
*13 エラッタ
「フリースペル(場に出た時に土地をX枚アンタップする)クリーチャーは手札からプレイした場合にのみ土地をアンタップする」……という内容のエラッタが出て、このコンボを行うことは出来なくなった。ちなみに現在ではこの制限はなくなり、テキスト通りの挙動に戻っている。→戻る
*14 禁止カード
1月に《意外な授かり物》《トレイリアのアカデミー》が禁止、4月に《時のらせん》《ドリーム・ホール》《繰り返す悪夢》《大地の知識》《水蓮の花びら》《波動機》《記憶の壺》、7月には《精神力》禁止と禁止カードのオンパレード。
スタンダードにおいてここまで禁止カードを連発したセットは他に無い。
・・・と言いたいところだが、ミラディンも親和パーツが軒並み禁止になってしまったためいい勝負。
アーティファクトサイクルは鬼門なのか。→戻る
*15 一時的に衰退したサバイバル
ミラージュブロックが退場しCIP(comes into play-場に出た時の能力持ち)クリーチャーを失ったサバイバル。
ウルザズレガシーで代替品を入手できていたのだが(《ネクラタル》→《骨砕き》等)《ウークタビー・オランウータン》の代わりだけが居なかった。
第6版で再録されるものの、このタイミングだけはどうにもならなかった。
《ヨーグモスの意志》擁するネクロディスクが横行していたのもマイナスポイント。
召喚酔いに影響される《ヴィーアシーノの異端者》では《ネビニラルの円盤》に対抗出来ない。→戻る
*16 APAC
2001年が最後になってしまった環太平洋選手権。
当時はヨーロッパ選手権等、大陸選手権という概念が存在した。
筆者が2000年に参加した時は賞金が純金で配られたのだが、ピンバッジのような形状だったため副賞と勘違いしていた。→戻る
*17 赤茶単
ヨーロッパのグランプリを三連覇したKai Budde伝説の始まり。
決勝の対戦相手がポンザ(赤単土地破壊)という相性の良さも相まって、言葉通り圧勝で1999世界選手権優勝を成し遂げた。
《束の間の開口》が特徴的なレシピで、初見で効果を調べた人も多かったのでは無いだろうか。→戻る
4.繰り返す悪夢
こうしてスタンダードから消えた《適者生存》だったが、結局エクステンデッドに舞台を移してまたも台頭することとなった。
プロツアーシカゴ99ではRaphael Levyがベスト4に入っているし、マスターズニューヨーク00ではWilliam JensenがTS(トレードウインドサバイバル)で優勝という結果を残している。
6 《森》 5 《島》 4 《Tropical Island》 1 《Savannah》 -土地(16)- 4 《極楽鳥》 2 《クウィリーオン・レインジャー》 4 《根の壁》 1 《知恵の蛇》 1 《ゴブリンの太守スクイー》 1 《ウークタビー・オランウータン》 4 《貿易風ライダー》 1 《スパイクの織り手》 1 《変異種》 1 《錯乱した隠遁者》 -クリーチャー(20)- |
4 《渦まく知識》 4 《土地譲渡》 4 《対抗呪文》 2 《衝動》 2 《マナ漏出》 4 《Force of Will》 4 《適者生存》 -呪文(24)- |
4 《エメラルドの魔除け》 4 《基本に帰れ》 1 《現実主義の修道士》 1 《金粉のドレイク》 1 《ウークタビー・オランウータン》 1 《スパイクの飼育係》 1 《果敢な弟子》 1 《ボトルのノーム》 1 《マスティコア》 -サイドボード(15)- |
これはスタンダードでは見られなかった《ゴブリンの太守スクイー》の存在が非常に大きい。
《適者生存》を使っていたプレイヤーなら良く分かるだろうが、《適者生存》を起動すればするほど、ライブラリーの中身は如実に薄くなっていく。
クリーチャーを引けなければ運用できないのに、どんどん引く確率が下がっていくジレンマ。
それを、《ゴブリンの太守スクイー》が全て解決してしまった。
起動するマナと時間的猶予さえ与えられれば、《適者生存》を起動するたびにむしろ手札が増えていく。
似た能力を持つ《Krovikan Horror》(*18)の存在も相まって、《適者生存》に加えて十分なマナと時間、それだけで容易にゲームを支配してしまえるのだった。
なお、エクステンデッド版サバイバルにはいくつかのタイプが存在する。
1つ目は前述のTS(トレードウインドサバイバル)。
豊富なカウンターとドローサポートが売りで、コントロールとしての特性が強い。
欠点は色の少なさゆえにパーマネントへの対応力が弱いことと、パーマネントを展開するデッキなのにカウンターマナを必要とするという矛盾点である。
そのため結果的に安定性が低く、ほとんど見られることのないデッキであった(*19)。
次に2つ目は、白黒緑ベースのもの。
主に手札破壊としての《強迫》、《アカデミーの学長》を使用した形になる。
スタンダード期のナイトメアサバイバルに酷似したタイプで、安定感は極めて高い。
4 《Savannah》 4 《Bayou》 4 《Tropical Island》 3 《Taiga》 2 《真鍮の都》 2 《ファイレクシアの塔》 -土地(19)- 4 《極楽鳥》 3 《クウィリーオン・レインジャー》 1 《ラノワールのエルフ》 4 《根の壁》 1 《金粉のドレイク》 1 《現実主義の修道士》 1 《理想主義の修道士》 1 《骨砕き》 1 《ゴブリンの太守スクイー》 1 《ウッド・エルフ》 1 《ウークタビー・オランウータン》 2 《アカデミーの学長》 2 《貿易風ライダー》 1 《マスティコア》 1 《スパイクの織り手》 1 《錯乱した隠遁者》 -クリーチャー(26)- |
4 《強迫》 4 《適者生存》 3 《吸血の教示者》 1 《浄化の印章》 1 《繰り返す悪夢》 1 《対立》 -呪文(14)- |
4 《紅蓮破》 2 《グールの誓い》 1 《腐肉クワガタ》 1 《農芸師ギルドの魔道士》 1 《金粉のドレイク》 1 《レイディアントの竜騎兵》 1 《ブラストダーム》 1 《ロボトミー》 1 《虚空》 1 《生ける屍》 1 《寒け》 -サイドボード(15)- |
こちらの弱点は、カウンターを持たないためにスピード勝負に弱いこと。
《強迫》を撃ったとしても、《吸血の教示者》→《ネクロポーテンス》と言われてしまえば一巻の終わり。
また、明確な勝ちパターンが薄いため、ゲームの決定打にも欠けていた。
そして最後に3つ目が、From the Vault : Extendedでも紹介した、《冬の宝珠》《対立》をフィーチャーしたプリズンタイプのものである。
*18 《Krovikan Horror》
このカードが墓地にある時に、直接クリーチャーカードが上に乗っているとターン終了時に手札に戻ってくる能力を持つ。
直接という珍しい表記があるのもさることながら、お互いのターン終了時に能力を誘発させることが出来るため、使い方によっては《ゴブリンの太守スクイー》以上の働きを見せることもある。
というより《ゴブリンの太守スクイー》とセットで運用するのが基本。
《ゴブリンの砲撃》に似た能力を内蔵し、意外と素出しも効果的だったりする。→戻る
*19 TS
「TS使うならNWO使うわ」とは森雅也の言。
もっともな話である。→戻る
5.NWO-Prison
ここから先は自分語りになってしまい恐縮なのだが、数ある「サバイバル」というデッキの中でも私の琴線に触れたのが、このプリズンタイプのサバイバルだ。
元々マナクリーチャーが好きだったし、スタンダード期にもサバイバルやリス対立を使っていたこともあって、プレイスタイルもかなり合っていた。
コンボ好き&目新しいデッキ好きが高じて、1999プロツアーシカゴの後はココアペブルス(*20)を使ってみたりもしたのだが、これがしっくり来ない。
ということで、その年のPTQシーズンではRaphael Levy作のサバイバルを使ってみることにしたのだった。
4 《Savannah》 4 《Tropical Island》 2 《Taiga》 4 《真鍮の都》 2 《知られざる楽園》 -土地(16)- 4 《極楽鳥》 2 《ラノワールのエルフ》 2 《クウィリーオン・レインジャー》 4 《根の壁》 2 《マーフォークの物あさり》 1 《現実主義の修道士》 1 《金粉のドレイク》 2 《ゴブリンの太守スクイー》 1 《ギトゥの投石戦士》 1 《ウークタビー・オランウータン》 1 《平和の番人》 2 《貿易風ライダー》 1 《レイディアントの竜騎兵》 1 《スリヴァーの女王》 -クリーチャー(25)- |
1 《吸血の教示者》 4 《秘儀の否定》 2 《Force of Will》 4 《適者生存》 2 《炎の鞭》 3 《対立》 3 《冬の宝珠》 -呪文(19)- |
3 《無のロッド》 2 《剣を鍬に》 2 《Force of Will》 1 《現実主義の修道士》 1 《誠実な証人》 1 《ウークタビー・オランウータン》 1 《水流破》 1 《解呪》 1 《一掃》 1 《対立》 1 《冬の宝珠》 -サイドボード(15)- |
結果としては、初めてのプロツアー予選で突破を果たすことが出来た(*21)。
しかしこのときのデッキリストには、いくつかの不満が残っていた。
まず、《秘儀の否定》が弱いこと(*22)。
青マナ1つだけで運用できるカウンターではあるのだが、そのデメリットゆえに気軽には使いづらく、またサバイバルというデッキはそもそもマナを立てて待ちづらい。
よって、このスロット全てを《Force of Will》に変更した。
また、当時環境にいたスリーデュース(*23)に対して不利すぎるため、干渉されづらい《錯乱した隠遁者》《繰り返す悪夢》コンボを用意したりと、いくつかの微調整を繰り返した。
というわけで、以下がプロツアー東京予選シーズンで使ったアーキタイプ、NWO-Prisonのレシピである。
4 《Bayou》 4 《Tropical Island》 3 《Taiga》 2 《Savannah》 -土地(13)- 4 《極楽鳥》 2 《ラノワールのエルフ》 3 《クウィリーオン・レインジャー》 4 《根の壁》 1 《金粉のドレイク》 1 《現実主義の修道士》 1 《マーフォークの物あさり》 1 《骨砕き》 1 《ウークタビー・オランウータン》 1 《ゴブリンの太守スクイー》 1 《スパイクの飼育係》 4 《貿易風ライダー》 1 《Krovikan Horror》 1 《マスティコア》 1 《スパイクの織り手》 1 《錯乱した隠遁者》 -クリーチャー(28)- |
2 《吸血の教示者》 4 《土地譲渡》 4 《Force of Will》 4 《適者生存》 1 《繰り返す悪夢》 2 《対立》 2 《冬の宝珠》 -呪文(19)- |
4 《紅蓮破》 3 《ブラストダーム》 2 《冬の宝珠》 1 《農芸師ギルドの魔道士》 1 《現実主義の修道士》 1 《ウークタビー・オランウータン》 1 《スパイクの飼育係》 1 《スパイクの織り手》 1 《対立》 -サイドボード(15)- |
これは最もデッキが完成に近づいた、The Finals00で使用した形になる。
主なポイントは林智加良(*24)にアドバイスを貰ったサイドボードの《ブラストダーム》。
対ネクロドネイトで一番苦手なカードが《炎の嵐》だったのだが、それを踏まえたサイド後の対《ファイレクシアの抹殺者》戦で極めて効果が高い。
また、赤単相手の攻防においてこのカードを終着点に出来るというのもポイントだ。
赤単に対してはまずマナが執拗に狙われるため、ライブラリーの《根の壁》を全てサーチしてくるのだが、その後速やかに切り返す手段が必要になる。
《発展の代価》《火炎破》にライフを狙われるため、完璧にコントロールしきることはほぼ不可能で、頼みの《貿易風ライダー》もサイドボード後の《紅蓮破》に耐性がない。
その点、複数枚の《ブラストダーム》は赤単側にとって対抗手段も乏しく、容易に決定打になりえる。
正直グランプリ京都00(*25)の時点で用意出来ていれば、と今でも思っている。
このデッキの最大の強みはデッキ名にもあるプリズン要素、すなわち《冬の宝珠》と《対立》にある。
デッキ構造は5CGよろしく、マナクリーチャー基盤がナチュラルに《冬の宝珠》戦略と好都合に働き、《対立》とのシナジーは言わずもがな。
特に最速で《対立》が着地した時のコントロール力は、他のタイプより一歩抜きん出ていると言える。
以下に俗に言う「ぶん回り」パターンを示す。
是非皆さんの目で確認してもらいたい。
ここまでの動きは極端にせよ、 《吸血の教示者》があるゆえに3ターン目《対立》は珍しくもなかった。
コントロールして、そして勝利する。その両者を直結させた動きが出来るということ。
勝てる形を持つことは、強いデッキの条件に他ならない。
しかしまあ今になって見てみれば、「ネクロドネイトという希代のコンボデッキを前にしてよく戦っていたな」という感想がないわけでもなかったりする。
何しろあちらは実質《ネクロポーテンス》の1枚コンボ。妨害要素も豊富に取り揃え、よくもまああんなデッキが許されていたものだ。
思えば、《冬の宝珠》慣れしていないネクロドネイト使いが多かったことに助けられていたといった感が否めない。
《ネクロポーテンス》を設置したら即座にライフを大量に支払う。
それは確かにセオリーではあったが、《冬の宝珠》環境下ではやや間違いになる。
急がば回れ、このプレイが出来るプレイヤーは当時そう多くなかった。
もちろん、例外(*26)も居たのだが。
*20 ココアペブルス
《永劫の輪廻》《Shield Sphere》《ゴブリンの砲撃》コンボを《ネクロポーテンス》がバックアップしたもの。
《ネクロポーテンス》が入ってない形はフルーティーペブルスと呼ばれる。
当時のDCIトーナメントセンターではコンボ好きがこぞって使っていたため、不毛な《沈黙のオーラ》ゲーがそこら中で発生してしまっていた。→戻る
*21 2000年プロツアーニューヨーク名古屋予選。
プレイに時間をかけすぎて、準々決勝、準決勝共にライフ差での勝利だった(シングルエリミネーションは追加ターン後ライフ差で決着)。
準決勝にいたっては三本目開始の時点でサドンデス、勝因は《スパイクの飼育係》のおかげ。→戻る
*22 《秘儀の否定》
基本的にはアドバンテージを失うカウンターなのだが、自分の《土地譲渡》に撃つと3枚ドローという裏技もあった。→戻る
*23 スリーデュース
ナヤカラーの変則アグロ、現代風に呼ぶならヘイトベアーに近いか。
《エルフの抒情詩人》《農芸師ギルドの魔道士》等、メタカードで押し込んでくる玄人風デッキ。
一歩間違うとクソビートになるが、《怨恨》《樹上の村》のカードパワーで何とかしてくる。→戻る
*24 林智加良
森雅也のデッキといえばこの人、かのAPAC二連覇を成し遂げたアングリーハーミットも彼の作である。
デッキは勝つのに本人が勝たないというエピソードで当時有名だったが、このプロツアー東京予選シーズンで初めて予選を突破。
色を増やすアプローチが好みなようで、スリーデュースやスーパーグロウスキー。→戻る
*25 2000グランプリ京都
初日をバイ明け全て2-0で全勝したものの、二日目2-2-2の体たらくでベスト8入りを逃している。→戻る
*26 ネクロドネイト使いの例外
プロツアー東京予選東京二次で対戦したネクロドネイト。
《冬の宝珠》を設置した途端に《モックス・ダイアモンド》を2枚置いてきた―――《ネクロポーテンス》を出しているわけでもないのに。
これが敗因になり、この時の対戦相手は初めてのプロツアー参加となった。
若き日の小室修である。→戻る
6.サバイバルは許されない
スタンダードに1年半、エクステンデッドに1年半。
メタゲームの表舞台で活躍し続けていた《適者生存》はしかし、2001年春にはついに姿を消した。
それは《ネクロポーテンス》同様強すぎるカードとして、殿堂入り(*27)を果たしてしまったからだ。
こうしてトーナメントシーンから姿を消したサバイバルだったが、変則的な形で復活する。
ローテーションの進むエクステンデッドに続く、新たなフォーマットの制定――― レガシーの登場である。
4 《森》 3 《沼》 1 《平地》 4 《Bayou》 1 《Savannah》 1 《Scrubland》 4 《吹きさらしの荒野》 2 《樹木茂る山麓》 1 《不毛の大地》 -土地(21)- 4 《極楽鳥》 2 《ラノワールのエルフ》 4 《根の壁》 1 《萎縮した卑劣漢》 2 《永遠の証人》 1 《骨砕き》 1 《ゴブリンの太守スクイー》 1 《ヴィリジアンのシャーマン》 1 《ヤヴィマヤの古老》 1 《真面目な身代わり》 1 《貪欲なるベイロス》 1 《ロクソドンの教主》 1 《起源》 1 《トリスケリオン》 1 《怒りの天使アクローマ》 -クリーチャー(23)- |
4 《剣を鍬に》 4 《陰謀団式療法》 3 《強迫》 4 《適者生存》 1 《繰り返す悪夢》 1 《火と氷の剣》 -呪文(17)- |
3 《悟りの教示者》 1 《ヴィリジアンの盲信者》 1 《トロールの苦行者》 1 《ガイアの祝福》 1 《名誉回復》 1 《化膿》 1 《粗野な覚醒》 1 《破滅的な行為》 1 《法の定め》 1 《崇拝》 1 《法の領域》 1 《真髄の針》 1 《無のロッド》 -サイドボード(15)- |
これはやや古めかしい構成のタイプで、レガシー初期なら《憤怒》を活用したATS(アンガートレードウインドサバイバル)の方が有名かもしれない。
元々レガシーというフォーマットがヴィンテージほど敷居が高くなく、失われたカードを使いたいプレイヤーにとってうってつけの環境ということで、サバイバル使いはこぞってこのATSに飛びついた。
というと誇張表現甚だしい気もするのだが、少なくとも私個人はまた《適者生存》が使えるということで、このATSに夢中だった(*28)。
が、いきなり出鼻を挫かれる。
元々対応されにくいことが売りのはずの《適者生存》に、天敵が現れてしまったからだ。
《真髄の針》(*29)である。
レガシー環境で《適者生存》が機能しないサバイバルなど、とてもじゃないがお呼びではなかった。
こうして。
約3年半ぶりに復活したサバイバルは、再び眠りについた。
時代が変わるまで……
それから5年。
ついに復活の時が来た。
3 《森》 1 《島》 4 《Tropical Island》 4 《霧深い雨林》 2 《吹きさらしの荒野》 1 《樹木茂る山麓》 1 《沸騰する小湖》 1 《ガイアの揺籃の地》 4 《不毛の大地》 -土地(21)- 4 《貴族の教主》 4 《日を浴びるルートワラ》 4 《野生の雑種犬》 4 《アクアミーバ》 3 《三角エイの捕食者》 4 《復讐蔦》 1 《不可思議》 -クリーチャー(24)- |
3 《もみ消し》 2 《目くらまし》 4 《Force of Will》 4 《適者生存》 2 《梅澤の十手》 -呪文(15)- |
4 《呪文貫き》 3 《クローサの掌握》 3 《水没》 3 《太陽と月の輪》 2 《フェアリーの忌み者》 -サイドボード(15)- |
もともとマッドネスクリーチャーが《適者生存》と相性が良かったのは間違いなかったが、レガシーというフォーマットでは単に《日を浴びるルートワラ》だけを並べても、若干説得力に欠けていた。
ところが、《復讐蔦》というカードが全てを変えてしまった。
かつての《適者生存》はコントロールカードだった。
そう、十分なマナと時間が圧倒的なアドバンテージを稼ぎ出す。
それがサバイバルの本質で、目指すゲームプランもそこにあった。
しかし今では十分なマナと時間があれば、《復讐蔦》を大量に墓地に送り込み、《日を浴びるルートワラ》を連打するだけでゲームに勝ててしまう。
これはサバイバルにとって大きな転換期となった。
「負けない」ことと「勝てる」こと。
似ているようで違うこの二つのアプローチ。
この二面性を合わせ持てるデッキが、弱いわけもない。
こうしてサバイバルは、レガシーでも猛威をふる……
わなかった。
奇しくもエクステンデッドでの《適者生存》禁止から10年余りを経て、ついにはレガシーでも禁止になってしまったからだ。
《壊死のウーズ》《Phyrexian Devourer》《トリスケリオン》コンボも追加され、ここから!というところでの呆気ない禁止発表。
かくしてスタンダードからエクステンデッド、エクステンデッドからレガシーへ、長きに渡るサバイバルの歴史に終止符が打たれることとなった。
各レギュレーションで1年半ずつと、今思えば意外と短かった付き合いだったが、それでも自身のトーナメントキャリアを考えると感慨深いものがある。
サバイバル、本当にお疲れ様でした。
*27 殿堂入り
=禁止カード。
モダンの禁止理由に近く、環境の硬直化を避ける意味合いも強かったのだろう。→戻る
*28 レガシーに夢中
当時滋賀在住だったのに関東の大会(すずけんさん主催)に行ったくらいである。→戻る
*29 《真髄の針》
特殊な能力、第3セット収録とあって結構高かったカード。
再録が多すぎた結果が今の値段、凋落がひどい。→戻る
7.サバイバルの親族たち
あまりに存在感のあるカードだからか、その後のエキスパンションでもいくつか似たカードが刷られている《適者生存》。
最後に、そういった子孫たちを見ていこう。
◆《自然の秩序》
NWOの語源となったこのカード、レガシーではなかなかの活躍を見せている。
一時期は《大祖始》を主軸に置いたアーキタイプで良く見かけたし、今では《孔蹄のビヒモス》をサーチするためにエルフに採用されている場合が多い。
◆《獣相のシャーマン》
生ける《適者生存》。
自身もクリーチャーということで、複数枚引いた時のリスクが低くなっている。
とはいえ出したターンに起動できないことに加え、1ターンに複数回起動できないため、かなりの別物になってしまった。
出された時のプレッシャーは高いのだが、見た目以上に動きが重いため意外と危険度は低い。
◆《緑の太陽の頂点》
《ドライアドの東屋》をサーチできるためにとりあえず4枚積んどけ感が強くなってしまい、モダン環境から追い出されてしまった。
もちろんレガシーでは現役なのだが。
どういうカードが禁止になりやすいかを証明するような存在。
◆《出産の殻》
スタンダードからモダンに主戦場を移して、今が活躍まっさかり。
レギュレーションを跨いだ活躍といい、《適者生存》の正当な後継者といえば《出産の殻》になるのか。
結末も同様の展開を迎えそうな気がするのははたして気のせいなのだろうか?
ファイレクシアマナの都合上、《突然の衰微》の対象にならない辺りも胡散臭さ抜群。
8.次回予告
マジックの華と言えばコンボデッキ。
現レガシーで禁止カード、ヴィンテージでは制限の凶悪カードを使い倒す、悪魔のようなデッキがスタンダードで使われる時期もあった。
はたしてこのデッキはスタンダード版ネクロドネイトだったのか。
始動から回るや回らざるや、その曖昧さもまたゲームとしての興に花を添える。
コンボデッキとしての一時代を築いたチェーンサイクルコンボとは。
次回グレイトフルデックス vol.2、ピットサイクル。
乞うご期待!