PWCチャンピオンシップもこのラウンドを含めて残り2つ。トップ8に残るためにはもう負けることのできない崖っぷちの2人が、フューチャー席で火花を散らす。
先にテーブルに着いたのは神奈川のプレイヤー、海老江 邦敬。関東の草の根大会やGPTでトップテーブルに座っている姿をよく見かけるが、活躍は草の根での大会にとどまらない。プロツアー経験者であり、昨年の暮に行われたグランプリ静岡14でもマネーフィニッシュしている。文句なしの強豪プレイヤーだ。
少し遅れて机に座ったのは、こちらは6年前に行われたグランプリ神戸08でトップ8入賞を果たしたこともある千葉の強豪――だと思っていたが実は神奈川に住んでいる、吉森 奨である。
知り合い同士の2人は互いに煽り合う。そんなさなか、既に30歳を迎えている海老江は、29歳の吉森に語りかける。
「30歳になるとマジックがまた面白くなるよ」
妙に深い一言を放ち、海老江は7枚のオープニングハンドに視線を落とす。
海老江が軽口を叩くのを辞めたということは、試合が始まる合図なのである。
Game 1
占術ランドの置き合いでゲームは静かにスタートしたが、《森の女人像》から先手の利をを生かして《世界を喰らう者、ポルクラノス》を出すと、その間2ターン連続で占術ランドを置いていた海老江は、3枚目の占術ランドをセットし、《世界を喰らう者、ポルクラノス》を《破滅の刃》で除去する。
ならば、と今度はプレインズウォーカーで攻めることにした吉森は《ドムリ・ラーデ》を配下に従えるが、生物は献上してくれない。
一方、海老江とタッグを組むプレインズウォーカーは優秀だった。その名は《思考を築く者、ジェイス》。《アゾリウスの魔除け》と2枚の土地に吉森が分けると、高速で土地を獲得する。
吉森の《ドムリ・ラーデ》はまたクリーチャーをめくることはなく、《思考を築く者、ジェイス》を戦場から退けることには成功したものの、海老江の手札からは《至高の評決》が飛び出す。
「そろそろめくれてくれ」という声が聞こえてきそうな吉森。そんな声を聞き取ったのか、《ドムリ・ラーデ》がここで手渡したのは《嵐の息吹のドラゴン》。《至高の評決》の返しとしては十分すぎる回答だ。
だが、さすがは30歳の海老江。2枚目の《思考を築く者、ジェイス》をプレイすると、少考の末プラス能力を起動する。そして《思考を築く者、ジェイス》を一発で落とすために吉森が《嵐の息吹のドラゴン》を怪物化したところで、《究極の価格》で難なく処理する。
だが1歳若い吉森もまだ負けてはいない。《ドムリ・ラーデ》は《漁る軟泥》を届けたが最後、《拘留の宝球》で彼方へ飛ばされてしまうものの、《嵐の息吹のドラゴン》を引き込む!若いドロー。吉森はまだ20代なのだ。
だが、老練な海老江は吉森の小さなミスを見逃さない。
《漁る軟泥》を4/4にしてしまったことで、悩みの種だった《嵐の息吹のドラゴン》もろとも、《太陽の勇者、エルズペス》のマイナス能力で流してしまったのだ。
そして脅威を取り払ったこの優秀なプレインズウォーカーは、今度はその刃を吉森へと向けて行ったのだった。
海老江 1-0 吉森
Game 2
ロングゲームの末に30代のアドバンテージを生かして勝利した海老江だったが、今度は吉森がその若さを存分に見せ付けることになる。
《血の墓所》から2ターン目に《森の女人像》、そして《中略》をケアして土地を置いてから《クルフィックスの狩猟者》を戦場に送り込む。
そしてカウンターを構えていそうに見える海老江をあざ笑うかのように、吉森が盤面に追加したのは《霧裂きのハイドラ》。レッドゾーンに送り込む。若さで押せ押せムードだ。
海老江はなんとか《至高の評決》を引き込んで戦場を一度落ち着かせるものの、吉森の手札からは《歓楽者ゼナゴス》が。
歓楽者のサテュロスが戦場を埋め尽くす間、海老江はただドローゴーを繰り返すだけだった。
海老江 1-1 吉森
Game 3
《静寂の神殿》の占術をすぐに上に残すことに決めた海老江は、《エルフの神秘家》を除去するかどうか、じっくりと考える。結局《破滅の刃》を打つことにしたが、吉森は2ターン目に《森の女人像》をプレイ。吉森の展開を遅らせるという目論みは少なくとも成功していないように見える。
が、それは少し違った。吉森の次のターンのアクションが《奔放の神殿》タップインのみだったのである。《エルフの神秘家》を除去したことで展開に遅れが出ているのかもしれない。さすが熟練の読み。
この機を見逃す海老江ではない。《思考を築く者、ジェイス》をプレイするやいなやライブラリートップを3枚めくる。ここでめくれたのは《思考を築く者、ジェイス》、《変わり谷》、《解消》の3枚。もう1度《思考を築く者、ジェイス》をプレイされることを嫌った吉森は、ジェイスとそれ以外の束に分ける。海老江は後者を選択。
仕事を追えた《思考を築く者、ジェイス》は吉森の《嵐の息吹のドラゴン》で墓地へ置かれ、そのドラゴンも海老江に除去され――るかと思われたのだが、これが海老江は止まらない。
セットランドして占術。《ドムリ・ラーデ》を打ち消して占術。とにかくライブラリーを掘り進める海老江。だが除去の姿はない。《歓楽の神、ゼナゴス》もなんなく《中略》でさばくも、《嵐の息吹のドラゴン》だけが上空を駆け抜ける。
なんとか《太陽の勇者、エルズペス》を引き込んだ海老江がマイナス能力を使って《嵐の息吹のドラゴン》を打ち落とすも、7マナを立てていた吉森は死の淵にある龍の最後の力を引き出す。この4点を受けて《太陽の勇者、エルズペス》はドラゴンと相打ちになる。
そしてここからトップデッキ勝負になる。とは言っても、カウンターを構えている海老江のほうが有利ではある。
が、そんな古豪の希望を打ち砕く若きドローを見せる吉森。ここで引いたのは百点満点の《霧裂きのハイドラ》!
8/8の怪物を前に、《変わり谷》でチャンプブロックし、《今わの際》で4点のライフを得てハイドラの致死圏外から逃げるファインプレイをするものの、根本的解決にはならない。
《思考を築く者、ジェイス》に望みを託すが、先ほどからたくさんの土地を海老江に手渡していたジェイスは、今回も大した呪文を渡してくれない。
2ターン目に打ってしまった《破滅の刃》を見つめながら、海老江はひたすら並べ続けていた土地を片付けたのだった。
海老江 1-2 吉森
海老江 「2ターン目に《エルフの神秘家》に《破滅の刃》を打たなければ良かった…」
ゲーム終了後、自身のプレイミスを反省する海老江。確かに《破滅の刃》を打たなければ、《霧裂きのハイドラ》を対処できていた。
海老江 「最後、《中略》手札にあまってたんですよね。あそこで《中略》構えていればどこかで使えて、そうすれば《破滅の刃》を温存できていたから、勝っていたかもしれない」
土地を引きすぎたことに対して愚痴をこぼすそぶりも一切なく、ミスプレイかもしれないことについてひたすら反省する。
そんな海老江の口から試合前に出てきた言葉を、もう一度思い出して欲しい。
「30歳になるとマジックがまた面白くなるよ」