あの伝説的なクソデッキの誕生から2ヶ月が過ぎた。
【バトルワーム】……「ドラコ爆発」の系譜に連なる、11マナの歩く置き物と国民的CMとのハイブリッド。いや、鬼子と言ってもいいかもしれない。
しかしクソデッキとしてはあまりに完成度が高すぎたそれは、その代償として私の心にある1つの素朴な疑問を残していったのだった。
すなわち。
もうクソデッキを作らなくても良いのではないか?
もともとこの連載が始まったのは、ゼウスの高みへと至るためにはどんな小さな可能性でも実際に作って確かめる覚悟が必要なのだと、浅原さんに教えてもらったからだった。
しかし、私は第2回にして「バトルワーム」というキングオブクソデッキを生み出してしまった。強さ的にもネタ的にも申し分ない、オリジナルデッキの極致とも言うべき傑作だ。
これほどのデッキを、かつて私は作ったことがなかった。
ということはつまり。
既に私自身がゼウスなのではないか?
連載第2回にして、目標を達成してしまったのではないか。
だが確かに、そう考えると辻褄が合う。
あのクソ最終回で浅原さんの魂と化学的に反応した私のクソデッキ力(ぢから)は、2回のクソデッキ製作を経ていつの間にか神の領域に達してしまっていたのだ。
そうか。そうだったのか。
ならば神=ゼウスである今の私が作るデッキは、全てプロツアー優勝デッキレベルということ。
ちょうど「ニクスへの旅」も発売し、新デッキのお披露目にはふさわしい頃合いだろう。
これはもう、皆さんにお見せするしかない。
新たにゼウスの座に就任したこの私が作る、最高最強の
1.妄想編
クソデッキとは、おさらばだ。
そう、なぜならば私が神だ。
神たる私が作ったデッキは全てが完璧。全てが究極。
ならば何も悩むことはない。心の赴くままにデッキを作ればいい。
そう考えて「ニクスへの旅」のカードリストを眺めていると、ある1枚のカードが私の目に留まった。
何ともワクワクするカードだ。そう思わないだろうか?
デッキを作っていて1番の喜びはまだ誰も見つけていないコンボを発見したときであろうが、やはりなかなかにハードルが高い。
そこで2番目の喜びを目指すわけだが、それは誰も使っていないコンボデッキにスプーン1さじ分のオリジナルな進化を加えられたときだと思うのだ。
その点、このカードは既存のコンボデッキを何段階も進化させうるキーカードになる可能性がある。何といってもコンボパーツを自在にサーチできるのだ。
かつて《吸血の教示者》というカードがあった。
いわゆるサーチカード……「自在に特定のカードを探してこれる」というその強力すぎる能力は、2枚コンボはもちろん3枚コンボであっても容易に手札に揃えることを可能にした。
その安定性から来る圧倒的な強さは、ある時期のエクステンデッドがサーチを主体にしたコンボの独壇場であったことからも明らかだ。
そしてこの《欺瞞の信奉者》も然り。
まるで錬金術さながらに、手札のカード1枚と引き換えにライブラリから好きなカードを探してくることが可能だ。
つまりこのカード、《欺瞞の信奉者》は、いわば現代に甦った<吸血の教示者>。
「同じ点数で見たマナ・コスト」という制限が見えないのかって?
確かにエドワード・エルリックも口を酸っぱくして言っていることだが、錬金術の基本は等価交換だ。
だが。
真理の扉を開いた者にとっては、そんな制限は実は容易にくぐり抜けることができるのだ。
「融合」を持つカードは、2つの「点数で見たマナ・コスト」を持っている。1マナであり2マナ……あるいは2マナであり3マナでもある。
したがって、「融合」カードを使えばマナコストを変換して好きなカードを探してこれるのだ!
これぞまさしく「一は全、全は一」。
しかし今にして思えば、こういった符合はWotCの配置した当然の布石だったのかもしれない。
このポーズ。
これだけでピンときた方もいるだろう。
《欺瞞の信奉者》の能力は、そこはかとなく錬金術をイメージさせるカードデザインとなっている。
つまりこの広げた両手が意味するところとは、そう。
「まるで神への祈りじゃないか。」と評される、両手を合わせての錬成(の一瞬手前)を表していたんだよ!
な、なんだってー!
無論、これだけでは「ただの偶然の一致」と片付ける向きもあるかもしれない。
だが、これは何も荒唐無稽な話ではない。
その証拠に、同じく「ニクスへの旅」に収録されている、こちらのカードを見て欲しい。
このポーズ。(2回目)
これはもう、Mark Rosewaterが熱烈なハガレン信者であることの証明だろう。
そして「ニクスへの旅」に裏コンセプトとして、「変成/Transmute」ならぬ「錬成/Hagaren」が仕込まれていたことはこの段階で明らかとなった。
ならばあとはWizardsの意思に従い、最強の錬成コンボを組み上げるしかない!!
2.爆誕編
クソデッキ、錬成。
「ニクスへの旅」のエキスパンション全体に込められたウィザーズ社からのメッセージを読み取った今、怖いものはない。
国家錬金術師である《欺瞞の信奉者》の錬成の力を借りて、コンボパーツを揃えにいけばいい。
だが、スタンダードにはろくなコンボがないのではなかったのか?
いや、あった。
ゼウスたる私が見出した、最後に残された希望。
「ニクスへの旅」によって大幅に強化され完成した、まさしく現代の《欠片の双子》。
それがこれだ!!!
2 《島》 1 《沼》 4 《湿った墓》 3 《血の墓所》 3 《蒸気孔》 2 《天啓の神殿》 2 《悪意の神殿》 1 《欺瞞の神殿》 4 《マナの合流点》 -土地(22)- 4 《ダクラの神秘家》 4 《欺瞞の信奉者》 4 《苦痛の予見者》 4 《炎樹族の使者》 4 《高射砲手》 -クリーチャー(20)- |
4 《撤回のらせん》 2 《強迫》 1 《摩耗+損耗》 4 《双つ身の炎》 1 《野生の勘》 1 《遠隔+不在》 4 《バネ葉の太鼓》 1 《魔女の目》 -呪文(18)- |
4 《思考囲い》 4 《神々の憤怒》 4 《悪夢の織り手、アショク》 2 《強迫》 1 《ラクドスの復活》 -サイドボード(15)- |
4枚コンボじゃねーか!
しょうがないんだ、《欺瞞の信奉者》が分割カードを駆使して現実的に集められるマナ域でのコンボとなると、スタンダードにはこれくらいしかないんだ。
一応「何がコンボなの?」という方のために念のため解説しておくと、
これを見てもまだ「で、何がコンボなの?」という言葉が出そうなくらい清々しい無理ゲー感が漂っているが、まだ慌てるような時間じゃない。
何といってもこのコンボ、「ニクスへの旅」で「とあるカード」が収録されたことにより、コンボ成功率が大幅にアップしたのだ。
そのカードとは。
《双つ身の炎》。
「速攻」を持ったコピートークンをわずか2マナで生み出せるというこのカードは、召喚酔いが解けた2体の《高射砲手》が必要になるこのコンボにとって、2マナがデッキ内で最も錬成しやすいマナ域ということもあり、まさしく天からの恵みだった。
つまり2体目の《高射砲手》を錬成せずとも、《双つ身の炎》を錬成することでコンボが成立するのだ。
しかもWotCのメッセージはこんなところにもしっかり隠されていた。
このカードのイラストをよく見て欲しい。何やら鎧のようなものを纏った人物が描かれている。
はっ!鎧……錬金……まさか!?
ここまでくれば賢明な読者の皆さんなら言わずとも察せられるだろう。
そう、アルフォンス・エルリックだ(適当)
ここまで開発部の意思を完璧に汲み取ったデッキは他にあるまい。
神=ゼウスになった私の初仕事。スタンダードのメタゲームを革命的に塗り替える、最強のコンボデッキ。
推して参る!
3.実戦編
クソデッキ、
◆第1回戦 VS白赤スライ
・1戦目 先手で《バネ葉の太鼓》→《苦痛の予見者》+《強迫》のぶん回り。だがコンボパーツを一生懸命ちまちま錬成してる間にクリーチャーを横に並べられ、あと1ターンでコンボ成立!というところで本体火力で死亡。
・2戦目 白ビートタッチ火力かなと思って《神々の憤怒》を目いっぱいサイドインしたら相手のデッキが火力タッチ白ビートだったでござる。《神々の憤怒》を抱えたまま火力全部本体撃ちこまれて死。
××
◆第2回戦 VSエスパーコントロール
・1戦目 頑張って並べたコンボパーツや国家錬金術師たちが<至高の評決>で消し飛んだ。
・2戦目 コンボでは勝てないことが発覚したので《悪夢の織り手、アショク》で頑張るプランにしたけど《太陽の勇者、エルズペス》トップされてIt is done.
××
◆第3回戦 VSナヤミッドレンジ
・1戦目 頑張って粘ってトップ《撤回のらせん》縛りが2チャンスあったけど引けず。
・2戦目 相手が1枚も除去引かなくて錬成陣が完成。やったよ初めてコンボが決まったよ!
・3戦目 《ミジウムの迫撃砲》「超過」によって錬成陣が吹き飛んで負け。
×〇×
結果:0-3。
「へぇ…これが拝命証か。えらそーな資格の割にゃペラい紙きれ一枚なんだな」
「『大総統キング・ブラッドレイの名において、汝まつがんに銘『0-3』を授ける…』。0-3?」
「そう…国家錬金術師に与えられる二つ名………」
「君が背負うその名は―――0-3の錬金術師!」
「いいね、その重っ苦しい感じ。背負ってやろうじゃねーの!!」
4.後悔編
畜生ォ… (時間を)持って行かれた……
やはり人体錬成は禁忌だったか。
ひとまず今回は、まだ全然神になってなかったということがわかった。
神なら最強とかいって平気でフライデー0-3するクソデッキを組むはずがない。
ゼウスへの道のりは長く、険しい。
それではまた次回。
良いクソデッキライフを!