《変わり谷》というカードがある。
クリーチャー化する起動型能力を持った土地、所謂「ミシュラランド」と呼ばれる土地の一つである。
現在のスタンダードで最も使われているカードを訊ねたら、ほとんどの人間が回答に選ぶであろうこのカード。
何やら前振りが既にネタバレめいているが、この試合はある意味で《変わり谷/Mutavault(MOR)》を巡る物語だ。
舞台に立つは山本 康平、尹 壽漢(ユン スハン)。
山本は5月に開催されたBIGMAGIC OPENのスタンダードフォーマットにて優勝を勝ち取ったプレイヤーで、チーム「豚小屋」所属のメンバーでもある。
ユンはデッキビルダー、プレイヤーとしての確かな実績を持つ強豪だ。
山本のオルゾフコントロールか、ユンのエスパーコントロールか。コントロール同士の闘いの火蓋が切って落とされた。
Game 1
ユンの先攻から始まったGame1。
お互いコントロールであるため、基本的に序盤は土地を置くにとどまる展開となる。
山本は2ターン目のアクションとして《思考囲い》をプレイ。
公開されたユンの手札は
《至高の評決》
《太陽の勇者、エルズペス》
《解消》
《平地》
《湿った墓》
山本はここから《解消》を指定。
一枚一枚のカードの重要性が高いオルゾフコントロールにとって妨げとなるカウンター呪文を取り除く形となった。
暴かれた手札が示す通り、ユンには現状土地を置く以外のアクションが無い。
山本としてはその間に動きたいところではあるが、返すターンは《変わり谷》でライフを削るのみとなる。
そうして4ターン目。いくら重めの構成であるエスパーと言えど、ただ座しているばかりではない。
ユンは《思考を築く者、ジェイス》でカードの補充に取り掛かり、捲れた3枚から《拘留の宝球》を加える。
《変わり谷》で《思考を築く者、ジェイス》を退場させ、続けて2枚目の《思考囲い》をプレイする山本。
《至高の評決》
《拘留の宝球》
《太陽の勇者、エルズペス》
これらの中から《太陽の勇者、エルズペス》を指定する。
ここまでは2枚の《思考囲い》、《思考を築く者、ジェイス》のやり取りがあるのみ。
コントロール対決特有の静かな展開と言える。
土地をフルオープンするユンを警戒してか、手札を切ることが出来ない山本。
ここは我慢の時と判断したのか、仕方なく谷で殴るのみ。しかし返すターンも土地を置くのみのユンに対して《太陽の勇者、エルズペス》を送り込む。
エルズペス自体は通るものの《至高の評決》、《拘留の宝球》のセットで盤面を更地に戻されてしまう。
山本はすかさず2枚目の《太陽の勇者、エルズペス》をプレイするが、これにも同様のセットで対応される。
実質2:4交換を行い、もう大丈夫だろうと《ヴィズコーパの血男爵》を送り出すも3枚目の《至高の評決》で安易なゲーム展開にはならない。
こうなったらと2枚の《変わり谷》でライフを削りきるプランに切り替える山本。
ユンもブロッカーとしての《変わり谷》を立てるが、山本の《肉貪り》がそれを許せない。
追加の《思考を築く者、ジェイス》で《スフィンクスの啓示》を引き込み、《変わり谷》への対応手段を探しに行きたいユン。
クイックインタビューで嫌いなカードとして《スフィンクスの啓示》を挙げていた山本。手札にハンデスが無い以上、返しの《スフィンクスの啓示》を咎める手段は無い。ならば出来ることは少しでもユンのライフを削ること。
最大打点を重視してか、《思考を築く者、ジェイス》には《英雄の破滅》を以て対応し、3枚目の《変わり谷》を加えて決着に向かおうとする。
土地に殴りきられては堪らないと《スフィンクスの啓示》から2枚目の啓示に繋げるユン。
しかし《変わり谷》の猛攻によりライフ残り1の瀬戸際に立たされてしまう。
山本は駄目押しと言わんばかりに《冒涜の悪魔》を追加する。
山本 康平
ただの一体も攻撃を通すわけにはいかないユン。《変わり谷》、《太陽の勇者、エルズペス》のトークンと並べて背水の陣を敷く。
ここを通せば勝利の山本。ここを耐え凌げば勝機が生まれるユン。
山本は兵士トークンに《胆汁病》。これに対してユンは《解消》で対応。《変わり谷》の起動コストを残して土地はタップされた。
即ち……2枚目の《胆汁病》に対応することが出来ず、ユンの防御陣が崩れたのだった。
山本 1-0 尹
Game 2
Game1同様に山本の《思考囲い》から始まる最序盤。
《至高の評決》
《中略》
《中略》
《島》
《欺瞞の神殿》
《啓蒙の神殿》
山本は《中略》を指定。
その後、このマッチで重要な鍵を握る《変わり谷》をセットして《生命散らしのゾンビ》。しかしこれは既に見えていた《中略》で消える。
序盤は受け身にならざるを得ないユンとしては山本のアクションを逐次捌いていくしかない。
4ターン目、山本は《地下世界の人脈》を設置するも返しの《払拭の光》によって1ドローのみとなる。
スペルが駄目でも土地がある。《変わり谷》というフィニッシャー足り得る土地が。
先の展開を踏襲するかの如く《変わり谷》によるビートダウンを敢行する山本。
ユンはここで《不在/Away》をプレイ。対する山本はこのターンに設置した追加の変わり谷を生け贄とすることで攻撃中の《変わり谷》を存命させる。
しかしこれで山本の攻撃力は半減。まだまだ充分に残るユンのライフを削るには心許ない。
ユンとしては中盤のアドバンテージ獲得手段である《思考を築く者、ジェイス》を引きたいのだが、手札にはマナが届かない《太陽の勇者、エルズペス》とリアクションスペルのみという状況。
《太陽の勇者、エルズペス》まで耐えるしかないが、その目論見も山本の《思考囲い》で御破算となってしまう。
ユンの手札に残るカードは《至高の評決》と《神討ち》。
山本にとっても《ヴィズコーパの血男爵》を出すに出せない状況だ。
尹 壽漢
ここで《好機》を引き込むユン。正に好機となるこの一枚で手札を回復する。
山本も《好機》に応戦する形で3枚目の《思考囲い》。
《至高の評決》
《至高の評決》
《至高の評決》
《拘留の宝球》
《拘留の宝球》
《神討ち》
この内容から《拘留の宝球》を選ぶ。
ユンはトップから《ヴィズコーパの血男爵》。
それならばと山本も《ヴィズコーパの血男爵》。
血男爵同士ではシーソーゲームが続くだけだが、山本が追加でセットした《変わり谷》がシーソーを傾けていく。
ユンは《ヴィズコーパの血男爵》で攻撃した後に《至高の評決》で互いの血男爵を流すことにする。
しかし根本的な問題が残っている。そう、《至高の評決》でも《拘留の宝球》でも対処できない“クリーチャーでもある”土地の存在だ。
片方の《変わり谷》には《英雄の破滅》で対処するも残ったもう一枚への回答を見つけることが出来ないまま、土地がユンの残るライフを刈り取っていった。
山本 2-0 尹
起動コストは1マナで、2/2というサイズ。
そこだけ取り出せば、ともすれば何のことはない印象を受ける。
しかし、このマッチを象徴するカードは間違いなく《変わり谷》というMTG史上でも最上位に位置するミシュラランドだった。