このマッチが終わる時、新たな”モダン神”が誕生する。
二週間前”神”の座に昇り詰めた、木原 惇希(新潟)に続く新たな神が。
300人が鎬を削った後、最後に残っていたのが小堺とクドウだ。
2014年2月。
かつてのプロツアー『神々の軍勢』では、トリコロールに各種双子デッキ、《瞬唱の魔道士》が跳梁跋扈する青き時代であった。
だがこの初代モダン神決定戦、神を決める大一番となったマッチングはバーン対親和。
まさしく環境最速を決め得る一戦と言ってもいい。
我々は新時代の幕開けを目撃しようとしているのではないか。
Game 1
この大事な大事な一戦、ダイスロールにより先手を得たのは小堺。
もしかするとこのことが勝敗を分けたのかもしれない。
そんな思いがあったのか、クドウは若干苦い顔。
だが小堺はここでテイクマリガン。
まだランドセットも始まっていないゲームとはいえ、有利不利を一考してしまうのは勝負師の性か。
予選9回戦、決勝ラウンドを通してみればここまで11戦を戦ってきた二人。
さすがにどちらの顔も疲れは隠せないようだが、また緊張も伝わってくる。
それもそうだ、この一戦に懸かっているものはあまりに大きい。
負ければ再び神に挑むためには長き戦いを勝ち抜く必要があり、挑戦者になれたとしても防衛戦をも勝たねば神の座に就くことは出来ない。
だがこの一戦、ここ一番を勝つことで神になることが出来る。
ここで終わるか、次に繋ぐか。
開幕ターン、小堺は《沸騰する小湖》から《聖なる鋳造所》フェッチ、《渋面の溶岩使い》から。
1マナアクションの豊富なバーンとはいえ、継続的なクロックをプレイできるかどうかはゲーム展開に大きな影響を及ぼす。
そしてここまで見ている限り、小堺は安定して《ゴブリンの先達》《渋面の溶岩使い》からゲームを始めることが出来ている。
対してクドウはセット《シヴの浅瀬》、《メムナイト》プレイ。
続けて《バネ葉の太鼓》を2枚並べ、《オパールのモックス》も続けると《感電破》を《渋面の溶岩使い》に。
癌となる《渋面の溶岩使い》を速やかに排除し、主導権を譲らない。
ここで2枚目の土地を引けない小堺は《二股の稲妻》で《メムナイト》を屠ると、クドウは《頭蓋囲い》。
こうなると小堺の火力が勝るか、クドウのクリーチャー数が上回るか。
リソース勝負になったか、のように見えた。
実際ゲームはそのように進行し、
小堺《ゴブリンの先達》で攻撃
クドウ《信号の邪魔者》プレイ
小堺《稲妻》を《信号の邪魔者》に、《溶岩の撃ち込み》をクドウへ
クドウ《大霊堂のスカージ》プレイ
と進行し、続くターン《ゴブリンの先達》の攻撃を受けたクドウのライフは10。
ターンを返した小堺の手札には《ボロスの魔除け》《欠片の飛来》。
一見すると小堺はここで《大霊堂のスカージ》を除去しなければならないようにも見える。
そうなればさらなる火力が必要となり、クドウのリソースが切れない限りはまだ分からない。
前ターンに《ゴブリンの先達》が捲っていたため、クドウのドローが《物読み》であることを知っているのだから尚更だ。
だが予想と現実は違う。
《バネ葉の太鼓》を使うため、クドウはこのターンの《大霊堂のスカージ》の攻撃を諦めると《刻まれた勇者》を戦場に。
リソースゲーにも見えた、この状況下では無敵の勇者。
しかしてこの勇者降臨のタイミングこそが、小堺唯一の勝機。
クドウのライフ10、手札に《欠片の飛来》《ボロスの魔除け》。
小堺のドローは《欠片の飛来》。
小堺 1-0 クドウ
小堺 透雄 |
紙一重のゲームを乗り切った小堺。
このゲームに限らず、今日の小堺は肝心なところで火力の引きがいい。
対戦相手がフルタップした瞬間、手札に吸い付いてくる火力呪文。
まさしく”神懸かっている”。
Game 2
互いに初手が大事なこのマッチアップ。
二人は初手の検討に十分な時間をかける。
このゲームをクドウが取らない限り、そう少なからぬ可能性でこのゲームが最後のゲームになるかもしれない。
そんな思惑があったかどうかは分からないが、若干の間を経てクドウがキープを宣言すると、小堺は1ゲーム目に引き続き再びのマリガンを宣言する。
クドウは《ちらつき蛾の生息地》《羽ばたき飛行機械》から。
小考しただけに冴えない立ち上がりとなってしまったが、ここからでも爆発するのが親和というデッキだ。
一方の小堺は《沸騰する小湖》から《山》をフェッチ。
今日ここまで幾度となく呼び続けただろう、第1ターンの《ゴブリンの先達》が戦場を走り抜ける。
続く第2ターン、クドウが《電結の荒廃者》を呼びターンを返すと、小堺は《苛立たしい小悪魔》。
これがライフ支払いにより退けられると、いよいよクドウの本領ターンが。
《ボーラスの工作員、テゼレット》。
クドウのデッキの看板たるプレインズウォーカーが、《オパールのモックス》経由で顕現した。
+能力はクドウに新たな《オパールのモックス》をもたらずのみに留まるが、その《オパールのモックス》が《電結の荒廃者》の能力でサクリファイス→プレイされ直された上で《強迫》に繋がると、小堺にとってはたまったものでは無い。
対応して《稲妻》は撃つものの、
《ボロスの魔除け》
《ボロスの魔除け》
《溶岩の撃ち込み》
が公開され、ここから《ボロスの魔除け》がディスカードされる。
さすがに小堺も奥義を前にしては選択肢が無く、《ボロスの魔除け》を《ボーラスの工作員、テゼレット》差し向けるのだが、《ボーラスの工作員、テゼレット》を落とされた直後のクドウが展開したのは《頭蓋囲い》!
《羽ばたき飛行機械》が《頭蓋囲い》を纏い、《ちらつき蛾の生息地》と共に攻め始めるとついに攻守は切り替わった。
一度目のアタックで小堺ライフ10。
小堺としては出来ることをするしかなく、ターン終了時に《ボロスの魔除け》を放ちただ一枚の手札を握りしめて待つ。
クドウ コウダイ |
この時点でクドウがコントロールしているパーマネントは以下だ。
《島》
《空僻地》
《ちらつき蛾の生息地》
《ダークスティールの城塞》
《オパールのモックス》
《頭蓋囲い》
《羽ばたき飛行機械》(《頭蓋囲い》装備中)
《電結の荒廃者》(+1/+1カウンターは2個)
ここでクドウは二体目の《電結の荒廃者》をプレイ、コンバット前に長考する。
・・・・足りないと判断したのか、フルアタックするのみでターンを返すクドウ。
だがよく見てほしい。
《電結の荒廃者》で《電結の荒廃者》を食べ、《ダークスティールの城塞》《オパールのモックス》をサクリファイス。
この+1/+1カウンター6個を電結し、残る《ちらつき蛾の生息地》《羽ばたき飛行機械》《頭蓋囲い》で攻撃するとちょうど勝利することが出来ていたはずだ。
計12回戦の疲労はクドウの思考能力を奪い去っていた。
そして今日の小堺がこの機を逃すわけもない。
かつてのプロツアーホノルル2006準決勝を覚えているだろうか?
Olivier Ruelが「叩き付けろ!」と言った時、ライブラリーの上から現れたのは。
8年後の今もまた同じ未来が待ち受けていた。
《溶岩の撃ち込み》に続くのは《稲妻のらせん》。
小堺 2-0 クドウ
聞けば小堺は神の副賞を何も知らなかったらしい。
神の副賞としてもたらされる、在位中の晴れる屋トーナメントセンター内大会参加費無料、防衛戦の5万円支給。
無欲こそが神に近づく秘訣だったのか。
初代モダン神の座に就いたのは小堺 透雄(神奈川)!