決勝: 斉藤 伸夫(東京) vs. 川北 史朗(東京)

晴れる屋

By Atsushi Ito


 決勝戦。

 300人のレガシープレイヤーの、頂点。

 『レガシー神』を決めるための、その最後の戦い。

 その勝者は、『The Last Sun2013』のようにコンボでも、『BIG MAGIC OPEN』のように部族でもなく。

 『青白奇跡』という、古典的な青白コントロールの延長線上にあるアーキタイプであることが、ゲームが始まる前から既に確定していた。

 つまり決勝は、『青白奇跡』の同型戦なのだ。

 しかもその使い手が、『The Last Sun2013』トップ4などレガシー界屈指の強豪である『のぶ』こと斉藤と、晴れる屋トーナメントセンターオープン記念レガシー杯で278人の中で優勝した川北だという。

 これほど贅沢な決勝戦には、もう2度と出会えまい。

 高野。高橋。黒川。瀧村。日下部。中道。ひとり、またひとりと強豪が倒れていき、最後に残ったふたり。

 今、ふたりは最も神聖なる場所にいる。

 フィーチャーエリア。神にもっとも近い場所。数多の名勝負の末に、戦士たちが散っていったそれは碑だ。

 レガシーという、マジックの歴史を象徴するフォーマットのもと。《精神を刻む者、ジェイス》が見守る中で。

 まさしく奇跡のような決勝戦が、幕を開けた。





Game 1

 川北の後手1ターン目《師範の占い独楽》に対して斉藤が《渦まく知識》から2ターン目に《相殺》を設置すると、川北から大きなため息が漏れる。互いに《師範の占い独楽》《相殺》コンボの達成に注力するマッチで、《相殺》は3枚しか入っておらず、しかも《師範の占い独楽》と違って《相殺》は相手の動きに干渉できるのだ。

 だから斉藤はリスクを承知でキープした。土地が1枚だが、《渦まく知識》《相殺》がある手札をだ。

 だがしかしその代償として、斉藤の土地は2枚で詰まってしまう。

 《師範の占い独楽》をコントロールしている川北の土地が止まることはほとんどない。つまり《相殺》の設置に成功したとはいえ、斉藤は黙っていては広がっていくマナ差により勝ち目がどんどん薄くなっていくという局面だ。

 それでもここで粘り強く2枚目の《渦まく知識》を引き込んだ斉藤は、これにより3枚目の土地と《師範の占い独楽》を見つけることに成功し、勝負にうって出る。



斉藤 伸夫 



 《渦まく知識》により戻した手札でライブラリトップに『罠』を仕込みつつ、《紅蓮破》構えで《師範の占い独楽》をキャストしたのだ。

 《師範の占い独楽》《相殺》コンボを完成されたら勝ち目がない川北。たまらずこれを《Force of Will》するが、斉藤はこれを《紅蓮破》でしっかりキャッチ。フルタップとはいえ、《師範の占い独楽》《相殺》の両方が盤面に着地する。

 ここで、斉藤が仕込んだ『罠』とは。《師範の占い独楽》《相殺》のロックに対抗しうる手段として最も考えられるのは《精神を刻む者、ジェイス》だ。だから斉藤はそれを予想して、あらかじめトップに『罠』を仕込んでおいた。

 すなわち、《渦まく知識》で戻したライブラリトップ。1枚目が《精神を刻む者、ジェイス》、2枚目が《Force of Will》。斉藤のプランはこうだ。

 返すターンに川北は斉藤のフルタップの隙をつき、ロックに対する返し技として、きっと《精神を刻む者、ジェイス》をキャストする。それをあらかじめ仕込んだ『罠』、『擬似ナチュラル相殺』でカウンターし、次のターンに自分は《精神を刻む者、ジェイス》を手札に加え、《師範の占い独楽》《相殺》で牽制しつつ、まだ見ぬトップ2枚から4枚目の土地を見つけ出す。そしてさらに続くターン、トップに《Force of Will》を積んだ状態で自ら《精神を刻む者、ジェイス》をキャスト。たとえ川北がさらなる《Force of Will》を持っていてもかわすことが可能となる。

 2ターン先まで見据えた、緻密なプランニング。

 それは確かに、これまでの『青白奇跡』の同型というマッチアップでは、限りなく正解に近いプレイだったのかもしれない。

 だが、レガシー環境は常に変化する。その変化が今回は、斉藤を裏切った。

 川北がキャストしたのは、レガシー環境が得た最も新しい力。『コンスピラシー』によってもたらされた、この局面で唯一無二の回答。


議会の採決



 《相殺》を壊す《議会の採決》!!

 もし仮に《Force of Will》を2枚目に積んでいなければ、カウンターできていた。川北のデッキに1枚しか入っていない裏目を引いてしまった格好となった斉藤。

 かくしてお互いに《師範の占い独楽》のみとなり、こうなると土地が伸びている川北が有利。斉藤は続く《相殺》こそ《Force of Will》するものの、ライブラリトップになかなか土地が見えない。

 それでも、代わりに2枚目の《相殺》を見つけ、《師範の占い独楽》タップで引き入れてキャストする。

 だが、ここで川北もようやくそれに辿りついた。

 斉藤のトップは今だけは《師範の占い独楽》。そう、今だけは。

 だから、今だけは通るスペルがある。

 《精神を刻む者、ジェイス》

 +2能力で《師範の占い独楽》がライブラリボトムに送られてしまうと、斉藤はぽつりとつぶやいた。

斉藤 「次、行きましょう」


斉藤 0-1 川北



Game 2

 《師範の占い独楽》《相殺》もない静かな立ち上がり。

 ゲームが動いたのは斉藤の4ターン目のエンド前、川北がキャストした《ヴェンディリオン三人衆》

 これにスタックで斉藤も《ヴェンディリオン三人衆》をプレイする。公開された川北の手札は、

《相殺》
《瞬唱の魔道士》
《呪文貫き》
《青霊破》
《Force of Will》
《溢れかえる岸辺》

 ここから《相殺》をライブラリーの下へ。そして川北の《ヴェンディリオン三人衆》には余った1マナから《赤霊破》を合わせる。

川北 「早まったな」

 多くの情報を晒した上に、クロックで先行されてしまった川北。しかし慌てず《瞬唱の魔道士》《渦まく知識》をフラッシュバックし、逆転の機会をうかがう。



川北 史朗 



 そしてそのときは、意外に早く訪れた。斉藤のアタック時に川北は引き込んでいた《ヴェンディリオン三人衆》の2体目をキャストすると、斉藤の《対抗呪文》に対して《呪文貫き》×2を合わせる!!

 公開された齋藤の手札が、川北とは対照的だった。

《解呪》
《仕組まれた爆薬》
《渦まく知識》
《島》

 活躍する局面が限定的なカードが2枚。さらにシャッフル手段のない《渦まく知識》に、既に不要となった6枚目の土地。斉藤の窮状を見て取り、瞬時に「そのままで」と宣言する川北。そして《ヴェンディリオン三人衆》が相打ちとなり、《瞬唱の魔道士》だけが残る。

 加えて、今や斉藤の手札に何ら脅威がないことが明らかになった。すなわち。


精神を刻む者、ジェイス



 《精神を刻む者、ジェイス》が、川北の場に降臨してしまう。

 だが、返す斉藤も《精神を刻む者、ジェイス》を引き込む。川北の残り手札は2枚。

 それがよりにもよって、《Force of Will》だった。

 ゲームの流れが、一気に川北のもとに傾いていく。





 起死回生の《天使への願い》《白鳥の歌》され、それでも《仕組まれた爆薬》《相殺》《瞬唱の魔道士》は排除するが、プレインズウォーカーの差が大きい。

 《精神を刻む者、ジェイス》の0能力と《師範の占い独楽》の合わせ技。純粋に斉藤の2倍以上のスピードで、ライブラリを掘り進めていく。

 そして、そのときは訪れた。

 奇跡のような決勝戦の幕引きだからこそ、奇跡のようにあっけなく終わるものだ。

 すなわち川北が、《天使への願い》『奇跡』をプレイして見せたのだった。


斉藤 0-2 川北



 もうすぐあれから1年になる。晴れる屋トーナメントセンターがオープンしたときのことだ。

 オープン記念に開かれたレガシー大会で、川北はフィーチャーエリアの壁面に描かれた《精神を刻む者、ジェイス》を背にトロフィーショットを撮った最初のプレイヤーとなった。

 だから。きっとそのときから、この優勝は必然だった。

 フィーチャーエリアに宿ったプレインズウォーカーが、今日というよき日に川北が『レガシー神』になれるよう、力を貸したのだ。

 何故なら、そのカード。今日幾度となく川北を助け、そして決勝戦でもこれ以上ないタイミングで駆けつけた、マジック史上でも他に類を見ないほどのパワーカードは、とある『2つ名』を持っているからだ。

 強力無比な4つの能力を持ち、その使い手を勝利という遥かな高みに幾度となく導いてきた、青き守護神。それは俗に。

 『神ジェイス』と、そう呼ばれている。





 『レガシー神決定戦』、優勝は川北 史朗(東京)!『レガシー神』おめでとう!!