PT『マジック2015』がもっと楽しくなる3つの観戦ガイド Part2

高橋 純也


 Part1は【こちら】



■ 2.スタンダード観戦ガイド

 拡張エキスパンションが6つに基本セットが2つ。合計すると8つものエキスパンションが使用できる現スタンダード環境は、スタンダードという枠組みの中でも最大級のカードプールを有している。

 『マジック基本セット2015』導入前は「黒信心」が環境の覇者として君臨し、グランプリシカゴ14でのトップ8に5人という隆盛(参考記事)を筆頭に、プロツアー『テーロス』以降は常にTier1として活躍し続けていた。

 常に最強のアーキタイプというわけではなかったが、《思考囲い》《冒涜の悪魔》《変わり谷》など、単色でも十分に優秀なカードが揃っていたことが強みだったのだ。

 その他のアーキタイプにも様々な魅力はあったものの、どこかしらにピーキーさや弱点を抱えているものが多く、「黒信心」だけがほぼ単色かつ高クオリティという構成で圧倒的な安定性を誇っていた。

 そんな環境が、『マジック基本セット2015』が導入されたことでどのような変化を遂げるのか。

 今回のプロツアー『マジック2015』では、スタンダード環境の集大成として、デッキビルダーたちのプライドが「黒信心」に勝るのかも1つの見どころだ。

 それでは、スタンダードを観戦するうえで注目のトピックを幾つか紹介しよう。



一.最大限の可能性と現実的な選択肢


 ちょうど1年前の今頃のスタンダード環境は、10あまりのアーキタイプが思い思いに活躍していた。まだ環境には3色のコントロールが存在し、少数名が「グルールミッドレンジ」や「黒緑コントロール」に着手し始めた頃だ。

 そして1年後の現在に目を戻すと、「各色信心」「緑系アグロ」「白系アグロ」「青白コントロール」「黒系ミッドレンジ」「PWコントロール」「赤系」と昨年ほどではないものの、十分な数のアーキタイプが活躍の機会を伺っている。

 このように多くのアーキタイプが活躍する背景としては、当然のように潤沢なカードプールという前提がある。上で述べたように、現在のスタンダード環境は最大のカードプールを持っているのだ。そのため、存在するアイデア、マナベース、キーカード、シナジーなどあらゆる要素が最大値を示して、多くのアーキタイプの存在を許容している。


マナの合流点森の女人像スフィンクスの啓示



 優秀なマナベースと数多くの選択肢。新たなデッキを構築するには最高の環境だ。

 だが、『プロツアー』を勝ち抜くとなると、また違った観点が求められる。

 それは「新しく組み上げたデッキが結果を残してきた既存のデッキよりも本当に優秀なのか」ということだ。

 きっと環境は潤沢なカードプールでプレイヤーたちが実現したいことを全て叶えてくれるだろう。

 しかし、そこで実現した夢がこれまでの現実に勝るかはわからない。

 パワーカードをふんだんに詰め込んだ5色のコントロールが、単色デッキの4枚の《変わり谷》に蹂躙されることは想像に易いのだ。

 それでも、歴戦のトッププレイヤー達が挑む『プロツアー』には少なからず既存の環境を塗り替えるような驚きがあることに期待したい。



二.注目のアーキタイプ


 ここでは、数多くあるアーキタイプの中から今大会で注目の3つを紹介する。


「緑白アグロ」



Scott Lipp 「緑白ビートダウン」 SCGO Kansas City (優勝)

8 《森》
8 《平地》
4 《寺院の庭》
4 《マナの合流点》

-土地(24)-

4 《実験体》
3 《万神殿の兵士》
3 《陽刃のエルフ》
4 《復活の声》
4 《羊毛鬣のライオン》
3 《ロクソドンの強打者》
3 《加護のサテュロス》

-クリーチャー(24)-
3 《セレズニアの魔除け》
4 《ワームの到来》
3 《払拭の光》
2 《群れの統率者アジャニ》

-呪文(12)-
4 《空殴り》
3 《神々の思し召し》
2 《狩人狩り》
2 《セテッサ式戦術》
2 《不動のアジャニ》
1 《神討ち》
1 《払拭の光》

-サイドボード(15)-
hareruya

 これは先週末のSCGO Kansas Cityを優勝した「緑白アグロ」だ。前環境から変わらない基本に忠実なリストで、インスタントで登場する《ワームの到来》《加護のサテュロス》がトリッキーな動きを見せる。

 アグロとは言いつつも直接火力があるわけではないので、じっくりと盤面を除去耐性のあるクリーチャーたちで押し進めていく。ただただ力押しする割には《群れの統率者アジャニ》《ワームの到来》《セレズニアの魔除け》などといった絡め手をもっているのが魅力的だ。

 《復活の声》を嫌がってタップアウトした対戦相手を《ワームの到来》からの《群れの統率者アジャニ》で刈り取ることも珍しくない。

 マナ拘束の都合上《変わり谷》を採用できないことが弱点で、現状の環境に存在するどのデッキよりもリソースの消費がシビアな構成をしているが、それを許せなくもないほどのパワーを秘めている。
 

「緑系ミッドレンジ」



Matt Tierney 「黒赤緑ビートダウン」 SCGO Kansas City (6位)

4 《森》
4 《血の墓所》
4 《草むした墓》
4 《踏み鳴らされる地》
4 《奔放の神殿》
1 《悪意の神殿》
2 《変わり谷》

-土地(23)-

4 《エルフの神秘家》
4 《森の女人像》
3 《漁る軟泥》
3 《クルフィックスの狩猟者》
4 《ゴーア族の暴行者》
4 《世界を喰らう者、ポルクラノス》
4 《嵐の息吹のドラゴン》

-クリーチャー(26)-
2 《究極の価格》
2 《ミジウムの迫撃砲》
3 《ドムリ・ラーデ》
3 《歓楽者ゼナゴス》
1 《見えざる者、ヴラスカ》

-呪文(11)-
2 《霧裂きのハイドラ》
2 《ナイレアの信奉者》
2 《ゴルガリの魔除け》
2 《ラクドスの復活》
2 《化膿》
1 《ミジウムの迫撃砲》
1 《殺戮遊戯》
1 《ナイレアの弓》
1 《紅蓮の達人チャンドラ》
1 《見えざる者、ヴラスカ》

-サイドボード(15)-
hareruya

 このリストはジャンド色のものだが、ここで紹介するものは緑主体のミッドレンジ全般である。緑白黒で《ヴィズコーパの血男爵》を入れた形など、それぞれのリストには差があるものの、注目すべくは「マナ加速、プレインズウォーカー、優秀なクリーチャー」という組み合わせである。

 このアーキタイプに注目すべき理由は、3色以上のデッキでありながらも決して受け身に回らないデッキだということだ。

 現在の環境においてマナベースは充実し、色を増やすことでの事故は大きな懸念ではなくなった。それ以上に色を増やすことのデメリットとしてあげられるのが、ショックランド及び対抗色ダメージランドを採用することでのライフの損失である。

 そのため、3色のボードコントロールは遅いデッキとのマッチアップでは強力なものの、ボードコントロールながらアグロに弱いというジレンマを抱えてしまう。

 しかし、「緑系ミッドレンジ」のように積極的に主導権を掴みにいく多色デッキは、多色のデメリットとしてアグロには同様に弱く遅いデッキには強いという特徴は抱えるものの、何より多色デッキ同士のマッチアップで無類の強さを発揮するのだ。

 今回の『プロツアー』では、とことん早さを追求するアグロと、「黒信心」を倒すための多色系が目玉になるのではないかと思われる。

 そこで、いずれにせよ早いアグロを徹底的に対策しないのであれば、多色系に強い多色が好ましい選択になるだろう。


「黒信心」「青信心」


 これらはもちろんまったく異なるアーキタイプだが、仮に環境を「挑戦者と王者」という線で区切るならば、どちらも紛れもなく王者側である。装飾せずともデッキコンセプトが強力であることが前提にあり、全てのプレイヤーはこれらを選ぶかそれとも挑戦者として違うアーキタイプで挑むかという選択を迫られるのだ。

 ただ、王者だからと勝利が勝手に落ちてくるということはなく、「黒信心」が特に顕著だが、多色化など勝利のための工夫は検討されている。

 緑ならば《突然の衰微》《見えざる者、ヴラスカ》《世界を目覚めさせる者、ニッサ》《漁る軟泥》


突然の衰微見えざる者、ヴラスカ世界を目覚めさせる者、ニッサ漁る軟泥



 白ならば《ヴィズコーパの血男爵》《太陽の勇者、エルズペス》《ニクス毛の雄羊》《払拭の光》

 
ヴィズコーパの血男爵太陽の勇者、エルズペスニクス毛の雄羊払拭の光



 このように単色では賄えない役割を持ったカードは、カードプールが広がり、複雑になった環境に対応するためには欠かせないものだ。

 ただ、多色化にもメリットとデメリットが存在することはこれまで話したとおりである。土地から受けるダメージやタップインランドによる展開の遅れなど、安易な多色化は失敗のもとなのだ。「青信心」が積極的に多色化をしないこともこういったデメリットが大きいからに他ならない。

 多色化するリスクは如何ほどなのか。多色化したことで得たものは何か。

 対抗色ダメージランドが再録されたことで「黒信心」は安定した多色化ができるようになったとは言われているが、その価値については煮詰まった答えが見つけられていないように思える。
 
 今回のプロツアーでは「黒信心」「青信心」といった王者のアーキタイプがどのように多色化と向き合っていくのだろうか。トッププレイヤー達の取捨選択に注目したい。



三.『マジック基本セット2015』の注目のカード


 スタンダード最後の見どころは、最新エキスパンションである『マジック基本セット2015』のカードたちがどれほどスタンダード環境で活躍するかだ。これまでのエキスパンションのカードは少なからず評価が定まっていたが、いまだその価値が揺れているカードが『マジック基本セット2015』には沢山ある。

 その中から特に物議を醸し出すであろうカードをピックアップした。



《世界を目覚めさせる者、ニッサ》


世界を目覚めさせる者、ニッサ



 『ゼンディカー』ブロックで登場した時にはやや頼りなかったニッサだったが、いつしか派手な能力を手に入れて僕達の前に戻ってきた。まさか再びニッサを見るとは思いもしなかったので戸惑ったが、その能力を見てさらに当惑することになった。

 なんとなく強そうだけど、ほんとうに強いのだろうか?

 試しに「緑系ミッドレンジ」で採用してみると、遅いデッキたちには強く、アグロには弱いというなんとも当然な結果が返ってきた。ただ、その中で気になったことは、土地を起こす能力をあまり効果的に使えずともその評価だったことだ。

 余った土地を次々に4/4に変えて殴り続ける。ただそれだけでも強かったのだ。

 つまり、土地を起こす能力が大きなメリットを生むデッキであれば《世界を目覚めさせる者、ニッサ》の価値は計り知れないものになるだろう。


スフィンクスの啓示首席議長ゼガーナ召喚の調べ



 果たしてサイドボードカードのように特定のデッキに強いだけなのか、はたまたデッキの核になるくらい強力なカードなのか。

 プロツアー『マジック2015』でひとまずの評価は下されるだろう。

 トッププレイヤーたちのジャッジに注目が集まる。
 

《かき立てる炎》


かき立てる炎



 4マナ4点火力と聞くとフンフンと聞き流してしまいそうになるが、それが2マナやそれ以下でプレイできる可能性があるとすればそれは大事件だ。

 そんな危うい期待株が《かき立てる炎》である。

 「召集」がついた火力なので、きっとクリーチャー主体の赤系アグロならばすんなりと入ってしまう性能だ。既存の「バーン」にも《若き紅蓮術士》のトークンに期待して採用されるだろう。

 ただ、このカード単体については「優秀だから入るよね」という評価で構わないが、これが入ったことでどれほど「赤系」のデッキが強くなったかは問題である。

 かつて「黒信心」へのアンチとして活躍したアーキタイプの1つとして「バーン」があった。「黒信心」に満載されている除去が効かず、ただただ手札を右から叩きつけていくだけで勝ててしまうからだ。

 しかし、「バーン」が強いデッキだったかというと、そうではない。「黒信心」の戦略とは噛み合っていたが、昨今の優秀なクリーチャーとダメージレースをするには不安定で、サイドボード後に少しでも対策されていると厳しくなってしまう。その程度のデッキだったのだ。

 だが、それが《かき立てる炎》によって安定した打点が見込めるようになるならば。

 もしかすると「バーン」も強いデッキになったのではないのだろうか?

 また、《ゴブリンの熟練扇動者》が採用されるような「赤系」の高速アグロはどうだろうか?

 「ただ強い火力」という枠組みは出ないものの、それが追加されたことで「これまであと一歩が足りなかったデッキが強化された結果、強いデッキたる水準を越えた」とあれば、それは環境を揺るがしかねない変化なのだ。

 はたして《かき立てる炎》には環境を変えうる力は眠っているのだろうか?



《不動のアジャニ》


不動のアジャニ

 

 この《不動のアジャニ》でこれまでに合計5体のアジャニが登場したことになるが、どれもが強すぎもせず決して弱くもないカードに仕上がっていて面白い。


黄金のたてがみのアジャニ復讐のアジャニ群れの統率者アジャニ英雄の導師、アジャニ



 そして、個人的にはアジャニ界での《不動のアジャニ》の立ち位置はおそらく3番目なのではないかと思っている。1位が《黄金のたてがみのアジャニ》、2位が《復讐のアジャニ》で、それに次ぐ3位ということだ。おそらく各々のアジャニランキングは異なるだろうが、3位はなかなかに高評価だと受け取って欲しい。

 この高評価の理由は、+1の能力に特定のマッチアップを揺るがす「絆魂」がついているからだ。一度+してしまえば忠誠値はなんと5である。一筋縄では倒せない。

 4マナと重いことや-能力が2つの忠誠値を必要とすることなど、気に入らない要素はいくつかあるが、マナ拘束が緩く壊れにくいことから、これから見る機会が多いプレインズウォーカーなのではないかと思う。

 多色化に伴いライフが重要なリソースとなっていることも含めて、今回のプロツアーでも「緑系ミッドレンジ」や「緑白アグロ」などで見かけることがあるのではないかと期待している。



 最後となるPart3はプレイヤーに着目する。

 それでは、Part3でまた会おう。