クソデッキを作ることは、広大な砂漠の中でオアシスを探す行為に似ている。
【前回】の徒労……すなわち。
禁忌である人体錬成の結果0-3を達成してしまったことで、その思いは確信に近くなった。
どれだけ『最強のアイディアが思いついた!』と思ってデッキを組んでみても、いざ実戦に投入すると、そこにあったオアシスはまるで蜃気楼のように消えてしまう。
そのあまりの空しさに、何度となく「もうやめよう」とも思った。
しかし、【バトルワーム】が教えてくれた。幻ではなく本物のオアシスに辿り着き、甘露な水で喉を潤したときの、あのえもいわれぬ快感を。
だから、たとえ待っているのが蜃気楼でも。今はまだこの砂漠で、クソデッキを作り続けていたい。
自分が見出したコンセプトが世界に羽ばたく。
それこそがデッキビルダーにとっての最大の存在証明だと、信じて疑わないからだ。
1.妄想編
クソデッキ、モダンの季節。
そう、GP神戸を控えて世はモダンシーズン。ならばモダンでクソデッキを作るしかない。
そう思ってカードリストを睨めっこするのだが、一向にアイデアが思いつかない。
「吹き荒れる潜在能力」のような、カスレアを使った奇跡のコンセプトに出会えるのは万に一つの確率に等しい。
モダンという環境が始まってから既に3年ほどが経過した。かつてのエクステンデッドとは異なりプレイヤー人口も安定し、デッキビルダーたちが日夜研究を進めているこの環境で、いまだ知られていないコンセプトを見出す可能性はどれくらいあるだろうか。
まるで砂漠のど真ん中でガラスの破片を見つけるようなもの……だがそんな風に考えたとき、ある1つの閃きが宿った。
なにも無理をして知られていないコンセプトを見つける必要はないのではないか。
つまり、既に知られている2つのコンセプトを1つにくっつけることで、全く新たなクソデッキの境地に達することができるのでは。
ここで、モダンには4強があることが知られている。BG、<欠片の双子>、<出産の殻>、親和……しかしこのうちの2つをくっつけることで、5つ目の最強デッキが誕生するのだ。
それは妄想にしてはもっともらしいストーリーに思えた。早速組み合わせを考えてみる。
・BG+<欠片の双子>……4色じゃねーか!
・BG+<出産の殻>……ジャンド殻ってあるよね
・BG+親和……タルモ親和だよねこれ
・<欠片の双子>+<出産の殻>……これも前に見たことがあるな
・<欠片の双子>+親和……何がしたいかわからない
・<出産の殻>+親和…………!?
これだ。
今では《物読み》くらいでしか使われていないキーワード能力、「親和」を持つ《金属ガエル》や《マイアの処罰者》を高速召喚。それらの無駄にでかい「点数で見たマナコスト」を利用し、《出産の殻》でフィニッシャーへと変換する。しかも《出産の殻》はアーティファクトだ。
完璧か。
この「殻親和」で世界を制する!
そう思ったのも束の間。
Travis Woo、てめぇ。
そう、何と4か月も前にChannel Fireballの
このときの私の絶望がわかるだろうか。ただでさえデッキのアイデアが必要なために遅れがちな原稿、しかもモダンでデッキを作れとか言われて
許すまじ、Travis Woo。
しかも開き直って「こいつのアイデアをパクってデッキを作ろう」と思って「変異殻」とか「待機殻」とか考えてたら先に「アロサウルス殻」とかいうぶっ飛んだのやられてて
だが、ここまで虚仮にされて黙っていられるはずもない。
こうなったら、Travis Wooがまだ考えついていないクソデッキを作り上げ、全世界に私の名を轟かせるしかない!
2.爆誕編
そう、「だらだらクソデッキ~新大陸編~」のはじまりである。
新デッキの鍵は《アロサウルス乗り》にあった。
《アロサウルス乗り》の故郷、コールドスナップはモダンでその存在を忘れられがちなエキスパンションであるため、いまだ研究が十分進んでいなかったのだ。
つまりミッションは、デッキビルダーがコールドスナップ(新大陸)より抱えた“厄災”(リスク)のいずれかを攻略し“希望”(リターン)を持ち帰ること。
そう考えてコールドスナップ(新大陸)のカードリストを見直したところ、とある1枚のカードが目に留まった。
《炎の編み込み》。
このカードこそが希望(リターン)だ。
かつて「マナバーン」というルールがあった頃は明確なデメリットだったこのカードの「累加アップキープ」だが、今ではたとえアップキープにマナを使い切れなくても何の弊害もない。
あとはこのカードで生み出したマナを有効に使うことさえできれば……
その発想に至った時点で、既にデッキは出来ていた。
それではお見せしよう。
Travis Wooの発想の斜め下を華麗にくぐり抜ける、至高のクソデッキを!
4 《山》 1 《踏み鳴らされる地》 4 《乾燥台地》 4 《奔放の神殿》 4 《凱旋の神殿》 4 《ニクスの祭殿、ニクソス》 -土地(21)- 4 《オークの司書》 4 《炎樹族の使者》 4 《ウラブラスクの僧侶》 4 《ボロスの反攻者》 4 《ボガーダンのヘルカイト》 4 《引き裂かれし永劫、エムラクール》 -クリーチャー(24)- |
3 《裂け目の突破》 4 《炎の編み込み》 4 《場当たりな襲撃》 4 《悪鬼の血脈、ティボルト》 -呪文(15)- |
4 《難問の鎮め屋》 4 《破壊放題》 4 《神々の憤怒》 3 《ドムリ・ラーデ》 -サイドボード(15)- |
おそろしくクソいデッキ、オレでなきゃ見逃しちゃうね
こんなんどう見ても厄災(リスク)じゃねーかとツッコみたくて逸る気持ちをどうか鎮めて欲しい。
見た目ではわからないかもしれないが、このデッキはシナジーの塊なのだ。
まず《場当たりな襲撃》。
単品で使ってはただの運ゲーなこのカードを、「占術」と《オークの司書》を使ってバックアップする。もちろん《炎の編み込み》からのマナは全てこいつの起動に注ぎ込まれることだろう。
あとは《引き裂かれし永劫、エムラクール》をめくって超!エキサイティン!するだけだ。
また、《炎の編み込み》からのマナは《ボガーダンのヘルカイト》を出すことにも使用できる。もちろん《場当たりな襲撃》でめくれてもいいカードであるという緊密なシナジーもある。
そして万が一《炎の編み込み》を引かなかったときは?
「FIRST COMES ROCK……!!」
そう、《悪鬼の血脈、ティボルト》が稼いだ「信心」により、代わりに《ニクスの祭殿、ニクソス》が十分なマナを供給してくれるのだ。
さらに《悪鬼の血脈、ティボルト》は
この《悪鬼の血脈、ティボルト》というカードはプレインズウォーカーでありながら、「アヴァシンの帰還」が発売されてから今に至るまで「最弱」の象徴として扱われてきたが、これからは違う。
モダン環境にはクリーチャー以外でマナコストが赤赤のパーマネント、すなわち「信心」を稼ぐのに最適な2マナ域は他に《ホブゴブリンの隆盛》くらいしかない。
つまり《悪鬼の血脈、ティボルト》はこの最強のデッキに欠くことができないキーパーツとして、ついに日の目を浴びるときが来たのだ!!
3.実戦編
クソデッキ、ハンター試験に臨む。
◆第1回戦 VS リビングエンド
・1戦目 2ターン目《炎の編み込み》、3ターン目《オークの司書》の返しで相手が全力サイクリングから《死せる生》。しかしこちらの4ターン目アップキープに生成されたマナから《裂け目の突破》→《引き裂かれし永劫、エムラクール》!!だが相手の場にパーマネントが7個あって場に残った《炎血の襲撃者》にどつかれ続けて死亡。
・2戦目 2ターン目に置いた《悪鬼の血脈、ティボルト》がドローを進めたかのように見せかけて引き込んだ土地をそのまま捨てやがるので4マナ目が引けず、《場当たりな襲撃》を設置できない。だが忠誠値が5まで溜まり、奥義は目前!……当然その前に《死せる生》ぶっ込まれて負け。
××
◆第2回戦 VS ライブラリアウト
・1戦目 先手土地1《炎の編み込み》《裂け目の突破》《引き裂かれし永劫、エムラクール》。キープ!……土地を引けず、《面晶体のカニ》2体によって墓地に落ちた《引き裂かれし永劫、エムラクール》が速攻で《外科的摘出》されて投了。
・2戦目 《安らかなる眠り》置かれたけど関係なく《裂け目の突破》《引き裂かれし永劫、エムラクール》でボールを相手のゴールにシュゥゥゥーッ!!
・3戦目 相手が墓地リムーブ系引いてなくて、4枚入ってる《引き裂かれし永劫、エムラクール》によって延々とライブラリーが修復され続ける。そうこうしてるうちに《炎の編み込み》《場当たりな襲撃》《ニクスの祭殿、ニクソス》と盤面に揃い、さあいよいよ祭りの始まりだ!というところで《裂け目の突破》コンボが揃って超!エキサイティン!違う、そういうデッキじゃない。
×〇〇
◆第3回戦 VS マーフォーク
・1戦目 相手のクロックが遅かったので《裂け目の突破》コンボが間に合い、さらに《場当たりな襲撃》のランダム起動がうっかり1発目で《ボガーダンのヘルカイト》を引き当てて勝利。ていうか今気がついたけどこれってやってること「バトルワーム」じゃねぇか。
・2戦目 《ドムリ・ラーデ》《ボロスの反攻者》で粘るが、2枚目の《ドムリ・ラーデ》が《呪文貫き》されて負け。
・3戦目 食らえ2マナ浮かせて《神々の憤怒》!今度は《白鳥の歌》で負け。
〇××
結果:
まつがん 「クセになってんだ 音殺して負けるの」
4.後悔編
さすがにモダンで《悪鬼の血脈、ティボルト》は色々とやばかった。グリードアイランドに放り込まれたモタリケさんのようだった。
しかし今回わかったことは、Travis Wooでも思いつかないデッキとなると異次元になってしまうということだった。
あまり気にせずやっていくしかないだろう。
それではまた次回。
良いクソデッキライフを!