はじめに
お疲れ様です。てんさいチンパンジー(@tensai_manohito)です。
おいでよ『エルドレインの森』、好評発売中!
毎年、スタンダードのローテーション直後(といっても今年はありませんでしたが…)のセットは強力なことが多いです。しかも舞台となるのは”エルドレイン”。《王冠泥棒、オーコ》《むかしむかし》《幸運のクローバー》《創案の火》《大釜の使い魔》……いろいろありましたね(?)
スタンダードはもちろん、ほかフォーマットへどんな影響があるのか。これからの活躍が楽しみです。
今回は「マッチアップの本質に迫る」というテーマであれこれ語ります。
仰々しいタイトルではありますが、要するに「マッチアップ=〇〇対××の試合において、何を考えればよいのか」ということを掘り下げていきます。例としてモダン環境の話が中心になりますが、内容自体はフォーマットによらないものなので、普段はモダンをやらないよ!という方も最後までお付き合いいただけると幸いです。
マッチアップの本質に迫る【理論編】
「〇〇を使って対××には直近で7-3だから有利!」
この相性判断にはあまり意味がありません。あと10試合して、今度は5-5だったら有利ではなく五分になるのでしょうか。次に10試合したらどうなるのでしょうか。今度は不利になるかもしれません。試合数も10試合よりは100試合のほうがよいかもしれません。なら100試合より1000試合のほうがよいでしょう。あと何試合すればその結果に妥当性が生まれるのでしょうか。
手を動かすこと、そしてそこから判断することは無駄ではありませんが、それがすべてになってしまっては本末転倒です。もっと根本の部分から理解する必要があります。
考え方の例として、以下の3つのステップを踏んでマッチアップの本質に迫ります。
①構造を知る
②相性を知る
③立場と展開を知る
今回はモダン環境の「独創力コンボ」「リビングエンド」を例に取って解説していきます。このマッチアップは先日の『第24期モダン神決定戦』と同じなので、それとあわせて読んで・考えていただけるとより理解が深まると思います。サンプルリストもそれを用います。
①構造を知る
まずはそれぞれのデッキの構造を見ていきます。
「独創力コンボ」の構造
カード交換を行ってターンを稼ぐ:《呪文貫き》《稲妻》《力線の束縛》《虹色の終焉》
相手への対処を迫り、結果的にリソースを稼ぐ&タップアウトを誘うパーマネント:《レンと六番》《時を解す者、テフェリー》《鏡割りの寓話》
独創力コンボは《不屈の独創力》をフィニッシュ手段に据えたコンボ・コントロールデッキです。軽量の干渉手段で妨害を挟みつつ、2-3マナ域では有利なトレードが行えるパーマネントを展開します。そのプレッシャーで押しつつ、相手が我慢できずに動いてきたところに《不屈の独創力》からの《残虐の執政官》の踏み倒しを狙います。
《不屈の独創力》自体はフェッチランドとの組み合わせで成立する実質1枚コンボであり、威力もフェアデッキに対しては十分です。かつ、コンボに頼らずとも単体で機能するカードも多く採用されてるため、コントロールデッキとして振る舞うことも可能という柔軟性が強みです。
反面、マナベースは非常に脆弱です。山・タイプを持つ土地を並べつつ全色のカードをまんべんなく使用するため、とにかく土地から受けるダメージが痛いです。また、《残虐の執政官》《ドワーフの鉱山》など手札に来ると使いづらいカードが多く、引きムラによる自爆もそれなりに起きてしまいます。
「独創力コンボ」まとめ
・コンボデッキでありながらコントロールデッキとしても立ち回れる柔軟性がある。
・極端な多色化の影響で土地から受けるダメージが大きい=素早くライフを詰めるデッキが苦手。
・引くとこを引けば強いが、無駄ドローが多いと自爆しやすい。
「リビングエンド」の構造
墓地を貯める「サイクリング」クリーチャー:《オリファント》《気前のよいエント》《縞カワヘビ》《秘法の管理者》etc
リビングエンドは《死せる生》をフィニッシュ手段に据えた墓地利用のコンボデッキです。序盤は「サイクリング」を行い、3ターン目以降に《断片無き工作員》《暴力的な突発》から《死せる生》を唱えて一気に戦場を支配します。
コンボに必要なカード自体は「続唱」呪文1枚でよいので、残りの構成はすべて「サイクリング」やバックアップに当てられます。圧倒的な速度と威力と再現性で、特にメイン戦はモダン環境においても最強といわれています。
しかし、サイド後は各種対策カードが重くのしかかります。メインでの固定パーツが多すぎてアグレッシブサイドボーディングが上手くいかないタイプなため、必ず相手の対策カードと付き合う必要があります。また、対策がメジャーな無色かつ軽量であるものが多い(《虚空の杯》《大祖始の遺産》など)ため、対策の飛んでこない相手が存在しません。そのため、あらゆるマッチアップでサイド後が厳しくなります。
「リビングエンド」まとめ
・コンボの安定感&威力は最強クラス。メイン戦は必勝レベル。
・柔軟性がなく、サイド後は対策されやすい。
②相性を知る
お互いの構造を知った上で今度は相性を測ります。「リビングエンド」対「独創力コンボ」はどちらが有利でどちらが不利でしょうか。
相性分析その[1]
「リビングエンド」対「独創力コンボ」はお互いに必殺技を持ったコンボデッキ。
お互いに妨害がない前提とすると、
リビングエンド:3ターン目以降に戦場をリセットしつつ、3体以上のクリーチャーを並べ、20点近くのダメージを叩き出す。
独創力コンボ:4ターン目以降に《残虐の執政官》を踏み倒すのみ。
相性分析その[2]
リビングエンド:独創力コンボには《悲嘆》も《否定の力》も有効。
独創力コンボ:リビングエンドには《呪文貫き》《時を解す者、テフェリー》は有効。そのほかの除去は無痛で、一切妨害として機能しないレベル。
独創力コンボ側の《不屈の独創力》は、《暴力的な突発》からのインスタントタイミングの《死せる生》で妨害されながら展開されてしまう。仮に《不屈の独創力》が通って《残虐の執政官》が出たとしても、《断片無き工作員》からの《死せる生》でやはり簡単に返されてしまう。
それに対して、リビングエンド側の《死せる生》は通ってしまえばほぼ勝ち。クリーチャーの数にもよるが、返しに《残虐の執政官》が出てきたとしても押し切れる物量を用意することも可能。
妨害手段もソフトカウンターの《呪文貫き》か隙の大きい《時を解す者、テフェリー》のみ。《時を解す者、テフェリー》は通ってしまうと詰んでしまうが、ソーサリータイミングの3マナと大振りなアクションなので《否定の力》で咎めやすく、隙も大きい。また《悲嘆》で事前に取り除くことも可能。
[1]でコンボの威力はリビングエンドのほうが優れており、[2]で直接コンセプト同士が激突したときやコンボの通しやすさ・妨害手段などもリビングエンドが優れています。
つまり、「リビングエンド」対「独創力コンボ」はリビングエンドが有利といえます。
「〇〇を使って対××には直近で7-3だから有利!」
この相性判断にはあまり意味がありません。
これをあまり意味がないといったのは、結局のところ何試合やろうが構造は変わらないからです。[1][2]の内容は何試合やっても変わりません。なぜなら構造は同じだからです。当たり前ですね。
③立場と展開を知る
有利/不利は理解できました。ただそれだけでは意味がありません。それを実践に役に立てて初めて知識としての価値があります。では、有利な側はどうすればいいでしょうか。逆に不利な側はなにをすればいいでしょうか。
有利な側は自分の動きを通せれば基本的には問題ありません。理由はここまで掘り下げてきた通りです。そのため、大きくサイドを変更する必要性は薄いです。また、相手の対策を透かす意味でアグレッシブサイドボーディングが肯定されやすいです。
有利な立場だからこそ、さまざまな選択肢があります。逆に不利な側はそのままやっても不利なので、何かしらの対策が必要になります。
今回の例では「独創力コンボ」対「リビングエンド」の相性はリビングエンド側が有利です。独創力コンボ側はコンセプトに沿って《残虐の執政官》を出せたとしても、それでは勝てません。 つまり、独創力コンボ側から何かをしなければなりません。
まずは不利な側から考えます。不利な側がどのような展開に持ち込みたいのかを考え、有利な側がそれに対応する必要があるのかどうかを考えていきます。
独創力コンボ(不利な側)視点:
お互いが普通に戦ったら相性通りリビングエンドが勝利する可能性が高いため、独創力コンボは何かしらの対応を求められます。
独創力コンボは、《不屈の独創力》の制約で基本的に墓地対策(《大祖始の遺産》など)・「続唱」対策(《虚空の杯》)が取れないため、《神聖なる月光》のようなキラーカードが必要です。また、攻めの起点である《不屈の独創力》がまったく上手く使えないので、これもサイドアウトの視野に入れます。
試合展開もそれに沿ってイメージします。《不屈の独創力》を使って勝てない以上、ほかの勝利手段を考えます。
《時を解す者、テフェリー》は対リビングエンドにおいて最上級の妨害です。維持しているだけでゲームに負けることはありません。《時を解す者、テフェリー》さえ通ってしまえばリビングエンドができることはほとんどありません。そのため、勝利手段はなんでもよいです。《不屈の独創力》を用いて勝つ必要はありません。
ドワーフ・トークンで殴る・《鏡割りの寓話》×2をそろえる・《レンと六番》の奥義(からの《神聖なる月光》《稲妻》連打)などなど。どれでも構いません。《不屈の独創力》のようなリスクのあるカードに頼る必要はないのです。
つまり、戦い方は「《呪文貫き》やサイド後から追加される打ち消し(《狼狽の嵐》《才能の試験》《方程式の改変》など)を駆使して、《時を解す者、テフェリー》を通す&守る」ということになります。独創力コンボだからといって《不屈の独創力》をサイドアウトしてはいけないというルールはありません。柔軟に行きましょう。
リビングエンド(有利な側)視点:
基本的には大きな変更は不要です。相手の対策のレベルに合わせて対応しましょう。
単なるソーサリーの仕掛けは《神聖なる月光》《才能の試験》がクリーンヒットしやすいため、《断片無き工作員》単体で仕掛けることはありません。必ず《暴力的な突発》で相手のターン終了時から仕掛けるか、もしくは《悲嘆》や《否定の力》のようなバックアップが必要になります。そのため、サイド後は《神秘の論争》のような打ち消しと《断片無き工作員》を差し替えるのが良いでしょう。
独創力コンボはサイドにアーティファクトを取れないことが一般的なため、苦手とする《虚空の杯》や《大祖始の遺産》が入っていないケースがほとんどです。相手がほかの方法で過剰にサイドを取っている(《虚空の力線》や《神聖なる月光》など)場合は、《忍耐》や《緻密》などを追加してビートダウンも狙う、といったことを視野に入れます。
マッチアップの本質に迫る【実践編】
実践的な内容で例を挙げます。サンプルリストから実際に両者のサイドボーディングを考えてみてください。私の考える解答例も置いておきます。これが正解とは限りませんが、自分の考えと照らし合わせてみてください。
例1. 「独創力コンボ」対「リビングエンド」の独創力コンボ視点
例2. 「リビングエンド」対「リビングエンド」のリビングエンド視点
「独創力コンボ」「リビングエンド」についてはいずれもデッキガイドがありますので、こちらも参考にしてください。
- 2023/01/19
- 4色型「独創力コンボ」デッキガイド ~残虐にイージーウィンしよう~
- 増田 勝仁
- 2023/07/27
- 「リビングエンド」アップデートガイド ~『指輪物語』からの新戦力~
- 増田 勝仁
- 2023/08/30
- デッキガイドの読み方 ~自分に合った情報を読み取ろう~
- 増田 勝仁
おわりに
「マッチアップの本質に迫る」は以上になります。
「〇〇対××は、最近は〇〇のほうが勝ってるから○○が有利なんだろうな~」といった曖昧な相性判断をせず、構造から正しく掘り下げられるようになれば、結果に左右されず有利/不利を測ることができます。
有利/不利が測れるようになればそのマッチアップの焦点も自ずと見えてきますし、そうなれば適切なサイドボーディングが行えるようになり、適切なサイドボーディングが行えれば勝率のアップも狙えるでしょう。
“マッチアップの本質に迫る”ための手助けとして、本記事が参考になれば幸いです。
増田 勝仁(X)