By Atsushi Ito
中村 貴稔。彼はかつて、名もなきプレイヤーだった。
だがある時、後に「MTGSHOP 晴れる屋」を始めることとなる齋藤 友晴に「何かニックネームを付けようよ」と提案され、そのときに半ば強引に定着させられたものが、今でも彼のあだ名となっている。
「デミゴン」。
《復讐の亜神》から想起したというその一見間抜けな響きの名前は、当初こそ知り合いからすら苦笑交じりに呼ばれていたが、やがては定着し、中村は「デミゴン」としてマジック界で多くの友人たちを得るに至った。
それ自体は、言ってしまえば何てことのない話だ。
だが今、何年越しかもわからないようなスパンで、その伏線が回収されるときが来た。
「神シリーズ」。
「デミゴン」の名づけ親である齋藤自身がプロデュースし、そのネーミングセンスを如何なく発揮した一連の企画。
そのスタンダードの「挑戦者決定戦」……スタンダード、モダン、レガシーという3つのフォーマットの「神」に挑むプレイヤーを決定するための戦い……そこで、見事トップ8に残ったのだ。
すなわち、亜神たる「デミゴン」がついに「神」になるチャンスを得たという、何とも象徴的な構図なのである。
中村、はたしてこの伏線を回収することができるか。
対して、平田は横浜~町田近辺を中心に活動するプレイヤーで、普段はPWCに主に出場しているとのこと。
その平田だが、準々決勝の開始前から憂鬱な顔を隠さない。
平田 「トップ8で唯一当たってはいけないところ踏んだよ……」
平田のデッキは青単。対して中村のデッキは、タッチ黒はしているものの、その実質は青白コントロール。
そう聞けば、わかる人にはわかるであろう。平田にとっては絶望的な相性差のあるマッチアップである。
青単は「信心」を稼がなければならないという都合上、全体除去にすこぶる弱い。
特にプロテクション(赤)を持つ《波使い》さえも易々と薙ぎ払う《至高の評決》は、サイド後まで含めても決して克服することのできない、青単にとっての鬼門なのだ。
ここさえ乗り越えればRabble Redなど有利なマッチアップが多いトップ8。平田に今日一番の難関が立ちはだかる。
Game 1
後手の上にダブルマリガンとなってしまった平田。だが《凍結燃焼の奇魔》から《海の神、タッサ》を着地させることに成功する。
コントロールを相手にするにあたって必須の条件となる「3ターン目タッサ」を達成した平田。
さらに続くターンには《潮縛りの魔道士》を展開し、5つの「信心」を揃えて合計8点を入れると、ここまで《予言》くらいしかアクションがなく、不気味に5マナオープンでターンを返す中村に対して、さらにダメ押しの《夜帷の死霊》を追加。「信心」の減少をケアした上で全力アタック!
平田 弘達 |
だが、それこそが中村の待ち望んでいた展開だった。
プロツアー『マジック2015』を制したテクニックが、平田に容赦なく襲い掛かる。
すなわち、《急かし》からの《至高の評決》!!
1対3交換。ダブルマリガンの平田にはあまりにも厳しい。
それでも、手札を使い切りながら《雲ヒレの猛禽》《夜帷の死霊》と並べ、再び《海の神、タッサ》を顕現させるが、そこには当然2枚目の《至高の評決》が。
何とか食い下がろうとする平田だったが、中村の《思考を築く者、ジェイス》が着地すると、《思考を築く者、ジェイス》が《思考を築く者、ジェイス》を、そして更なるドローを呼ぶ。
「占術」しながら毎ターン展開するパーマネントはきっちり1対1交換で処理されていき。
あとは中村が《スフィンクスの啓示》に辿りつくのを待つのみなのだった。
中村 1-0 平田
平田は定石通り《雲ヒレの猛禽》や《波使い》を抜き、カウンターや《思考を築く者、ジェイス》を代わりに入れていく。
青単信心が、大量のカウンターのバックアップを受けた青単コントロールへと変化する。
Game 2
今度は7枚でキープできた平田。《潮縛りの魔道士》を2連打し、プレッシャーをかけていく。
対して、2ターン目に《神聖なる泉》をアンタップインしておきながら3枚目の土地をタップインで返した中村。この挙動を訝しむ平田だが、仕掛けるならマナが少ない今しかない。
セット《ニクスの祭殿、ニクソス》、4マナを生み出して《島》1枚を立たせて《中略》ケアの《タッサの二叉槍》!
中村 貴稔 |
相性差最悪のマッチアップだが、通れば一転平田優勢になるこのカード。
しかし、この日の中村は「持って」いた。
たった2マナしか立っていない中村がキャストしたのは、100点満点の回答である《反論》!
さらに、続いて返すターンにはクロックを一掃する《至高の評決》!!
平田も《凱旋の間》《凍結燃焼の奇魔》と再展開するが、ライフ4まで追い詰めたところで《次元の浄化》で全て薙ぎ払われてしまう。
さらに《夜帷の死霊》の返しでフルタップの《スフィンクスの啓示》X=4……これに対してカウンターが、ない。
サイド後に8枚も投入したカウンターも、引かなければ意味がない。
挙句の果てに、遅れてやってきた《海の神、タッサ》は《神討ち》の餌食となってしまい。
絶望の鐘が鳴る。
《スフィンクスの啓示》X=7。
中村 2-0 平田