決勝: 砂田 翔吾(神奈川) vs. 中村 肇(神奈川)

晴れる屋

By Atsushi Ito


 さすがにここまでは、予想していなかった。

 始まる前に【この記事】を書いたときには、「決勝に残るどちらかはバーンになるかな」というくらいの気持ちだったのだ。

 それがまさか。

 バーン対バーン。

 ここまで圧倒的な結果になるとは。

 だが、それも当然だったのかもしれない。それらのデッキの使い手たちもまた、一流のプレイヤーだったからだ。

 中村 肇

 自身プロツアー最高順位13位という強豪でありつつも、菊名合宿を主宰するなどプロと草の根とをつなぐ立ち位置も担う関東マジック界の影のドン。


 砂田 翔吾

 プロツアーの参加経験もある強豪。グランプリ静岡08での13位入賞や草の根大会などで安定した好成績は残すものの、これまで今一歩で勝ちきることができていなかった。しかし今日ついに、その殻を破るときがきたのだ。

砂田 「昨日適当に作ったデッキなんだけどなーw」

中村 「奇遇だねぇ俺もだよw 《宝船の巡航》ってカードが強すぎた」

 戦いの前に交わす会話は、いかに現在のモダンでバーンが、そして《宝船の巡航》が強いかという話に終始した。

 2人がここまで勝ち上がったのは、やはり必然だったのかもしれない。

 『タルキール覇王譚』からの新戦力をこれ以上なく使いこなした、ということ以上に。

 バーンで神の座をもぎ取った『モダン神』小堺 透雄に、導かれていたのだろう。

 バーン神への挑戦者を決める、バーン同士の決勝戦。

 最高に「熱い」戦いが今、幕を開けた。





Game 1


 先手を取った中村だが、マリガンを強いられてしまう。マリガン後の手札を見ても芳しくなさげだが、それでもダブマリよりは、とキープを宣言。そして早速《ゴブリンの先達》が走る。バーン同型では対戦相手にアドバンテージを供給しかねない危険なカードだが、《裂け目の稲妻》がめくれて事なきを得る。

 対して砂田も《山》をフェッチすると、『タルキール覇王譚』からの新顔《僧院の速槍》を走らせる。

 続く《ゴブリンの先達》のアタックでめくれたのは《焼尽の猛火》。クロック面で逆転されてしまうことがほぼ確定した中村、ここは一旦《僧院の速槍》《稲妻》するのだが。



中村 肇 


 中村の表情は冴えない。それもそのはず、2枚目の土地が置けないままターンを返す羽目になったのだ。

 予定調和の《焼尽の猛火》でクロックを処理する砂田に対して中村はなおも2枚目の土地がないまま《裂け目の稲妻》を待機するが、砂田に《大歓楽の幻霊》を合わせられ、2点食らいつつもこれに当てざるをえない。度重なるフェッチランドの使用により、互いのライフは既に13まで落ち込んでいる。

 13点。それはバーンにとっては射程圏内も同然だ。

 砂田が《溶岩の撃ち込み》《裂け目の稲妻》待機と攻め立てる。中村もようやく土地を引き込むが、フェッチランドを起動するとライフが3の倍数になって死亡確率が飛躍的に高まるため、おいそれとは起動できない。

 もはや砂田の火力が中村のライフを削りきるのに足りないことを祈るしかないという状況だ。

 そんな中村を尻目にメインで《欠片の飛来》を本体に飛ばした砂田。

 続けて告げられた呪文が、わずかな希望に縋る中村に絶望をもたらした。

宝船の巡航


 わずか1マナでの《宝船の巡航》

 3枚も引き増した後で、火力が足りないはずもなかった。


砂田 1-0 中村



Game 2


 今回の大会で「バーンデッキが隆盛するだろう」と予想することは、Magic Onlineの結果などを追っていればそんなに難しいことではなかった。

 だから、自身バーンを使う彼らも。

 当然同型対策は怠っていなかった。

 砂田の《ゴブリンの先達》《灼熱の血》を浴びせた中村が3ターン目にキャストしたのは、《ドラゴンの爪》。互いが赤い呪文を連打するバーン同型戦では果てしないライフ量を獲得できる強力なサイドカードだ。

 このカードを乗り越えるためには、呪文をプレイすることなくダメージを与え続けることができる、「クリーチャーによるクロック」が必要不可欠となる。

 しかしバーンというデッキは火力呪文を満載しており、相手のクロックを捌くことに長けているため、通常のバーンでは《ドラゴンの爪》そのものを破壊するという手段に頼らざるをえない。

 そう、通常のバーンならば。



砂田 翔吾 


 だが、砂田のバーンは全てのプレイヤーの先を行っていた。

 バーン同型を対策するということは当然相手のサイドボードの《ドラゴンの爪》も乗り越えるということだ。

 だから砂田は用意していた。「クリーチャーによるクロック」でありながら、バーンの火力呪文によっては捌かれない最強のサイドカードを。


聖トラフトの霊


 砂田がキャストしたのは、6点という超強力なクロックと「呪禁」を持つ《聖トラフトの霊》

 しかし、それでも《ドラゴンの爪》の回復量は並大抵ではない。砂田の火力呪文の威力を減殺すると同時に、中村が火力呪文をプレイし続ける限り、ライフは回復され続ける。

 いつしか砂田のライフは8点まで落ち込み、それでもようやく中村の手札が尽きようとしていたところで。

 中村がプレイしたのは、今日の大会を象徴するカード。

 すなわち《宝船の巡航》





 ……だが、3枚を引いた中村の表情が険しい。というか半ば笑いをこらえている。砂田の8点というライフは、バーンが3枚もカードを引けば削りきれないほどではないはずだ。それなのに。

 どうにか真剣な表情を保った中村は《大歓楽の幻霊》をキャストし、砂田が待機した《裂け目の稲妻》をプレイさせて2点を与える。砂田のライフは6点。中村の手札は3枚もある。それなのに。

 砂田の《聖トラフトの霊》がもう何度目かという重い一撃を与え。

 カードを引いた中村は、土地ばかりの手札を公開して手を差し出した。


砂田 2-0 中村



 実際のところ、中村と砂田とではバーン同型への意識、防火意識に大きな差があった。

 砂田のデッキは《聖トラフトの霊》以外にも、バーンに対する備えがそもそも万全だったのだ。

 戦いを終え、サイドボードを戻す砂田の手からこぼれ落ちたもの。

 それは《コーの火歩き》《神聖の力線》だった。

コーの火歩き神聖の力線


 《宝船の巡航》という最新テクニックを取り入れただけでなく、勝ち上がってくるデッキを的確に予想し、最適なサイドボードを構築した砂田。

 その実力は、挑戦者にふさわしい。






 第2期モダン神挑戦者決定戦、優勝は砂田 翔吾(神奈川)!おめでとう!!