By Atsushi Ito
一昔前までは、レガシーといえば瞬殺コンボが跋扈する殺伐とした環境だった。
だがいつの間にか《秘密を掘り下げる者》や《石鍛冶の神秘家》といった近年のオーバースペックなクリーチャーに厳選された除去やカウンターをまぶしたクロックパーミッションがメタの中心となり、当たり前のように撃たれる《Force of Will》の嵐を前に、コンボ使いたちは次第にデッキを乗り換えることを余儀なくされていった。
しかし、それでもコンボを使うことを諦めないプレイヤーもいる。
その一人が川本。デッキは懐かしのANTだ。
対するは青白奇跡を駆る青柳。レガシー神決定戦で惜しくも準優勝、紙一重で神の座を逃した斉藤 伸夫と親交が深く、今回のデッキも斉藤と2人で調整したデッキとのこと。
そんな2人の試合前の表情は対照的だ。
川本 「ミラクルにだけは当たりたくなかったんですよ……」
青柳 「いやいや、でも僕さえ乗り越えればあとは天国じゃないですか(笑)」
余裕のある青柳に対して川本の表情は暗い。
川本が自嘲的に言うように、ANT対青白奇跡となるとANT側がかなり厳しいマッチアップなのだ。《相殺》という、マナがかからない《対抗呪文》があるからだ。
しかも今回川本は奇跡対策にサイドに採っていた《花の絨毯》の代わりに別のカードを入れてしまっているのだ。
川本 「ミラクル対策にと思ってサイドに買ったばかりのカード入れてたんですけど……弱すぎましたね。見ます?」
青柳 「いいんですか?」
川本 「どうせサイドインしませんから(笑)」
川本 「3マナが重すぎて弱いですね」
とはいえANTといえばレガシーの中でもかなり速い部類の瞬殺コンボデッキ。どんな相性差でも初手次第で十分覆しうる。
はたして川本は青柳の隙をついてコンボを決めることができるか。
Game 1
先手は川本。
《渦まく知識》
《渦まく知識》
《暗黒の儀式》
《陰謀団式療法》
《水蓮の花びら》
《Volcanic Island》
《汚染された三角州》
というハンドを秒でキープしたのに対し、青柳は渋い顔でマリガン。相手のデッキは知っている。メインボードで必要なのは特定の1~2種類のカードだけだ。
《Force of Will》、そして何より《相殺》。それらがない手札はキープするに値しない。
しかし6枚でキープした青柳が1ターン目にプレイしたのは《大祖始の遺産》。メインから思わぬ対策カードが登場し、川本は《炎の中の過去》ルートを封じられてしまう。
これに対し川本は2ターン目にフェッチを置いて《渦まく知識》をプレイ、ターンエンド。
川本 耕平 |
それが分岐点だった。
返す青柳が2ターン目にプレイしたのは《相殺》!
いきなりゲームがクライマックスに突入する。
こうなると残り時間は少ない。めくれ次第では一気に決めるつもりでエンド前に《渦まく知識》を撃つ川本だが、ナチュラルな《相殺》の誘発でめくれたのは《剣を鍬に》。流れは完全に青柳に向いている。
そして《大祖始の遺産》のマナが起きた3ターン目。悠然とターンを返す青柳に対し、引き込んだ《定業》でお伺いを立てるが。
再びめくれた青柳のトップは、何と最悪の《師範の占い独楽》!
手札に溢れんばかりの1マナのカードを眺めつつ、次のターンに《相殺》《師範の占い独楽》コンボの完成を予告された川本は潔く「投了します」と宣言した。
川本 「初手を見たときは『2ターン目にセラピーで《相殺》指定するぞ、絶対するぞ』って思ってたのに、気が付いたらターンを返してしまった……」
青柳 1-0 川本
川本は以下のようにサイドチェンジした。
Game 2
《水蓮の花びら》
《ライオンの瞳のダイアモンド》
《ギタクシア派の調査》
《渦まく知識》
《冥府の教示者》
に加えて土地がフェッチ2枚というまずまずの手札をキープした川本は《ギタクシア派の調査》で青柳の手札を覗くが、そこには
《Force of Will》
《狼狽の嵐》
《白鳥の歌》
《精神を刻む者、ジェイス》
に土地が3枚という完璧な妨害手札。
川本は引き込んだ《思案》から《渦まく知識》とドロースペルを連打するが、手札破壊をサイドアウトしてしまったこともあって仕掛けるタイミングが見当たらない。一方青柳は《師範の占い独楽》を設置し、さらに手札を整えにいく。
それでも川本は《冥府の教示者》をキャスト、これが通るや《むかつき》を公開し、2枚目の《むかつき》を手に入れるのだが、もう1度《ギタクシア派の調査》で覗いた青柳の手札には《対抗呪文》が増えており、鉄壁の布陣。
やむなく1枚目の《むかつき》を《狼狽の嵐》に、2枚目を《対抗呪文》に飛び込ませるが、まだ《白鳥の歌》、そして何より《Force of Will》が残っている。
青柳 元彦 |
さらに青柳は《ヴェンディリオン三人衆》で川本の手札を逆に覗き見、残った脅威である《冥府の教示者》をボトムに追いやると、さらに《精神を刻む者、ジェイス》で川本のドローを検閲し始める。
やがて《大祖始の遺産》まで置かれ、《炎の中の過去》ルートも潰されると、あとはストームを溜めに溜めての《苦悶の触手》素打ちプランしか川本には残されていない。
既に《苦悶の触手》は手札にある。だが検閲されたドローでは、ストームが圧倒的に足りていないのだ。
そうこうしているうちに《精神を刻む者、ジェイス》の忠誠値は「10」を超え。
《ヴェンディリオン三人衆》で《苦悶の触手》さえも下に送られ。
結局川本は一度も「ストーム」呪文を唱えることすらできないまま、青柳に敗北したのだった。
青柳 2-0 川本