レガシー神決定戦: 高鳥 航平(東京) vs. 川北 史朗(東京)

晴れる屋


By Atsushi Ito


 スタンダード神、0-3で陥落。

 モダン神、0-3で陥落。

 この圧倒的に「神」陣営が不利な流れの中で、今日最後の決定戦、レガシー神決定戦が始まろうとしている。

 だが、この神は。

 あれからエターナルフェスティバル東京2014でも優勝し、日本レガシー界のタイトルを総なめにするのではないかというほどの勢いの持ち主なのだ。

 レガシー神……《精神を刻む者、ジェイス》の化身、川北 史朗(東京)

 しかし、最後に残った対戦相手もこれまた難敵だ。川北の旧知で、手の内をよく知っている。

 挑戦者……《ヴェールのリリアナ》を最もうまく使える男、高鳥 航平(東京)





 2人の実力は伯仲している。

 だからあとは、それぞれが相手のためにどのようなデッキを用意したか(参考:【神と挑戦者の読み合い: レガシー編】)、その精度が求められる。

 川北も高鳥も、今一番の関心事は「相手は何のデッキを持ち込んだのか?」だろう。

 それを示すかのように、川北がシャッフル中にデッキを崩しかけるもカードは全部裏向きのままで事なきを得たとき。

高鳥 「どうせ今回も1枚ウン十万なんでしょ(笑)」

川北 「あー今回ね……高い(笑)」

 既知の間柄故の軽い会話の応酬ともとれるが、相手がFoil好きの川北と知っている高鳥が言うならば、それは「いつも通りのデッキなんでしょ?」という確認ともとれる。

 それを「答えていいのかどうか」川北が一瞬逡巡したのも、はたして高鳥がそういう意図を持って聞いたのかどうか、測りかねたからだろう。

 デッキの情報はキープ基準につながり、サイドボーディングにまで響く。

 2人がそれを何よりも重要視してこの戦いに臨んでいると、この一連で分かるというもの。

 それもそのはず、彼らは明らかに互いを目いっぱい意識して、互いを倒すためのデッキを組んできたからだ(参考:【第2期レガシー神決定戦デッキリスト】)。

 通常のメタゲームでは通用しない、しかしこの「神決定戦」という舞台でだけは最強のデッキとなりえるような、そんなデッキを。

 だから、今誰よりも。川北は高鳥を見て、高鳥は川北を見ていた。

 ともに立川の地で切磋琢磨する間柄だからこそ。

 今だけは、負けられない戦いだった。




Game 1
 先手の高鳥が《Bayou》から《ミリーの悪知恵》でエンドに対し、川北はFoilの《汚染された三角州》からβの《Underground Sea》、そしてFoilの《思考囲い》と川北らしい種類の、しかし「青白奇跡」で「第1期神決定戦」「エターナルフェスティバル」を制した川北らしからぬカードをプレイする。明らかとなった高鳥の手札は、

《ゴブリンの熟練扇動者》
《闇の腹心》
《森の知恵》
《霧深い雨林》
《Badlands》

 「(やっぱり)ジャンドじゃねーか!」言いながら《闇の腹心》を落とす川北。

 だがトップ3枚を見た高鳥は《Hymn to Tourach》を撃ちこむ。そしてランダムで2枚を選んだ結果、川北の手札の唯一の土地である《Karakas》《不毛の大地》を叩き落とすことに成功する。

 一方川北は「ひどい……」と言いながら《コジレックの審問》《ゴブリンの熟練扇動者》を落とすものの、さらに《不毛の大地》で唯一の土地を割られてしまい、《森の知恵》まで置かれて苦しい展開。さらに《思考囲い》

《Force of Will》
《Force of Will》
《石鍛冶の神秘家》
《未練ある魂》
《剣を鍬に》

 から《石鍛冶の神秘家》が落とされると、土地が引けない川北は《ゴブリンの熟練扇動者》《Force of Will》するしかない。それでも、ようやく再び1枚目となる土地を引き込んだ川北。続く《ゴブリンの熟練扇動者》《剣を鍬に》で抑えこむと、続くターンのドローは値千金の《宝船の巡航》

宝船の巡航


 ここから川北の反撃が始まる。

 まずは《石鍛冶の神秘家》を送り出すが、これは秒で《罰する火》されるが、まだ《燃え柳の木立ち》がないため損な交換ではない。さらに《未練ある魂》《森の知恵》のペイライフで少なくなった高鳥のライフを攻め立てにいく。

 高鳥も《闇の腹心》を送り出し、何とか《ミリーの悪知恵》を生かそうとするが、《闇の腹心》《名誉回復》されると、高鳥は《破滅的な行為》を起動せざるをえない。

 川北はなおも《渦まく知識》を引き込むと、使い道がなくなった《Force of Will》を思い切ってライブラリに戻し、《思考囲い》で安全確認してから《未練ある魂》をフラッシュバック。

 返す高鳥は《ヴェールのリリアナ》を送り出すが、川北はなおも2枚目の《未練ある魂》を表裏で撃ってトークンを並べ、ついに高鳥の防御網をかいくぐることに成功する。

 それでもようやく《燃え柳の木立ち》に辿りつき、《罰する火》を回収してまだワンチャンス……という高鳥だったが。

天使への願い


 続く川北のドローはデッキに1枚の《天使への願い》!!

 「ジャンドには天使を奇跡すれば勝てる」という、いつか聞いたインタビュー通り。

 一度はパーマネントが完全になくなったとは思えないほどの圧倒的なリカバリーで、川北が1本を先取した。


高鳥 0-1 川北



Game 2
 《Bayou》から《死儀礼のシャーマン》スタートの高鳥に対し、《Underground Sea》から《水没》という受けを見せる川北。しかし再展開から《不毛の大地》を食らうと、今度はこの最強のマナクリーチャーに対する回答がなく、ジャンドを象徴するプレインズウォーカー=《ヴェールのリリアナ》が着地してしまう。

 しかし、高鳥は手札が強いのか起動を悩む。もし+1すると自分のリソースが減ってしまう上に、《未練ある魂》《宝船の巡航》をプレイされてしまうかもしれない。結局高鳥はそのターンは「能力を起動しないこと」を選択することにして、川北が2枚目の土地=《不毛の大地》を置いた返しで+1能力を起動、リソースを締め上げにいく。

 だが、川北は冷静に計算を済ませていた。

 置いてあった《湿地の干潟》の起動に高鳥の《死儀礼のシャーマン》の墓地掃除のスタックがないのを見るや、セット土地から墓地5枚を「探査」でリムーブ、3マナフルタップで《宝船の巡航》をプレイしたのだ!

 こうなると手札差がついて逆に《ヴェールのリリアナ》のディスカードが重くのしかかる高鳥。さらに続くターンには《遍歴の騎士、エルズペス》を追加され、一転厳しい盤面に。

 それでも、《罰する火》でトークンのアタックを防いで-6能力の「奥義」を発動させるが、川北の青マナと《遍歴の騎士、エルズペス》本体をまとめて葬り去るにとどまる。

 一方、いまだ《未練ある魂》で意気軒昂に見える川北だったが、高鳥の青マナ潰しが地味に響き、高鳥の《罰する火》エンジンへの打開策を引き込めないでいた。

 少しずつトークンでライフを削ってはいくが、決定打には程遠い。

 高鳥のライフが残り8点となったところでようやく青マナをリカバリーして《真の名の宿敵》を送り出すが、これには高鳥の狙い澄ました《紅蓮破》が突き刺さる。

 それでも、《死儀礼のシャーマン》《剣を鍬に》して攻めの姿勢を崩さない。

 だが高鳥の場に《ゴブリンの熟練扇動者》が出ると、川北の手が止まる。

 選択肢は色々あるのだ。《殴打頭蓋》《精神を刻む者、ジェイス》、どれも考えられる。だが、どれが一番優秀な選択肢なのか。

 慎重に考えた結果、《渦まく知識》から《石鍛冶の神秘家》でアドバンテージを取り、さらに《Hymn to Tourach》で後顧の憂いを絶つプランを選択した川北。しかし《ゴブリンの熟練扇動者》の2体目を引き込まれると、一瞬にしてライフが射程圏内に。

 とはいえ高鳥の残りライフも少ない。詰めるべくスピリット・トークンが2体アタックした後に、ようやく《殴打頭蓋》を降臨させ、《ゴブリンの熟練扇動者》へのブロッカーに回すが。

 「あっ、ミスった」

 そう、高鳥に《罰する火》を2枚回収されると、盤面で死んでいるのだった。


高鳥 1-1 川北



Game 3
 後手1ターン目に《死儀礼のシャーマン》をプレイする高鳥に対し、川北はエンド前《剣を鍬に》から《Hymn to Tourach》を撃ち込み、逆に高鳥のリソースを削りにいく。

 高鳥もリソースを回復するべく《闇の腹心》を送り出すが、さらなる《Hymn to Tourach》で手札を空にされ、続けて《真の名の宿敵》を送り出されると、直後に《闇の腹心》《紅蓮破》をめくって「遅せー(笑)」と漏らす。

 さらに《闇の腹心》《剣を鍬に》された返しに《ゴブリンの熟練扇動者》を送り出すが、ここで川北のトップが《梅澤の十手》!!

 これは無視できないと《真髄の針》で能力起動を封じるが、川北は青い呪文を全くプレイせず、《紅蓮破》《赤霊破》が完全に腐ってしまった格好。

 さらにダメ押しとして素引きしていた《殴打頭蓋》までプレイすると、高鳥はあっさりと投了を認めた。


高鳥 1-2 川北



Game 4
 「川北は必ず《渦まく知識》を使ってくる」

 高鳥のその予想は、確かに間違ってはいなかった。

 だが《渦まく知識》を使ってなお、「青いカードをキーカードにしない構築」というのは可能なのだ。

 それが川北が今回デザインした、「白黒《石鍛冶の神秘家》タッチ《渦まく知識》&《宝船の巡航》」だった。高鳥の《紅蓮破》《赤霊破》に頼り切った青対策をすり抜ける、究極の「高鳥メタ」デッキだ。その真価が、3ゲーム目では明らかとなった。

 しかし、高鳥もメインの《紅蓮破》系4積み(!)だけで川北対策が万全だと思っていたわけではない。この4ゲーム目では逆に川北がそれを思い知らされることとなる。



高鳥 航平 


 《闇の腹心》スタートに対し《剣を鍬に》を当てられなかった川北は《Hymn to Tourach》で攻め立てるが、さらに《ゴブリンの熟練扇動者》まで並べられると、アドバンテージ面でもクロック面でも一気に苦しくなってくる。

 《渦まく知識》を連打し、どうにか1枚だけ《剣を鍬に》は引き込めたが、対象が難しい。

 それでも「まあこっちか、仕方がない」と意を決して《闇の腹心》の方を農場送りにする。

 なおも川北は《ゴブリンの熟練扇動者》による6点のアタックを受けた返しで《石鍛冶の神秘家》をプレイ、《剣を鍬に》は引き込めないもののどうにか《ゴブリンの熟練扇動者》を止める算段をつけようとするが、返すターンのドローを見て高鳥がニヤリと笑う。

情け知らずのガラク


 すなわち、《情け知らずのガラク》

 「強すぎるよそのカード!」と川北が叫ぶ間に「格闘」で《石鍛冶の神秘家》は墓地に送られ、またしても大ダメージを受けた川北の残りライフは2点。

 ライブラリートップを《渦まく知識》で知っているため、悪あがきに自分に《外科的摘出》を撃ち、ライブラリーを再度シャッフルして《仕組まれた爆薬》に辿りつき、0起動で裏返った《ヴェールの呪いのガラク/Garruk, the Veil-Cursed》ごとゴブリントークンを一掃する川北だったが。

 《石鍛冶の神秘家》のブロック前にX=2で《破滅的な行為》が起動され、ゲームは5本目にもつれ込んだ。


高鳥 2-2 川北



Game 5
 高鳥の後手1ターン目《ミリーの悪知恵》に対し、川北はエンド前《渦まく知識》から《石鍛冶の神秘家》《殴打頭蓋》スタートの川北。だがこれには《罰する火》が飛ぶ。

 しかし、《燃え柳の木立ち》も置いてありこれを放置できないと見るや川北は《名誉回復》で土地を叩き割ると、高鳥がキャストした《闇の腹心》を返しで《ヴェールのリリアナ》で処理しつつ、ここまで毎ターン切ったフェッチの恩恵で《宝船の巡航》を1マナでプレイするビッグターン!

 高鳥も《ゴブリンの熟練扇動者》《ヴェールのリリアナ》を落として食らいついていくが、川北はさらに《剣を鍬に》から《遍歴の騎士、エルズペス》。有り余る手札から、次々と脅威を展開していく。

 一方高鳥は《ミリーの悪知恵》があるとはいえ、ドローの回数は所詮1回。このままではジリ貧になってしまう……

 というところで、先ほど高鳥を勝利に導いた《情け知らずのガラク》が駆けつけ、すぐさまヴェールの呪いに蝕まれる。《遍歴の騎士、エルズペス》と睨み合う格好になる。

 ひとまず《渦まく知識》した川北。1枚目のドローで一瞬逡巡した。それは明らかな「間」だった。

 《Hymn to Tourach》を撃ち、満を持して《天使への願い》「奇跡」!

 しかし高鳥もさるもの、待ってましたと言わんばかりに《破滅的な行為》。川北、溜め息が漏れる。

 とはいえ、《宝船の巡航》で引き増している川北。《ゴブリンの熟練扇動者》は落ち着いて《精神を刻む者、ジェイス》でバウンスしてから《コジレックの審問》し、さらに《虚無の呪文爆弾》で墓地の《罰する火》も取り除きにいく。

 高鳥も再びの《罰する火》《精神を刻む者、ジェイス》を落とすが、《遍歴の騎士、エルズペス》は落としきれず、《ヴェールの呪いのガラク/Garruk, the Veil-Cursed》を維持しつつ少しずつプレッシャーをかけていくほかない。

 しかし川北が《殴打頭蓋》をキャストすると、高鳥、これに対する対応策がなく、リシャッフルを続ける。



川北 史朗 


 さらに《ミリーの悪知恵》が解決された後、「終わった後!」と力強く宣言して高鳥を制止。そして《外科的摘出》で幾度も自身を苦しめた《罰する火》を抜く。

 トップのカードは……「あっぶねー」「《クローサの掌握》でした(笑) 終わったかなー」引くはずだったカードをリシャッフルされ、最後の希望を摘み取られた格好の高鳥。

 やがて細菌トークンが白のプレインズウォーカーの助けを借りて空を飛び、忠誠値が溜まった《ヴェールの呪いのガラク/Garruk, the Veil-Cursed》を一撃のもとに葬り去る。

 何とか目の前の脅威を唯一対処できる《クローサの掌握》には再び辿りついた高鳥だったが。

 ついにそのときは訪れた。

 起動された《遍歴の騎士、エルズペス》の「奥義」、「破壊されない」からの《梅澤の十手》!!

高鳥 「これは……もう無理かなー」

 そしてようやく、長かったシーソーゲームの果てに、川北が「神」たる地位を防衛したのだった。


高鳥 2-3 川北
 あらかじめジャンドを本線に想定し、相手がその通りのデッキだった川北と違い、高鳥は川北の使用候補として最も有力な「青白奇跡」を切ることができなかった。

 だから高鳥は今回の対戦ではほとんどサイドボードを有効に活用することができなかったのだ。

 高鳥が川北メタカードとしてメインに搭載した《紅蓮破》《赤霊破》すらも、川北のデッキには十分な効果を発揮しなかった。

 高鳥の嗜好と思考を読み、自身の青志向を生かしつつもそれらを完璧にかわそうと指向したデッキを練り上げた川北こそ、至高の「神」にふさわしかった。きっと、そういうことなのだろう。





レガシー神決定戦、勝者は川北 史朗(東京)!レガシー神、防衛成功おめでとう!!