Round 8: Austin Hatfield(東京) vs. 津村 健志(東京)

晴れる屋



By Daisuke Kawasaki


 マジックのプロとは一体なんなのか、というのはプロツアーが開催されるたびに議論される。

 賞金をもらっていればプロなのか、それともプロレベルがゴールド、もしくはプラチナならばプロなのか。はたまた、スポンサードされていればプロなのか。

 個人的な意見では、「プロとしての矜持」を持っていれば、それはプロなのだろうと思う。「プロとしての矜持」といってもなんのことっちゃという感じで、結局答えになってはいないのだが、過去にプロプレイヤーを多く見てきた経験上、そういう漠然としたものに支えられているだろうと確信している。

 津村にとって「プロとしての矜持」とはなんなのだろうか。昔、プロシーンの最前線で戦っていた時の津村にとって、それは「プロツアーで勝つこと」だっただろう。しかし、この3回ほどプロツアーで初日落ちしている津村にとって、「プロツアーで勝つこと」だけが矜持なのだろうか。

 プロツアーに勝っていないとしても、Hareruya Prosに所属していること、普通に考えればそれも津村が「マジックのプロである」理由にはなるだろう。だが、すでに津村は他のプロと違う目線で「プロとしての矜持」を持っているように見える。

 質の高い記事を、日本公式サイトhappymtgで連載する津村。そして、津村はその記事の掲載を自分のプロ生活の中で重要なものとして位置づけている。週に2回行われるニコ生配信も含めて質の高い情報をプレイヤーに届けること、それこそが今の津村の「プロとしての矜持」なのではないかと筆者は思う。

 翻って、津村にとって質の高い情報とは「ゲームに勝てる情報」であり、「勝っている人から発信される情報」だ。津村自身が質の高い情報を発信し続けるためには自分自身が勝たなければいけない。自分の矜持のために、津村には勝利が必要なのだ。

 今回、津村が持ち込んだデッキは、スタンダード・モダンともに、自身の放送や記事で紹介し、そのクオリティを賞賛してきたデッキである。そして、それを持って、最終ランド前で6勝1敗という成績を残している。

 最終戦、対戦するのは、本日唯一全勝をキープしているAustin Herfieldだ。





Game 1

 ダイスロールで先手はAustin。

 互いにマリガンなく、Austinは《平地》のセットから《教区の勇者》をプレイ、続くターンに《魂の管理人》をプレイして《教区の勇者》に+1/+1カウンターを載せる。さらに《二の足踏みのノリン》を追加することで3/3となった《教区の勇者》がアタックすると《二の足踏みのノリン》が戦場を離れる。津村のライフは17。そして攻撃終了後に《二の足踏みのノリン》が戦場に戻ってくることで《教区の勇者》にカウンターが載り、《魂の管理人》でライフが回復する。

 これがAustinの使用しているデッキのメインギミックだ。

教区の勇者魂の管理人二の足踏みのノリン


 続くターンに、Austinは2体目の《二の足踏みのノリン》をプレイ。これによって最初の《二の足踏みのノリン》はレジェンドルールが発生する前に戦場を離れる。さらに《軍勢の忠節者》がプレイされると、2体目の《二の足踏みのノリン》も戦場の外へ。

 そしてターン終了時に《二の足踏みのノリン》2体が戦場に戻ってきて、それぞれ《教区の勇者》《魂の管理人》を誘発させた上で、レジェンドルールによって、1体が戦場に残る。ここまで《二の足踏みのノリン》が人間が戦場に出た時の効果をトリガーしまくった事により、早くも《教区の勇者》は7/7という《甲鱗のワーム》に迫るサイズとなっている。

 手札にバウンスを持たない津村は、この圧倒的なスピードで成長する《教区の勇者》を前に土地を片付けるしかないのだった。


Austin 1-0 津村



Game 2

 先手の津村は除去とドロー、そして《秘密を掘り下げる者》の揃った手札をキープ。これが2ターン目に裏返る、という理想的な展開にはならなかったものの、Austinの初動である《教区の勇者》《二股の稲妻》で処理しつつ、2枚目の《秘密を掘り下げる者》を展開することに成功する。

 対して、Austinの2ターン目も、《教区の勇者》のおかわりに《稲妻》《秘密を掘り下げる者》を除去という中々のもの。3ターン目になっても《秘密を掘り下げる者》が変身しない津村は少し厳しい戦いを強いられる事となる。

 ここで津村は、まず《僧院の速槍》をプレイし、《血清の幻視》《ギタクシア派の調査》と続けてプレイすることで「果敢」を誘発させ、Austinのライフを11まで落ち込ませる。

 そして、ここで《宝船の巡航》を引き当てる。これで少しは楽に戦えるかと思ったところなのだが、Austinはさらなる《教区の勇者》から《魂の管理人》を追加し、3/3となった《教区の勇者》でアタックという手厳しいもの。これによって津村のライフは10となる。



津村 健志 


 《秘密を掘り下げる者》はなおも変身しない。津村は自身のターンにフェッチの力を借りて、赤マナを含む2マナ残した状態で《宝船の巡航》をプレイ。そして、2体のクリーチャーをアンタップ状態で残してターンを終える。

 ここで、2体の《教区の勇者》を抑えつつの《電謀》《魂の管理人》を除去しながらターンを稼ぎ、続くターンに《イゼットの静電術師》をプレイして、ブロッカーを確保する。Austinは続く人間クリーチャーを引き当てられないようで、《教区の勇者》のサイズを思うように大きくできない。

 そして、耐え続けた津村は、2発目の《宝船の巡航》のプレイにたどり着く。そして引き当てた《稲妻》でサイズの大きい方の《教区の勇者》を除去し、2/2の《教区の勇者》を0/3の《イゼットの静電術師》で止められている、という状況を作り上げる。

 Austinは状況打破するべく《戦列への復帰》をX=2でプレイ。これに対応して《マグマのしぶき》《教区の勇者》を除去し、さらに戦場に戻ってきた《教区の勇者》も+1/+1カウンターが載る前に《イゼットの静電術師》で除去する。

 津村は帰って自分のターンになると、《宝船の巡航》をプレイしつつ《タルモゴイフ》を追加。これによって主導権を完全に奪う形となる。


 そして4発目の《宝船の巡航》をプレイすると、そのままゲームを勝利したのだった。


Austin 1-1 津村



Game 3

 初手を見て即断でキープしたAustinに対して、《稲妻》《ギタクシア派の調査》に土地が5枚という初手を長考の末マリガンした津村。

 続く6枚は除去と合わせて《僧院の速槍》というクロックもあるものだったのでキープ、Austinの《魂の従者》プレイでゲームがスタートする。

 津村はフェッチの使用から《僧院の速槍》をプレイ。一方のAutinは《アジャニの群れ仲間》をライフゲインによって強化しつつ戦場に追加する。さらに《起源室》のプレイから《魂の管理人》が追加された事で、ライフゲインと+1/+1カウンターのゲインが止まらないモードに突入する。



Austin Hatfield 



 ここで《稲妻》を手札に持っていた津村だったのだが、このコンボが動いている間に全くレスポンスをせず、《アジャニの群れ仲間》が巨大化するのを放置し、ターンエンドに《魂の従者》を除去するという不可解な動きをする。

 その理由は、初手からあった《不忠の糸》。これによって6/6の《アジャニの群れ仲間》を手に入れることとなる。

 だが、Austinは2体目の《アジャニの群れ仲間》を戦場に追加し、さらに《二の足踏みのノリン》をプレイする。これによって、毎ターン《二の足踏みのノリン》が戦場を離れては戻り、《起源室》《魂の管理人》を誘発させ、2ライフをゲインしつつ、《アジャニの群れ仲間》に+1/+1カウンターが2つ乗っていくというエンジンが完成してしまう。

 そして、このエンジンは津村がクリーチャーをプレイした時にすら機能してしまうため、《アジャニの群れ仲間》はみるみるうちに、14個の+1/+1カウンターを載せた状態、つまりは16/16という《引き裂かれし永劫、エムラクール》を超えたサイズとなってしまう。一方の津村の《アジャニの群れ仲間》は6/6よりサイズが大きくなることはない。

 回答を用意しなければいけない津村は、まず《宝船の巡航》をプレイ。さらに《ギタクシア派の調査》でAustinのたった1枚の手札が《紅蓮地獄》であることを確認する。

 そして、この《ギタクシア派の調査》で引き当てたカードが2枚目の《不忠の糸》。これによって、やっと16/16への回答を手に入れるのだが、しかし、この時点でライフは津村が9にAustinが34という状態。津村は2体の《タルモゴイフ》に、6/6と16/16の《アジャニの群れ仲間》とサイズでは盤面を制圧しているのだが、毎ターン《起源室》から産み出されるAustinのマイアトークンがすでに10体と、次の回答を見つけなければいけない状態だ。まさに一難去ってまた一難といった状況。

 端的に言えば、Austinのコントロールするマイアトークンの数と、津村のコントロールするクリーチャーの数の差が津村のライフである9を超えればゲームが終わるわけで、津村は毎ターン2体以上増え続けるマイアトークンの数と、相手の34点のライフを削り切る変形ライフレースを強いられている形となる。





 マナを支払っての《ギタクシア派の調査》《血清の幻視》で山札を掘り下げていく津村。この状況を打破できるカードは《電謀》のみ。

 だが、Austinがマイアトークンをレッドゾーンに送り込む前に《電謀》を引き当てることはできないのであった。


Austin 2-1 津村


 Austin、172人中唯一の全勝で初日を折り返し!