By Daisuke Kawasaki
宮下 「世界選手権の時のリストとあまり変えてないんですね」
市川 「ワールド終わってから、ほとんどモダンやってないからね」
The Last Sunの決勝ラウンドは、昨年と同じようにスイスラウンドの上位者がスタンダードとモダン、どちらのフォーマットで戦うか選ぶことができて、スタンディングが上位の宮下がどちらのフォーマットにするか決めるために互いのリストを見ているのだけれども、そもそもモダンで赤青《宝船の巡航》バーンを使う宮下がどちらのデッキを選ぶかは決まっているようなものだった。
そんなことより、冒頭の会話を聞いて感じたのは、ちょうど1年前の同じく準々決勝で、フォーマットは違うものの市川がBUGデルバーを使って山本と戦っていた時は、まさかこんなことになるとは誰も思っていなかっただろう、ということだった。
なにせ、市川が使っているリストのほとんどを宮下はリスト交換前にほぼ知っているのだ。世界選手権で市川が使ったデッキとして。
1年前の市川は、若手の中でも特に売り出し中のプレイヤーで、その貪欲な向上心できっと日本のトップグループに食い込むプレイヤーになるだろうと予測されていたし、観戦記事でもそんなようなことを書いたけど、まさかプロツアートップ8入賞を2回果たしてプラチナレベルとなり、そして世界選手権に出場するようなプレイヤーにたったの1年で上り詰めるとまでは思っていなくて、件の記事の締めでも書いたように、僕の書くことなんて、本当にいつも適当で嘘ばかりだ。
The Finalsが若手の登竜門と呼ばれていたから、The Last Sunも同じように若手の登竜門で、市川のブレイクがそれを証明しているではないか、なんていうと、さすがにThe Last Sunを持ち上げ過ぎで市川にも失礼なのだが、そんな風に色々な物語を夢想したくなってしまうくらいに市川は魅力的で力強いプレイヤーなのだ。
そんなことを考えているうちに、二人の戦うフォーマットはやはりモダンに決まったようだ。
Game 1
ダイスロールで先手は宮下。互いにマリガンはなく、宮下は《血染めのぬかるみ》から《山》をサーチし、《ゴブリンの先達》をプレイし、市川に土地を与えつつも2点のダメージを与える。対する市川は、予想外に手札が増えてしまったのもあり、少考した後に、《島》をセットしてから《霧深い雨林》をディスカードする。
宮下は続くターンに《聖なる鋳造所》をアンタップインすると、《僧院の速槍》をプレイ、ダメージ解決前に本体に《稲妻》を打ち込み、市川のライフは11。返すターンに《踏み鳴らされる地》をアンタップインし、ライフを9にしながらも《タルモゴイフ》を戦場に送り出す。
この《タルモゴイフ》に怯むことなく、宮下は《僧院の速槍》を追加し、3体でアタック、《ゴブリンの先達》がブロックされ、市川のライフは7となる。市川は《タルモゴイフ》でアタックし、宮下のライフを12とすると、2体目の《タルモゴイフ》を召喚する。
市川 ユウキ |
宮下は《タルモゴイフ》のサイズを落とす意図も含めて墓地を全力でリムーブして《宝船の巡航》をプレイした後に、《ゴブリンの先達》を召喚。この《ゴブリンの先達》が《タルモゴイフ》にキャッチされるが、「果敢」が誘発している《僧院の速槍》2体で4点のダメージが入り、市川のライフは3となる。
この危険水域のライフを前に、宮下の手札は3枚。市川は《血清の幻視》をプレイした後に、《島》を置いて長考。3体目の《タルモゴイフ》を召喚すると、1体をアタックさせる。これで宮下のライフは8。
続くターンのアタックでライフレースを逆転できる可能性を残したプランだったが、宮下が《稲妻》を公開すると、市川はライフはゼロとなる。
宮下 1-0 市川
Game 1は勝利したものの、宮下の手は試合前から震えていて、サイドボーディング後にはサイドボードの枚数を間違えていて、その後のシャッフルも手が思うように動かないのでしきりに腕を振っていた。
別に、目の前にいる市川の顔が恐いから、というわけではないだろう。公式のカバレージでネタにされてしまうくらいに、対戦中の市川の顔は確かに恐いのだけれども、そもそも宮下の緊張の源は別のところにある。
宮下 「すごい緊張しますよ。こんな大きな舞台で対戦するの初めてですから。今まで、グランプリの初日を抜けたことすらないんですよ」
晴れる屋トーナメントセンターで主にマジックをプレイしている宮下にしてみれば、The Last Sunは予選を突破して、やっと手に入れた権利で参加している大会で、その決勝ラウンドに自分がいるなんて、5-3という成績で帰った昨日の帰り道には想像もできなかったことだろう。
ましてや、目の前に座っているのは、プロツアーや世界選手権で、ニコ生の向こうで声援を送っていた超有名プレイヤーなのだから、緊張をするなという方が無理だ。
宮下にとっては、今、この瞬間が、自分のマジック人生で最初の晴れ舞台なのだ。
Game 2
先手は市川。互いにマリガンはなく、宮下が《僧院の速槍》をプレイしアタックするところで、市川が《マグマのしぶき》をプレイするところからゲームがスタートする。
そして、続くターン、手札に《タルモゴイフ》を持つ市川だが、一方で《呪文嵌め》を構えられる手札。ここで、市川は《繁殖池》をアンタップでセットし、ターンを終える事を選択する。
宮下は2枚めの《僧院の速槍》を召喚してアタック。これが通って市川のライフは16。ターンの終わりに市川は《思考掃き》をプレイするが、ここで土地とインスタント以外に新しいカードタイプは落ちない。
市川は今度は1マナを残せる状態で《タルモゴイフ》を召喚する。この2/3の《タルモゴイフ》に宮下の《僧院の速槍》はアタック。《タルモゴイフ》がブロックしたところで、《灼熱の血》をプレイする。この《灼熱の血》は《呪文嵌め》でカウンターした市川だったが、続いて《流刑への道》がキャストされ、《タルモゴイフ》は追放されてしまう。
だが、この攻防を経て、墓地が7枚となった市川は、1マナで《宝船の巡航》をプレイ。そして、こうして増えた潤沢な手札を利用し、まずは《死亡+退場》で《僧院の速槍》を除去し、そして《タルモゴイフ》を戦場に送り込む。この時点で、ライフは宮下が16に対して、市川が15と宮下にとってかなり厳しい状況となる。
このタップアウトの隙に少しでもライフを削っておきたい宮下は、《ボロスの魔除け》で4点のダメージを与え、ターンを終える。一方の市川は、2回の《血清の幻視》の後に、《タルモゴイフ》でアタックし、こちらも宮下に4点のダメージを与える。
宮下は《裂け目の稲妻》の待機のみでターンを返す。一方の市川は2枚めの《宝船の巡航》をプレイした後に、2体目の《タルモゴイフ》。これには宮下も思わず「厳しいな」と言葉を漏らす。
ライフが8の宮下は次のターンに2体の《タルモゴイフ》のアタックでライフがゼロになってしまうので、待機した《裂け目の稲妻》を「博打だなぁ」とつぶやきつつ《タルモゴイフ》に打ち込み、そして祈るように《灼熱の血》をプレイ。
だが、無情にもここには《剥奪》が突き刺さる。
宮下はブロッカーとして《ゴブリンの先達》を召喚するが、市川は《僧院の速槍》を召喚し、チャンプブロックを強要しつつ5点のダメージを与える。そして、追加の《タルモゴイフ》と《秘密を掘り下げる者》が召喚されると、続くドローを見て宮下は土地を片付けた。
宮下 1-1 市川
RUGデルバーとバーンの対戦でキモとなるのは、《タルモゴイフ》を引いた枚数だ、というような話をいつだったかインタビューした市川から聞いた記憶がある。
このマッチで市川は「いやぁ、タルモがすごい駆けつけて来た。追放された分も含めれば、4枚全部ここにあった」と語り、そして、それに対して宮下も「さすがにタルモ引かれすぎですよ!さすがは25000円のカード!」と少し緊張のとけた感じで市川と話した。顔は怖いが誰とでも気さくに話せるのが市川のいいところだ。
全てのカードは、どんなプレイヤーが使っても同じように効果を発揮する。テーブルを挟んで戦うのならば、戦績は関係なく、そこでの腕で勝負が決まる。
だから、試合前は談笑するし、でも試合が始まれば勝負師の顔になる。
Game 3
再び先攻は宮下。ここで土地が1枚の初手を悩んでキープした市川だったが、宮下が1ターン目にアタックさせた《ゴブリンの先達》が、市川に2枚目の土地を贈ってくれる。
市川は《二股の稲妻》で《ゴブリンの先達》を除去、返して宮下は追加のクロックを用意できない。一方の市川は、《血清の幻視》の力も借りて不安だったマナベースを安定させることに成功する。
だが、ここで宮下が戦場に追加したのは、《聖トラフトの霊》。これには少し顔をしかめる市川だったが、《秘密を掘り下げる者》をプレイしてターンを終える。そして、この《秘密を掘り下げる者》に打ち込まれた《焼尽の猛火》を《払拭》でカウンターする。《聖トラフトの霊》が天使トークンと共にアタックして、市川のライフは10。
市川は自身のアップキープに《死亡+退場》を公開して《秘密を掘り下げる者》を変身させると、現状の攻防では必要ない《死亡+退場》を《思考掃き》で墓地に落としてからリフレッシュされたトップをドローする。
なんとかして《聖トラフトの霊》への回答を求めたい市川なのだが、《ギタクシア派の調査》で見た宮下の手札には2枚の《流刑への道》と《稲妻》が。
《僧院の速槍》と《秘密を掘り下げる者》の2体目を召喚してなんとか耐えようと画策する市川だったが、手札の除去を使われた上での《宝船の巡航》は心を折るのに十分な呪文だった。
宮下 2-1 市川
今年の決勝ラウンドは3本先取になったので、宮下が2勝で王手をかけたことになる。そして、ここで市川は本格的に勝負師の顔になる。
この1年間で数々の大舞台を経験した市川からすれば、このThe Last Sunの決勝ラウンドはそこまで緊張する舞台ではないだろう。でも、さっきも書いたように、どんな舞台でもカードの効果は変わったりしないし、負ければそれは負けで、負けるのが悔しいから市川は強くなったわけだ。ましてや、決勝ラウンドのシングルエリミネーションは負ければそこでおしまいなのだからなおさらだ。
普段、対戦することがないようなプロプレイヤーと、プロツアーと変わらないような緊張感で対戦できるのが大型イベントのシングルエルミネーションのいいところで、少なくともプロツアーに憧れるプレイヤーにとっては、参加するモチベーションだ。
この1年間で市川は、そういう憧れられるプレイヤーになったのだ。
Game 4
市川の先手。1ターン目に《霧深い雨林》から《島》をサーチして《秘密を掘り下げる者》を召喚する。
対して、宮下は《樹木茂る山麓》から《山》をサーチして《ゴブリンの先達》をプレイして即アタック。これでめくられたトップは土地では無かったが《タルモゴイフ》。続くターンに市川は《踏み鳴らされる地》をアンタップでセットしてターンを返す。
宮下は続くクロックとして《僧院の速槍》をプレイしてアタック。ここで《ゴブリンの先達》の能力で山札のトップが《宝船の巡航》であることが公開され、続くターンの《秘密を掘り下げる者》の変身が確定した所で、市川は《ゴブリンの先達》に《稲妻》をプレイする。
そして、1マナ残せる状態で《タルモゴイフ》をプレイ。宮下は変身した《昆虫の逸脱者》こそ《稲妻》するが、土地が1枚で止まってしまっているので《僧院の速槍》でアタックできない状態となる。
宮下 翔太 |
市川は攻撃の手を緩めず、まず《僧院の速槍》を召喚すると、互いの墓地の状況的に《タルモゴイフ》のサイズが小さくならないのを確認して全力の《宝船の巡航》。むしろソーサリーが増えて、サイズが大きくなった《タルモゴイフ》と《僧院の速槍》でアタックし、宮下のライフは13となる。
宮下は、フェッチを起動しながらの《焼尽の猛火》で《僧院の速槍》を除去し、市川のライフを9とする。市川は《ギタクシア派の調査》で宮下の手札を確認した後に《タルモゴイフ》でアタックして宮下のライフは8。
宮下は《僧院の速槍》を召喚し、《裂け目の稲妻》を待機。ここで市川はお互いのライフを確認した上で、フェッチを使用する。
市川は、考えた末に《蒸気の絡みつき》で《僧院の速槍》を手札に戻すと《タルモゴイフ》でアタックする。そして、市川は自信を持ってターンを返す。
すでに手札を見られている状態で、自信満々にターンを返してきた市川に対して宮下は考える。間違いなく対抗手段を持っているだろうと。だが、ここで待っても仕方が無い。
まずは《裂け目の稲妻》を本体に。そして、手札に2枚ある《溶岩の撃ち込み》を祈るように本体に打ち込む。
市川の手札にあった打ち消し呪文は、《溶岩の撃ち込み》を打ち消せない《呪文嵌め》が2枚。
宮下 3-1 市川
市川が初めて参加したプロツアーは、プロツアー『ドラゴンの迷路』だったが、宮下が初めてマジックをプレイしたエキスパンションは『「ドラゴンの迷路』だ。
そこの符合には特に意味は無いのだけれども、プロシーンにおいてはキャリアが短いとされる市川よりも、宮下はマジックそのもののキャリアが短いプレイヤーだ。
トップ8プロフィールの、2015年の目標に宮下は「プロツアーに出る」と書いている。本当に来年、宮下がプロツアーにでることができるようになるかどうかは僕にはわからないし、それで来年、宮下が大活躍でもすれば、きっと冒頭とおなじようなことを僕は書くのだろう。
ただ、例えば市川自身が、昨年3月のPTQの決勝を自分のプレイスタイルが変わるきっかけの対戦だったと言っていたように、どの対戦がプレイスキルを上げる対戦になるかはわからない。だけど、きっと、市川と真剣勝負したこの準々決勝が、宮下がプロツアーを目指す上での何かのきっかけになることは間違いないだろう。
そういう戦いができる可能性がある場だから、The Finalsは若手の登竜門と呼ばれていたのだろうし、きっと、The Last Sunもそう呼ばれていくようになるのだろう。