準々決勝: 人見 将亮(東京) vs. 市川 典和(愛知)

晴れる屋



By Kazuya Hirabayashi 


いよいよ準々決勝。

長い14ラウンドを終え、ベスト8のプレイヤーが出揃った。

さらにここから3本先取×3という、通常より長いマッチを経た上で優勝者が決定されるわけだが、ここで選ぶべきは一つのポイント。

すなわちスタンダードか?モダンか?という命題だ。


昨年のThe Last Sun 2013ではフォーマットを選択した側が1試合を除いて全て負けるという不思議現象が起こってしまったが、本来は相当有利が付く仕様である。

そう、その気になればソウルシスターズvsバーンという虐殺劇も容易ということだ。


まだデッキリストの交換を行っていないが、既にスタンダードラウンドで直接対決に勝利している人見はスタンダードを選択。

リスト自体の確認は行っていないものの、モダンのマッチアップが黒緑白ジャンクvs《出産の殻》という明確に不利が付くため、それを避けた手格好だ。

デッキリストを確認しながら、互いのデッキ自体を交換し、目視でサイドボーディングを検討する。


人見:覚前 輝也がPTQを突破したものの75枚コピー
市川:世界選手権でReid Dukeが使用したもののほぼコピー

とデッキレシピ自体はメジャーなものの、ケアすべき除去の細部だけは確認しておかなければならない。


そしてダイスにより市川の先手が決まる。

人見のアブザンアグロvs市川の黒緑星座による準々決勝が幕を開けた。



Game 1

先手の市川、初手にある土地が《疾病の神殿》1枚のみというリスキーな手札だが、《サテュロスの道探し》があるためキープ。
スタンダードでたまに見かける光景になるが、“占術土地”である神殿が如何に優秀かという話でもある。

最初の占術は下と不安の残る立ち上がりとなったが、見事ファーストドローで《森》を引き当て《サテュロスの道探し》をプレイ。
無事3マナ目となる《ラノワールの荒原》を獲得となった。

人見は市川同様《疾病の神殿》からゲームを始めると、《サテュロスの道探し》の返しで《思考囲い》

《ラノワールの荒原》
《サテュロスの道探し》
《クルフィックスの狩猟者》
《女王スズメバチ》
《残忍な切断》
《残忍な切断》

ここから《残忍な切断》を落とし、市川が手札そのままに《クルフィックスの狩猟者》をプレイすると、人見は《先頭に立つもの、アナフェンザ》を。

これは見えた手札そのまま、予定調和的に市川の《残忍な切断》《先頭に立つもの、アナフェンザ》へと放たれそのまま2枚目の《サテュロスの道探し》を展開すると、人見は《包囲サイ》で応える。


盤面で有利を築いている市川は《クルフィックスの狩猟者》から《ニクスの祭殿、ニクソス》をセットすると、さらなるマナベースとして《森の女人像》を追加。

先のターンとなる《女王スズメバチ》へと備えるターンだ。

ここで人見は《包囲サイ》の攻撃により一時的にダメージレースを先行するものの、懸念されていた初手の土地5枚から土地が増えるのみで他にアクションを取れない。

そして女王が現れた。

女王スズメバチ



人見が《真面目な訪問者、ソリン》をプレイするものの、これは《女王スズメバチ》とその配下による一撃で沈み、もはや戦力差は圧倒的である。

市川が《女王スズメバチ》とその配下、合わせて10枚以上のクリーチャーをコントロールしていることに対し、人見が持つのは《包囲サイ》のみ。

《クルフィックスの狩猟者》によって《破滅喚起の巨人》が公開され、市川に更なる後続が確約されると人見は盤面を片付けた。


人見 0-1 市川


両者のサイドボーディングは以下の通り。

・人見



・市川



Game 2

第2ゲームは先手となった人見の《ラクシャーサの死与え》から始まる。

市川は《森の女人像》で応じるものの、《ラクシャーサの死与え》がそれを乗り越えてダメージを与えてくる。
これが《ラクシャーサの死与え》の良いところ、アブザンアグロの存在感たる所以だろう。


人見が《ラクシャーサの死与え》のパンプアップに第3ターン目を費やしたところで、市川が《思考囲い》

《ラクシャーサの死与え》
《胆汁病》
《アブザンの魔除け》
《ラノワールの荒原》
《コイロスの洞窟》

ここから《ラクシャーサの死与え》を抜き、《英雄の破滅》で場にある《ラクシャーサの死与え》を除去。

見えているプレッシャーが限られている以上、それを徹底して取り除くことによりゲームのスローダウンを目論む。


だがここで人見はトップデッキしてきた《先頭に立つもの、アナフェンザ》をプレイ。

思わず市川は「引き強いー」と漏らすが、人見「前のゲーム、地主だったから勘弁して(笑)」と。
それもそうだ。



人見 将亮 



文句を言いつつも市川は《残忍な切断》《先頭に立つもの、アナフェンザ》へ撃ち込み、人見の場にクリーチャーが残らない。

ここまでは市川の思惑通り。
クロックを用意したい人見に対し、市川の戦略が上手く機能している状況とも言える。

デッキの構造上、スローな展開になればなるほど黒緑星座が有利になるはず。
その考えに間違いは無い。

《開花の幻霊》《クルフィックスの狩猟者》を始め、市川側に多くのアドバンテージ源が存在するのだから。


だがアブザンアグロにもアドバンテージ獲得手段が無いわけではない。

人見は《夜の囁き》モードで《アブザンの魔除け》を使うと、市川がプレイした《開花の幻霊》《英雄の破滅》を放ち、続けて《ラクシャーサの死与え》を展開。

さらには《包囲サイ》

盤面のリソースが少ないこの状況下、4/5トランプルの存在感はあまりに大きい。


これを受けて市川は動かない。

否、動けない。

1ゲーム目の人見同様、マナが増えてもスペルが無く、取れるアクションが無い。


人見、続けて2枚目の《包囲サイ》

包囲サイ



人見 1-1 市川



・人見



・市川



Game 3

先手となる市川が《疾病の神殿》《森》と並べてターンを返すと、人見は第2ターン《羊毛鬣のライオン》

さらに市川は第3ターンも土地を置くだけとなり、人見にとって好都合な展開なはずだが・・・・

人見の土地が《平地》《森》の2枚で止まってしまう。


市川の初動である《開花の幻霊》こそ《消去》で応じるものの、言い換えれば人見に出来たのはこれがやっと。

5マナ目に到達し、市川は《サテュロスの道探し》《残忍な切断》と続けてイニシアティブを握ると、人見が《荒野の後継者》を呼んだ返しで《破滅喚起の巨人》

そしてディスカードする人見の前に現れたのは2体目の《破滅喚起の巨人》だった。

破滅喚起の巨人破滅喚起の巨人


トリガーする2体の《破滅喚起の巨人》、薙ぎ払われる《荒野の後継者》


人見も遅すぎる黒マナには辿り着くのだが、追加された《開花の幻霊》は心をへし折るのに十分過ぎた。


人見 1-2 市川



・人見



・市川



Game 4

ここまで総じて先手プレイヤーが勝っていることを考えると、どうやらこのマッチアップ先手プレイヤーの有利は動かないようだ。

そう考えると追い込まれはしたが、人見は是が非にも追い付きたいところ。


開始ターンの《思考囲い》《胆汁病》を奪い、《ラクシャーサの死与え》を展開。

応じて市川、引いてきた《森の女人像》をプレイする。

《ラクシャーサの死与え》をパンプするのみで人見がターンを返すと、市川は《思考囲い》により公開情報だった《サテュロスの道探し》を2枚並べ、続くターンの《ラクシャーサの死与え》をダブルブロック。

3マナ以下のアクションが少なかった以上、テンポを阻害したら勝機があるという判断だろう。

事実人見は《ラクシャーサの死与え》のパンプで第4ターンを費やし、無事市川にターンが返ってくることとなった。



市川 典和 



そして返ってきたターンでまずは《思考囲い》

《風番いのロック》
《風番いのロック》
《英雄の破滅》
《コイロスの洞窟》

ここから《風番いのロック》を奪い去り、《開花の幻霊》を召喚。

そして《開花の幻霊》を人見の《ラクシャーサの死与え》にぶつけ、人見は「強襲」した《風番いのロック》を呼びたい都合上、これを維持出来ない。


だが《風番いのロック》にはそれだけの価値がある。

かつてスタンダードの王者だったジャンドの《若き群れのドラゴン》さながら、単体で戦線を支配し得る《風番いのロック》

さらに《思考囲い》により確認済みだった《破滅喚起の巨人》に対して《英雄の破滅》をぶつけると、もはや人見の優位は動かないかのように見えた。


しかし人見にも誤算があった。

市川が続けた《高木の巨人》こそ接触戦闘と《胆汁病》の合わせ技で葬るものの、次ターントップデッキされた《高木の巨人》2体目に対応出来ない。

高木の巨人


ここでついに人見の攻め手が止まってしまう。

《高木の巨人》こそ追加した《羊毛鬣のライオン》の「怪物化」で抑えるものの、市川も《高木の巨人》の「怪物化」により《風番いのロック》を除去。

ここまでは既定路線として戦線が膠着するのだが、ここからの行動に差が大きかった。

《疾病の神殿》を置いて未来を探す人見に比べ、市川が手札からプレイしたのはデッキの代名詞たる《エレボスの鞭》


「怪物化」した《高木の巨人》が牙を剥き、一度は6まで追い込まれたライフが一気に20近くまで回復してしまう。

この窮地にも人見は動けない。


そして続く市川のターンが決定的なものとなった。

《苦悶の神、ファリカ》をプレイ

《エレボスの鞭》《開花の幻霊》をリアニメイトして1ドロー

《苦悶の神、ファリカ》の能力で蛇トークンをプレイ、《開花の幻霊》トリガーで1ドロー

と圧倒的な場を作り上げる。

エレボスの鞭開花の幻霊苦悶の神、ファリカ


この時点で人見のライフは11、市川のライフは24とライフ面でも逆転。


人見に逆転の術は残されていなかった。


人見 1-3 市川



負けた直後、「ミスったなー」と人見が声を上げた。

ほぼノータイムで《破滅喚起の巨人》《英雄の破滅》を使ってしまったが、直後に《高木の巨人》の存在を思い出したと言う。

事実1枚目の《高木の巨人》《胆汁病》で処理出来ただけに、その後の2枚目《高木の巨人》トップデッキがゲームを決めてしまったと言っても過言では無いだろう。


あと6点、されど6点。

人見に追い詰めることが出来たのはライフ6点までで、《高木の巨人》処理さえスムーズなら削ることが出来たはずの数字。

あまりにも重い6点のライフだった。

デッキを選択出来た利は活かせても、その判断が人見の手から勝利を零してしまった。


だがこの反省こそが最も肝要である。

もし次があるなら、人見はその状況を乗り越えるだろう。

人はミスをするもの。

だからこそ強くなれる。


勝った市川も終わった直後、人見にサイドボーディングを聞いていた。

ただのマジック好きとも考えられるが、この姿勢こそが市川の勝因なのかもしれない。


人見 将亮のアブザンアグロを乗り越え、市川 典和が準決勝に進出!