プラチナプレイヤーインタビュー: 市川 ユウキ

晴れる屋



By Daisuke Kawasaki


 一年最後の構築大型イベント。

 その会場に、日本に存在する3人のプラチナレベルプレイヤーが揃った。というわけで、年の締めくくりということも踏まえ、3人にこの1年間を振りかえるインタビューをさせていただくこととした。

 まず最初にインタビューをしたのは、2014年にもっともブレイクした日本人プレイヤーである市川 ユウキだ。






2014年はどのような年だったか?

--「市川さんと言えば、日本人にかぎらず、Shaun McLarenと並んで世界レベルで見ても今年もっともブレイクしたプレイヤーだと思うのですが、実際、2014年はどのような年でしたか?」

市川 「そりゃ、今年はすごい勝ったな、という印象です。今年の成績でまだまだ足りません、みたいなことを言ったらさすがにバチがあたりますよね」

--「5月のプロツアー『ニクスへの旅』、8月のプロツアー『マジック2015』と連続でトップ8入賞と大活躍でしたね。今年、まさしく大ブレイクしたと言っていいかとは思いますが、ブレイクしたキッカケはなんだったのですか?」

市川 「今年のプロツアーに関して言えば、3月の板橋でのPTQを抜けて権利を獲得しているんですけど、勝てるようになったキッカケと言うと、去年の話になってしまいますが、グランプリ静岡で初めて初日を突破できたのが大きかったのかなと思います」

--「たしかに、昨年の市川さんといえば、初日落ちして、二日目のサイドイベントで快勝してるイメージでしたね」

市川 「そうそう。サイドイベントの主、みたいな感じでしたね。で、グランプリ静岡で初めて初日抜けして肩の荷が降りた、というかやっと現実でのプレイに慣れてきたなという実感を得ましたね」

--「元々、MagicOnlineを主戦場としているプレイヤーですものね。よく、現実のマジックとMOは違うという話を聞くのですが、実際のところ、同じマジックでありながら何が違うのですか?」

市川 「うーん……すこしセンシティブな話になるのかもしれないんですけど……情報量が全く違うんですよね、リアルのマジックは」

--「情報量?つまり、現実の相手が目の前にいることで増える情報があるということですか」

市川 「そういうことですね。MOは、まぁ、PCでやるものなんで変な言い方ですけど、純粋にデジタルな情報を元にプレイをできるんですよ。なんて言うんですかね……きっちり最適解を追いかければ勝率を確保できるというか」

--「つまり、リアルのマジックでは、盤面にでているカードや使われた呪文から判断した最適解以外が、正しいプレイになることがあるということですか?」

市川 「そうですね。それこそ、相手の挙動が手札を推測させることはありますし、プレイするときの間とかで相手が何を考えてるか想像できたりとか……MOであれば存在しない情報によって、より精度の高い情報に辿り着けるんですよ、リアルでは

--「昔は、そこを把握しきれていなかったので、自分は情報を得られなかったし、逆に自分は無意識に出してしまっている情報で相手に得されてしまっていて、なかなか戦績に結びつかなかった、と」

市川 「そういうことです。特に今年に入ってからは、相手の情報も気にしますし、逆に自分がプレイする時には一定の間をキープしてできるだけ情報を与えないようにしたりしています。そうやって、リアル情報での格差をなくせるようになって、地力で勝負できるようになったというのが、リアルで結果がでるようになった理由だと思います」





--「プレイの話になったので、さらに質問させていただきたいのですが、リアルのプロツアーでプレイするようになって、プレイが変わったなという部分はありますか?」

市川 「うーん……元々そういうプレイをしていたのかもしれないんですけど、今年になって、より太枠でゲームを見るというか、大きなプランを持ってプレイするようになったのではないかと思っています」

--「それは、もちろん一つ一つのプレイをおろそかにする、という意味ではないですよね」

市川 「それはもちろんです。ただ、細部での損得にとらわれないで大きな目標のために一つ一つのプレイをするようにはなったなと。例えば、ちょっと前のメタゲームの話になりますけど、青単信心と青白コントロールのマッチアップの場合、最終的に青単信心側は《霊異種》を通せるかどうかってゲームになるっていう大きなプランを持って、例えば、途中で《神の怒り》系の大量破壊で枚数で損をするのを嫌うのではなく、相手が枚数で得できるから《神の怒り》を撃つけど、その隙で《霊異種》を通せれば、アドバンテージを失っていても関係ない、みたいな考え方でプレイするようになりました。逆に《神の怒り》を恐れて展開しないせいで、相手に余裕ができてしまって、こちらの敗因となる《スフィンクスの啓示》をうたれてしまわないようにしよう、と」

--「ゲームの勝ち方に明確なビジョンを持って、そのビジョンに向かってプレイをするわけですね。そういう傾向が強くなったのは、プロツアーで強豪とプレイするようになったのが大きいですか?」

市川 「そうですね、影響は受けていると思います。……でも、今思うと、キッカケになったのは3月のPTQの決勝だった気もしますね」

--「さっき話題に出た板橋のプロツアー予選ですね」

市川 「えぇ。僕は青白タッチ黒みたいなオリジナルデッキを使っていて、対戦相手の方はエスパーコントロールだったんですが。メインボードではこちらにだけ《霊異種》が入っていて、逆に相手のデッキには脅威がほぼない形だったので、ゆっくりするゲームプランを展開して勝利しました。で、サイドボード後は《群れネズミ》をはじめとして相手もアクティブなアクションでこちらにプレッシャーをかけられる形になるだろうと予想したんです。なので、逆にゆっくりしないために何かしらのリスクのある行動をとらなくてはいけなくなるなと」

--「その場面だけで見れば、損だったり、相手に余裕を与えてしまう可能性もある行動だけど、大枠で見ればもっとも勝ち目がありそうなプランを取ったということですか」

市川 「そういうことですね。その時は、《思考を築く者、ジェイス》を相手のマナが立っている状態で、フルタップでプレイするっていう、一見、カウンターされて相手が余裕を持って《思考を築く者、ジェイス》を通せてしまう隙を作りうるプレイをしたんですが、手札に《ヴィズコーパの血男爵》《霊異種》とあったので、相手が《思考を築く者、ジェイス》を出してきても、今度はこちらがアクションできる状態を作れて有利になれるだろうと考えてのプレイでしたね。まぁ、その時は《思考を築く者、ジェイス》が通ってそのまま勝利できました」

--「そういう、思い切りの良いプレイを確信を持ってできるようになったと」

市川 「そうですね。自分のプランに自信を持って、リスクのある行動、いわゆる『ぶっぱ』ができるようになったのは今年で実感している成長ですね。『ぶっぱ』して負けると無茶苦茶恥ずかしいんですが、それを恐れずにプレイできるようになりました」



2014年に使った印象的な構築デッキは?

--「続いて、The Last Sunは一年最後の大型構築イベントですし、今年使ったデッキで印象に残っているものを教えていただいていいですか?」

市川「まぁ、世間的なイメージもそうだとは思いますが、プロツアー『マジック2015』で使ったジャンドプレインズウォーカーですかね」

--「やはりそれですか。《世界を目覚めさせる者、ニッサ》を見つけ出したのはワイだゾ、と」

世界を目覚めさせる者、ニッサ


市川 「いや、見つけたのは僕じゃないですけど、まぁ、《世界を目覚めさせる者、ニッサ》の値段をあげたのはワイだゾ、くらいは言っても怒られないですよね?今振り返ってもあのデッキは良いデッキだったなと自分でも思います」

--「あのデッキは、ひな形となるデッキがあったのを、市川さんが調整して持ち込んだんですよね?」

市川 「元々は、もう少しなんというか……コンセプトのふんわりとしたデッキだったんですよね。プレインズウォーカーが2枚とか3枚でバラけて入っていて、強いカードを使っていこうというのは分かるんですが、コンセプトがはっきりしていなかったというか。そういうデッキを調整してコンセプトをはっきりさせるっていうのは得意ですし、あのデッキはまさにそれがはまったデッキでしたね」




まだ注目度が低かった《世界を目覚めさせる者、ニッサ》を4枚使用して、
プロツアー連続トップ8という快挙。



--「確かに、市川さんの使用するデッキはコンセプトがはっきりしているというか、デッキリストからどういうプランでゲームをしたいのか伝わってくるものが多いですよね。先日の世界選手権2014で日本勢が使用していた赤青緑デルバーも市川さんの調整だったと記憶していますが、そういうリストに仕上がってますよね」

市川 「あれもそうですね。なんというか『ゆだねる構築』が嫌いなんです。元々のデルバーの場合、《若き紅蓮術士》《僧院の速槍》が両方入っているんですけど、そうすると、いつ《ギタクシア派の調査》を撃つか、みたいなのが引いたカードによって決まってしまうんですよね。そういう構築段階でつぶせる裏目をなくす調整を好んでしているんだと思います」

--「さきほどのゲームプランのお話でもそうですが、市川さんは、筋の固まったゲームを好むイメージはたしかにありますね。個人的に、市川さんがBIG MAGICさんに寄稿している調整録の記事が読みやすくて好きなんですが、記事の面白さ・理解しやすさも、そもそもの調整が筋の通ったものだから、というのは大きいのかもしれませんね。今年使用したデッキで言えば、他に記憶に残っているものはありますか?」

市川 「さっきも話題にした3月のPTQで使用した青白タッチ黒も印象に残ってますね。たまたま同時期にグランプリでも似たリストが優勝していますけど、あれは僕にとってはオリジナルデッキなので」

--「どちらはどういう経緯で構築されたのですか?」

市川 「たしか(齋藤)トモハルくんが、黒マナソースを6枚だけ入れて《闇の裏切り》をサイドボードにタッチしたデッキを作っていてそれに触発されたんですが、青白の弱点を黒の軽い除去が補ってくれている非常に理にかなったデッキだったので、調整をすすめましたね」

--「コンセプトだけ聞くと、さきほどの話と逆で、青白の持っているコンセプトを黒をタッチして薄めているようにも聞こえますが、そういうわけではないんですよね?」

市川 「そうですね。この場合は、青白が強いけど、取りこぼす相手をどう対処するかという明確な目標があってそのための手段としての黒タッチですので。なんにしても、コンセプトを持っているか、ってのは大事だと思います」




スポンサード契約はどうだったか?

--「続いて、世界選手権2014のカバレージでも話題になっていましたが、現在、日本のプラチナプレイヤーは3人とも店舗からのスポンサードを受けています。市川さんがBIG MAGICさんからスポンサードされたのは今年だったと思うのですが、実際のところスポンサード契約をしたことはなにか影響ありましたか?」

市川 「影響はないですね」

--「あ、そうなんですか?」

市川 「あ、いい意味で、ですよ。スポンサードしたからといって、なにかしらの制限ができるということはほとんどなくて。非常にのびのびとやらせていただけていて、本当にありがたいなと思っています」

--「なるほど。市川さんといえば『マジックは趣味』というフレーズに代表されるようにあくまでも、趣味として楽しんでいきたい、という思いが強いと認識していますが、その楽しみを邪魔しない、と」

市川 「そうです。ゲームそのものだけじゃなくて、マジック全体を楽しくやっていきたいし、楽しくやればいいと思っているので、そういう部分で理解があるのは大変助かっております」

--「楽しく、と言えば、市川さんはニコニコ生放送で有名ですけど、最近は……どういう言い方をすればいいか難しいですけど、非常に和気あいあいとした放送になってますね。昔が違った、というわけではないんですけど……」




自身がライフワークとしているニコニコ生放送。多くのリスナーと共にマジックを楽しんでいる。




市川 「あ、いや、まぁ、ある程度事実ですよね。昔は、ニコ生でしか僕を知らない人ばかりでしたし、数ある放送のひとつとしてなんとなく見に来てる人が多かったと思いますけど、今は、日本公式とかでも紹介されたりして、プレイヤーとしての僕自身を知って、その上で見に来るって人が増えてるみたいなので、昔より和気あいあいとしてるのは間違いないです」

--「そういう意味でも、今年は大きく変わったと。放送が変わった話のついでのようで申し訳ないんですけど、放送内容も今年になってかなり代わりましたよね。市川さんはガチガチの練習キャラだなと認識しているのですが、そもそも昔は練習している状況をニコ生で公開していたと思うんです。でも、今はどちらかと言うと、MOで練習している時は放送しないで、純粋に見せる放送のために放送をしていると言うか……」

市川「あぁ……たしかにそうなったかもしれないです。なんというか、マジックは趣味、といっても、どんどん競技によってきているので。だから、趣味としての楽しい気持ちを取り戻すために、みんなとマジックでキャッキャと楽しみたい、みたいな時に放送していますね」

--「気楽にプレイしていると」

市川 「そうですね。実際、かなり適当にプレイするときも多いです。めんどくさいからフルパンボタンでとりあえずフルパンしちゃえ!みたいな。もう、ミスかどうかですら無いという」

--「ミスかどうかだと議論になりますけど、手抜きプレイだったら、本人も理解しているし煽りやすいですよね」

市川 「そうですね。『なるほど!』と『それ手抜きだろ!』のメリハリでみんなとワチャワチャ楽しくやりたいなと。とにかく、放送は楽しいのが一番です」

--「BIG MAGICさんも楽しさのためならなんでもやる!みたいな雰囲気ありますし、そういう意味で相性がいいのかもしれませんね」

市川 「お話を受けた時は意識していませんでしたが、運命的だったのかもしれませんね」



2015年はどのような年にしたいか?

--「最後に来年の目標をお聞きしていいですか?」

市川 まずはプラチナですよね、当然。世界選手権ですでに結構プロポイントを手に入れてますし、少なくともゴールドを目標、っていうのは志がひくすぎるかなと思いまして」

--「ちなみに、プラチナを目指すとして、どういう内容のシーズンにしたいですか?」

市川 「そうですねぇ……やっぱり、プロツアートップ8にはシーズンで一回入りたいと思っています」

--「やはり、プロツアーで勝ってこそプロだと」

市川 「そりゃもちろんですね。トップ8に入るのを目標にするのはもちろんですが、できればまた『いいデッキ』を作ってトップ8に入りたいですね」

--「本日はお忙しい中、ありがとうございました」


※編注:記事内の画像は、以下のサイトより引用させて頂きました。
『マジック:ザ・ギャザリング 日本公式ウェブサイト』
http://mtg-jp.com/
『ニコニコ動画』
http://www.nicovideo.jp/