プラチナプレイヤーインタビュー: 渡辺 雄也

晴れる屋



By Daisuke Kawasaki


 一年最後の構築大型イベント。

 その会場に、日本に存在する3人のプラチナレベルプレイヤーが揃った。というわけで、年の締めくくりということも踏まえ、3人にこの1年間を振りかえるインタビュー、市川に続いて二人目に話を聞くのは誰もが知る日本最強プレーヤー、渡辺 雄也だ。






2014年はどのような年だったか?

--「さて、まず最初に今年一年間の感想を聞かせていただいていいですか?」

渡辺 「一年の印象ですか……うーん、そこそこ良かったですよ、やっぱ」

--「あのKai Buddeと並んで歴代1位となる7回目のグランプリ優勝プロツアートップ8入賞、そして先日の世界選手権でもトップ4入賞と、改めて見ると今年の渡辺さんの戦績もすごいですよね。……というか、『そこそこ』という話ですけど、むしろこの戦績に上積みしたかった戦績ってなんなんですか?」

渡辺 ワールド・マジック・カップ(WMC)で初日抜けたかったですね」

--「あぁ……渡辺さんのWMCも3回目ですけど、実はまだ初日抜けしたこと無いんでしたね」

渡辺 「そうですね……世界選手権とスケジュールが被ってしまっているのもあって、僕が毎年思うように貢献できていないせいもあるんですけど、できれば初日は抜けてみたいですね。まぁ、そもそも世界選手権とWMCのスケジュールをなんとかしてくれ、って話でもあるんですけどね」

--「最近よく話題にしてますよね。さて、先ほどあげた戦績の中でも、特に大きかったなと思うのは、北京での7回目のグランプリ優勝かなと思うのですが」

渡辺 「そうですね。正直、グランプリの優勝回数でKai Buddeを超えるのはひとつの目標になっています」

--「渡辺さんの場合、シーズンごとでの戦績も目標なのかなと思いますが、やはり2年後に控えた殿堂投票に向けた戦績の蓄積というのも大きな目標なのかなと」

渡辺 「そういう意味では今年は充実してましたね。プロツアートップ8も、とりあえずは後1回入っておきたいというのはありましたし。グランプリ優勝回数は最終的な目標は単独トップになる8回ですけど、とにかく1位に並べたというのは大きいです」




グランプリ北京2014で優勝。GP京都07での初優勝から数えて、実に7回目の優勝となる。



--「結構古くからある議論として、Jon Finkel・Kai Buddeに続く第3の男は誰か、という話があると思うのですが、その辺を意識することはありますか?」

渡辺 「うーん……個人的に、第3の男が誰か、って話は戦績とかだけで比べられなかったりもするんで、不毛な議論かなと思っているので、そこを狙っている、ってのはないです。ただ、どう殿堂入りするかを考えることはよくあるので、彼らの戦績を意識することはあります」

--「殿堂入りまでに、Kai Buddeの持つグランプリ優勝記録を抜いて単独トップになることには大きな意味があると」

渡辺 「彼らのプロツアー優勝回数の記録あたりは、多分、どうやっても抜けないのかなとは思うんですが、グランプリは抜けそうだと思ってましたし、いよいよその目標が達成されるところまで来ましたからね。

--「余談ですけど、その二人で言えば、Finkel派とBudde派がいますが、渡辺さんの場合はどちらですか?」

渡辺 「僕の場合、ですか?プレイングは間違いなくFinkelよりBuddeよりだと思いますけど」

--「あ、プレイというか、どちらのファンかって話ですね。プレイングに関しては、かなりのBudde派ですよね、渡辺さんは」

渡辺 「どっちのファンか、って言っても、僕は世代的にBuddeとほぼ接したこと無いですからね。Finkelは最近よくプロツアーにいるので、あったら挨拶するくらいの仲ですけど。なんで強いて言えばFinkel派なのかもしれないですけど、よくわからないですね」

--「言われてみると、渡辺さんのプロキャリアだとそういう答えになりますよね」



2014年に使った印象的な構築デッキは?

--「続いて、The Last Sunは一年で最後の大型構築イベントということなので、今年使ったデッキの中で一番印象に残っているものを教えていただいていいですか?」

渡辺 「今年のデッキ、って話になると、本当に最近の話ですが、世界選手権で使ったジェスカイトークンですね」


急報ジェスカイの隆盛宝船の巡航



--「やはりそのデッキになりますか」

渡辺 「そうですね、やはり。そもそも第2回BIGMAGIC OPENのトップ8入賞時に、デッキリストを非公開にしていただいた経緯もそうですし、使用した後に、本当にものすごく反響があったりと、印象に残る出来事が多いデッキでした」

--「そんなに反響が大きかったですか」

渡辺 「そうですね。世界選手権の会場でも、Twitterにも書いたくらい嬉しかったんですが、あのチャピン(Patrick Chapin)に褒められましたし、ジェンセン(William Jensen)も次のグランプリで使いたいから教えてくれ、って言われたり、とにかく高評価でした。で、世界選手権が終わったあとは、僕のFaceBookに世界中の人から、『使い方を教えてくれ』『サイドプランを教えてくれ』『今のメタだとどうするか』といったメッセージがたくさん……本当にたくさん来て。すごかったですね、本当にたくさん来ました。たくさんすぎて、返事しきれないので、申し訳ないですけど一律で返事していない状況です」

--「渡辺さんは、あんまり記事とかで情報を発信するタイプのプレイヤーでもないですから、余計このデッキについてはみんな聞きたいんじゃないですかね?」

渡辺 「うーん……このデッキだったら、記事を書いてもいいかなって少し思ってはいますよ。多分、書かないだろうとは思いますけど」

--「めずらしいですね。相当お気に入りのデッキですか」

渡辺 「はい。それは間違いないです」

--「せっかくなので、このデッキを使うようになった経緯を知りたいのですが、最初に使用したのは、先ほど少し話題にあがったBIGMAGIC OPENですか?」

渡辺 「そうですね。最初、BIGMAGIC OPENの前に知り合いが『こんなかんじのデッキはどうだろう?』って持ち込んできて。で、実戦で使用したら非常に感触が良かったんですよね」

--「実際、BIGMAGIC OPENが終了する頃には、世界選手権で使う第一候補と話していましたもんね。そこで、(賞金権利を放棄して)デッキリスト非公開となったわけですが、あの時点ですでにかなり確信を持っていたということですか?それとも、使う可能性があるから念のため、ということですか?」

渡辺 「かなり確信を持っていましたし、その後の調整も注意して行いましたね。正直、コンセプトに関しては、ある程度だれでも思いつく可能性はありますし、BMOのカバレージからある程度類推することも可能だったとは思うんですが、あのリストの形に仕上げることは中々できないだろうと思っていました。なので、リストそのものの情報を漏らさないことを気をつけていましたね。例えば、調整のメインはMagicOnlineだったのですが、リストが掲載される可能性があるイベントには一切出ないで、通常の8人構築などだけでまわしていました」



例外的な処置でデッキを非公開にしてもらった渡辺。
その秘密兵器で、見事世界選手権で好成績を納めた。


--「ちょっと細かい話になりますが、プレイの経験値という意味では、より実戦に近いDaily Eventなどの方が効率がよいという話をよく聞くのですが、それよりもリストが漏れない事が重要だったと」

渡辺 「そうですね。実戦での経験値自体は、BIGMAGIC OPENでかなり稼がせていただいたので。その上でリストの非公開に協力してくださったBIG MAGICさんには非常に感謝しています。時期的にも世界選手権とWMCで合わせて6つのフォーマットをやらなければいけなかったですし、元々十分な時間を割けないのは当たり前でしたから。その中では十分に時間を使えたと思います」

--「なるほど。たしか、『タルキール覇王譚』発売直後かなんかに《宝船の巡航》《時を越えた探索》は両方強いみたいな話をしていて、とはいえ、スタンダードでは《宝船の巡航》《時を越えた探索》ほど強くないんじゃないか、みたいな質問を僕がしたと思うんですが」

渡辺 「ありましたね。プロツアー前だったんじゃないですかね」

--「そうですそうです。その時に渡辺さんが『スタンダードに《宝船の巡航》をうまく使えるデッキが無いだけで、もしそういう《宝船の巡航》を4枚入れられるデッキがあれば、スタンダードでも《宝船の巡航》《時を越えた探索》より強いかもしれない』みたいな返事をしていたのが記憶にすごく残っていて。このジェスカイトークンこそが、まさにそういうデッキだったということですよね」

渡辺 「そういうことになるんですかね。当時はまだ、このデッキの存在を僕も知らなかったわけですけど、うまく墓地を貯めるギミックがあるデッキが組めれば《宝船の巡航》のカードパワーがもっと上がるだろうとは思っていました」

--「それが《ジェスカイの隆盛》だったと」

渡辺 「もちろん《ジェスカイの隆盛》もそうなんですけど、それだけじゃなくて……実際、世界選手権で他のプレイヤーに褒められた時もそうだったんですけど、とにかくこのデッキはリストが美しいんですよね。トークンを生み出すカードも、非クリーチャースペルなので《ジェスカイの隆盛》の能力を誘発させるのも勿論ですが、それ自体も墓地を増やしているわけで《ジェスカイの隆盛》だけに頼らずに《宝船の巡航》を運用できるようになっているわけです」

--「実際に、世界選手権でリストを見た段階でも、すごい良いデッキだという声が多かったですが、生放送などで実際にプレイしているところを見た人からは、リストから想像した以上に多彩な動きをするデッキだなという感想がでてましたね」

渡辺 「そうですね。その分、選択肢が多くて使い慣れなければいけない部分もあるかもしれませんけど。世界選手権の日本勢には事前に情報をシェアしていましたが、僕がBMOでの実戦経験があったのに対して2人はそれがなく、プレイに自信を持てないからということで別のデッキを使用したみたいですね」

--「山本さんは、サイドボーディングが難しいって言っていましたね。今日、ビデオフィーチャーされたときに、渡辺さんがサイドボーディングしている所を後ろから見ていて気がついたのですが、このデッキのサイドボーディングって、実のところ、サイドボードの時間に改めてデッキを構築しているという印象がありますね」

渡辺 「あ、そうかもしれないです。そうですね。元々、メインとサイド合わせた75枚で色々な事ができるようにカードを選んでいるので、相手のデッキ内容に対応してもっとも適切なデッキをその場で組み上げる、みたいなサイドボーディングですね、たしかに」

--石村さんのhappymtgのシールド記事での色変え、みたいなことをやってる印象ですよね」

渡辺 「やってることはシールドのサイドボーディングみたいですけど、シールドと違うのはカードプールの75枚は自分が選んだカードだというところですかね。当たり前っぽい話かもしれないですけど、このデッキの場合、そこが重要ですね」

--「たしかに当たり前すぎる話のような気がするので、逆にもう少し掘り下げて聞いてみてもいいですか?」

渡辺 それぞれのカードが、どういう役割をすることができるのか、どういう意味を持っているのか、ってことをどれだけ理解できてるか、って話になるんですが。単独の役割を強く割り振っているカードもあれば、状況に応じて振る舞いが変わることを期待しているカードもあって、それを最大限に活かせるかがこのデッキのサイドボーディングにおいて重要になってきますね」

--「前者の典型、つまり役割を強く割り振られているカードは《ゴブリンの熟練扇動者》ですよね。先手後手で入れるか抜くかが変わるカードなのかなと。一方の後者はどんなカードが当てはまるんですか?」

渡辺 《軍族童の突発》なんかがいい例ですね。このカードをサイドボーディングで抜くことはほとんどないんじゃないかと思います。このデッキのサイドボーディングをするときに重要なのは、今、川崎さんが言った先手後手もそうですが、相手のデッキに対して自分がコントロールなのか、ビートダウンなのか、なんですよね。それに応じて、デッキのコンセプト自体を大きく変えれるというのが最大の強みなんですけど、ビートダウンの時は《ジェスカイの隆盛》で強化されるクロックとして機能してくれますし、コントロールの時は、《対立の終結》でリセットするまで耐えるためのカードとして機能します。そういう振る舞いの変化をサイドボーディングでもプレイでも理解するのがこのデッキを使う秘訣かなと」

--「作成者の渡辺さんが理解しているのはもちろんですが、使ってみたい人は、どうやって75枚が選ばれたかを理解しようとするのが上達の近道だと」

渡辺 「はい。75枚のカードすべてに選択の意味があるデッキですし、その理解度が勝率に直結するデッキです。そういう意味で、本当に『いいデッキ』といっていいと思っています。コントロールもビートダウンも両方できるデッキですし、マジックというゲームそのものへの理解度が出るデッキですね。僕の一番好きなタイプのデッキです」

--「ちなみに、世界選手権とThe Last Sunではデッキレシピはどう変わりましたか?」

渡辺 「世界選手権の段階では、日本勢が使わなかった以上はミラーマッチは無いと思っていて、メインのメタゲームは緑系だと思っていたので、サイドボードで《軽蔑的な一撃》をとっていたのを、同型が増える可能性を踏まえて《否認》にしたのが大きいところでしょうか。あと、《ジェスカイの魔除け》のポケットが変えられるポケットなのでここを《ヘリオッドの指図》に変更していたのですが、これは失敗でした。さっき、75枚すべてに意味があると言いましたが、嘘でした。《ヘリオッドの指図》は失敗です」



スポンサード契約はどうだったか?

--「今回、世界選手権に行った日本人3人がすべてスポンサード契約を受けていたことが話題になりましたが、今年スポンサードされた2名と違って、渡辺さんは以前からスポンサード契約をしていましたよね。今のように、スポンサードされるプレイヤーが増えてきていることについてはどうお考えですか」

渡辺 「それ、僕、本当に嬉しくて。まさに僕が望んでいた世界になってきた、という気持ちです」

--「渡辺さんとしては、スポンサードされるマジックプレイヤーが増えたほうがいいと」

渡辺 「はい、そうですね。それこそ、4~5年前にはスポンサードされているプレイヤーなんて全くいなかったじゃないですか。チームミントさんから、スポンサードの話が来たときに、もちろん、報酬の話などもそうなんですが、話をうけるときに一番思っていたのは、自分が最初にスポンサードして表に出て行くことで、スポンサーとなる企業やされたいと考えるプレイヤーが増えるきっかけになるのではないかということなんです」

--「例えば、晴れる屋さんのHareruya Prosは、最初は齋藤さんと津村さんの二人だったのが、すぐに山本さんを加えた3人体制になりましたよね。そのようにフットワーク軽くスポンサー契約が行われるようになって欲しかったということですか」

渡辺 「今の状況は僕としては、本当に素晴らしいと思っています」




日本を代表するスポンサード・プロプレイヤー・渡辺。




2015年はどのような年にしたいか?

--「最後に来年の目標を聞きたいのですが……プラチナを目指すのはもちろんですよね?」

渡辺 「そうですね。もう、それは目標ではなくノルマですね」

--「どういう形でプラチナを目指していくのか、っていうことになりますかね」

渡辺 「いや、とりあえずは、WMCで初日抜けしたいです」

--「あぁ」

渡辺 「もちろん、来年もリーダーになれるかどうかはわからないですけどね」

--「初日抜けしたい、ってことは、まずはリーダーになれる状態、つまりプロポイントの日本ランキング一位を目指すってことですか?」

渡辺 「うーん……複雑な心境ですね。実際、今年の瀬畑(市川)のように、プロツアーを2つくらいガッと勝って、僕が追いつけない点数になる人が出てくる可能性もありますし。その時には、リーダーになった人に、本当にスケジュール辛いから覚悟しとけよ、ってアドバイスしますかね」

--「もちろん、自分の手で初日突破を果たしたいけど、地獄のスケジュールから開放されるのも魅力的だと」

渡辺 「そこは本当に複雑ですね。スケジュール改善してもらえるならいいんですけど……マジで、半年ずらしてやってくれよといいたいですね。どちらにも万全の体制で参加したいんですよ、僕は」

--「ちなみに、WMC初日抜け以外の目標はありますか?例えば、プロツアー優勝とか」

渡辺 「あ、もちろんそれは目標です。来年の、というか、2年後の殿堂投票までにプロツアーを優勝することと、グランプリをあと一回優勝して優勝回数単独トップになることが大きな目標ですね」

--「本日は忙しい中、ありがとうございました」



※編注:記事内の画像は、以下のサイトより引用させて頂きました。
『マジック:ザ・ギャザリング 日本公式ウェブサイト』
http://mtg-jp.com/
『MAGIC: THE GATHERING』
http://www.nicovideo.jp/