プラチナプレイヤーインタビュー: 山本 賢太郎

晴れる屋



By Daisuke Kawasaki


 一年最後の構築大型イベント。

 その会場に、日本に存在する3人のプラチナレベルプレイヤーが揃った。というわけで、年の締めくくりということも踏まえ、3人にこの1年間を振りかえるインタビュー、最後に話を聞くのはHareruya Pros所属プロプレイヤー、山本 賢太郎だ。





2014年はどのような年だったか?

--「皆さんに聞いているんですが、山本さんにとって2014年はどのような年でしたか?」

山本 「今年ですか……正直な感想を言えば全然勝ってないですよね、今年

--「え、そうですか?」

山本 「うーん……世界選手権でトップ4に入ったのはたしかに嬉しかったんですけど、それ以外だと個人の成績ってグランプリ・ストラスブールのベスト4くらいかなぁと……残りのグランプリは全体的にトップ16~トップ32で細かくプロポイントを稼ぐ年だったなと」

--「昨年後半の貯金が大きかったな、という感じですか」

山本 「そうですねぇ……シーズンで言えばプラチナレベルですけど、今年で言えば、かなりギリギリで耐え続けた1年という印象ですね」

--「ちなみに、他になにか印象に残っている出来事はありますか?」

山本 「うーん……とにかく耐えた1年でしたね」

--「……そういえば、今年、世界選手権に出場したのはどうでしたか?」

山本 「あれも相当棚ボタでしたよね。市川さんがプロツアー『マジック2015』で僕を抜いて、出れないかと思ったんですけど、運良くIvanが勝ってくれて、それで繰り下がりで権利得られましたね」

--「あれ、かなりギリギリだったらしいですね」

山本 「そうです。同点が他に4~5人いて。同点の場合は規定としてプロツアーの最高順位で決まるんですが、そこでも7位がもう一人いて。最終的に、グランプリの最高順位が適用されて、グランプリ京都の準優勝があったので、そこでやっと、という感じでしたね。正直、ついてましたね」

--「ついてましたか」

山本 「えぇ。かなり細い道でしたね」




「耐えの1年だった」と終始苦笑気味の山本。



--「世界選手権自体はどうでしたか?」

山本 すごい楽しかったですよ。ずっと出たいと思っていましたし、昔の自分からしたら信じられないですしね」

--「山本さんも、結構なプロマジックマニアだと聞きますけど」

山本 「そうですね、かなりミーハーです。今でも、例えばオーウェン(Owen Turtenwald)のプレイを生で見たりするとワクワクしてますからね。やっぱかっこいいなー、とか思いながら見てますね。ただのミーハーです」

--「とはいえ、今は同じ土俵で戦っているわけですしね」

山本 「そうなんですけど……実感がわかないとまではいいませんけど、やっぱミーハーな気持ちでプロツアーを楽しんじゃう自分もいますよね」

--「今年は、去年までと違ってかなりの継続参戦になっていたと思うんですが」

山本 「そこは今年になってすごい変わったところかもしれないですね。アジアのグランプリとか行くようになりましたから」

--「そのきっかけってどのへんですか?」

山本 プラチナレベルを目標にしたから、というのは大きいですね。プラチナになったのは、今年の8月なんですが、そこまでにとにかくポイントを貯めようと思いまして。昨年のプロツアー『テーロス』でトップ8入賞して、プラチナレベルが現実味を帯びてきたので、それを目標にして、継続参戦するようになりましたね」

--「そして、プラチナレベルになったと」

山本 「とはいえ、8月までかかりましたから。今年は耐える年でしたよ。耐えの年でした」



2014年に使った印象的な構築デッキは?

--「続いて、The Last Sunは一年最後の大型構築イベントということで、今年使ったデッキで一番印象に残っているものを教えていただいていいですか?」

山本 「それは、やっぱ、プロツアー『マジック2015』で使ってたジャンドプレインズウォーカーじゃないですかね」

世界を目覚めさせる者、ニッサ


--「やはりそうですか。ちなみに、市川さんもジャンドプレインズウォーカーを挙げてましたよ」

山本 「あぁ、被っちゃいましたか……じゃあ、他のにしますか……うーん、でもこれしかないな。被っても大丈夫ですか?」

--「それはもちろんです。どのへんが一番印象に残っていますか?」

山本 「それはやっぱり、《世界を目覚めさせる者、ニッサ》ですね。メインボードに《世界を目覚めさせる者、ニッサ》を4枚入れるっていう構築を見つけ出して、それが結果に繋がったというのは……単純にすごい気持ちいいですよね」

--「あれで一気に《世界を目覚めさせる者、ニッサ》の評価が変わりましたもんね」

山本 「えぇ。実際、他の日本勢とデッキの話をしている時にも、メインに《世界を目覚めさせる者、ニッサ》4枚はさすがにないでしょ、ってみんなに言われてましたからね」

--「あ、そうなんですか。なんか、渡辺さんとか黒単タッチ緑を調整していたメンバーも、対同型のシークレットテックとしてサイドボードに採用していたりと、ある程度日本勢の中では評価が固まっていたカードだったのかなと思ってたんですが」

山本 「あ、もちろんカードが結構強いってのは少なくとも日本では知られていたんですけど、どちらかと言うと補助的に使うカードっていう認識だったような。デッキコンセプトのメインに据えて、っていう使い方をしていたのは僕らだけでしたね

--「最終的な結果を見ると、世界レベルで見ても、ほとんどそういう評価はされていなかったようですね」

山本 「そうですね。だからこそ、すごい嬉しかったです」


--「すごい古い例ですけど、《落とし格子》の時代から、シークレットテックによってデッキパワーの差で勝つ、ってのはすごい憧れますよね」

山本 「はい。しかも、近代マジックではほとんどないじゃないですか、こういうことって。デッキのテクニックも、カードパワーの評価もすぐ広まりますし、ある程度みんな目処をつけやすいようになってきていますし」

--「でも、山本さんの場合、プロツアー『テーロス』の時にも、黒単信心に《群れネズミ》を入れるっていうテクニックで結果を残していますよね。あの頃の黒単信心に《群れネズミ》を入れるっていうテクニックはほとんど浸透していなかったですし、山本さんのトップ8のリストを見て、爆発的に流行したっていう印象がありますが」





当時最先端の《群れネズミ》を使用して、自身初の個人戦プロツアートップ8入賞。


山本 「あー。うーん、でもあれはちょっと違うんですよ」

--「といいますと?」

山本 「そもそも、僕の黒単信心って当日の朝の時点では《群れネズミ》入っていなかったんですよ。あれは、行弘くんが教えてくれたんですよね。黒単に《群れネズミ》いれると強いよって。で、実際、《群れネズミ》入った行弘くんの黒単信心とやって、すごい強かったですし、デッキも2枚分ほどフリースロットがあったので、そこに入れたって感じです」

--「自分で見つけたテクニックでは無かった、と」

山本 「そうですね。あの黒単信心に関しては、ベースを作ったミツヒデ(伊藤 光英)くんと、《群れネズミ》をいれるアドバイスをしてくれた行弘くんがすごかったなと」

--「だからこそ、嬉しかったと。実際のジャンドプレインズウォーカーの調整過程についても少しお話いただけますか?」

山本 「あれは、たしか直前のグランプリ(台北)の段階でもデッキがまったく決まってなくて……で、帰り道でStarCityGamesOpenで勝ってたジャンドプレインズウォーカーが当時トップメタだろうと予測されてた黒単信心に強そうだなと思って調整をはじめたんですよ。その、元になったデッキには《世界を目覚めさせる者、ニッサ》は入っていませんでしたね」

--「なるほど。そういえば、今回のThe Last Sunのポスターでも並んでますが、個人的にはその辺りから市川さんとより仲良くなったなという印象があるんですよね。前回のThe Last Sunで仲良くなった、ってのは僕自身もカバレージで書かせてもらいましたが、なんというか、より親密になったなという印象ですね」

山本 「あぁ、そうかもしれませんね。帰国してから、MagicOnlineのトーナメントプラクティスでずっと練習してましたし、色々と情報交換をして、より親しくはなりましたね」

--「そこで調整相手として市川さんを選んだのはなんでですか?」

山本 「うーん……なんというか、感覚が近いな、と思います」

--「あぁ、なるほど。たしかに、両名ともMagicOnlineで地力をつけて、その上で、MagicOnlineとリアルの差を埋めて結果を出してきたプレイヤーですもんね。そう考えると、考え方が近い部分はあるのかもしれないですね」

山本 「そうですね、そんな感じです」




今回の『The Last Sun 2014』の宣伝ポスター。凛々しく並ぶ2人の姿が話題になった。



--「プロツアー『テーロス』の時と違って、プロツアー『マジック2015』の時は、自分で見つけたデッキを自分で調整したからこそより印象に残ってる、ということでいいでしょうか」

山本 「はい。そもそも、僕は自分でゼロからデッキを作れるタイプではないので。その分、調整の精度をあげたり、あとは色々なデッキのテクニックを組み合わせたりでデッキのレベルを上げるしか方法はないかなと。でも、それで結果が出せたというのが単純に嬉しいです。できれば、また、こういう感じのデッキが作りたいですね」

--「プロツアーで単純に成績を残す、というだけでなく、デッキでも結果を出したいと」

山本 「やっぱ、(あぁいうデッキを作れると)気持ちいいですから。あと、プレイングのレベルを上げて世界との差を埋めるよりは、デッキテックを探す方が、まだ世界との差を埋められる可能性が高いと思っています。正直、僕はプレイに関しては並以上にはうまくなれないと思っているので、世界を相手に戦うには、デッキ勝ちを狙ったり、リミテッドで自分なりのロジックを作るなりするしかないのかなと」

--「リミテッドもそうですか」

山本 「そうですね。リミテッドも、自分の中である程度確信できるやり方をしっかり持って、他の人と違うやり方で勝つ方法を探したいですね」

--「もちろん、前提としてのセオリーはおさえた上で、ってことですよね?」

山本 「えぇ。その上で、どの色が強いか、とか、どの戦略が優先度が高いかとかのロジックを自分の中で構築するのが必要だと考えています」




スポンサード契約はどうだったか?

--「さて、他の二名にもきいている質問なのですが……日本人のプラチナプレイヤー3人がすべてスポンサードされているということが世界選手権のカバレージなどでも話題になっていましたが、山本さんがスポンサード契約を結んだのも今年の話ですよね?」

山本 「そうですね」




2014年7月末、齋藤 友晴・津村 健志が所属する「Hareruya Pros」に加入。



--「実際に、スポンサード契約をしてから、マジックで変わったこととかありますか?」

山本 「あぁ……結構あります。これまではなんだかんだで、マジックをするときは自分一人だけの事考えてやってればよかったんですけど、契約してからは自分一人だけのマジックじゃないんだなと考えるようになりましたね」

--「自分一人だけのマジックじゃない、といいますと?」

山本 「うーん……なんというか、ショップの看板を背負ってマジックやってるという事をちゃんと自覚してやらなければな、と考えるようになりました」

--「具体的にはどう変わりましたか?」

山本 「変な話なんですけど、例えば、極端な話ですがイカサマとかで捕まったらショップの名前に瑕をつけることになってしまいますよね。もちろん僕はイカサマはしませんが、契約している以上、より正確でわかりやすいプレイをするべきだと考えるようになりました」

--「あぁ、なるほど。例えば、プロツアーとかだと、どうしても海外プレイヤー相手のコミュニケーショントラブルとかもおこりやすいですもんね。そうならないように、できるだけ宣言などもわかりやすくしていく、ってことですね」

山本 「そうです。もちろん、トーナメントに参加する以上はわかりやすいプレイをすることは当たり前のことなんですが、契約してからはより明確にそれを意識するようになりました」

--「もっと言えば、他のプレイヤーからゲーム内容だけでなく、振る舞いでもリスペクトされるようなプレイヤーを意識しているということですね」

山本 「まだまだリスペクトされるようなプレイヤーにはなれていないと思いますが、そうなれればうれしいですね」




2015年はどのような年にしたいか?


--「それでは、最後に2015年に向けての目標を聞かせていただけますか?」

山本 「まぁ……プラチナ維持ですよね」

--「内容的にはどんな感じの目標がありますか」

山本 「実は、個人タイトルって昨年のThe Last Sunくらいしかないですし、プロポイントがもらえる大会で言えば、まったくないんですよね。なので、来年は個人タイトルをとれればうれしいですね」

--「なるほど。ちなみに、来年、タイトルを取るとしたら構築とリミテッドだとどちらのほうが可能性があると思いますか?」

山本 「やっぱり、リミテッドですかね。グランプリに出ていても思うんですが、最近のプレイヤーは昔ほどリミテッドをやっていないのではないかと感じています。先ほど少し話しましたけど、リミテッドこそやりこみの差がでるレギュレーションですし、他の人たちがあまりリミテッドに親しんでないなら、ずっとやっている僕らのほうがアドバンテージはあるのかなと。逆に、構築はみんなすごいやり込んでいるので、差が出にくいので中々優勝は難しいかなと」

--「例えば、グランプリに遠征行くとしたら、構築よりリミテッドを優先したいと」

山本 「そうですね」





--「他には、なにかありますか?」

山本 来年の世界選手権出場の権利は維持したいですね。楽しかったですし、世界選手権参加者はプロポイントでかなりのアドバンテージがある以上は、グランプリなどに継続参戦していたら権利を維持するべきかなと思います」

--「アドバンテージがあるのに巻き返されたら、それこそ年間の成績が不甲斐なかったなということになってしまう、ってことですね。何らかの事情でプレミアイベントでられないというわけでなく、継続参戦しているなら」

山本 「そうですそうです。あ、あと、来年は今年みたいな繰り下がり権利ではなく、ちゃんと確定した権利で悠々と参加したいですね。それは目標っていっていいかと思います」

--「来年の目標は、プレミアイベントで個人タイトルを取ることと、世界選手権の権利を確定させることのふたつ、ってことですね。……あれ?じゃあ、プロツアー優勝すれば両方満たせるんじゃないですかね?」

山本 「いやいや、まだまだ、自分の実力でプロツアー優勝はできないと思います。できるとしたら、よっぽど運が良くないと」

--「もしくは、デッキ勝ちしないと、ですか」

山本 「あ、そうですね。……もちろん、デッキ勝ちするだけで優勝できるほどプロツアーは甘くないので、その上でついてないといけないと思いますけど。ただ、優勝したときに『運が良かったから』だけじゃさみしいですから、ある程度は自信を持てるロジックを持って優勝したいですね。できるのならば、ですけど」

--「本日はお忙しい中、ありがとうございました」