By Atsushi Ito
「構築最強」の座まで、あと1つ。
各地の厳しい予選を潜り抜け、あるいは確かな過去の実績から招待されたいずれ劣らぬ強者たち172名。
その頂点に立つ資格を得たのは、さもありなんという2人だった。
市川 典和(愛知)。「The Finals08」優勝という華々しい戦績を持つ元「構築王者」が、真の構築最強が誰なのかを知らしめるべく、再びこの晴れ舞台に帰ってきた。
林 隆智(東京)。準決勝で相性最悪との下馬評を覆して相棒の《若き紅蓮術士》とともに見事決勝へと駒を進めた、《宝船の巡航》の申し子だ。
ここまで来れば、どちらが勝ってもおかしくはない。実力伯仲の2人に差ができるとすれば、それはダイスロールによる先攻後攻、それとあと1つ。
そう、2人の命運を決定づけるのは「フォーマット選択権」。その貴重な権利を得たのは、スイス4位通過の林だった。
となれば準々決勝で佐々部を翻弄したように、得意のフォーマットで有利を得るチャンス……なのだが。
林 「これは……どっちも微妙ですね」
市川 「ああ、なるほど。確かに微妙ですね」
市川のデッキリストを眺める、林の表情が険しい。それもそのはず、林のデッキはシディシウィップと青赤デルバー。対し、市川のデッキは緑黒星座信心と《出産の殻》。いずれを選んでも、相性的に明確な有利はつかないどころか、厳しい戦いになりそうなマッチアップなのである。
ならばどうするか。
林 「……モダンで。スタンのデッキはあんまり信頼してないんですよね」
林の決断は早かった。どちらにせよ有利がつかないのなら、自分が信じるデッキで行くしかない。
市川 「いやー良かった。モダン、やりたかったんですよ」
対して、市川もどちらかといえばモダンの方が嬉しい様子。そういえば去年の決勝戦はレガシーだった。「構築最強」を名乗るには、やはりスタンダードに精通しているだけでは足りないということなのだろう。
《出産の殻》対青赤デルバー。ともに実力申し分のない2人が現在のモダンのトップメタ同士でぶつかり合うという。
2014年のラストを締めくくるに相応しい最後の戦いが、始まった。
Game 1
先手の市川の《極楽鳥》に対し、まず《ギタクシア派の調査》で《呪文滑り》《出産の殻》に土地が3枚という手札内容を確認した林は、《二股の稲妻》で出鼻をくじく。
さらに《呪文滑り》の返しで《血清の幻視》から《秘密を掘り下げる者》を展開。市川がやむなく《出産の殻》をキャストした返しで《昆虫の逸脱者》へと即座に「変身」させ、アタック後には《二股の稲妻》と《稲妻》を惜しげもなく使って《呪文滑り》を処理、市川に《出産の殻》を思うように起動させない立ち回りを見せる。
それでも市川は引き込んだ《貴族の教主》から《出産の殻》を起動、《絡み根の霊》へと変えてクロックを用意しつつ、今度こそ《出産の殻》を安全に起動するための種となるクリーチャーを確保するのだが。
度重なるフェッチギルランのペイライフとファイレクシアマナの支払い、それに《昆虫の逸脱者》のアタックと地道な《二股の稲妻》の1点が合わさって、擦り減った市川のライフはこの時点で既に9点。
と、いうことは。
アタック、《稲妻》、《稲妻》。
市川 「パーフェクトすぎるでしょう!(笑)」
林 「ですね(笑) まあでもメインは勝たせてもらわないとね」
林 1-0 市川
Game 2
再びの《極楽鳥》スタートを切る市川に対し、後手のドローを経ても土地が1枚しかない林は選択を迫られる。
《秘密を掘り下げる者》か、《稲妻》か、それとも《血清の幻視》か。もう1枚土地があれば、1ゲーム目同様に《稲妻》→《血清の幻視》+《秘密を掘り下げる者》という最高の受け手ができるところなのだが、土地が1枚しかない現状、ここで《稲妻》と動くと次のターンに2枚目の土地が引けないかもしれないという大きなリスクを背負うことになってしまう。悩ましいところ。
ここで林は、そのリスクを承知の上で《稲妻》を選択する。どのみち《極楽鳥》を放置することにもリスクは伴うからだ。
林 隆智 |
しかし、今回はその判断が裏目に出てしまう。
市川の動きは、マナクリーチャーの除去を意に介さない《復活の声》→《復活の声》。対し林は《思考掃き》を撃つものの2枚目の土地が引けず、ディスカードする始末。
ダメ押しに登場したのは。
林が即座にカードを畳む判断をするのに十分なカード、すなわち《包囲サイ》だった。
林 1-1 市川
Game 3
ここにきて林がダブルマリガン。それでも《僧院の速槍》からの《若き紅蓮術士》で最速の動きを目指すが、市川も《貴族の教主》からの《台所の嫌がらせ屋》と負けてはいない。
さらに3ターン目の《ギタクシア派の調査》で明らかになった市川の手札が、
《絡み根の霊》
《復活の声》
《オルゾフの司教》
《修復の天使》
《流刑への道》
という強力なもの。林もひとまず「果敢」した《僧院の速槍》でアタック、《台所の嫌がらせ屋》にブロックされると《蒸気の絡みつき》を《貴族の教主》に撃ちこむという、戦闘で得をしつつ市川の展開を阻害する好プレイを見せるが、その代償として既に手札の枚数が心もとない。
一方落ち着いて《貴族の教主》を出し直した市川は、続くフルアタックは「頑強」した《台所の嫌がらせ屋》を差し出しつつ脇をすり抜けたトークンによって4点はもらうものの、ついに《オルゾフの司教》を着地させ、林が積み上げたリソースを根こそぎ薙ぎ払うことに成功する。
この時点で林に残されたのは《僧院の速槍》と1枚の手札のみ。市川がさらに《復活の声》を展開すると、もはや盤石といった様相に思われた。
だが、どんな状況からでも逆転できるカード=《Ancestral Recall》の生まれ変わりが林の手札に舞い込むと、3枚を引いた林は続けて「果敢」した2/3の《僧院の速槍》でアタック。《復活の声》単体にブロックされたところで、解決後に《電謀》を「超過」し、《貴族の教主》《オルゾフの司教》とエレメンタルトークンの3体を一挙に薙ぎ払うビッグプレイを見せる。
さらに《修復の天使》が立ちはだかると今度は《若き紅蓮術士》から《血清の幻視》《ギタクシア派の調査》とつなげて盤面の再構築を図りつつ、《流刑への道》《絡み根の霊》《修復の天使》という手札を確認した後に3/4の《僧院の速槍》でアタック。戦闘後にブロックした《修復の天使》に《二股の稲妻》をお見舞いする意気軒昂ぶり。
市川 典和 |
しかし、市川もさるもの。ここでトップは《包囲サイ》!
手札に2枚目の《修復の天使》が見えている今、カウンターが喉から手が出るほど欲しい林は2枚目の《宝船の巡航》で手札を拡充しにかかるが、願いは届かず次のターンには《修復の天使》が降臨。
6点×2。そのライフアドバンテージは、あまりに重かった。
気づけば林のライフは残り1点。《思考掃き》《血清の幻視》、そして3枚目の《宝船の巡航》から再び《血清の幻視》と連打するのだが、どれだけカードを引いても3/4飛行と4/5トランプルのアタックを防ぐ術は見当たらない。
それでも、トークンを1体残してのフルアタックで《包囲サイ》を巨大な《僧院の速槍》のチャンプブロックに当たらせつつ、かき集めた《稲妻》を戦闘後に2連打して天使を地に墜とすことに成功。細い糸を渡りきろうとする。
の、だったが。
市川 「それ、死んでるね」
冷静な市川によって公開情報である《流刑への道》と《絡み根の霊》でブロッカーのトークンを排除されてからの「速攻」アタックを食らうと、林のライフが先に尽きた。
林 1-2 市川
Game 4
今度も6枚スタートで「2位かー……まあ頑張ったよね」と嘯く林だが、《秘密を掘り下げる者》プレイから続くターンには市川の《極楽鳥》を焼き、さらに《復活の声》の返しの2回目のチェックで《昆虫の逸脱者》に「変身」させつつ《蒸気の絡みつき》で展開を阻害するという上々の立ち上がりを見せる。
市川も《台所の嫌がらせ屋》で一息つこうとするのだが、2点のライフゲインを経ても既にライフは14と心もとない水準まで落ち込んでおり、さらに返しでアタックされると、11点。火力のある青赤デルバー相手なだけに、これ以上のライフ損失は避けたいところだ。
林がマナを立たせてターンを返してきたのが気になるところだが、かといって3/2飛行をこれ以上放置はできない。
そう決断した市川は、賭けに出た。
市川 「裏目はあるけど、やるしかないか」
フェッチ起動とファイレクシアマナで計3点を支払っての《出産の殻》プレイ!
通れば《台所の嫌がらせ屋》が「頑強」しつつ《残忍なレッドキャップ》が《昆虫の逸脱者》を処理できる。
通れば。すなわち、林が何も持っていなければ。
だが、ここまで勝ち上がってくる林が、何も持っていないはずもない。
対応して《台所の嫌がらせ屋》に《蒸気の絡みつき》を撃ち込み、《出産の殻》を機能不全に陥らせると、さらには《粉々》でそのものを破壊しつつダメージを与える。
ダメ押しに《宝船の巡航》で《Ancestral Recall》すると、《昆虫の逸脱者》のアタックと引き込んだ《二股の稲妻》が綺麗に市川のライフを刈り取り、決着は5本目に持ち越された。
林 2-2 市川
Game 5
ここにきて市川の方が悩んだ末にマリガン。さらに《ギタクシア派の調査》に対して晒された手札は、
《台所の嫌がらせ屋》
《オルゾフの司教》
《流刑への道》
《森》
《新緑の地下墓地》
という、《出産の殻》もなく受けに特化したもの。
これを見て林は2ターン目に2マナを構えたままターンエンドし、カウンターを警戒した市川が先にキャストした《復活の声》を逆に《呪文嵌め》でカウンターしつつ、余ったマナで《思考掃き》を撃ってテンポを取ると、さらにメインで《血清の幻視》をプレイしてから、そして《Ancestral Recall》こと《宝船の巡航》につなげる。
市川も続けて走ってきた《僧院の速槍》こそ《流刑への道》してクロックの定着を許さないものの、不利は否めない。頼みの《台所の嫌がらせ屋》も《マグマのしぶき》でいとも簡単に処理されると、《秘密を掘り下げる者》を2枚目の《流刑への道》で処理して少しでもゲームを長引かせようとするのだが、林は2体目の《秘密を掘り下げる者》をプレイしつつ2枚目の《宝船の巡航》でどんどんアドバンテージ差を引き離していく。
そして市川が仕方なく溜めていた《オルゾフの司教》をキャストした後で。
本命のクロックとなる《秘密を掘り下げる者》と《若き紅蓮術士》が、満を持して林の場に登場する。
市川も2枚目の《台所の嫌がらせ屋》を引き込み、何とか防御を固めようとするのだが、林の《秘密を掘り下げる者》は地上が堅いと見るや《ギタクシア派の調査》をめくって一瞬で航空戦力へと「変身」。さらにその《ギタクシア派の調査》が《僧院の速槍》を連れてくる。
やがて慎重にダメージを計算した林がついにフルアタック。さらに「頑強」した《台所の嫌がらせ屋》をしっかりと《二股の稲妻》で墓地送りにし、逆転の芽を残さない。
それでも市川はわずかな可能性に賭け、遅れてきた《出産の殻》を設置してターンを返すが。
このゲーム3枚目の、そして林の今日最後の《宝船の巡航》が、市川の構築王者への返り咲きという野望を、《出産の殻》ごと《粉々》に打ち砕いたのだった。
林 3-2 市川
現在モダン最強のデッキと名高い青赤デルバーを回す林のプレイングはこの上なく的確かつ機敏で、ライフ、マナ、墓地といった複数のリソースを針の穴を通す正確さで同時に管理しなければならないというこのデッキの難解さを、ほとんど感じさせないほどだった。
最強のデッキを誰よりもうまく使えることを証明した林こそ、「構築最強」にふさわしい。
『The Last Sun2014』、優勝は林 隆智(東京)!おめでとう!!