By Kazuki Watanabe
プロツアー地域予選、第7ラウンド。スイスラウンド最終戦。
プロツアー地域予選に流れる空気は、通常の大会とは大きく異なる。参加できるのはPPTQを突破した者や、ブロンズ、シルバーレベルプロを始めとする実力者ばかり。そして、全員が「プロツアーに出場したい」という強い思いを胸に抱いている。もちろん、彼らのほとんどは”各種大会の常連”であり、会場での雑談にも花が咲くわけだが、どこか空気が張り詰めている。
この第7ラウンドで、その緊張した空気は最高潮に達したと言えよう。決勝ラウンドがないため、このスイスラウンド最終戦が決勝戦である。
その張り詰めた空気の中、フィーチャーエリアに呼ばれたのは「勝てばプロツアー出場」という非常に重い一戦である。当然、プレイヤーの表情も固い……と思ったのだが。
菅谷「まあ、ここが呼ばれますよね」
そう言いながら、菅谷 裕信は笑顔で席についた。そして、
廣澤「さあ、楽しいマジックするよ」
場の空気を和ませるかのように、廣澤 遊太も明るい声を響かせながら歩いてくる。
大会慣れしている両者。カバレージを取られることも慣れたものである。シャッフルを終えると、
菅谷「写真、先に撮りましょうか」
と、声を掛けてくれた。
7枚の手札を見て、両者はマリガンを選択。
廣澤「今日、初マリガンです」
菅谷が「本当に? それはすごいね」と返す。シャッフルをしながら、「何ラウンド目で負けたの?」「1戦目です」「あ、まったく同じ」と、デッキを差し出すまでの数秒間、笑顔で雑談が続いた。しかし、6枚の手札を手に取ったところで、笑顔は消え去った。両者の表情は、”プロツアー出場を目指す、勝負師の顔”になったのである。
勝者はプロツアーで戦う権利を得ることができる。この日最後の戦いが、今始まる。
Game 1
後攻の菅谷が《ボーマットの急使》で攻撃。2回目の攻撃は《削剥》に阻まれたが、廣澤の送り出した《キランの真意号》を《削剥》で即座に砕き、続くターンは《アン一門の壊し屋》を唱えて攻撃を加えた。序盤から、菅谷が一気呵成に攻め立てる。
廣澤が再び《キランの真意号》を唱え、互いに《山》を3枚並べている。ターンを受けた菅谷は《竜髑髏の山頂》を置いてから《アン一門の壊し屋》で攻撃すると、《反逆の先導者、チャンドラ》を送り出した。
廣澤は《ボーマットの急使》を送り出すが、逆転の契機にはならない。
《反逆の先導者、チャンドラ》が追放した《削剥》が《キランの真意号》へ見舞われ、《アン一門の壊し屋》が攻撃を加えたところで、廣澤は盤面を片付けた。
一閃。両者のプレイが手慣れていることもあり、あっという間の出来事であった。
菅谷 1-0 廣澤
サイドボードに手を伸ばした両者は、じっくりとカードを入れ換えていく。開始前の雑談が戻ってくる気配は一切なく、ただ静かにカードの音だけが響いている。
廣澤「先手いただきます」
その静寂を、廣澤の声が破る。
菅谷「はい」
と、一度頷きながら菅谷は答えた。そして、手元のメモに20という数字を記し、7枚の手札に目を落とす。
先手の廣澤は、「やります」と一言。菅谷の答えも同じだ。
廣澤は指で机を数回叩き、手札からカードを1枚取った。2ゲーム目が開始される。
Game 2
両者、《山》を置く。このゲームも1ターン目から動いたのは、菅谷だ。《損魂魔道士》を戦場に送り出す。対する廣澤は2ターン目に《竜髑髏の山頂》を置き、《木端》で即座に《損魂魔道士》を除去した。
菅谷が《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》を唱えれば、廣澤は《ゴブリンの鎖回し》を送り出す。
《稲妻の一撃》で《ゴブリンの鎖回し》を除去すると、《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》で一撃を加えて、菅谷がターンを終えた。
廣澤はじっくりと盤面を眺めてから、《再燃するフェニックス》を送り出す。
菅谷は《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》で攻撃。《再燃するフェニックス》は《ラガバントークン》の攻撃を阻んだ。
《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》が与えたダメージをメモに刻むと、菅谷は《ヴァンスの爆破砲》を戦場へ。手元のダイスをライブラリーの上に置き、アップキープを待つ。
廣澤は一度身を乗り出して、戦場を見つめる。そして、ターンを受け、《再燃するフェニックス》で攻撃を加えた。5枚目の土地を置き、《損魂魔道士》を戦場に送り出す。
さて、菅谷のアップキープ。《ヴァンスの爆破砲》の能力で、《損魂魔道士》が追放された。
菅谷「ハンドは?」
廣澤「2枚です」
その答えを聞き、一度大きく息を吐いた。
菅谷「……難しいなぁ」
額に手を当てながら、菅谷は戦場を眺めた。そして、追放していた《損魂魔道士》を戦場へ送り出す。そして《損魂魔道士》へ《削剥》を唱える。それならば、と廣澤も《マグマのしぶき》を菅谷の《損魂魔道士》に唱えるが、さらに菅谷は《稲妻の一撃》を重ねた。
両者が逡巡することなく呪文を唱え合い、それを処理していくため、フィーチャーエリアにはカードを叩きつける音が小気味良く響いた。結果、廣澤の《損魂魔道士》のみが焼き払われ、菅谷が3枚の呪文を唱えたことで《ヴァンスの爆破砲》が変身を遂げる。
廣澤の戦場には、《再燃するフェニックス》。対する菅谷は、《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》と《損魂魔道士》を従えている。ターンを受けた廣澤は《再燃するフェニックス》が攻撃を加えた。
菅谷は《反逆の先導者、チャンドラ》を唱えて攻勢を続ける。「+1」能力でライブラリートップを火力にし、《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》、《ラガバントークン》、果敢を誘発させた《損魂魔道士》の攻撃で5点を与えると、さらに《屑鉄場のたかり屋》を唱えた。
《再燃するフェニックス》を手に取り、相手に攻撃された場合の打点を計算する廣澤。口元に指を当て、真剣な表情で戦場を見つめる。菅谷は腕を組み、静かに待ち続けている。
廣澤は《熱烈の神ハゾレト》を送り出した。手札は1枚だが、菅谷の攻撃を阻むために攻撃はしない。
ドローを確認した菅谷の手が、少し震えた。《反逆の先導者、チャンドラ》が《稲妻の一撃》を追放し、これを唱える。そして、《火を吐く稜堡》を起動して、廣澤のライフを焼き切った。
菅谷 2-0 廣澤
勝利した菅谷を友人たちが祝福する。
喜びを分かち合い、噛み締め、「本当に嬉しい」と笑顔を見せる菅谷。その直後に発した一言は、実に印象的であった。
菅谷「頑張って準備しないと」
そう、これが終わりではない。菅谷はプロツアーの出場権利を手に入れた。しかし、それはプロツアーで”戦うための権利”でしかない。そこで世界の強豪を相手に勝利を掴むためには、さらなる研鑽が必要だ。その過酷な事実を、プロツアー出場経験を多数持つ菅谷は痛感しているのである。挑戦する権利を得た今、新たな戦いが始まった、と。
菅谷は、プロフィールの「あなたにとってプロツアーとは何ですか?」という質問に対して、こう答えを記している。
「挑戦し続けに行くところ」
菅谷の挑戦が成功することを祈ろう。