【レガシー】決勝戦:市川 ユウキ(神奈川) vs. 伯耆原 亮(神奈川)

晴れる屋

By Daisuke Kawasaki



伯耆原 「緊張でおちつかない……」

 準決勝の終了時間には、少しの時間差があり、先に終わった市川だけが休憩を取った状態で連戦するのは不利だろう。そんな配慮があったのか、準決勝が2戦とも終わった後に、決勝戦まで少しの休憩時間がとられることとなった。別に特筆するべきことでもない、トーナメントのマジックならよくあることだ。

 だけれども。初めて決勝の舞台に臨む伯耆原にとっては、いつものことなどと簡単にとらえることのできない数分間だった。

 日本におけるレガシーコミュニティの発展はめざましい。10年前にはほとんど存在していなかったレガシーの大会も、それこそ東京であれば毎週のように開催されている。レガシーの大会が少なかったころは、それこそグランプリに併催されるレガシー大会くらいしか大規模にレガシーを楽しめる場はなかった。

 だが、レガシーの大会が増えたとしても、併催レガシートーナメントの価値は落ちていない、いや、むしろ大きく上がったと言っていいのではないだろうか。私見ではあるが、多くのレガシープレイヤーたちは、普段の大会すべてを併催イベントで優勝するための練習であるととらえているように思われる。

 そして、自分がその日本レガシー選手権の決勝に臨む、そう考えると緊張で落ち着かない。そんな雰囲気で周りにいる友人たちと話していた。この休憩時間は本当に伯耆原にとって休憩となったのだろうか。

 対する市川は、すでに準決勝を終えてから時間がたっていることもあるのか、非常に落ち着いた様子で友人たちと談笑していた。いや、時間がたっているからというだけではないだろう。市川はすでに大舞台を経験している。

 mtg-jp.comの鍛冶 友浩の連載でも告知されているMOPTQ。そこで優勝したtrioskというアカウント、これが市川のアカウントであり、ということは、「並のグランプリを優勝するよりも大変」といわれるMOPTQの決勝戦を市川は経験しているのだ。

 そう言われてみれば、スタンダードの津村の記事でもtrioskというアカウントを見た記憶はあったし、鍛冶がモダンデッキをリプレイしていたこともあった。きっと、市川は色々とオンラインでは有名なプレイヤーなのだろう。

 市川が使用するデッキは、青赤緑のカナディアン・スレッショルド。対する、伯耆原が使用するのは、白緑のマーヴェリックだ。


Game 1

 先手の伯耆原はマリガン後の6枚を、少考の末にキープ。互いにフェッチランドを置きあった後に、伯耆原は《Savannah》をサーチ、さらに《森》をセットして、《獣相のシャーマン》をプレイする。

 これに対応してデッキの中で唯一黒枠のデュアルランドだという《Volcanic Island》をフェッチしてきた市川は《呪文嵌め》でカウンター。そして、自分のターンに3/4となっている《タルモゴイフ》を召喚する。

 続くターンに伯耆原は現状マナの出ない《ガイアの揺籃の地》セットから《梅澤の十手》をプレイ。これに少考の後に市川は対応せず。そして、自身のターンに2枚目の《タルモゴイフ》を召喚する。

 伯耆原は《スクリブのレインジャー》をプレイ。だが、これは《呪文貫き》を追放しながらの《Force of Will》でカウンターされてしまう。結果、マナを使い切った形となった伯耆原はターンを返す。

 市川は《渦まく知識》をプレイしてから2体の《タルモゴイフ》をレッドゾーンに送り込む。レッドゾーンに送り込まれた《タルモゴイフ》は伯耆原のライフを10とする。市川は、さらに2体の《敏捷なマングース》を召喚する。

 現状、スレッショルドはしていないので、クロックはギリギリ8点。伯耆原はここで追加の土地として《魂の洞窟》を引き当てると人間を宣言した上で《聖遺の騎士》をプレイする。伯耆原の墓地には土地が1枚なのでこの《聖遺の騎士》のサイズは3/3だ。

 市川が《渦まく知識》でスレッショルドを達成しつつ、有効牌を探し出し、《タルモゴイフ》のサイズを一回り大きなサイズとする《二股の稲妻》をプレイすると、伯耆原は土地を片付けた。

市川 1-0 伯耆原

獣相のシャーマン忠臣


 伯耆原の使用する白緑マーヴェリックは、《獣相のシャーマン》によって伝説のクリーチャーをディスカードし、それを《忠臣》でリアニメイトするというコンボが搭載されている。

 非常に強力なコンボではあるが、しかし、この《忠臣》コンボが中心であるからこそ、最近は全く使用されないデッキとなってしまっているのだ。

死儀礼のシャーマン


 その理由となっているのが、この《死儀礼のシャーマン》だ。メインボードから入れることのできるピンポイント墓地対策。もちろん、レガシーでの使用率も非常に高い。こんな天敵が環境に跋扈している以上は、白緑マーヴェリックを使うメタゲーム的な理由は非常に薄い。

 それでも白緑マーヴェリックを使っているということは、きっと、よっぽど好きなデッキなのだろうと思い、聞いてみた。



伯耆原 「いや、白緑マーヴェリックしか使えないんで」

 予想以上の返事だった。

 日々町田のアメニティドリームでマジックをやっているという伯耆原だが、そこではほとんど他のレギュレーションでは遊ばず、レガシーばかりをやっているという。そして、そのときに使うデッキは、いつだって白緑マーヴェリックだ。

伯耆原 「いろんなクリーチャーで色々できるのがマーヴェリックの一番の魅力ですね。コンボだって《スレイベンの守護者、サリア》《ガドック・ティーグ》がいれば倒せますし」

 マーヴェリックは自由度の高いデッキだ。常に進化し続けるマジックというゲームでは、どんどん新しいカードが登場する。そして、新しいカードが登場するたびに、そのマーヴェリックのリストも進化していくのだろう。

 言ってみれば、この75枚のリストは伯耆原の歴史だ。使い込んだデッキは応えてくれるというのは、オカルトかもしれないが、だが筆者はそんな場面を今までに何度も見てきている。

 伯耆原は、戦友であるマーヴェリックを入念にシャッフルして、Game 2に臨む。


Game 2

 互いにマリガンした後に、まず、先攻の伯耆原が《ルーンの母》をプレイ。対して、市川は再び黒枠の《Volcanic Island》から、《稲妻》《ルーンの母》に。

 だが、伯耆原は続いて《緑の太陽の頂点》《貴族の教主》をサーチ。これを除去できなかった市川だったが、《思案》から《秘密を掘り下げる者》をプレイする。

 返すターンに伯耆原に何のアクションもなく、思惑通り《秘密を掘り下げる者》《思案》の積み込みによって変身させ、3/2飛行をレッドゾーンに送り込む。そして、その送り込んだ《昆虫の逸脱者/Insectile Aberration》が瞬速で召喚された《エイヴンの思考検閲者》にがっちりキャッチされる。

 ブロックされてしまったものはしかたないので、市川は《乱暴/Rough》で《貴族の教主》を墓地に送り込む。返すターンに、伯耆原は《ドライアドの東屋》をセットして、ターン終了。市川は2枚の《思案》で山札を掘り進む。そして、そのターンのエンドに伯耆原は《エイヴンの思考検閲者》を再び戦場に。

 伯耆原は合計3点のクロックを用意しつつ、《不毛の大地》で市川の唯一の緑マナである《Tropical Island》を破壊。対して市川は《二股の稲妻》で3点のクロックをゼロとする。

 伯耆原は、このマッチ何回目かの、土地を置くのみでターンエンド。市川は《霧深い雨林》フェッチで《Tropical Island》をサーチ。そして《タルモゴイフ》を召喚する。

 この《タルモゴイフ》へは《剣を鍬に》をプレイする伯耆原だったのだが……この《剣を鍬に》《Force of Will》されてしまう。そして《タルモゴイフ》のアタックが通って、伯耆原のライフは15。

 市川は《タルモゴイフ》でのアタックの後に、《渋面の溶岩使い》をプレイ。対して伯耆原はターンエンドにフェッチランドを使用して、ライフは14。手札はゼロ。

 ちょうど5マナの伯耆原は、《タルモゴイフ》を止めうる《鷺群れのシガルダ》をトップデック。対して、市川も《硫黄の渦》をトップデックし、これを設置する。《タルモゴイフ》《鷺群れのシガルダ》がにらみ合うのならば、《渋面の溶岩使い》分市川が有利だ。

 伯耆原は《緑の太陽の頂点》をトップデックすると、これをX=2でプレイし、《クァーサルの群れ魔道士》を戦場に。そして、市川はこの《クァーサルの群れ魔道士》を対象に《渋面の溶岩使い》術士をプレイすることで、《硫黄の渦》を破壊させ、《タルモゴイフ》《鷺群れのシガルダ》を乗り越えられる5/6へと成長させる。

 だが、伯耆原がさらにその《タルモゴイフ》を上回る6/6の《聖遺の騎士》を召喚したことで、決着は最終戦へと持ち越されることとなる。

市川 1-1 伯耆原



 常日頃レガシーをやっている伯耆原に対して、市川の主戦場はレガシーというわけではない。

 市川は、オンラインも含み、予選シーズンが行われているレギュレーションであれば基本的にプレイしていると言っていいだろう。もしも統率者戦がチャンピオンシップのレギュレーションに選ばれるようなことがあれば、老後の楽しみなどと言っている場合ではないだろう。

 トーナメント指向のプレイヤーの多くはPTQごとにプレイするレギュレーションを変える。市川も例外ではない。

 この大会のためだけにこの会場に訪れた伯耆原と違い、市川はそもそもグランプリ本戦に参加していたプレイヤーなのだ。残念ながら初日を突破することはできなかったが、気持ちを切り替えレガシーのデッキを用意して、レガシー選手権に臨んだという。

 もちろん、使用するデッキにカナディアンスレッショルドを持ち込んだ理由は簡単で、それはMOPTQで使っていたデッキだったからだ。普段からレガシーをやっているわけでは無い市川にとって、それは自分のレガシーの経験のすべてといっていいのだろう。

 市川は、その使い慣れた武器を持って、最終戦に臨む。


Game 3

 三度、伯耆原はマリガン。

 ゲームは、後手の伯耆原が召喚した《ルーンの母》がファーストアクション。この《ルーンの母》《二股の稲妻》で除去した市川だったが、続く《スレイベンの守護者、サリア》をカウンターすることができない。

 返すターンに市川は3/4の《タルモゴイフ》をプレイ。このクロック差でプレッシャーをかけるプランと思われるが、しかし、市川のターンエンドに伯耆原がプレイした《エイヴンの思考検閲者》がクロックで追い越し、そして、3/3の《聖遺の騎士》が追い越す。

 だが、このターンエンドに市川が《稲妻》《聖遺の騎士》にプレイし、クロックをへらしつつ《タルモゴイフ》のサイズを4/5へとすると、さらに《二股の稲妻》が伯耆原の盤面をクリアにする。さらに、《不毛の大地》《Savannah》へと使用する。

 頼みの綱として伯耆原がプレイした2体目の《聖遺の騎士》《水没》で山札へ送り返し、《タルモゴイフ》でアタック、そして、2体目の《タルモゴイフ》を戦場に追加する。

 伯耆原はX=1で《緑の太陽の頂点》をプレイする。

市川 「1?」

 長考の末、市川は《Force of Will》《緑の太陽の頂点》をカウンターする。伯耆原は残した1マナで《貴族の教主》をプレイ。

 2体の《タルモゴイフ》のアタックに対して、《貴族の教主》がチャンプブロックをして、伯耆原のライフは、残り3。

 市川は、1枚のエンチャントを戦場にたたきつける。

硫黄の渦


 《硫黄の渦》

伯耆原 「きたぁ!」

 伯耆原のライフはアップキープに1になり、ドローを見ると、伯耆原は市川に手を差し出した。

市川 2-1 伯耆原

市川 「これで、レガシーコミュニティの人たちから煽られることはないでしょう」

 優勝した感想を聞くと、市川はこう答えた。こういう事を言うから、煽られるのだろう。とはいえ、この一日を通しての市川のプレイを煽ることは難しい。

 たったの3戦しかマッチを見ることができなかったので、市川が単純にマジックが強いか弱いかを筆者は判断することはできないし、そもそも筆者が判断するようなことではない。しかし、この3戦を見ただけでも容易にわかることがひとつあった。

 市川はこのデッキを回すのになれている。それも驚異的なレベルで。自分のプレイの判断もはやく、相手への対応もはやい。トップデックしたカードでもすぐに用途を判断しているし《思案》でトップを見た後に、シャッフルするか否かの判断だけで無く、どう積み直すかの判断まではやいのだ。

 おそらく、プレイ中にデッキの中のカードすべての可能性を考えている。いや、雰囲気を見るに、考えるまでも無く体に染みついているレベルだろうと思う。それは、プレイングの基本だし、当たり前だと思うかもしれないが、しかし、当たり前のことこそ実現するのは難しい。きっと、期間からは考えられない、途方も無い回数このデッキをプレイし続けていたのだろう。

 そして、この一日の間、レガシーの大会を見てきて感じたのは、レガシープレイヤーにはそういうプレイヤーの割合が非常に多いということだ。おそらく、自分が使っているデッキを長い期間使い続けているのだろう。そういうプレイヤーが多いのが、レガシーというレギュレーションだ。

 ローテーション落ちが無いという特性上、それこそ禁止カードさえでなければずっと同じデッキを使い続けることができる。もちろんメタゲームによって駆逐されたとしても、自分が使う気であれば使い続けることができるのだ。使い続けていれば、プレイングもうまくなるし、新しいカードの登場で自分の使い続けてきたデッキが日の目を浴びることもある。それがレガシーなのだ。

 新しいカードが出るたびに、自分のデッキを成長させ、そのデッキを使い続けることで自分を成長させる。デッキと共に、自分のやってきたマジックの歴史を作り上げていくことができること、これこそがレガシーの最大の魅力なのだと思う。



 長い戦いを戦い抜いたチャンピオンに、最大級の賞賛と煽りを込めて。

 おめでとう!市川ユウキ!