0. MOCS 2nd Seasonについてのお話
Magic Onlineの世界では、ひと月に一度の頻度でMagic Online Championship Seriesというトーナメントが開催されます。これは一年に一度行われる「Magic Online Championship」という招待イベントへの予選となっており、「Series」の優勝者はプロツアーと同等の賞金額を誇る「Championship」本戦への招待権利を得られるのです。
「Series」への参加方法や大会全体の構造は少しややこしいので今回は省きますが、Magic Onlineのプレイヤー達のための大きな祭典のひとつ、と思っていただければ幸いです。
この「Series」のフォーマットは毎月変化するのですが、3月の頭に行われた今年2回目のMagic Online Championship Series 2nd Season(以下『MOCS』)はスタンダードによって競われ、プロツアー「ギルド門侵犯」の後にいくつかのグランプリを経て開催されたこのトーナメントは、当時の最先端のメタゲームをそのままに反映した結果となっていました。
今回の記事の中では『MOCS』の結果に注目し、そこからいくつかの興味深い点をピックアップしていきます。その中で見つけた要素から今後のメタゲームとその中で戦うための方法を探します。
それではまず『MOCS』の舞台背景から話を始めましょう。
1. 『MOCS』の前提情報
3月の上旬、日本では世界最大規模のグランプリであるグランプリ横浜が開催されている裏で行われた『MOCS』のメタゲームは当時、その前週に行われたGP Quebec Cityの結果が色濃く反映されるものだと考えられていました。
その結果が反映されたメタゲームとは、ふたつの巨大なアーキタイプが環境を支配している単純明快なフィールドです。
「Naya Blitz」と呼ばれる、かつては人間アグロと呼ばれていたアーキタイプの亜種がひとつ。
そしてもうひとつは「黒赤緑コントロール/Jund Control」という多くのプレイヤーにとって耳慣れたアーキタイプです。
・「Naya Blitz」について
4 《踏み鳴らされる地》 4 《寺院の庭》 4 《聖なる鋳造所》 1 《根縛りの岩山》 4 《陽花弁の木立ち》 4 《魂の洞窟》 -土地(21)- 4 《教区の勇者》 4 《ボロスの精鋭》 4 《実験体》 4 《稲妻のやっかいもの》 4 《アヴァブルックの町長》 4 《火打ち蹄の猪》 4 《炎樹族の使者》 4 《前線の衛生兵》 -クリーチャー(32)- |
3 《巨大化》 4 《灼熱の槍》 -呪文(7)- |
2 《近野の巡礼者》 3 《悪鬼の狩人》 4 《スレイベンの守護者、サリア》 2 《平和な心》 4 《ボロスの魔除け》 -サイドボード(15)- |
前回の記事においても簡単に触れた「人間アグロ」と呼ばれる攻撃的なアーキタイプの亜種が、この「Naya Blitz」です。ここで人間アグロの亜種としている理由は、既存の人間アグロとはメタゲーム上の立ち位置が大きく異なるものだからです。以前は環境に存在しているアグロデッキは大きく分けてふたつあり、そのひとつは人間アグロ、またひとつは赤系アグロでした。そして、これまでの人間アグロの立ち位置とは、赤系アグロや《ボロスの反攻者》にはやや辛いものの、半ばコンボデッキのような意味合いで純粋なゲームスピードの速さのみを武器に環境と向かい合ったものだったのです。プロツアー直後の《ボロスの反攻者》が主流なメタゲーム上では不利であるものの、速度というポテンシャルだけでなんとか戦えなくもないといった類のアーキタイプでした。
ただ、このイメージはとある2枚のカードの発見によって覆されました。
それは《アヴァブルックの町長》と《巨大化》で、この2枚こそが「Naya Blitz」をそれとたらしめるパーツです。
《アヴァブルックの町長》は以前から採用している形はあったものの、それが固定枠として4枚採用され始めたのは意外なことに最近です。これまでの人間アグロの形が洗練されていなかったこともありますが、あらゆるアーキタイプが混在していたプロツアー前のメタゲームにおいては《アヴァブルックの町長》がデッキの構成を強固にしすぎてしまうために自然と避けられていたのでした。これは速度が重要だとはわかりつつも、まばらにアーキタイプが存在する環境においてはある程度の柔軟性が求められ、人間アグロもその例にもれなかったからです。
しかし、時がたち、プロツアーが終わったことでアーキタイプの数が減ったことで環境はシンプルな方向性へと進みました。《ボロスの反攻者》を使うか、それに強い構成にするか、というものです。そのなかで人間アグロは《ボロスの反攻者》を採用しづらいことから、《ボロスの反攻者》を出されなければ勝利できる《アヴァブルックの町長》を採用することで速度に特化した形を模索したのです。それでも《ボロスの反攻者》を引かれてしまうと一気に速度が落ちてしまうため、何かと赤系アグロや緑系アグロのほうが優れているように思われていました。
その流れを一変させたのがもう1枚のピースである《巨大化》です。僕が小学生だった頃から存在する1マナの強化呪文は、これまであらゆる構築フォーマットで使われてきた優良呪文ではあるものの、昨今のカードのインパクトと比較するとどうしても見劣りすると考えられていました。これは僕だけの感想ではなく、デッキを構築する際に喜んで《巨大化》を手に取るプレイヤーは2013年では少数派だったことでしょう。ところが、その《巨大化》が人間アグロの価値を大きく変容させました。これこそが《ボロスの反攻者》を越えて、赤系アグロとの相性差を覆すマスターピースだったのです。
1マナという軽いアクションはもちろん、大隊能力との兼ね合いでパーマネントの数を維持することが重要な「Naya Blitz」において、貴重な生物を速度を落とすことなく火力呪文から守り、サイズで《ボロスの反攻者》を乗り越えることができるようになりました。火力呪文を多く採用していた赤系アグロにはテンポや展開負けすることが減り、《ボロスの反攻者》だけで戦線を維持しようとしている「白黒赤貴種デッキ/The Aristocrats」や「白青赤ミッドレンジ/Tricolor Flash」などにはクリティカルな働きをしたのです。
《アヴァブルックの町長》と《巨大化》。この2枚で生まれ変わった「Naya Blitz」は、環境最速のゲームスピードを主張し、赤系アグロを押しのけてメジャーなアグロとして環境における立ち位置を固めることになりました。これ以降のアグロは常に「Naya Blitz」との比較をされるようになり、その圧倒的な速度と釣り合いが取れるだけの「魅力」がなければ他のアグロは成立しないため、「Naya Blitz」は結果的にアグロのアーキタイプを整理することとなったのです。
「Naya Blitz」を倒すにはどうすればいいのか、「Naya Blitz」と差別化するデッキ作りとはなにか。
これこそが昨今のテーマであり、環境に存在するための前提条件でもあるトピックです。多くのアーキタイプへの試練石ともいえる存在としてメタゲームに存在しています。
・「黒赤緑コントロール/Jund Control」について
2 《森》 4 《血の墓所》 4 《踏み鳴らされる地》 4 《草むした墓》 3 《竜髑髏の山頂》 2 《根縛りの岩山》 4 《森林の墓地》 2 《ケッシグの狼の地》 -土地(25)- 2 《東屋のエルフ》 4 《高原の狩りの達人》 4 《スラーグ牙》 3 《オリヴィア・ヴォルダーレン》 -クリーチャー(13)- |
3 《悲劇的な過ち》 1 《殺害》 1 《ミジウムの迫撃砲》 3 《忌むべき者のかがり火》 4 《遥か見》 2 《戦慄掘り》 1 《ラクドスの復活》 2 《突然の衰微》 3 《ヴェールのリリアナ》 2 《原初の狩人、ガラク》 -呪文(22)- |
1 《酸のスライム》 2 《強迫》 2 《地下世界の人脈》 2 《火柱》 1 《忌むべき者のかがり火》 2 《殺戮遊戯》 2 《ラクドスの復活》 2 《墓掘りの檻》 1 《ニンの杖》 -サイドボード(15)- |
ここ数ヶ月のスタンダード環境で馴染み深いアーキタイプとなった「Jund」ですが、その原動力は、どのマッチアップにおいても極端に不利になることが少ない柔軟性にあります。プロツアー前後においてはミッドレンジの代表格である「Jund」を倒すべく「白青黒コントロール/Esper Control」のような典型的なコントロールが登場しましたが、それでも彼らに手も足も出ないという事は決してなく、サイドボード後の構成まで勘定に含めると不満の少ないゲームを行えます。
《ケッシグの狼の地》や《忌むべき者のかがり火》、《ラクドスの復活》といったX呪文を武器にし、ミッドレンジ同士のカードの投げ合いにおいて有利な「Jund」は、一見して大雑把にフルタップでアクションし続けることが強みのように思われていますが、実際はデッキを構築する際にカードの取捨選択の幅が広く柔軟な構成力こそがその強さの本質にあります。
それは適当にピックアップしてきた「Jund」のレシピがどれひとつとして75枚一緒でないことからも分かる通り、彼らはメタゲームの状況に応じて自由かつ精密に速度や対抗策を変化させていくため、色や主要カードを見て「Jund」と一括りにしているだけで『仮想敵や目的が違う』別のデッキであることも少なくありません。コンセプトをそのままに目的を変えられるほど細部に手を加えられるデッキは珍しく、そういった自由度のある構成力こそが「Jund」の魅力です。
もちろん、その選択肢の広さはメインボードだけでなく、サイドボード後にも大きく影響し、プレイヤーが思い描いたメタゲームの形にフィットした構成を組み上げることはそれほど難しくありません。GP Quebec CityにおけるTop8インタビューでは使用したデッキとその理由を質問されているのですが、そこでは「Jund」を使用したプレイヤーがただ一言だけ「No bad matchups.」と答えていることが印象的でした。
実際は「No bad matchups」ではないのです。
後述する「ジャンクリアニメイト/Junk Reanimate」や「人間リアニメイト/Human Reanimate」には当然のように不利であるし、「白青黒コントロール/Esper Control」や「白青緑コントロール/Bant Control」のような古典的なコントロールにも基本的には分の悪い戦いを強いられます。ただ、それでも使用者が堂々と「No bad matchups」だと言い切るのは、彼らが思い描いたメタゲームに対して綺麗にアジャストした構成を組み上げることができたからでしょう。
このように自由度や対応力の高さが売りのアーキタイプであるため、メタゲーム上の不利を断言することは難しいのです。ただ、その構成が一定でないことは不利にはならずとも、その自由度を有利に働かせるためにはかなりの労力が必要です。
選択肢の多さ故に、その選択をベストの選択肢に変えることが難しい。こんな表現が正確かも知れません。Top8インタビューにおける「No bad matchups」を例にして、使用者にとって文句のない構成を作ることはそう難しいことではないのですが、それがトーナメントにおいて最高の選択かというとそうとも言い切れません。使用者の想像がトーナメントの実情と噛みあったときにこそ最高の構成となるだけです。
もちろん、それでも多くの「Jund」の使用者が不満はこぼさないでしょう。理想的な構成を思うがままに組み上げられるのですから。ただ、構成が一定でない分だけ取捨選択の洗練がされにくく、自分では気が付かない構成上のミスが常に存在している可能性さえあります。簡単に構成の出来に満足することはできても、それをより良く、より強く作り変えていくことが難しいアーキタイプのひとつです。
理想的な構成で、予想通りの勝敗を積み重ねる。あらゆる面においてプレイヤーに優しいアーキタイプです。
・前提まとめ
以上に紹介した「Naya Blitz」と「Jund」がフィールドに存在する多数派だと考えられていました。実際に『MOCS』本番においてもこの光景は変わりなかったのですが、ひとつ語らなければならないことは、彼らはどちらともにアーキタイプの相互関係において存在しているものではないということです。
フィールドに多いAに強いからBも多く存在する。このような相性などによって変化していくメタゲームのフィールドではありますが、上に紹介した多数派である「Naya Blitz」と「Jund」は、そのような利害関係とは異なる理由でそれぞれ立場を保っています。
まず、「Naya Blitz」は環境最速のアグロとして、ただそれだけで立場を持っています。環境の速度を定義するのはアグロであり、今となってはその代表格である「Naya Blitz」は環境において「対応される側の存在」としての立場を維持しているのです。周囲のアーキタイプは「Naya Blitz」を意識して存在しているものの、「Naya Blitz」側がメタゲームの機微やアーキタイプの相性を考慮してフィールドで増減しているわけではありません。ただ早く、ただ強いから立場がある。そんなシンプルな理由が彼らの勢力を維持しています。
次に「Jund」ですが、上で少し触れたように、一口に「Jund」といっても様々な構成が存在します。ある程度のトレンドがあるものの、細かな調整部分(それが大きな差異なのだが)が各マッチアップの行方を左右するため、「Jund」だと言えるデッキは多くとも、それらが全体として何に強く作られ何を意識しているものであるかは、アーキタイプではなくデッキの構成の段階で判断されるのです。そのため、フィールドには様々な「Jund」が存在し、それらが一口に「Jund」とまとめられることで大勢力となっている現状があります。さらにAという構成の「Jund」が淘汰されても、BやCという構成の「Jund」には価値があるため、とても退場しにくいアーキタイプのひとつだと思われます。根本的に不利なマッチアップが増加しない限りは、その自由な構成力によってメタゲームに関わり続けることでしょう。
それではなんの関係性もないままに力比べをしているのかといえば、そういうわけでもありません。彼らを取り囲むアーキタイプたちはしっかりと彼らを意識し、彼らを仮想敵に設定してフィールドに参加しているのです。次の節では簡単にその模様を解説し、その後は注目のアプローチについて様々な目線から話していきます。
2. クイックビュー『MOCS』
前提から話しはじめたにもかかわらず次は結果へと飛ぶのはやや唐突かもしれませんが、『MOCS』において上位入賞したアーキタイプをまとめてみました。
7 「黒赤緑コントロール/Jund Control」
7 「白青黒コントロール/Esper Control」
5 「Naya Blitz」
3 「ゾンビビートダウン/Zombie」
2 「白青赤ミッドレンジ/Tricolor Flash」
2 「ジャンクリアニメイト/Junk Reanimate」
6 「その他(各種アグロとメタ外数種)」
これは上位32名の分布で、「Jund」と「Esper Control」、それに「Naya Blitz」が多く結果を残していることが伺えます。
ここで珍しく映るのが「Esper Control」の数かもしれませんが、「Esper Control」は「Jund」に対してある程度の有利があることを買われてこの時期に増加していました。ただ、その有利さは「Jund」側の構成によって左右される程度のもので、多くはプロツアーのメタゲームを引きずって《ボロスの反攻者》への強さだけが確実なバリューだったと考えられていました。
そのため、やや落ち目の集団である、一般的な「Tricolor Flash」や緑系ミッドレンジ、赤系アグロへの有利を武器に戦っており、『MOCS』時点においては成功した部類のアーキタイプではあったものの、その後は次第に数を減らしていきました。
それでは『MOCS』での注目すべきアプローチへと目を移します。
3. 『MOCS』から学ぶ3つのアプローチ
(1)「ゾンビビートダウン/Zombie」という選択肢
3 《沼》 4 《血の墓所》 1 《踏み鳴らされる地》 4 《草むした墓》 4 《竜髑髏の山頂》 4 《森林の墓地》 4 《魂の洞窟》 -土地(24)- 3 《戦墓のグール》 4 《墓所這い》 3 《血の芸術家》 4 《ゲラルフの伝書使》 4 《ファルケンラスの貴種》 2 《死儀礼のシャーマン》 4 《ロッテスのトロール》 4 《屑肉の刻み獣》 -クリーチャー(28)- |
2 《悲劇的な過ち》 3 《硫黄の流弾》 1 《戦慄掘り》 2 《突然の衰微》 -呪文(8)- |
4 《吸血鬼の夜鷲》 2 《オリヴィア・ヴォルダーレン》 3 《ヴェールのリリアナ》 1 《戦慄掘り》 3 《殺戮遊戯》 2 《突然の衰微》 -サイドボード(15)- |
GP Quebec Cityにおいて活躍したアーキタイプを例にメタゲームの前提を話しましたが、この『MOCS』を制した「Zombie」もGP Quebec Cityの予選ラウンドを暴れまわったアーキタイプのひとつでした。結局「Zombie」のミラーマッチで迎えた『MOCS』の決勝戦は、多くのプレイヤーにとって意外な結末でしたが、そのコンセプトを思えば当然とも言える結末だったのかもしれません。
そのコンセプトとは、環境のメジャーなアグロである「Naya Blitz」との明確な差別化にあります。そもそも差別化しないと他のアグロは存在できないのですが、「Zombie」はその点において非常にうまく居場所を見つけています。それはアーキタイプの構造自体が「Jund」に強いという特徴を活かしたものです。
《ゲラルフの伝書使》《ファルケンラスの貴種》《墓所這い》のラインはかつての「ラクドスミッドレンジ」を彷彿とさせるもので、去年の冬にすべてのミッドレンジを駆逐した彼らの役割については改めて語るまでもないことでしょう。それに加えて《ロッテスのトロール》や《屑肉の刻み獣》といった緑のグッドスタッフが加えられた今回の「Zombie」は、種族デッキとしてではなく、明確に除去耐性の高いアグロという面を強調して構築されています。
この「Zombie」が、あるいは「ラクドスミッドレンジ」のようなアーキタイプが最近マイナーな存在だったのは、赤系アグロや「Naya Blitz」に不利だったためでした。攻撃するには長けていても防御はからっきしである構成が災いしていたのですが、「確実にジャンドに対して有利をつけるアーキタイプがいない」という状況においてジャンドキラーであることに価値が生まれたため、アグロに対しての不利は承知でもフィールドに再登場することとなりました。
『MOCS』での上位の分布は先に紹介したように「Jund対Esper ControlときどきNaya Blitz」だったため、「Zombie」にとっては有利なマッチアップが多く期待できる、とても戦いやすいフィールドだったことでしょう。
また、参加者には周知されていたことですが、Magic Onlineという環境ならではのトラブルも「Zombie」に追い風となったと言われています。それは《火柱》に関するバグであり、『MOCS』開催時には効果の一部にある「ゲームから取り除く」効果が一時的に失われていたのです。現在は修正されていますが、《墓所這い》や《ゲラルフの伝書使》といった《火柱》に弱いクリーチャーにとっては朗報だったと思われます。
ただ、僕はこのバグが「Zombie」の活躍を支えた大部分だとは思っていません。
それは、当時において《火柱》を採用しているアーキタイプは「Tricolor Flash」くらいで、「Jund」などでは《死の重み》が注目されていた頃合いだったからです。この《火柱》のバグが致命的なのはごく少数であり、彼らの「Zombie」とのマッチアップが悪化したことは確かだとは思いますが、それが「Zombie」が勝利した背景だとは考えていません。
アグロがやや少なく、ジャンドとコントロールが多かった。このフィールドの形だけが「Zombie」を優勝まで導いた要因だと考えています。
(2)cjlack92の「赤白黒コントロール/RWB Control」
2 《山》 3 《血の墓所》 3 《神無き祭殿》 3 《聖なる鋳造所》 4 《竜髑髏の山頂》 4 《孤立した礼拝堂》 3 《断崖の避難所》 2 《魂の洞窟》 2 《大天使の霊堂》 -土地(26)- 4 《鬱外科医》 4 《ボロスの反攻者》 2 《ファルケンラスの貴種》 2 《幽霊議員オブゼダート》 2 《戦導者オレリア》 -クリーチャー(14)- |
4 《未練ある魂》 4 《悲劇的な過ち》 2 《堀葬の儀式》 4 《信仰無き物あさり》 2 《灼熱の槍》 2 《ラクドスの復活》 2 《ヴェールのリリアナ》 -呪文(20)- |
2 《ファルケンラスの貴種》 3 《墓場の浄化》 1 《堀葬の儀式》 2 《火柱》 4 《轟く激震》 1 《戦慄掘り》 2 《ラクドスの復活》 -サイドボード(15)- |
Magic Onlineを日常的にプレイするプレイヤーにとっては馴染み深いアカウントであるcjlack92は、角度のある独創的なデッキを構築することで知られています。その彼が『MOCS』で手にとったデッキは、禍々しい赤白黒のコントロールでした。
その内容は以下のようにふたつのデッキを不器用に糊付けしたものになっています。
(一)《鬱外科医》《ボロスの反攻者》《悲劇的な過ち》《灼熱の槍》
(二)《ファルケンラスの貴種》《未練ある魂》《幽霊議員オブゼダート》《ラクドスの復活》
(糊)《信仰無き物あさり》《ヴェールのリリアナ》
(一)はアグロとのマッチアップに必要なもの、(二)はコントロール及びミッドレンジとのマッチアップに必要なものです。(糊)はこのふたつのコンセプトをつなぎ合わせる要素となっています。
まず、このようなチグハグなデッキがデッキとして成立している背景には、「Blitz」とコントロールという対極的なアーキタイプが環境に存在していることが原因としてあります。
「Blitz」というアーキタイプは非常に速度が早いため、彼らに対抗するためには序盤で多くのアグロ対策のカードに巡りあう必要があるのです。これは実質的に「Blitz」を倒すためにはデッキの大部分を彼らに対して機能するカードで埋める必要があることを示しています。
しかし、そのような構造は「Jund」や「Esper Control」と相対するとかなりの不利に働きます。デッキの大部分が軽量カードや除去で占められていると、数枚のクリティカルなコントロール対策があれども、それに辿りつけなかった際には敗北してしまうからです。ただ、これは逆も然りで、しっかりとコントロール対策にたどり着くために枚数を増やすと、序盤に機能しないカードが増えてしまうため「Blitz」の速度に踏み潰されてしまうのです。
そんなジレンマを抱えた両極端なメタゲームを攻略するためにcjlack92が構築したこのデッキは、アグロに必要な序盤のカードの数を揃えながらも、コントロール対策へとしっかりとアクセスできるように構築するという矛盾を解消しています。
その鍵こそが(糊)で紹介した《信仰無き物あさり》と《ヴェールのリリアナ》にあります。
おそらくアイデアの発端は《ヴェールのリリアナ》にあったと思われます。《ヴェールのリリアナ》は環境でも数少ない、アグロにもコントロールにも有効なカードで、役割のメリハリが激しいデッキの中で安定してクオリティを発揮してくれる1枚として期待されています。ジャンドでも同様な考えで3枚ほどが採用されている優秀なカードなのですが、このPWをグッドスタッフとしてだけでなく、極端なカードの束をデッキとしてまとめるというコンセプトの鍵に使おう、と試みたものが今回のcjalack92のアイデアです。
さらに、デッキに投入された多くのアグロカードを整理しコントロール対策へとたどり着くための手段であり、その逆としても作用する《信仰無き物あさり》は、《ヴェールのリリアナ》以上にこのデッキのコンセプトを支えている1枚です。デッキにはアグロ対策に必要なパーツの量を用意し、そのコントロールへの構造上の弱点を《信仰無き物あさり》という軽量ドローを採用することで補っています。コントロール対策への確実なアクセス手段ではないため、あくまでも構造上の弱点を形式だけでも埋めてみたに過ぎませんが、メタゲームの特徴をうまく捉えたアプローチだと思いました。
《信仰無き物あさり》をアドバンテージ手段としても利用するために、《未練ある魂》だけでなく、ムラのある《堀葬の儀式》まで採用している点にも苦悩の跡が見えます。
あくまでもメタゲームの形に合わせて作ってみた、というだけのデッキなので、ものすごく強力だというわけではありませんが、このように発想を形にまで変化させ、一歩及ばなかったものの好成績を残している姿には憧れます。
(3)「ジャンクリアニメイト/Junk Reanimate」
2 《平地》 1 《沼》 2 《森》 4 《寺院の庭》 4 《草むした墓》 3 《陽花弁の木立ち》 4 《森林の墓地》 2 《ガヴォニーの居住区》 1 《大天使の霊堂》 -土地(23)- 4 《修復の天使》 3 《静穏の天使》 4 《アヴァシンの巡礼者》 3 《東屋のエルフ》 2 《国境地帯のレインジャー》 4 《スラーグ牙》 2 《孔蹄のビヒモス》 4 《ケンタウルスの癒し手》 -クリーチャー(26)- |
1 《未練ある魂》 4 《堀葬の儀式》 2 《根囲い》 4 《忌まわしい回収》 -呪文(11)- |
2 《忌まわしきものの処刑者》 2 《ロウクスの信仰癒し人》 1 《静穏の天使》 4 《酸のスライム》 2 《死儀礼のシャーマン》 1 《血統の切断》 3 《突然の衰微》 -サイドボード(15)- |
ミッドレンジとアグロの時代がきたらコレ。もうそろそろ多くのプレイヤーが体で理解し始めた段階だとは思うのですが、このデッキほどメタゲーム上の優位を活かせるデッキも少なくありません。上のButakovのレシピはやや発展途上にある構成をしていますが、このアーキタイプはそういった細かな構成の揺れを帳消しにするほどの底力を持っています。
『MOCS』の段階ではやや苦手な「Esper Control」が増加したという状況もあってあまりいい結果は残せなかったようですが、彼らの数が減ると共にすぐにでも結果を残すことでしょう。
そんな「Junk Reanimate」の強みは、中盤における圧倒的なカードスケールにあります。序盤、中盤、終盤と3つにゲームの段階を分けたとしたときに各時点で有利な要素は異なる部分にあります。僕はおおまかに以下のように考えています。
(序盤):初手の展開力や依存度が高い時間。手札のカードをより多くの枚数展開できる方が序盤において有利。
(中盤):土地が並び多くのカードが使用可能になるため、デッキの中のカードの質が問われる時間。そのため限られた同じマナを利用してよりスケールの大きな行動を行える方が有利。
(終盤):どちらも選択肢が限られた時間。コスト面での制限はないため、単純にスケールの大きな行動が選択肢にある方が有利。
このゲームの段階は、基本的には『使用可能なマナ』という制限を時間に置き換えて考えています。基本的には段階的にしか増加しないため時間としました。モダンやレガシーのようなマナの制限が曖昧なフォーマットでは違う考え方になると思います。
それはともかく中盤に着目すると、どちらも無制限ではない限られたマナを持った状態でよりスケールの大きな行動を起こせる方が有利になります。このスケールとはカード1枚やその組み合わせが効果を及ぼす規模や影響度です。単体除去よりも全体除去のほうがスケールが大きい、などのように考えてください。
長々となりましたが、お互いにプレイできるカードに選択肢が生まれた時(序盤を過ぎた頃)に「Junk Reanimate」の行動は環境にあるほぼすべてのデッキよりもスケールが大きなものなのです。その力の源は《スラーグ牙》と《堀葬の儀式》にあります。《スラーグ牙》が5マナ域で最高のアクションであることに加えて、《堀葬の儀式》によるリアニメイトという行動は常にカードスケールが同マナ域以上のものとなるからです。
釣り上げる対象である《孔蹄のビヒモス》か《静穏の天使》はどちらも「Jund」やアグロが繰り出す4、5マナの行動のどれよりも中盤においては強力なものです。この行動のスケールの違いは明確にマッチアップの結果に影響します。特に「Tricolor」や「Jund」といった同様に4、5マナで戦うミッドレンジには強力です。
ただ、終盤まで視野に入れたアーキタイプに対しては、あくまでもミッドレンジらしく不利な点が玉に瑕です。《堀葬の儀式》や《静穏の天使》のお陰で比較的消耗戦には強い側面はあるものの、「Esper Control」のようなライフや盤面以外の勝利手段を目指すアーキタイプとはそもそもゲームプランが噛みあわずにあっさりと敗北してしまうことも少なくありません。
これからに期待がかかる中盤戦の覇者です。
4. その他の注目のアプローチ
『MOCS』にまつわる話は以上で、ここからは「Jund」と「Naya Blitz」が主流となっているメタゲームへの効果的なアプローチを紹介します。
(1)「人間リアニメイト/Human Reanimate」
4 《血の墓所》 4 《踏み鳴らされる地》 3 《寺院の庭》 1 《草むした墓》 2 《陽花弁の木立ち》 2 《孤立した礼拝堂》 3 《森林の墓地》 4 《魂の洞窟》 -土地(23)- 4 《悪鬼の狩人》 4 《栄光の目覚めの天使》 4 《地底街の密告人》 4 《アヴァシンの巡礼者》 4 《炎樹族の使者》 1 《高原の狩りの達人》 -クリーチャー(21)- |
4 《堀葬の儀式》 4 《信仰無き物あさり》 4 《根囲い》 4 《忌まわしい回収》 -呪文(16)- |
1 《士気溢れる徴集兵》 4 《スラーグ牙》 3 《高原の狩りの達人》 3 《ケンタウルスの癒し手》 4 《突然の衰微》 -サイドボード(15)- |
『MOCS』の前提となるメタゲームの紹介ではあえて省いたアーキタイプが、この「Human Reanimate」です。これは《地底街の密告人》型と呼ばれるもので、《栄光の目覚めの天使》を介して対戦相手をライブラリアウトさせるデッキです。《遥か見》や《修復の天使》などを加えた形もあり、メインボードは純粋なコンボデッキとして、サイドボード後には墓地利用を最低限に抑えて《スラーグ牙》や《高原の狩りの達人》を軸に盤上で戦う作りになっていることが特徴的です。
中低速のアーキタイプに強く、アグロのような早いデッキには弱い。そんな「Human Reanimate」は、アグロと中速に強い「Junk Reanimate」とは、中速に強く墓地を利用する、という二点以外は全く異なる存在です。サイドボード後にはアグロとも戦えるようになるものの、あくまでもサブプランともいえる付け焼刃の戦略であるため、しっかりと有利といえるほどの改善はされません。
アグロの代表格である「Naya Blitz」が前提条件にあるメタゲームにおいて、あえて彼らに弱い「Human Reanimate」を注目すべきアプローチに加えたのは、「Naya Blitz」と「Jund」に悪くない立ち回りをする緑系のミッドレンジが登場することが予想されるからです。過去のアーキタイプでいうと「ナヤミッドレンジ」や「バントミッドレンジ」がわかりやすく、「Junk Reanimate」もそのひとつに当てはまることでしょう。現状は「Jund」の柔軟性が優れているものの、「Naya Blitz」が増加するにつれて役割が分かりやすい彼らの需要も合わせて増加していくはずです。
「Human Reanimate」は直近のあらゆるイベントで既に活躍しているアーキタイプではあるものの、これからが大いに期待できる注目株です。
(2)「呪禁バント/Hexproof Bant」
2 《森》 4 《神聖なる泉》 4 《寺院の庭》 4 《繁殖池》 3 《氷河の城砦》 3 《陽花弁の木立ち》 2 《内陸の湾港》 -土地(22)- 2 《剣術の名手》 2 《銀刃の聖騎士》 4 《不可視の忍び寄り》 4 《アヴァシンの巡礼者》 4 《聖トラフトの霊》 3 《ロクソドンの強打者》 -クリーチャー(19)- |
4 《天上の鎧》 4 《幽体の飛行》 4 《怨恨》 3 《オルゾヴァの贈り物》 2 《セレズニアの魔除け》 2 《シミックの魔除け》 -呪文(19)- |
3 《近野の巡礼者》 3 《絡み根の霊》 1 《ロクソドンの強打者》 2 《戦慄の感覚》 2 《平和な心》 2 《安らかなる眠り》 2 《否認》 -サイドボード(15)- |
2013年の1月に開催されたGP Atlantic Cityの決勝戦は、当時はマイナーだったとあるアーキタイプのミラーマッチでした。そのアーキタイプこそが「Hexproof Bant」です。呪禁クリーチャーである《不可視の忍び寄り》と《聖トラフトの霊》にぺたぺたと強化エンチャントを貼り付けることを主戦略にしており、当時は赤系アグロや「Jund」などの単体除去を採用したデッキが多かったため、猛威を振るったのです。
また、当時の「Jund」には《ヴェールのリリアナ》が採用されておらず、この大会を機に《ヴェールのリリアナ》が再注目されたことを覚えています。
それでこのアーキタイプを再び注目の的に選んだ理由は、「Naya Blitz」への対抗策として主流なものが単体除去であり、リアニメイトの登場によって苦手だった《ヴェールのリリアナ》の価値が薄れ始めているからです。「Jund」の同型においても効果的ではなかった《ヴェールのリリアナ》は、「Tricolor Flash」が衰退してからというもの、攻防一体のグッドスタッフである一方でやや役割が中途半端なカードという評価が聞こえ始めるようになったのです。
「Naya Blitz」には単体除去のほうが効果的で、「Jund」同型やリアニメイトに対してはよりよい選択肢が存在します。こんな流れの中で段々と《ヴェールのリリアナ》の価値が危ぶまれてきているのです。
そこで《ヴェールのリリアナ》が減少するのであれば、あるいは単体除去が流行し始めるのであれば、改めて「Hexproof Bant」に注目することも自然な流れでしょう。ただ、以前の環境とは異なり、《銀刃の聖騎士》や《高まる残虐性》などの攻撃専用のスタッフを採用する余裕はなくなりつつあります。それは以前の環境における高速のアグロは赤系アグロだったのですが、現在のアグロの代表格は赤系アグロよりも一回り以上高速な「Naya Blitz」だからです。
なおかつ守りにはやや自信がなく単体除去も採用しづらいバントというカラーリングでは、より構成の取捨選択について考える必要があるでしょう。そこで攻撃と防御の両方を担当できるパーツとしてメインボードでは《ロクソドンの強打者》、サイドボードには《絡み根の霊》を採用してみました。
ポテンシャルは十分あり、メタゲーム上の脅威も薄れつつある中、再び活躍する機会も遠くないと思われます。
(3)Royalの「白青黒コントロール/Esper Control」
4 《神聖なる泉》 4 《湿った墓》 4 《神無き祭殿》 4 《氷河の城砦》 4 《水没した地下墓地》 3 《孤立した礼拝堂》 3 《ネファリアの溺墓》 2 《大天使の霊堂》 -土地(28)- 4 《ボーラスの占い師》 -クリーチャー(4)- |
4 《未練ある魂》 2 《熟慮》 3 《中略》 4 《アゾリウスの魔除け》 3 《拘留の宝球》 4 《至高の評決》 4 《スフィンクスの啓示》 4 《イニストラードの君主、ソリン》 -呪文(28)- |
1 《瞬唱の魔道士》 3 《幽霊議員オブゼダート》 1 《盲従》 1 《心理のらせん》 1 《中略》 1 《脳食願望》 2 《強迫》 4 《究極の価格》 1 《ルーン唱えの長槍》 -サイドボード(15)- |
最後に紹介するのが、今回の記事の中であまり肯定的でなかった「Esper Control」です。
「Esper Control」にとって現在のフィールドはあまりいい状況にありません。ひとつは「Naya Blitz」の速度に対応できていないこと。またひとつは「Esper Control」の持ち味であるミッドレンジへの優位を各リアニメイトが環境で賄ってしまっており、あえて「Esper Control」を使う理由が薄いことが挙げられます。
しかし、そんな下火な「Esper Control」に光明を見出したのがRoyalでした。RTR限定構築というマニアックな環境の覇者である構築巧者の彼は、「Esper Control」をリアニメイトも含めたすべてのミッドレンジに強いアーキタイプとしてリプレゼントしたのです。リアニメイト系は多くのミッドレンジに対して有利ですが、同型及び同系統のマッチアップにはやや不毛な展開を強いられるという不満を抱えていました。
そこで同型のマッチアップが少なくミッドレンジに強いアーキタイプとしてリビルドしたものが、上のレシピになります。特徴的なのは《イニストラードの君主、ソリン》と《大天使の霊堂》でしょうか。
従来の「Esper Control」が《ネファリアの溺墓》のみが勝利手段であることを武器にしていたのに対し、Royalは《イニストラードの君主、ソリン》を加える事で、《イニストラードの君主、ソリン》と《未練ある魂》の2枚を防御だけでなく攻撃にも利用できるように作り変えています。
また、《未練ある魂》をフィーチャーしたことで《大天使の霊堂》にも価値が生まれ、「《スフィンクスの啓示》のための大量の土地」と「呪文の役割である土地の《大天使の霊堂》」をうまく融合させ、不自然な様子もなく28枚もの土地を採用することができているのは素晴らしいの一言です。
《熟慮》や《拘留の宝球》、サイドボードの数枚などには調整の余地はありますが、これまでの「Esper Control」とは一線を画したコンセプトには期待が持てます。
5. これからについて
現在の環境を整理すると「Naya Blitz」と「Jund」という二大巨頭によって大枠が構成されており、それを取り巻くように多くの雑多なアーキタイプが復権を狙って存在しています。
柔軟性を武器に退場することがない「Jund」。
圧倒的な速度から生半可なアプローチを根本から否定する「Naya Blitz」。
これらふたつに働きかけるその他のアーキタイプ。
その他のアーキタイプの中で躍進が期待されているのが本文中でも紹介したリアニメイト系です。これまで自由度と対応力の高さから退場することのなかった「Jund」を追い詰める可能性をもったアーキタイプで、彼らが「Jund」の立場を脅かすことで、現状の関係性が見えにくいメタゲームにも動きが見えてくることでしょう。
次の記事の時にはメタゲームが動き始めていることを願って、今回は筆を置かせてもらいます。