あなたの隣のプレインズウォーカー ~第15回 屋根の上のラル・ザレック~

若月 繭子


イゼット=爆発。これはマジックにおける真理の一つです。

破壊放題汚損破暴突風


 イゼット団はインフラストラクチャーの構築や保持を担う、都市世界ラヴニカに欠かせないギルドの一つです。一応、全てのギルドが「ラヴニカに欠かせない」のは確かですが、イゼット団は文明の進んだ世界であるラヴニカにて上下水道や道路整備や蒸気網(多分電気やガス的なもの)を提供し、快適で便利な都市生活を支えています。そのため仲の悪いギルドからも、その存在の重要性は割と認められています。
 ですが一方で、その気まぐれさと無謀さにも定評があり、しばしば爆発やトンデモ装置で騒ぎを起こしては市民の知る所となっています。カードにはむしろそちらの面の方が多く出ていますので、前述の「イゼット=爆発」というイメージに繋がるわけです。そして断言しますがこれは全くもって間違っていない、正しい連想です。

世紀の実験

そして待つのは爆発オチ。


 そしてとりわけプレイヤー人気の高いギルドでもあります。ラヴニカへの回帰以来、私達プレイヤーも「ギルドに所属」することができたのですが、全世界的にイゼット団の所属人数はトップでした。赤の情熱と青の知性を併せ持つ「アツくて頭のいい奴」。イゼット団が発する魅力の元は、きっとそんなイメージではないでしょうか。ラヴニカへの回帰が発表された時の興奮は皆さん覚えているかと思いますが、その宣伝画像がジェイスとニヴ=ミゼットではなく例えばジェイスとイスペリアだったら、あれほどの騒ぎにはなっていなかったのではないでしょうか(失礼)。
 そんなわけでこんにちは、若月です。今回ドラゴンの迷路で登場したのは、そんなイゼット団所属のプレインズウォーカー、ラル・ザレック。彼は遥か以前から、そして多くのプレイヤーから登場を心待ちにされていました。

ラル・ザレック



1. ヘンな初登場

 ラル・ザレックが私達の前に初めて姿を現した経緯は、ある意味裏技的とでも言えるような、とても奇妙なものでした。それは「ゲーム『デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ2012』(以下、DotP2012)のデータを解析した所、彼の名前や画像が発見された」というものでした。DotP2012の発売は2011年7月でしたが、ラルが発見されたのはそれからさほど経っていなかったように記憶しています。当時はまだ「ラヴニカへの回帰」は発表されてもいませんでしたが、その赤と青の奇抜な衣装に電気を纏う様子は多くのプレイヤーの目に「イゼット的」であると映りました。そしてマンガ的に光る両目、背負った妙な機械、乳首を弄るようなポーズ、土砂降りの空の下で屋根の上に立つ姿。どこをどう見ても、よく言って「イロモノ」でした。

 

何が凄いって、ただ「白目」というだけでしたら珍しくもないのですが、
光り方が違っていました。


 DotP2012から発見されたものがまさにこの、DGMにてカードとして使用されることになるアートでした(後にアップデートされた際、正式にゲームに登場しました)。その後もカード化されるの? されないの? とやきもきされながら、《予言の稲妻》(デュエルデッキ版)や《誘導稲妻》のアートにさりげなく登場し続けていました。そして「ドラゴンの迷路」が発表されますと、その宣伝画像はラル・ザレック御本人! 前回及び前々回「宣伝画像は必ずしも信用できない」と散々書きましたが(ごめんなさい)、さすがに宣伝画像に描かれているプレインズウォーカーが登場しない、ということはありませんでした。
 今回ラルが正式にカード化された事については公式記事「ドラゴンとともに」にて、「ラル・ザレックはラヴニカ出身でイゼット・ギルドの一員なので、このブロックで登場させるべきだと言うことは考えるまでもなかった」と述べられています。アーティストのEric Deschamps氏は先日ツイッターにて「ついにラル・ザレックがカードで登場するよ! これを描いたのは2010年11月だったんだよ!」と嬉しそうに語っていました。ずいぶんかかりましたねぇ。
 また、ラルは宣伝画像や登場カードではなかなかの爽やかさんに描かれていたこともあり、彼が「乳首さん」「乳首兄貴」等と呼ばれる事になった最初のアートがカードにそのまま使われたというのも結構な驚きでした。


2. 赤青い稲妻

 地底街の忘れられたとある部屋、街路から数時間潜った所で、古の煉瓦造りの壁が輝き始めた。青い稲妻がその間に踊った。古びたモルタルから煙が上がり、焦げ始めた。そして壁は内側から爆発し、煉瓦はでこぼこした円形の穴を残して崩れ落ちた。
 プレインズウォーカーのラル・ザレックは、たった今自身が創造した穴から足を踏み出した。湿って腐敗した空気に埃が舞っていた。彼の手甲の器具は今も音をたてて動き、彼の呪文のマナの残滓が微かな光となっていた。ラルはたじろぎ、手で鼻を覆った。
(Return to Ravnica: The Secretist, Part Oneより抜粋・私訳)



 これはRTRの小説における、ラル・ザレックの初登場シーンです。爆発で開いた穴の向こうからとは、実にイゼット団員らしいシチュエーションじゃないですか。
 ラルはプレインズウォーカーですがイゼット団に所属し、優秀なギルド魔道士として日々働いています。自身がプレインズウォーカーである事はニヴ=ミゼットには秘密にしており、ギルドマスターを尊敬しつつも内心「次元も渡れないくせに」と優越感を抱いている所もあります。稲妻や嵐の使い手であり、登場するカードの多くで稲妻をほとばしらせています。

誘導稲妻天才の煽り

どのカードでも実に楽しそうです


 性格は大胆不敵、気まぐれで危なっかしく、その無謀さにより何度も命を落としかけたそうです。自分の能力にかなりの自信を持っていて怖いもの知らず、ギルドマスターであるニヴ=ミゼットに対しても物怖じしません。実験大好きですが研究室に篭っているタイプではなく、フットワーク軽く自ら都市内を駆けまわる元気のよさも特徴です。この人物像も実にイゼットの魅力をそのまま体現したようであり、カードにもよく現れています。

<<ラル・ザレック>>
Ral Zarek 2青赤
プレインズウォーカー -ラル(Ral)
[+1]:パーマネント1つを対象とし、他のパーマネント1つを対象とする。その前者をタップし、その後、その後者をアンタップする。
[-2]:クリーチャー1体かプレイヤー1人を対象とする。ラル・ザレックはそれに3点のダメージを与える。
[-7]:コイン投げを5回する。表が出た回数1回につき、このターンの後に追加の1ターンを行う。
初期忠誠度 4


 小プラスのタップアンタップ能力は《ぐるぐる》に代表されるように、昔から青の得意技です。そして、ごくごく基本的な挙動であるからこそ汎用性が高く、どう生かすかは使い手に左右されるものであるとも言えます。前述のラルの性格、フットワークの軽さや、挑戦的な心構えにも良くマッチしています。
 また、プレインズウォーカー能力である性質上、起動にマナはかかりません。つまり使いようによってはマナ加速にもなるという珍しさが目を引きます。青にも昔は《魔法使いの弟子》、最近では《大建築家》のようなマナ加速カードがありましたし、一時的なマナ加速は赤が得意とする技でもありますね。はっ、「使いようによってはマナ加速」……フリースペル……うっ頭が。さ、さすがにそこまで悪さはしないっしょ! 多分!!

 小マイナスは説明不要のそのまま《稲妻》。プレインズウォーカーの能力が使用できるのは自ターンに限られるため、正しくは《火山の鎚》という事になるのですが、ここは稲妻って言ってあげましょうよ。
 そして奥義はまさかのコイン投げ。さすがにこれを予想できた人はいなかったのではないでしょうか。ですがラルの「気まぐれな危なっかしさ」をこれ以上ない程的確に表現していると思います。「失敗することもあるが、それを恐れずに突き進む」という彼の、そしてイゼットの性格を表していると言えそうです。コインフリップは明らかに赤の能力、しかもこれは久々の「トーナメントレベル」で使えるコインフリップ能力でしょう。もしかしたら遥か昔に活躍した《熱狂のイフリート》以来かもしれません。

熱狂のイフリート

偉大な先輩です。


 それだけではなく、昔のイゼットにまさにこの呪文が存在していました。
公式記事「楽しさのためのバランス調整」によりますと、
《ラル・ザレック》の奥義は《時の縫い合わせ》を5回唱えます(これに気がついた人はいましたか?)」

時の縫い合わせ

本当だーーーー!!!



 この連載では何度も「プレインズウォーカーの色はそのパーソナリティに左右される」と書いてきました。ではラルの、イゼットの青赤とは。
 マジックには「対抗色」の組み合わせが5種類ありますが、その中でもツートップ、「対抗色と言えばこの組み合わせ」というのは「白黒」と「青赤」だと思います。例えばミラディン及び傷跡ブロックには「二色剣」シリーズがありますが、最初に登場したのは白黒剣と青赤剣でした。そしてこの白黒、青赤という組み合わせは他の対抗色よりも「カッコイイ」と感じるのは確かでしょう。

死盟の天使

例えばこのカード。黒い羽根に死神の鎌を持つ天使、なんという厨二的
……もとい白黒の要素がわかりやすく融合したアートでしょうか。


超音速のドラゴン

Hypersonic! これで日本語版のルビが「ハイパーソニック」だったら完璧でした。
フレイバーテキスト、そして特徴的なエリマキから察するに、
ニヴ=ミゼットと同種のドラゴンのようです。
あとそもそも魔法の存在する世界で「音速」の概念があるのかどうかは置いておこう。


 白黒、青赤は相反する色でありながらその役割、メカニズムを一部同じくしています(例えばリアニメイトは白黒の両方に、青赤はいわゆるルーター的能力を共有しています)。だからこそ互いのフレイバー的、設定的相違が際立ちます。ソリンの回では白黒である彼の「二面性」について触れましたが、ソリンが「闇の心」を持ちながらも守護天使を創造して人間に加担するという「光と影」の二面性であるのに対し、青赤のイゼット団、ラルは向こう見ずさと知性、それこそ炎と水のような「熱さと冷たさ」の二面性を持つと言えます。相反する属性を同時に内包するものっていわゆる厨二心をくすぐるカッコ良さがあるじゃないですか。「光と闇が合わさり最強に見える」という奴ですよ!


3. イゼット団、デンジャラス・スイートホーム

 プレインズウォーカーでありながらイゼット団というギルドに所属し、ギルド魔道士として日々働いているラル。様々な次元を飛び回る自由な存在のプレインズウォーカーとしては、目に見える形で(それこそ衣装を見れば一目でわかるように)特定の組織に所属しているのは「異端」のように映るかもしれません。

ニヴィックスのギルド魔道士イゼットの静電術師ゴブリンの試験操縦士

赤色と青色はイゼット団のしるし。


 ラルの「プレインズウォーカーの灯」が点火した時、彼は最早ラヴニカに繋がれた存在ではなくなった。だが彼は自身を育ててくれたその次元とイゼット団へと対する忠誠を持ち続けた。ギルドがその炎を返してくれるからこそ、ラルは故郷へと帰ってくるのだった。
(ドラゴンの迷路ファットパック付属小冊子より抜粋・私訳)


 ラルはラヴニカ生まれのラヴニカ育ち、プレインズウォーカーとして覚醒する以前からイゼット団に所属していました。ですがイゼット団やラヴニカを離れて多元宇宙を飛び回るよりも、故郷に居続けることを選びました。青と赤のプレインズウォーカーでも代表的存在である(とされている)ジェイスとチャンドラがそうでないように。例えばラルの得意技である「稲妻と嵐」を操る魔法を極めたいと思うならば、もっとずっと激しい天候の次元はいくらでもある筈です。

上空からの視界対抗突風風生みの魔道士

稲妻や嵐で知られる次元。すぐに思いあたる所ではエスパーがありますね。


 ラルがラヴニカ、イゼット団にこだわる理由はいくつか考えられます。

(1)気質が合うから
 ラルはその能力が極めてわかりやすくカード化されています。一方ラヴニカのギルドはそれぞれがその2色の組み合わせの性質を体現しています。そしてプレインズウォーカーはその色の顔であり、その色の特徴の体現です。「赤」的な情熱をもって「青」的に知識を追い求める。ラルの素直なデザインを見ても、非常にすんなりと「合う」ことは明らかです。
 とはいえ、全ての多色プレインズウォーカーが同じ色のギルドに合うというわけではないでしょう。例えば白青のヴェンセールはアゾリウスかって聞かれるとなんか違いますよね。そのへんは二色の組み合わせの個性の際立ち具合なんだと思います。

(2)居場所として最適だから
 「旧世代」でも、フレイアリーズやウィンドグレイス等、自身のあるべき場所を大切にするプレインズウォーカーはいました。ですが新世代プレインズウォーカー達はより深い所で、理想の居場所を求める傾向にある気がします(一番顕著なのはエルズペスでしょう)。旧世代はそのパワーをもって自分で「あるべき場所」を作ってしまう所ですが、新世代はそうもいかず、自ら求めて放浪します。
 そう思うとラルにとってイゼット団こそが、ニヴ=ミゼットの下こそが(プレインズウォーカーでないという点で優越感を抱いているとはいえ)彼の理想の居場所なのでしょう。

(3)プレインズウォーカーにだって生活はあるんです!
 切実な話になりますが、思えばラヴニカへの回帰ブロックのプレインズウォーカー達はジェイス以外の全員がギルドに身を寄せています。ヴラスカはゴルガリ団で働いており、ドムリもグルール一族の所属、ギデオンもボロス軍に手を貸していました。ラヴニカといえばやはりギルドということ、そして新世代プレインズウォーカー達は食事や睡眠を必要とし、それぞれの「生活」があるわけです。それを考えると彼らにとっても何らかの職についている方が楽、というのもあるのかもしれませんよ。

(4)イゼット団が好きだから
 むしろ全部まとめるとこれになりますよね。ていうか、他に理由が?

 と、それとは関係なく一つ気になるのですが、ラル本人のカード、 DGMの宣伝画像、また発売前にフェイスブックにて公開されたアート《誘導稲妻》と、彼はやたらと屋根の上にばかりいますよねえ。しかも楽しそうに。フランケンシュタイン博士の物語や映画バック・トゥ・ザ・フューチャーが示すように、マッドな研究者と屋根の上に荒れ狂う雷光というのは仲の良いモチーフです。一つ前のブロックになりますが、《屋根の上の嵐》なんてカードもありましたし。

屋根の上の嵐研究室の偏執狂

こちら、RTRブロックに混ぜても違和感のなさそうなアートの二枚。
イニストラードの錬金術師達はどこかイゼットに通じるものがありますね。



4. ドラゴンズ・メイズ・ランの行方

 「ドラゴンの迷路」。このタイトルが発表された時、「ドラゴン」とは誰なのか、「迷路」とは何なのかが議論されました。ラヴニカに最も深く関わるドラゴンといえば《竜英傑、ニヴ=ミゼット》。ですが背景ストーリー最大の黒幕《プレインズウォーカー、ニコル・ボーラス》の名前を挙げる人も少なからずいました。そしてRTR・GTCが発売されて物語が進むと、小説と数枚のカードから「暗黙の迷路」の存在が明らかになってきます。それはアゾリウス評議会の創設者アゾールが一万年前に仕組んだとされる、ラヴニカ市街を複雑なルートで走る謎めいたマナの流れです。それを解明しようとまた派手に色々やらかすイゼット団と暗躍するディミーア家、またジェイスも独自にその謎を追っていました。

力線の幻影発掘された道しるべ

「力線」とはありますが、旧ラヴニカとM11にあった力線シリーズとの関係は不明です。


 そしてRTR~GTCと公式記事やカードにてギルド間対立が深まりゆく様子が、また「門無し」と呼ばれるギルド無所属民の台頭が描かれていました。そしてGTCの小説「Gatecrash: The Secretist, Part Two」のクライマックス近くにて、遂にラクドス・セレズニア・グルールの三つ巴の大規模な争いが勃発します。
 ですがその争いが拡大する最中、ニヴ=ミゼットの巨大な幻影が現れて戦いを止めさせると同時に、彼は全ラヴニカ市民へと向けて一つの驚くべき演説を行ったのでした。


 「我らがこの偉大なる都市は深い秘密を隠している」 ニヴ=ミゼットの幻影は続けた。「我がイゼット団の魔術師達は地区を貫き走る古の迷路を発見した。その存在目的、秘めた力を我々は今や理解しつつある。曲がりくねり、地区の街路やトンネルを貫いて描かれた『暗黙の迷路』、とはいえその道筋は定かではない。(略)だが我々は知っている、その終点には大いなる力が眠っていると。それを解明するためには、全ギルドが手を一つに携えねばならぬ」
(略)
 「迷路を駆ける代表者として、各ギルド一人の勇者を送り込むのだ。定められた時間に、勇者達はギルド渡りの遊歩道にて集合せよ。よじれ曲がりくねる迷路を駆ける競争を始めようぞ。栄冠を手にするのは誰か、ギルドの為に迷路の力を手にするのは誰か、そしてその危険に屈する者は誰か、見届けようではないか。それまで、準備をするがよい」
(Gatecrash; the Secretist part two より抜粋・私訳)



 私自身、初めて読んだ時はただただ驚きました。ある意味「少年漫画的」とも表現できる、何という熱い提案でしょうか。ニヴ=ミゼットはギルド間全面戦争を回避すべく「暗黙の迷路」の存在を明かし、全ギルドに協力を呼び掛けたのでした。その報酬は、迷路を解くことで手に入れられる、恐らくとてつもない力。ここに来てラヴニカへの回帰ブロックの物語は、誰も予想だにしなかったであろう驚くべき展開、「全ギルド対抗レース」へと舵を切ったのでした。


暗黙の迷路の終点は、古の名カード《Thawing Glaciers》を思い起こさせる土地です。
PTサンディエゴで繰り広げられた「完走」劇は記憶に新しいですね。


 「ドラゴンの迷路」公式トレイラーにおいても、今回ニヴ=ミゼットがこのような行動に移った理由が語られています。なおナレーションはラル。いい声してます。


 「ドラゴンのニヴ=ミゼットは決断した」
 「都市内でのこの紛争は、全面戦争に繋がりかねない」
 「この紛争を鎮圧するために」
 (トレイラーより抜粋)



 紛争を鎮圧するために。
 思えば彼に、自身の野望や何やらのためにラヴニカ世界をどうこうしたい、という様子はありません。本人のカードのように悠々としながら、誰にも理解できない壮大な計画を練りながら、それでも十のギルドが一万年の間、仲良く喧嘩し続けるラヴニカをずっと見てきた彼はきっと彼なりに故郷ラヴニカを愛し、壊したくないと思っているのでしょう。そこに私はニヴとボーラスの決定的な違いを見た気がしました。ニヴ=ミゼットはプレインズウォーカーではありません(公式でも明言されています)。プレインズウォーカーでないからこそ、ラヴニカを愛しているのかもしれません。

 ……さんざん「キャラかぶる」連呼してすみませんでしたァ!!
 第11回記事で小馬鹿にしてすみませんでしたァ!!!

盲従


 ラルはニヴ=ミゼットをどこか見下しつつもそこに居続けています。齢一万五千歳のドラゴンにはその「次元渡り」以外の点では一切叶わない、という事は自覚しているのでしょうが、ニヴ=ミゼットが自らの力や知識のみを求め、ラヴニカの被害や犠牲を厭わないような性格であったなら、ラルは既にイゼット団を見限っていたのではないでしょうか。……いやまあ、これを書いている時点ではわかりませんが、5/28発売のDGM小説で大どんでん返しがないとは言い切れませんけど。例えば「お前の灯を奪ってプレインズウォーカーになる!」と言いだす、とかさ。
 ちなみにニヴ=ミゼットは他の次元の存在も知っているそうです。ラル自身はプレインズウォーカーであることを秘密にしていますが、もしかしたら既に知られているかもしれません。とはいえ、ニヴが生きてきた長い時間の中、「プレインズウォーカーの灯」が変質したのはごくごく最近の事でしょう。もしかしたらニヴの知っているプレインズウォーカーとはいわゆる「旧世代」であり、彼が灯の変質を知らないという可能性も十分にあります。「迷路走者」に(主にセットデザイン的な理由で)選ばれなかったラルは、自分を走者として選ばなかったニヴへと激しい憤りを感じています。そして物語がどうなるのか、それはまもなく明らかになります。


5. ラヴニカの次に見えてきたもの

 この連載でも何度か名前を出してきましたが、ラルと共にDotP2012にて初登場し、こちらもカード化が待たれるマーフォークのプレインズウォーカー、キオーラ・アトゥア。今回シミックがマーフォーク関係ということで、むしろラルよりも登場の可能性は高いと思われていたのではないでしょうか。正直、私もRTRブロックで絶対出るだろうと思っていました。ですが、そのシミックカラー(青緑)でありマーフォークである彼女はカード化されませんでした。
 彼女が今回いない理由についてはやはりマローが複数の公式記事にて語っていました。

 「ドラゴンとともに」より
 「キオーラ・アトゥアは? 彼女もやがて、ふさわしい舞台に巡り会ったときに登場することになるだろう。」

 「存在しないということ」より
 「キオーラに関して言うと、ラヴニカには縁がない。彼女は全くシミックではないし、リバイアサンを愛する船乗りのプレインズウォーカーに都市次元は似合わない。相応しい時が来たら、キオーラに出会う機会もあるだろう」
(※「船乗り」とありますが、原文では「seafaring」ですので「海に生きる」程度の意味かもしれません)



「もう少し待っててね!」


 ふさわしい舞台、ふさわしい時。キオーラはクラーケンやリバイアサンといった巨大海洋生物を崇拝しています。海。旧ラヴニカでは「海」の存在はなく、今回「各地に突如大穴が開き、都市の下に何千年もの間隠され忘れられていた古の海が現れた」としてマーフォークや海洋クリーチャーが登場したのでした。キオーラは青緑のマーフォークではありますが、「海」が出現したばかりのラヴニカに巨大海洋生物はそぐわないと判断されたのかもしれません(一応旧作には《ゴロゾス》《シミックの空呑み》等がいましたが……)。
 2013年秋発売の次ブロック、テーロスは今のところギリシア神話モチーフの世界であると言われています。恐ろしい怪物や海神や人魚繋がりで、今度こそキオーラがカード化されるかもしれませんね。正直、あるんじゃないですか? こんな予想をしたり裏切られたり、それもマジックの楽しさの一つです。それと……

軍隊蟻蟻の女王


\アリだー!/ みたいな「あいつら」が戻ってくるじゃないですか。

(終)