Translated by Furukawa Tetsu
(掲載日 2024/07/03)
はじめに
やぁ、みんな!
マジックは本当に難しいゲームだけど、上達するために学ぶ方法もたくさんある。今日は、新しいフォーマットに挑戦する際、プレイできるデッキの種類を最大限に増やすために、過去に自分にとって役立ったことや現在心がけていることについて話そうと思う。
新しいフォーマットとは?
私自身にとって新しいフォーマットに取り組む最初の例は、これまでほとんどプレイしたことない何かをプレイするときに起こる。大きなローテーションがあった新環境のスタンダードを思い浮かべると、中核をなすカードはたいてい変わるし、強力なカードや妨害呪文が登場していることだろう。そして何よりも重要なのは、マナベースが大きく異なる傾向にあることだ。
これに限ったことではなく、ときには1つのデッキが登場するだけでメタゲームの様相が変わることもある。また、新たなアーキタイプの登場がメタゲームに大きな変化をもたらさずとも、デッキの構成が変わることだってあるのだ。《甦る死滅都市、ホガーク》がまだ使用可能だったころ、《外科的摘出》や《虚空の力線》が大量に採用されていたときのことを思い出してみてほしい。
ほかにも、特定のカードが禁止にされることによって、まったく新しいフォーマットが生まれることだってある。スタンダードで《鏡割りの寓話》《勢団の銀行破り》《絶望招来》が禁止になったときを考えてみるといいだろう。
基本的に、競技マジックをさまざまなフォーマットでプレイしていると、自分にとって新しいフォーマットに頻繁に取り組むことになる。それがどれだけ新しいフォーマットであるかではなく、個人的な観点からそのフォーマットをどう感じるかが重要なんだ。
新しいフォーマットに取り組む最善の方法とは?
新しいフォーマットをプレイするとき、何がベストなデッキなのかさっぱり見当もつかないことが多い。たとえベストなデッキがどんなものか分かっていても、その週末にベストなデッキが何になるのか分からないのだ。マジックのメタゲームが自然にバランスを取る傾向に基づくと、たとえほかのデッキ候補よりかなり劣っていたとしても、よりメタゲームでの立ち位置が良いデッキを持ち込むのが理想的だろう。
ただこの取り組み方にはちょっとした問題がある。マジックのデッキにはそれぞれ大きく異なった特徴があり、新しいメカニズムを搭載したスタンダードのティムールランプのように、ほかのデッキにはないような動きをするデッキが見つかることもそれほど珍しいことではない。また、それらのデッキはプレイが非常に難しいことだってある。
私がまず思い浮かべるのは、パイオニアのイゼットフェニックスだ。デッキの複雑さを学ぶまでは、正しいプレイができずに何度も負けてしまうため、プレイヤーがどれだけ優れているかはあまり関係ない。
もし限られた時間しかなく、その週末にベストなデッキだと判断したものが、自分には手の負えないデッキだとしたらどうだろう?きっとそれは最悪な状況に違いない。ここでの正しい選択は、週末にそのベストデッキを使うのを諦めることだ。ただ理想的なのは、同じような状況が訪れたときに、そういったベストなデッキをプレイできるようになることだろう。
特定のデッキの使い方を短期間で習得する能力を、私はプレイヤーの「デッキレンジ」だと考えている。
ほとんどの優秀なプレイヤーは、2-3週間あればどんなマジックのデッキでも扱えるようになるが、トーナメントによってはそこまで時間の余裕はない。また、プレイスキルそのものは「デッキレンジ」とは関係がないと考えている。実際、多くの強豪プレイヤーは特定のアーキタイプのスペシャリストだ。ただ、より大きい「デッキレンジ」を持つことが、長期的にはより良い勝率につながると思う。
この記事を書くきっかけになったのは、プロツアー『カルロフ邸殺人事件』の準備中にアンソニー・リーと自分がデッキ選択で同じような状況に直面したことがあったからだ。我々は数日間、ロータスコンボがそのトーナメントにおいてのベストデッキかもしれないと考え、実際に使うことも検討したが、2人ともこのアーキタイプの経験がほとんどなかった。
アンソニーのプレイスキルは、たしかに私と同じかそれ以上かもしれないが、そんな状況下において私たちの間にある違いが現れた。ロータスコンボは自分の「デッキレンジ」内にあり、アンソニーにとってはそれほどの選択肢ではなかったのだ。
ロータスコンボを使ってみた感触には実際に驚かされた。戦略的な観点からみて、ロータスコンボはモダンにおけるトロンのようなランプデッキと本当に多くの類似点があったのだ。しかし、これらの類似点はあくまで表面的なレベルでしかなかった。この2つのデッキはメタゲームにおいて似たような立場にあるが、ロータスコンボを使う上でよりやっかいな点は、対戦相手がどのようにしてこちらを妨害してくるか理解することだった。
多くの試合をこなした後は、このデッキは確実にトロンとは別物のような気がした。それは予想すらしていなかったもので、どういうわけかレガシーのショーテルを使っているような感覚だったのだ。
2013年を振り返ってみると、私はかなりの時間をレガシーのショーテルに費やしていた。なぜかというと、そのときはデルバーをプレイしすぎていたため、妨害ばかりの青いテンポデッキよりも、完全に異なるアーキタイプを学んだほうがマジックが上達すると思ったからだ。
その後、オンラインのレガシーイベントでもちらほらとショーテルをプレイしている。ちなみにショーテルは、自分にとって唯一プレイしたことがあるコンボデッキというわけではない。セファリッド・ブレックファーストも長いこと使っていたし、オースやドレッジなんかもよく使ってきた。
ロータスコンボをテストプレイする中で、ショーテルといくつか似ている点を発見したのは単なる偶然だった。ラッキーなことではあったが、「デッキレンジ」が広がれば広がるほど、実際のデッキ選択におけるプロセスで新しいデッキを選べる数が増えていくのだ。
どうすれば「デッキレンジ」を効果的に広げられるのか?
答えは明白で、自分が普段使っているデッキ以外のデッキをプレイすることだ。しかし、これには注意点がある。あらゆるフォーマットですべてのデッキをプレイしようとするのは、時間がかかりすぎて現実的な提案とは言えないのだ。また時間がかかりすぎるだけでなく、得られる知識の大部分を薄めてしまうことになる。
たくさんのデッキについて学ぶよりも、どのデッキを学ぶかを賢く選ぶほうが良い。一度にすべてをプレイしようとするのではなく、数種類のデッキを選択してそれに集中しよう。個人的には1デッキずつ進めるのがいいと思う。
新しいマクロなアーキタイプを学ぶ最も単純な方法は、普段使わないデッキで1つのトーナメントに向けて準備することだ。必ずしも大規模なトーナメントである必要はないが、デッキをちゃんと理解しようという意識を持てていれば、練習の場はオープンなトーナメントだってかまわない。
もし経験があまり豊富でなければ、私ならアーキタイプがある程度ハッキリしているデッキ(たとえばコントロールデッキ)を選ぶことから始めるだろう。逆にあなたが歴戦の猛者であるなら、とてもユニークなデッキを選ぶことを強くオススメする。マジックのデッキ構築には、常に学ぶべきことがたくさんあるのだ。
自分の最近の例としては、以下のようなデッキが挙げられる。
スタンダード:4色スライムローム
パイオニア:ロータスコンボ、アマリアコンボ
モダン:リビングエンド、ヨーグモス医院、アミュレットタイタン
レガシー:土地単、赤単プリズン
ヴィンテージ:ドゥームズデイ
小規模なトーナメントでもいいからこの手のデッキを使っておくと、すぐに体感できるメリットがある。より大きな大会でそのデッキと対峙したときに、自然とその相手との戦い方が見えてくるのだ。ハイレベルなモダンやパイオニアのイベントに関心があるなら、これだけでも実践の価値があると納得してもらえるだろう。リビングエンドのようなデッキと対戦する場合、動きを知っているかそうでないかでまったく違う体験になるのは間違いない。
「デッキレンジ」について特筆すべきことは、短期間での上達はできないということである。時間はどうしてもかかるし、重要なトーナメントに向けて準備する時点では、「デッキレンジ」を広げるには遅すぎるかもしれない。その代わり、一度体に染みこませれば、それはマジックプレイヤーのスキルとして永遠に役立ってくれる。
これはトレーニングにも似た面があると思っている。リミテッドについても同様で、あまり重要なトーナメントがないときにこそ練習に取り組まなければならない。大きなイベントに向けて準備している間は、単純に地力を高める時間がないのだ。小さなトーナメントや余暇を使っていろいろな戦略を学び、新しいテクニックを習得することは、数か月または数年後に大きな成果をもたらすことがある。
自分が異なるフォーマットのデッキについて触れたのには理由がある。普段プレイするフォーマットとは違うフォーマットに取り組むのは時間的にコストがかかるかもしれないが、そのリターンは過小評価されているとも思っている。たとえば、あなたがよく遊ぶフォーマットがスタンダードやモダン、パイオニアであっても、パウパーやレガシー、ヴィンテージからも学ぶべき教訓があるのだ。
実際、さっきパイオニアのデッキをレガシーに例えていただろう!ヴィンテージでは非常に激しい打ち消し合戦がよく起こるが、ほかのフォーマットでは稀だ。ただ、打ち消し合戦を制することは、その試合をも制することに直結することが多いため、その辺の立ち回りを知っておくことはかなり大きな強みになる。
ほかにも、「デッキレンジ」を広げるために役立つのがキューブだ。キューブドラフトはただ単に面白いだけでなく、競技マジックの学習ツールとしても過小評価されていると思っている。ここでハッキリさせておきたいのは、キューブドラフトが自分のためになるのは、どんな戦略でも受け入れられるオープンな場合に限るということだ。
毎回ストームや白単ばかり狙ってプレイしているようでは、同じアーキタイプを何度もプレイするのと似たような経験値しか得られない。あらゆる戦略に対してオープンな姿勢でドラフトをしていれば、自分が慣れ親しんだデッキとは異なるデッキに着地しやすくなるだろう。
キューブはドラフトが最も難しい部分だとされているが、実際に学ぶのに適している部分はゲームそのものだと考えている。ゲーム自体が非常に複雑で、上手くプレイしようとすると多くのシナリオを考える必要があるのだ。
また、キューブはゲームが長引いた場合にどちらが有利であるかなどを判断するのが難しいことが多く、これらのスキルを磨いておけば構築戦において新しい戦略を習得する際に非常に役立つ。皮肉なことに、見た目のカードパワーに反して、キューブのゲームはスタンダードのものと似ている。
結論
新しい戦略を学ぶのに時間がかかることが多い私は、この記事で紹介したような理由でデッキ選択に苦労することがある。自然といろいろな戦略を使うのが得意なプレイヤーもいるが、自分はそうではなかった。しかし、努力と優れた計画があれば、どんなプレイヤーでも「デッキレンジ」を広げることができ、週末ごとにベストなプレイを尽くすことでより勝率を高められると考えている。
最近は自分の「デッキレンジ」にとても満足しているし、これこそが今に至った理由でもある。君もぜひ試してみてはどうだろうか?
ここまで読んでくれてありがとう!