what we need -THSドラフト環境分析 part1-

金 民守


■環境定義

いつもどおりまずは環境定義から行おう。
現環境は三つのキーワード能力「授与」「怪物化」「英雄的」を中心にデザインされ、その特殊なシステムに合せてリミテッドの戦略もまた特徴的なものになっている。


雨雲のナイアードネシアンのアスプ天馬の乗り手


現環境の大きな特徴は二つ。

一つはダメージ曲線。これは場の殴り値の増加曲線のことを指す。
通常の環境は多少のぶれはあれど基本的にマナカーブに沿ってダメージ曲線は均等に上がっていく。
これが現環境ではアーキタイプごとに爆発的に上昇するターンと言うものが設定されていて、青白の5マナ目、赤系の6マナ目などがそれに当たり、そこを境に盤面の状況が全く変わるのである。よって、ダメージ計算や受けるか攻めるかの判断など、ゲーム中の様々なリスクリターンの判断基準の中心にこのキーとなるターンを置くことになる。

次に特徴的な点は除去の扱いである。
「授与」は今までのオーラ戦略のような除去されたことによるディスアドバンテージが発生しない特例的なルーリングが適用される新能力で、この能力が環境に与えるインパクトは果てしない。
同時に「授与」を軸とした戦術が有効になるようにカードプールがデザインされているため、軽い黒の確定除去や《平和な心》のようなカードがないのも大きい。

環境に存在するコモン除去のうち、授与されたサイズを裁くことの可能なものが、押しなべて5マナ以上の大振りな設定になっており、さらに除去を打った返しにクロックが残る。これらの要因により、現環境は除去スペルを軸にしたコントロール戦略を徹底的に拒否し、捌くことよりも攻めることにインセンティブが設定されている環境だと断言することができる。

端的に言うと、基本的なリミテッドのカード選択基準である「①フィニッシャー>②除去>③基本パーツ」という優先順位が大きく崩れたということだ。

また、除去の優先度低下と同時にバウンスの優先度上昇も忘れてはいけない。
ダメージスペルやマイナス修正系のスペルとバウンスの大きな差は、まず生物のサイズに拠らず対処が可能であること。そしてインスタントタイミングであり、比較的構えやすいコスト設定であることに集約される。
これらの特徴は全て環境の驚異に対する回答にふさわしいものだということは数回でもこの環境に触れたプレイヤーであれば理解に難くないはずだ。

「授与」およびそれによってトリガーする「英雄的」そして「怪物化」はカードアドバンテージの面ではスペルによる干渉に強いデザインになっているが、テンポ的な側面から見た場合事情は変わってくる。

「英雄的」はまずトリガーさせる手段が有限であるため、育成がリセットされることでダメージ源そのものは残ってもダメージカーブに急ブレーキがかかる。
「怪物化」は起動のタイミングでバウンスされることで実質2ターン分のテンポロスになるため、リソース的には盤面の再構築が可能ではあるがテンポ的な損害は「英雄的」以上である。

これらの影響は除去コントロールに代表される消耗戦に持ち込む系統のアーキタイプを相手にしたときはそこまで問題にはならないのだが、双方が殴り合いを行っている状況ではゲームの行方を決定する致命傷になる。ゲームを決定付けるビッグアクションがコモンに多数用意されている現環境において、バウンスはそのスリリングであるがゆえに繊細な殴り合いを制する重要なキーパーツなのである。

これらの事実は従来の環境よりもプレイングが重要な環境であることも示している。ケアするべきか、踏み込むべきか、2手先を見た相打ち、2手先を見たスルー、それらの選択如何によって同じデッキで同じドローをしていても結果は3-0から0-3まで大きく変わってくる。現環境はそういったリミテッドジャンキー垂涎のやりこみ環境だと言っていい。



■青白英雄

前段の環境定義を踏まえて、次は環境のアーキタイプを分類してみよう。
まずは最も3-0率の高いと黙されるTire1の3種類のアーキタイプから中でも最強の呼び声高い青白を紹介する。

▲アーキタイプの特徴
環境最強アーキタイプは文句なしで青白英雄だ。

青白英雄の強さは基本的なダメージカーブの爆発点が5ターン目で怪物化よりも1ターン早いという点。
次に攻め手の豊富さ。2ターン目試練の最速勝ちパターンに代表されるサブプランが豊富なため、大振りになりがちな怪物化や緑系の英雄デッキよりも選択肢に幅があり、プレイヤーの手腕次第でスキのないプレイが可能なだという点は大きな利点だ。

青と組むことで占術を多く取ることが可能で、動きが比較的安定している点。回避能力を持つ生物を多く採用できることで所謂「お互いグダったとき」になんとなく勝てるという点なども忘れてはいけない。

そして、これは言うまでもないことなのだがバウンスを採用できるという点が大きい。
火力や黒除去の信頼度が低い環境で、最もインパクトある場に干渉する手段であるバウンススペル。そしてそのバウンスで稼いだテンポを最も有効に利用できるアーキタイプが青白英雄なのである。



▲コモン優先度
天馬の乗り手

1位《天馬の乗り手》
青白英雄の基本。主戦力であり究極兵器である。
英雄デッキの完成度を測る指標として「英雄的」がトリガーした際にサイズアップするタイプの生物が4枚以上確保できているかが目安として上げられる。
そのためコモン唯一のサイズアップ系英雄である《天馬の乗り手》の重要度は果てしなく高く、レアまで合せてもこのカードよりも優先するパーツはまれである。

2位《雨雲のナイアード》
コモン最強の授与である。アーキタイプを問わず活躍が見込まれる所謂「タダツヨ」パーツ。
しかし《航海の終わり》との2択は悩ましく、状況によって優先度を入れ替えることは頻繁にある。
今回は、第二候補での代用が効くか、代用した際のカードパワーの差を考慮して基本方針としてこちらを優先した。
具体的にはバウンスの第二候補である《捕海》《航海の終わり》を比べた際、青白で運用されることを想定した場合はそこまでカードパワーの下落幅が少なく代用が効くのに対して、《雨雲のナイアード》《目ざといアルセイド》で代用した際のカードパワーの差が大きい点が判断の基準だ。

航海の終わり
3位《航海の終わり》
現環境におけるバウンスの重要度の高さは既に十分に言及しているので改めてここで多く語ることはないが、2位との優先度が逆転する目安となるのは3パック目で一枚もバウンスが確保できてない場合だ。気分的には2パック目5手目以降で同じ状況ならそこで確保したくなるのも十分に理解できるが、中盤で《雨雲のナイアード》《航海の終わり》の2枚が同時に流れてくる状況なら下方向に青は空いてるので強気にカードパワーを重視していい。

4位《捕海》
前段で語られている通りバウンスは重要。青白の場合は相手の攻め手を捌くよりもブロッカーを一時的に除去する展開が多いので重さもさほど気にならない。
優先度が変わる条件は既に2枚バウンスが取れている場合で、この場合授与など他の必要パーツを優先していい。
バウンスは合計で3枚まではデッキに入るが、英雄デッキは十分な量の生物と「英雄的」をトリガーするためのスペルにスロットを割く必要があるため4枚目からは基本的にデッキに入らない。

目ざといアルセイド
同率5位《目ざといアルセイド》《蒸気の精》《希望の幻霊》
条件なしならば《目ざといアルセイド》を最優先に。
《目ざといアルセイド》は基本的にあるだけ入れたいが、青白英雄は2マナ以下の生物6~7枚が理想なのでマナカーブと相談して《蒸気の精》とどちらを優先するか考える。《希望の幻霊》は必要枚数こそ1枚で十分なのだが、突破力で劣りこそすれ勝利貢献度は《目ざといアルセイド》よりも上なので《雨雲のナイアード》が取れている場合はバウンスの次点で1枚目を確保していい。

同率8位《液態化》《神聖なる評決》《ヘリオッドの選抜》《神々の思し召し》
《液態化》は1枚目でアンコモン以上のサイズアップ系英雄が少なくとも1枚デッキに入っている場合の評価。

《神聖なる評決》はバウンスとスロットを食い合うが、3パック目で取れているサイズアップ系英雄が2枚以下で、押し切るプランが安定しない場合に「英雄的」トリガー用の枠を縮小してそこに入れたい。

《ヘリオッドの選抜》《戦識の武勇》よりも優先されることを疑問に思う人もいるかもしれないが、英雄デッキは構えて使って本領を発揮するタイプのパーツよりも能動的に「英雄的」をトリガーするスペルが有効に機能するデッキなので基本的にこの順位で構わない。

もちろんサイズアップ系英雄が少ない場合は優先度は下がる。逆にサイズアップ系英雄は揃っているが授与が少ないという状況や、2マナ以下のサイズアップ系英雄が複数確保できている場合に評価が上がる。土地を16にするためのパーツとしても優秀。

《神々の思し召し》は1枚あると安心感が段違いだが、必要パーツと言うわけではなく、そう優先度をあげなくても確保できるのでこの位置に。

前兆語り
同率12位《前兆語り》《乗騎ペガサス》《波濤砕きのトリトン》
この3枚は生物である関係上複数枚の採用が許容でき、確保できている構成パーツの状況を見て8位の一群と柔軟にスワップする必要がある。
大げさに言うと英雄デッキは小規模なコンボをたくさん積んでいるようなものなので、必要パーツを探す意味で《前兆語り》はあるだけ採用したい。

《乗騎ペガサス》は人間が4枚で1枚、人間5枚以上で2枚まで、3枚以下の場合はできるだけ採用したくない。
《波濤砕きのトリトン》は同時に2体以上ターゲットを取るスペルと+2/+2以上のサイズの授与がある時の評価。

15位《先見のキマイラ》
若干ボーっとしているが噛み合いがなくてもスペック的に合格点はあげられる。
完成度の高いデッキでは入らないこともままあるが、先鋭化が不十分なデッキでは一転して主な勝ち手段として機能する。
イメージとしては2-1デッキで5/6飛行警戒になってることが多い。

戦識の武勇
16位《戦識の武勇》
構えるタイプの「英雄化」トリガースペルとして《神々の思し召し》とスロットを共有する。
片方しか入らない場合は《神々の思し召し》を優先するが、2枚枠が空いている場合は《神々の思し召し》を2枚入れるよりも1枚を《戦識の武勇》にすることをお勧めする。

同率17位《ラゴンナ団の長老》《レオニンの投網使い》《旅する哲人》
全ての構成パーツが完璧である必要はないのだ。マナカーブさえ埋められれば授与で勝てることは珍しくない。
言い換えるとビートダウンのマナカーブはある程度ボーっとしたパーツを入れてでも理想に沿ったものであるべきだ。

同率20位《解消の光》《無効》
青白英雄は十分にデッキを機能させるための枠がパンパンなので解呪系のスペルはどうしても優先度は下がるが、神器などの対策としてサイドには必ず欲しいし、メインで取っても腐るということは稀だ。

同率22位《セテッサのグリフィン》《海岸線のキマイラ》
ここがプレイアブルかどうかの境界線だ。
《海岸線のキマイラ》に関しては授与でサイズが上がることが前提の評価だと言うことを付け足しておきたい。



▲<天馬の乗り手>よりも優先するカード
密集軍の指揮者

同率1位《威名の英雄》《太陽の勇者、エルズペス》《波使い》
今回のぶっ壊れはこのかたがたです。

4位《密集軍の指揮者》
レアでいい強さ。
ダブルシンボルの2マナだが理想的なキャストタイミングは2ターン目よりも4ターン目なのでギリギリ平地9から運用できる。

同率5位《メレティスのダクソス》《ヘリオッドの槍》《予知するスフィンクス》
《メレティスのダクソス》《液態化》《ヘリオッドの選抜》をつけてゲームを簡単にしよう。

《ヘリオッドの槍》は対策カードが各色にあるのでサイドボード後は構えてゆっくりのゲームをするよりただの十字軍と割り切ってプレイした方がいい。
《予知するスフィンクス》はデッキの動きに合わない美しくないカードだが、これくらい強いとボーっとしてるとかそういうのはあまり関係ない。



▲<天馬の乗り手>以下で<雨雲のナイアード>よりも優先するカード
タッサの使者

1位《タッサの使者》
この性能で授与コストが6マナなのは破格。
手薄な4マナ域を埋めてくれるのもうれしい。《液態化》との相性も抜群。

2位《ヘリオッドの使者》
1位と優先度をつける意味はほぼないが授与コストの差でこちらを次点に。
しかし素で出した時の強さはこちらの方が上なので、フォイル絡みで同時に出た場合は自分のデッキの土地が16に出来るのであればこちらを優先していい。

3位《海神の復讐》
手札に腐るか打って勝つかの2択だ。と書こうとしたがよくよく思い返すと打つまでもなく勝つことも多い。

ヘリオッドの試練
同率4位《戦識の重装歩兵》《ヘリオッドの試練》《百手巨人》
《戦識の重装歩兵》はその次点での2マナの枚数やその質に問題がある場合はさらに上方修正していい。

《ヘリオッドの試練》との二択に遭遇した場合《戦識の重装歩兵》が5枚目以降のサイズアップ系英雄になる場合は《ヘリオッドの試練》を優先。4枚目はほぼ拮抗している。ここで《ヘリオッドの試練》を優先することで平地を10枚以上にすることができるなどマナベースへの影響まで考えて決めよう。

《百手巨人》は優先度の設定が難しい。そこまで有無を言わさぬ強さと言うわけではないのだが、空きがちなマナ域を埋めるタダツヨパーツは貴重。

2マナ域が十分に埋まっていたりデッキパワーに不安がある場合はこちらを優先。少し重めになりそうな場合はその他の2枚を優先。
青白前提の評価基準であればこの位置だが、最初手であれば混みやすい青を回避する意味で《雨雲のナイアード》よりも優先する選択は決して悪くはない。

7位《恩寵の重装歩兵》
各種試練と併せて実質的な2ターンキルになることも珍しくない。
《百手巨人》よりも優先する状況はマナカーブ次第で十分にありえる。



「青白」 テーロスドラフト サンプルレシピ

10 《平地》
7 《島》

-土地(17)-

1 《恩寵の重装歩兵》
1 《希望の幻霊》
1 《乗騎ペガサス》
1 《密集軍の指揮者》
1 《旅する哲人》
2 《戦識の重装歩兵》
1 《前兆語り》
1 《天馬の乗り手》
1 《ラゴンナ団の長老》
1 《目ざといアルセイド》
1 《波濤砕きのトリトン》
1 《雨雲のナイアード》
1 《タッサの使者》

-クリーチャー(14)-
1 《神々の思し召し》
1 《戦識の武勇》
1 《航海の終わり》
1 《不屈の猛攻》
1 《海神の復讐》
1 《液態化》
1 《ヘリオッドの試練》
2 《ヘリオッドの選抜》

-呪文(9)-

-サイドボード(0)-
hareruya


※ポイント
・基本的な生物の枚数は15枚を基準に考えていい。
・土地の枚数は絶対数よりも補色の必要枚数によって決まる。
青白英雄はキャントリップや占術が多いため土地16で回るような印象を持つ人もいると思うが、そこで安易に土地を削るのは危険だ。
上記のレシピの場合は《戦識の重装歩兵》が2枚取れているので島を6枚にすることができない。強いデッキがドラフトできたときほどマナベースには細心の注意を払おう。
・スペルの枠はバウンスなど相手に干渉するカード2-3枚、「英雄的」をトリガーさせるスペルが7枚以上でその内4枚以上は能動的に動くスペルが理想。構えるスペルは最低2枚あればいい。





以上が青白英雄の解説になる。
次回は残ったTire1赤黒青黒の解説をする予定だ。

最後になったが、現環境は近年まれに見る傑作セットだと言っていい。
GP京都に向け練習に励まれている人も、純粋に最高のリミテッドを楽しんでいる人も、この記事で何か新しい発見をしてもらえたならうれしい。

それでは、よいリミテッドライフを。