会場をウロウロしていると、浅原 晃が突然話しかけてきた。
浅原 「川崎さん、概念ってなんですかね」
ふむ。日頃から浅原との質疑応答にはなれているつもりの僕としても、これは中々の難問だ。概念とは何か。個人的な意見を言えば、「何か」はすべて概念なのだから「概念とはなにか」という質問自体が成立するとは思えない。とはいえ、そもそもそういった哲学的な質問では無いのだろう。
《概念の群れ》の話とか、そういう話だろう。《煙束ね》から《概念の群れ》を出すとか、そういった類の。
浅原 「いや、哲学的な話っすね」
ふむ。困った。グランプリの会場で突然、マジックと関係ない概念の話をされても、どうしようもないではないか。概念とは何かについて語るのは一旦諦めて、何故、そんな質問をしてきたのかを訪ねてみることとした。
浅原 「この2日ほど、盗み続けてきたんですよ、概念を」
んっと。つまり、なんだかわからないものを盗み続けてきた、ということか。二日間も。なんという無駄な時間、無意味な日々を過ごしているのだ、浅原は。
浅原 「Magic Onlineで、ですよ、もちろん」
結局マジックの話だった。哲学どこ行ったんだ。
というわけで、本戦でも浅原が使用していた、謎のデッキについて浅原がどうしても話したいということだったので、デックテックインタビューを行うこととした。
まずは、デッキリストをご覧いただこう。
7 《島》 6 《沼》 4 《湿った墓》 4 《欺瞞の神殿》 4 《変わり谷》 -土地(25)- 4 《夜帷の死霊》 4 《群れネズミ》 3 《波使い》 4 《概念泥棒》 -クリーチャー(15)- |
4 《思考囲い》 3 《肉貪り》 2 《英雄の破滅》 4 《家畜化》 4 《ディミーアの魔除け》 3 《囁く狂気》 -呪文(20)- |
1 《英雄の破滅》 2 《闇の裏切り》 4 《破滅の刃》 4 《反論》 4 《強迫》 -サイドボード(15)- |
川崎 「というわけで、デッキについてのインタビューということなんですが……そうですね、まずはなんでこのデッキをつくろうとしたのかを教えて頂いてよいですか?」
浅原 「概念ですね」
川崎 「概念、なんだかわからないんですよね?もう少しわかる話をしてもらいたいです。少なくとも自分が理解していることの話をしていただけると……」
浅原 「そうですね……泥棒四天王の話はしましたっけ?」
川崎 「聞いたことないですし想像もつかない話ですけど、概念よりはわかりそうな気がするので、その話、聞かせていただいていいですか?」
浅原 「マジックの世界で今、話題になっている泥棒四天王ですね」
浅原 「まず、相手のデッキのトップを奪う《夜帷の死霊》ですね」
川崎 「青単信心・黒単信心という環境トップデッキの中心として信心を稼ぎまくってるクリーチャーですね」
浅原 「続いて、相手のクリーチャーを奪う《家畜化》が泥棒四天王に名を連ねますね」
川崎 「なるほどなるほど。今や、青単信心の同型対策として外せない強力カード、確かに相手のカードを奪うカードですね。なるほど、意外とまともな話になってきましたね」
浅原 「そして不動のナンバー2、《概念泥棒》」
川崎 「まって!」
浅原 「え?」
川崎 「それ言いたいだけだったでしょ。最初から急に概念の話をしたのも、泥棒四天王の話したのも」
浅原 「いや、もちろん、概念についてはいつでも考えてますよ。あと、我々泥棒四天王についてもいつか世界にちゃんと発信しておきたいと思ってましたしね」
川崎 「なんか、せっかく普通にマジックの話になってきてると思ってたのに、なんで急に《概念泥棒》が出てくるんですか!?」
浅原 「何言ってるんですか、ウチのナンバー2を。そもそも、青系デッキ相手にも黒系デッキ相手にも強力なカードなんで、最近注目されているんですよ、《概念泥棒》」
川崎 「たしかに、言われてみると、青白系のメインとも言える《スフィンクスの啓示》や、黒系のアドバンテージエンジンである《地下世界の人脈》を無効化したり、相手のすきを突いて自分のアドバンテージにできますもんね……そう思うと強いのかもしれないですね」
浅原 「そして、なにより、《囁く狂気》とのコンボ!」
川崎 「まって!」
浅原 「なんすか、もう」
川崎 「そのコンボはさすがにうそ臭い」
浅原 「そんなことないですよ。相手のターンエンドに《概念泥棒》を召喚して、自分のターンに《囁く狂気》を使うだけで、相手の手札がゼロになって、自分は大体6枚とか、多ければ14枚ものドローが可能。しかも、暗号化した上でアタックすれば、さらに倍ですよ」
川崎 「う……でも、そんな隙無いんじゃないですかね」
浅原 「いやいや。序盤に《群れネズミ》や《夜帷の死霊》でプレッシャーをかければ、相手は何かしら対処しないとならないので、そこでできた隙を最大に活かせるのは、一気にゲームを決めうるコンボなんですよ。というわけで、相手の手札をゼロにしつつ、こちらは大量の手札を獲得すれば勝ったも同然。相手の手札が7枚で《概念泥棒》コンボが決まれば、0:21交換も可能ですからね」
浅原 「相手の手札をゼロにしたうえで、こちらは有り余る手札の中から《ディミーアの魔除け》の一番下の能力を使用して相手のトップを土地などの使い道の無いカードにしてしまうんですよ。このデッキが、環境で一番うまく《ディミーアの魔除け》を使えるデッキだと思いますよ」
川崎 「うーん……そう聞くとなんか強そうですけど……罠の匂いしかしないですね」
浅原 「そもそも《概念泥棒》は、レガシーレベルのパワーがありますよ」
浅原 「《概念泥棒》がいる状態で、《ヴェンディリオン三人衆》をだせば、手札破壊ですし、相手の《渦まく知識》に対応して《概念泥棒》出せば、一気に勝負が決まりますよ」
浅原 「《ボガーダンの金床》使えば、ドローロックのコンボになるんじゃないですかね、多分」
川崎 「わかりました、レガシーの話はいいです。スタンダードの話をしましょう。今日の成績はどうだったんですか?」
浅原 「予想通りの6勝3敗で初日落ちですね」
罠じゃねーか!
浅原 「まぁ、優勝出来るだけのポテンシャルのあるデッキではあったんですが、調整をしきれなくて構築が雑だったのが敗因ですね。《サイクロンの裂け目》とか取るべきでしたね」
川崎 「結局、なにがしたくて、この話をしてたんですか」
浅原 「あれ?四天王筆頭が誰か話しましたっけ?」
川崎 「いや、薄々気がついてますけど、誰ですか?」
浅原 「まぁ、オレですよね」
この時間泥棒が!!