Translated by Furukawa Tetsu
(掲載日 2024/07/22)
はじめに
やぁ、みんな!
アムステルダムのプロツアー『モダンホライゾン3』はすでに幕を閉じた。前回とその前のプロツアーでは非常に惜しい結果だったが、とうとう今シーズンはトップ8で終えることができた!
トップ8に入賞するのはいつだって特別なことで、この結果にはとても満足している。完璧なマジックをプロツアーで披露できたというわけでないが、ジェスカイコントロールは今回のトーナメントにおいてとてもよく機能したと思う。
モダンにおけるデッキ選択
プロツアーでどのデッキを使うか決断することはいつだって難しい。考えないといけない要素がたくさんあるし、メタゲームがどうなるかの予想はそれほど難しくはないとはいえ、あるアーキタイプにおいて誰が何を試みようとするか予測するのは、絶対に不可能だからだ。
今回のプロツアーの場合、《有翼の叡智、ナドゥ》コンボは壊れた強さのデッキであり、たとえそれまでオンラインでの結果が振るっていなかったとしても、モダンでベストなデッキであることにTeam Handshakeのほぼ全員が同意していた。
明確なベストデッキがあるトーナメントでは、かなり興味深い状況が生まれる。たいていは自分がそのベストデッキを使うか、またはそのデッキに対して有利なデッキを持ち込むかの2択になるだろう。ナドゥコンボのような強力なデッキを無視するのは、個人的にはあまりオススメしない。
“ベストデッキ”がどれほどの強さかによって、そのデッキに勝つのはかなり難しくなる。問題はそれだけではなく、そのほかのデッキに対しても戦えるようにしなくてはならないのだ。ジェスカイコントロールはナドゥに対して有利ではあったが、最終的に一般的なコントロールとは違った構築にした。これは去年トロンを使ったときと似たような状況で、簡単に説明すると1からデッキを組みなおしたということだ。
では、順を追って見ていこう。
調整初期
通常、新セット発売後の数日間はメタゲームがあまり定まっておらず、新セットの影響がよく分からないことがある。『モダンホライゾン3』発売前から、《有翼の叡智、ナドゥ》は環境に大きな影響を与えると話題にはなっていたが、どんなデッキで使えるのか、またどんなデッキがナドゥに対して有利なのか不明だった。
そこでプレリリース当日、私はアドリアン・イニゴ/Adrián Iñigoと長時間の調整を行い、いろいろなデッキを試して、それらがどんなデッキに対してどのように機能するかを確認した。
試作品のうちのひとつは、《一つの指輪》と8枚の青のピッチスペル(《否定の力》と《緻密》)を軸にした青黒のデッキで、サポートとして《超能力蛙》を搭載したものだった。《超能力蛙》はセットのなかで最強だと感じていたカードでもある。
面白いことに、このピッチスペルを盛り込むというアイデアは昨年のモダンのプロツアー調整でチームの誰かが考え付いたもので、当時は青単に《敏捷なこそ泥、ラガバン》をタッチしたものだった。ただこのデッキは良さそうに見えて、安定性には欠けていたんだけどね。
これらの調整から得られたのは、青いピッチスペルが実際にナドゥに対して効果的だったことだ。もちろん、我々が構築したナドゥはお世辞にも完成度が高いとは言えなかったのだが、《一つの指輪》と打ち消し呪文の組み合わせがナドゥに対して有効である事実は、調整全体を通して揺らぐことはなかった。
プロツアーの調整に進み、同じ原理に基づいてジェスカイコントロールを構築したが、最終的にはチームのほとんどが「このデッキはナドゥ以外のデッキに対してかなり弱いだろう」と考えたため、見送られることになった。そういうわけで、次は黒単ネクロに移行した。
《ネクロドミナンス》も新セットのなかでは間違いなく強力なカードだ。欠点は明白だが、このエンチャントは《魂の撃ち込み》との相性が抜群で、ときに「:あなたはこのゲームに勝利する」と読み替えられるほどだ。
黒単ネクロを調整するなかで、このデッキのことが好きになった。たしかに、《ネクロドミナンス》を引けなかったときは少し物足りなさがあったが、引けたときの強さはナドゥと同等で、ほかのどんなデッキよりも優れていると感じたのだ。
ただ黒単ネクロには2つの問題があった。1つはボロスエネルギーに《稲妻》が採用され始めたことだ。ボロスエネルギーは、プロツアーへの調整が進むにあたってチーム内でそこそこ強いと認識したデッキだった。
《火の怒りのタイタン、フレージ》も非常にやっかいで、《稲妻》と合わせて比較的多いライフからでも負けることがあったのだ。そのため、ボロスエネルギーとの勝率がそこまで良くなく、後手3ターン目に《ネクロドミナンス》をプレイしたとしても、それだけでは十分でないことが多かった。
もう1つの問題はナドゥに関連している。これは比較的早い段階で発見したパターンの1つで、《悲嘆》デッキ全体にとって大きな問題だった。何かというと、たとえ戦況が比較的こちらに傾いていたとしても、ナドゥ側が1ターンしかないチャンスでトップデックして勝ってしまうことが多いのだ。こちらが狙い通りの動きをしていたとしても、相手に《有翼の叡智、ナドゥ》を素引きされる以外に《召喚士の契約》や《召喚の調べ》を引かれるだけでもアウトになる。
《森を護る者》によって《魂の撃ち込み》をケアした動きをされることがあったが、結局どのチューター呪文を引かれても負けてしまうのだ。また《ネクロドミナンス》をプレイできた試合でも、相手には即座にゲームの勝利に直結するようなカードが10~11枚ほどあり、これはこちらにとってかなり分が悪いことだろう。さらに良くないことに、相手がフェッチランドから諜報ランドをプレイするだけでデッキトップから2枚分のカードを探すことができ、これによってナドゥ側の勝率がかなり高くなっているのだ。
こうした状況が重なってナドゥ側の勝率が大幅に増加したため、対抗策を探し出すことにした。ここで真っ先に思いつく対策は、デッキに青いカードを追加して《緻密》や《否定の力》を採用することで、《ネクロドミナンス》を着地させた後も相手の脅威をさばけるようにすることだった。そして黒単ネクロでこれを数回試した後、ここで学んだことを活かしてジェスカイコントロールを再度試すことにしたのだ。
このジェスカイコントロールの大まかなコンセプトは、《一つの指輪》に《ネクロドミナンス》としての役割を担わせることだ。だからこそ、カードアドバンテージを得るために《一つの指輪》を引き込むことが重要であるし、ほかのデッキが採用しているような一般的なドローソースは採用していない。
デッキリスト
これが我々のプロツアーにおける最終デッキリストだ。
このデッキの全体的なプレイの方針は「ひたすら相手とリソースを交換して《一つの指輪》を唱える」たったこれだけだ。また一見わかりづらいが、このデッキの動きを円滑にしている要素がある。それはフェッチランドと諜報ランドのシナジーだ。リビングエンドのようなコンボデッキは例外として、このデッキがこれらの要素を最も効果的に活用できていると感じた。結局のところ、フェッチランドを使って諜報を行うのは、《考慮》をキャストするのと同じなのだ!
ただ、あえて《考慮》を採用するほどではない。諜報ランドが3枚あれば、マナベースを通して呪文を安定して探しだせるため、わざわざ枠を割いてまでその役割を果たすカードを採用することはないのだ。
同じく《ロリアンの発見》もこのデッキのキーカードであり、実質土地として機能しながらも、カードアドバンテージ源としても使える。《記念碑的列石》はプロツアーに向けてアンソニー・リー/Anthony Leeが発見したカードだ。このアーキタイプにおいて非常に強力な土地であり、《一つの指輪》や《火の怒りのタイタン、フレージ》を引けないゲームにおいて頼れるツールになるんだ。
《火の怒りのタイタン、フレージ》
デッキ全体は《一つの指輪》に基づいて構築されているが、《火の怒りのタイタン、フレージ》もこのデッキにおけるもう1つの主柱となっている。
《火の怒りのタイタン、フレージ》は強すぎた《自然の怒りのタイタン、ウーロ》の修正版だと思っていたが、これは間違っていた。このようなデッキにおいては、《フレージ》のほうが《ウーロ》より優れていると感じたのだ。このアーキタイプは主にこのカードを活かすために存在しており、そうでない場合は黒いデッキが《一つの指輪》に合っているだろう。それほど《火の怒りのタイタン、フレージ》は優秀なのだ。
では、なぜ《火の怒りのタイタン、フレージ》は我々のデッキにおいて《自然の怒りのタイタン、ウーロ》よりも優れているのだろうか?どちらもライフを得ることはできるので、その点に関しては関係はない。一方は《探検》で、もう一方は《稲妻》だ。どちらが良いだろう?明確な答えはでない。
たしかに、《探検》は2マナで《稲妻》は1マナだが、《稲妻》は多くのフォーマットでスーパースター的な存在であり、間違いなく優れているカードだ。でも、それが正しい見方だとは思えない。ここでの「どちらのカードが優れているかどうか」は、実際にはそのときの戦況の流れに依存するのだ。というのも、それぞれが異なるタイプのゲームで良さがあるからだ。
しかし、《火の怒りのタイタン、フレージ》をゲーム後半のフィニッシャーとし、さらに強力なアドバンテージエンジンを採用したデッキであれば質問の意味は変わってくる。《探検》と《稲妻》はどちらも非常に魅力的であるため、ゲーム序盤においてどちらの効果が優れているかは私には分からない。
ただ、すでに《一つの指輪》が戦場にある場合はどうだろうか?または、土地以外で4マナ以上のカードがデッキにほとんどない場合は?
その場合の答えは明白、《稲妻》だ。ただし、この手のデッキにおいてのみ当てはまる考えだということは明確にしておきたい。《自然の怒りのタイタン、ウーロ》は間違いなく、さまざまなデッキの構築方法を広げてくれるカードである。
ボロスエネルギー対ジェスカイコントロールで対戦したとき、《火の怒りのタイタン、フレージ》がいかに壊れているかを実感した。このカードと対戦するのはあまりに絶望的で、このマッチアップでは《自然の怒りのタイタン、ウーロ》のほうがはるかに弱かっただろうなと感じることも多かった。実際、これがジェスカイコントロールを使おうと決めた瞬間でもあった。
黒単ネクロ対ジェスカイコントロールで対戦した際、ジェスカイコントロールはまったく問題ないと感じたが、ボロスエネルギーに対しては若干分が悪いと予想していた。ところが、実際にはそうではなかった。《空の怒り》と《火の怒りのタイタン、フレージ》の組み合わせは本当に強力であり、クリーチャーデッキに対して予想以上に優れていることが分かったのだ。
全体的に分かったこととして、《火の怒りのタイタン、フレージ》の最大の欠点は、特にナドゥに対して有効ではなかったことだ。よって我々は、最終的に3枚だけ採用することにした。
また、《激しい叱責》と《火の怒りのタイタン、フレージ》を組み合わせることで、3ターン目に6/6のクリーチャーを場に残せることも覚えておいてほしい!《火の怒りのタイタン、フレージ》がどれだけ弱いマッチアップであっても、このコンボがあればある程度《火の怒りのタイタン、フレージ》の価値は保証される。実質9点クロックを序盤から展開できるからね。
エネルギーパッケージ
エネルギーパッケージについても言及すべきであろう。受け身なデッキにとって、相手の《ウルザの物語》を咎める手段になる《空の怒り》は革命的だった。通常、最善の策は《激しい叱責》を使うことであったが、それでも相手は強力なカードを探せる余地があった。今では、《ウルザの物語》を採用していることを逆手にとって有利に立つことすらできる。
ひとたび《空の怒り》を使えば、《語りの調律》や《電気放出》は弱くなってしまう。《電気放出》が《稲妻》よりもはるかに優れているとは思わないが、ナドゥがベストデッキである以上、除去は《有翼の叡智、ナドゥ》を除去できるものでなくてはならない。《電気放出》ならば、《有翼の叡智、ナドゥ》に対する1マナの除去として機能させるのはそれほど難しくないだろう。
サイドボードガイド
ナドゥコンボ
vs. ナドゥコンボ
ジェスカイコントロール
vs. ジェスカイコントロール
ジェスカイウィザーズ
vs. ジェスカイウィザーズ
ボロスエネルギー
vs. ボロスエネルギー
黒単ネクロ
vs. 黒単ネクロ
ルビーストーム
vs. ルビーストーム
リビングエンド
vs. リビングエンド
トロン
vs. トロン
エスパー御霊
vs. エスパー御霊
果敢アグロ
vs. 果敢アグロ
マークタイド
vs. マークタイド
アミュレットタイタン
vs. アミュレットタイタン
おわりに
モダンがこれからどうなるか予想するのは難しいが、《有翼の叡智、ナドゥ》が禁止にされる可能性は高いだろう。このデッキはナドゥに勝つために生まれたものとはいえ、打ち消し呪文と《火の怒りのタイタン、フレージ》の組み合わせは、メタゲームが変わっても競技シーンにおいて十分強力だと考えている。
ジェスカイコントロールはメタゲームに合わせて最適化させる必要があり、もしかすると《一つの指輪》に依存しすぎないように構築しなければならないかもしれない。ただこのデッキは、今後も競技シーンで強くあり続けると思う。というのも、どのデッキに対しても戦える適応力があるからだ。
読んでくれてありがとう!良いモダンシーズンを!
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