準々決勝: 井川 良彦(東京) vs. 土屋 祥仁(東京)

晴れる屋

By Atsushi Ito


 ライターとプレイヤーとの間には、奇矯な縁が生まれることがある。

 私と井川の場合がそうだ。

 世界選手権10で2回、負け看取ったことがあり、さらには日本選手権11の準決勝でも、井川の敗北を看取った。

 『まだ3回』といえば『まだ3回』だし、『3回も』といえば『3回も』だ。

 だから。

 『プレミアイベントで私が井川のカバレージを取ると敗北する』

 そんなジンクスが頭に浮かぶのも、無理もないところだろう。

 だが、フィーチャーマッチでライターとして座った以上は言葉はもちろん決して態度にも出しはしないが、私は友人として期待していた。

 このThe Last Sun2013という、晴れる屋店員の井川にとってはいわばホームゲームになる大会で。

 そのようなちっぽけな不安など、一息に払拭してくれることを。




 スイスラウンド3位の井川と6位の土屋。デッキリスト公開の後、上位の井川がフォーマット……すなわち、スタンダードで戦うかレガシーで戦うか、を決定することになる。

 リストを見比べて悩んだ結果。

井川 「どっちも有利だな……」

 だが、結局井川はレガシーを選択した。

 スタンダードの方は土屋の赤単信心のデッキリストに《パーフォロスの槌》が多めに採られていたのと、メインボードの除去が少なめであり、エスパーコントロールの井川にとっては負ける目が多少なりともあったからだ。

 何より、土屋のレガシーのデッキは青赤デルバー。

 RUGデルバーの井川にとっては、《敏捷なマングース》《タルモゴイフ》を出してこない同型戦のようなもので、くみしやすいと判断したのだろう。

 かくして。

 スイスラウンドでスタンダード7回戦を全勝した2人は、皮肉にもレガシーで激突することとなった。



Game 1

 ダイスロールで井川が先手な上、土屋はダブルマリガン。

 これはもう井川のペース、そう思われた。

 《秘密を掘り下げる者》の鏡打ちからゲームが始まると、井川の方は2回のチェックでも変身しないのに対し、土屋のそれは2回目で《思案》をめくり、3/2飛行の猛獣へと変貌を遂げる。

 井川もこの《思案》《呪文貫き》し、3度目のチェックにスタックして《渦まく知識》を撃つと、《思案》をめくって1ターン遅れでこちらも変身させる。

 互いにすれ違って殴り合う昆虫たち。見る間にライフが減少していく。

 一見ダブルマリガン分だけ井川の方が有利そうだが、土屋の《若き紅蓮術士》に井川が《四肢切断》を浴びせたあたりで、雲行きが怪しくなってくる。

 井川のセットランドが止まらないのだ。

 レガシーのデッキの中でも極端にタイトで、極端に1マナと2マナに寄っているRUGデルバーだが、だからこそマナフラッドには猛烈に弱い。

 《渦まく知識》とフェッチランドのコンボで余った土地はライブラリに押し戻す……そんな挙動が前提となっているのだ。

 土屋に《不毛の大地》を食らっているにも関わらず、5枚もの土地が並んでいる状況はだから、言ってみれば異様だった。

 ドローステップにカードを1枚引くごとに、井川の苦悶の表情はより険しくなっていく。



 そんな状況を知ってか知らずか、土屋は《瞬唱の魔道士》《思案》をフラッシュバックし、《梅澤の十手》《稲妻》《呪文貫き》という、濃厚なトップにたどり着く。

 この《梅澤の十手》が着地すると、いよいよ井川に残された選択肢は少ない。

 《昆虫の逸脱者/Insectile Aberration》が相打ちぎわに《梅澤の十手》にカウンターを載せると、かろうじて《敏捷なマングース》2体で盤面を支えているものの、一向に殴り始めるプランが立たない。

 何より。ここにきてもなお、井川のドローは土地ばかりなのだ。

 そして、ここまで時間をかければ。

 土屋のデッキに眠るたった2枚のそれを、呼び覚ますには十分だった。

 《渦まく知識》で土屋が引き込んだのは、レガシー環境に激震をもたらした《真の名の宿敵》!!

 万全を期してレガシーを選択したはずが、井川、まさかの1本目敗北。

井川 0-1 土屋

Game 2

 土地ばかりの手札をマリガンした井川。

 苦笑しながらの6枚キープは、しかしとても先手の利を生かせるようなものではなかった。

 《秘密を掘り下げる者》スタートの土屋に対し、《目くらまし》をケアして2ターン目に《稲妻》を浴びせるが。

 続くターンに土屋が《不毛の大地》をセットしてから2体目の《秘密を掘り下げる者》をプレイ、さらに解決後に井川の《Volcanic Island》《不毛の大地》すると、井川のコントロールしているパーマネントはたった1枚の《不毛の大地》のみになってしまう。



 そして、返すターン。

 ゆっくりと地を這ったドローは土地ではなく、井川は力なくターンを返すしかない。

 一方、この隙に安心して《若き紅蓮術士》を着地させた土屋。《思案》を連打してクロックを倍加させると、《稲妻》までも撃ちこんで速やかにゲームを終わらせにいく。

 さらに。

 ダメ押しに、《真の名の宿敵》が降臨。

 《乱暴/Rough》での一発逆転を狙っていた井川だったが、RUGデルバーの天敵が着地すると、唯一のパーマネントである《不毛の大地》を片付けた。

井川 「めちゃめちゃ相性良かったのに……」

 マジックに事故は付き物。

 とはいえそれでも、マナトラブルだけでマッチを瞬く間に落としてしまった井川は、やりきれない思いを抱えながら、フィーチャーテーブルをあとにしたのだった。

井川 0-2 土屋