モダン、ナドゥ禁止へ。複数フォーマットで禁止カード発表

晴れる屋メディアチーム

2024年8月26日 禁止制限告知

2024年8月26日、複数のフォーマットで禁止制限告知が行われました。

【スタンダード】
変更なし

【パイオニア】
《アマリア・べナヴィデス・アギーレ》禁止
《傲慢な血王、ソリン》禁止

【モダン】
《有翼の叡智、ナドゥ》禁止
《悲嘆》禁止

【レガシー】
《悲嘆》禁止

【ヴィンテージ】
《ウルザの物語》制限
《苛立たしいガラクタ》制限

ここでは実際のデッキリストや禁止にいたるまでの経緯を振り返ります。

パイオニア

禁止:《アマリア・べナヴィデス・アギーレ》

アマリア・べナヴィデス・アギーレ野茂み歩き

『イクサラン:失われし洞窟』で登場した《アマリア・べナヴィデス・アギーレ》は発表当初から《野茂み歩き》とのコンボが注目されていました。

両者が揃った状態で「探検」か「ライフ回復」をすると互いの能力が交互に誘発し、やがて《アマリア・べナヴィデス・アギーレ》の「これのパワーがちょうど20であるなら、これでないすべてのクリーチャーを破壊する。」が解決され、戦場にはパワー20の《アマリア・べナヴィデス・アギーレ》のみが残ります。

召喚の調べ集合した中隊戦列への復帰救出専門家

すべてのコンボパーツが軽量なクリーチャー・カードであったため、《召喚の調べ》《集合した中隊》でコンボパーツを集めることができます。

仮に除去できたとしても安心できません。《戦列への復帰》などで再びコンボを仕掛けることが可能です。

さらに奇妙なことに、《野茂み歩き》に破壊不能を与えたり、《アマリア・べナヴィデス・アギーレ》のパワーがちょうど20になる瞬間が生まれないようにパワーをプラス修正するインスタントを使うと、誰にも能力の誘発を止められなくなり、ゲームが引き分けになります。

この引き分けが発生しうるデッキはイベント運営上だけでなく、プレイ体験としても望ましいものではありませんでした。

「アマリアコンボ」初期のデッキリスト

禁止:《傲慢な血王、ソリン》

傲慢な血王、ソリン

[-3]:あなたは、あなたの手札から吸血鬼・クリーチャー・カード1枚を戦場に出してもよい。

『基本セット2020』で登場した《傲慢な血王、ソリン》は吸血鬼を踏み倒して戦場に出す能力を持ち、「吸血鬼が登場するセット」が予告されるたびに注目を集めてきました。

吸血鬼が支配し、ソリンのお膝元である次元「イニストラード」を再訪するセット『イニストラード:真夜中の狩り』『イニストラード:真紅の契り』でも踏み倒す価値のある吸血鬼は現れず、《傲慢な血王、ソリン》は目覚めの時を待っていました。

大きな転機となったのはプロツアー『カルロフ邸殺人事件』。イゼットフェニックス、アゾリウスコントロール、ラクドスミッドレンジの支配率トップ3が合計で45%以上を占め、なかでもアゾリウスコントロールが獲得した新カード《喝破》は注目の的となりました。

喝破魂の洞窟

《喝破》をかわすべく、《魂の洞窟》を用いたデッキをテストしていたプレイヤーが吸血鬼デッキに可能性を見出します。そして12人のプレイヤーが「吸血鬼」デッキを持ち込んだのです。ここには《傲慢な血王、ソリン》も搭載されています。踏み倒すのは、そう――『カルロフ邸殺人事件』で登場した《血管切り裂き魔》です。

血管切り裂き魔

6/5飛行という優れたボディを重すぎる「護法」が守ります。除去を撃とうものなら、クリーチャーを1体失いつつ4点のライフドレインを受け入れなければなりません。

初日のメタゲームブレイクダウン記事ではささやかな話題に過ぎなかった「吸血鬼」ですが、トップ8に2名を送り込み、はたして優勝したのは「ラクドス吸血鬼」のセス・マンフィールド/Seth Manfieldでした。

このプロツアーの間に「がっかり神話レア」だった《血管切り裂き魔》一気にトップレアに変貌。数日のうちに相場が10倍に跳ねあがりました。

それまでパイオニアのベストデッキであったラクドスミッドレンジの多くは、この魅力的なパッケージと打ち消し耐性を持った吸血鬼デッキへと変貌し、メタゲーム上では吸血鬼デッキの支配率が大きく膨らんでいくことになったのです。

このパッケージのうち、《傲慢な血王、ソリン》にメスが入ったのはなぜでしょうか。それは、《血管切り裂き魔》そのものは自身のパワーに見合ったマナ・コストをもっていたからです。しかし《傲慢な血王、ソリン》は、その適切なコストを半額にしてしまう危険なカードとなっていたのです。このカードの存在が将来の「強力な吸血鬼カード」をデザインすることを妨げることも理由のひとつです。

初期の吸血鬼デッキ:プロツアー『カルロフ邸殺人事件』優勝

モダン

禁止:《有翼の叡智、ナドゥ》

有翼の叡智、ナドゥ

《有翼の叡智、ナドゥ》は、デザインに失敗しました。

『モダンにおける《有翼の叡智、ナドゥ》の禁止について』より引用

手甲

『モダンホライゾン3』で登場した《有翼の叡智、ナドゥ》は公開されると《手甲》とのコンボが話題になります。レガシーの《セファリッドの幻術師》コンボを思わせますが、《有翼の叡智、ナドゥ》には「回数制限」が設けられていました。

春心のナントゥーコ

しかし、その回数制限はあってないようなものだとすぐにわかりました。同じく『モダンホライゾン3』で登場した《春心のナントゥーコ》がいれば、誘発のタネとなるクリーチャーを増やすことができるのです。

ウルザの物語召喚士の契約召喚の調べ

コンボパーツは《ウルザの物語》《召喚の調べ》《エラダムリーの呼び声》で探すことができ、3ターン目の決着が高い再現性を持っていました。

最初は冗談めいていた「今年は”ナドゥの夏”になる」という予言は『東西モダン最強決定戦2024 東エリア大会』で松本 友樹のナドゥコンボが優勝したことで現実味を増していき、はたしてプロツアー『モダンホライゾン3』ではバントナドゥが支配率20%を越え、トップ8にナドゥ系デッキが5人勝ち残ります。トップ4はナドゥデッキが独占、優勝も必然、ナドゥデッキとなりました。

また、コンボの始動からゲームが終了するまでに長い時間がかかること、能力の誘発回数を記録する必要がある管理の煩雑さも問題視されました。

《有翼の叡智、ナドゥ》ではなく、まずは《手甲》が禁止になるのでは」と多くのプレイヤーが考えていましたが、今回は《有翼の叡智、ナドゥ》そのものを禁止し、このアーキタイプを終了させる判断がなされました。

長い目で見てトーナメントの楽しさが損なわれる問題は残り続けます。このデッキは人々の時間を独占する可能性があり、しかもその時間は楽しくもなく、干渉しやすいデッキでもありません。このデッキを環境に残すだけの、説得力ある論拠はありません。

これらの理由から、《有翼の叡智、ナドゥ》は禁止となります。

『モダンにおける《有翼の叡智、ナドゥ》の禁止について』より引用

ナドゥのデザイン

有翼の叡智、ナドゥ

《有翼の叡智、ナドゥ》に関しては禁止改定を伝える記事に加えて、『モダンホライゾン3』のリード・デザイナーを務めたマイケル・メジャース/Michael Majors氏の記事が公開されました。

《有翼の叡智、ナドゥ》は、デザインに失敗しました。“という衝撃的な一文から始まるこの記事では《有翼の叡智、ナドゥ》のデザインの経緯が明かされています。

《有翼の叡智、ナドゥ》 1UG

クリーチャー ― 鳥・ウィザード

飛行

あなたはパーマネント・呪文を、それが瞬速を持っているかのように唱えてもよい。

あなたがコントロールしているパーマネント1つが、対戦相手がコントロールしている呪文や能力の対象になるたび、あなたのライブラリーの一番上にあるカード1枚を公開する。それが土地・カードなら、それを戦場に出す。そうでないなら、それをあなたの手札に加える。

3/4

このテスト段階のナドゥは特に問題なかったものの、最終チェックの会議で「瞬速を与える能力が統率者戦で問題を起こすのでは」と議題に挙がります。

クルフィックスの預言者

たしかに統率者戦では、クリーチャー・カードをインスタントタイミングでプレイできるようになる《クルフィックスの預言者》が禁止推奨カードに指定されています。毎ターン自分の土地とクリーチャーをアンタップする能力もあいまって、事実上使えるマナが4倍になる点が非常に強力です。

その能力を削除すると、このカードのターゲット層や居場所がわかりにくくなりました。すべてのカードにターゲットや居場所を用意するのは、重要なことです。最終的に私が目指したのは、統率者戦でこのカードを中心にしたデッキを構築できるようにすることでした。その結果、最終版のテキストになりました。

そこで0マナで対象に取る能力との相互作用が大きな問題となることを、見落としてしまったのです。そしてそれは、社内で最後に《有翼の叡智、ナドゥ》を見た者にも見落とされました。その時点で制作プロセスはずっと先へ進んでおり、《有翼の叡智、ナドゥ》の最終版はプレイテストされることなくそのまま出荷されることになったのです。

『モダンにおける《有翼の叡智、ナドゥ》の禁止について』より引用。(※一部文章を強調)

マジックのなんらかのフォーマットで禁止カードが生まれるたびに引用される言葉があります。それはマジック開発部ディレクター(当時)のランディ・ビューラー/Randy Buehlerによるものです。

安全側に寄せて作っていれば、カードを禁止するようなことは永遠に起こらないよ。[略]マジックは、強力なカードがちりばめられていてこそ楽しいんだ。だから、禁止を恐れるあまりにカードを常に弱くするというのは誤りだ。

それに加えて、開発部が全く新しい効果や能力を考えることでマジックはより面白いものになっている。その際に、その新しいものがどれほど強いのか(あるいはどれだけのマナが相応しいのか)、完璧に理解することはできない。実際、新しいメカニズムが革新的であればあるほど、私たちがその最高の使い方を理解するのは難しくなり、カードのコストを間違えることになる。

[略]とはいえ、革新が非常に良いことであることは誰もが同意してくれることだし、私たちは常に革新を続けていくべきである。そして革新を続けてイカした新しい奇妙なカードを作り出していけば、たまには失敗もあるだろうし、そうなればカードを禁止する必要も出てくるかもしれない。

『スタンダードの禁止に関する声明』より引用。(※改行と一部文章を強調)

マジックの開発スタッフは「禁止カードが生まれるリスク」を承知のうえで、それでも禁止カードが出ない安全なカードばかりではなく、強力で楽しいカードのデザインに挑戦しています。

一方で、今回の《有翼の叡智、ナドゥ》は事情が違います。強力なカードを作ろうとしてやり過ぎたというより、管理上の問題といえるでしょう。

《有翼の叡智、ナドゥ》パワーレベルの最大までカードを押し上げてみようという試みではなく、失敗の産物でした。もし私がリスクの度合いを把握していたなら、タフネスを削ってちょうど良い場所に着地できると期待せず、テキスト欄をまったく異なる内容に変えていたことでしょう。

『モダンにおける《有翼の叡智、ナドゥ》の禁止について』より引用。(※一部文章を強調)

禁止:《悲嘆》

まだ死んでいない悲嘆

「想起」で唱えた《悲嘆》《まだ死んでいない》で戦場に戻す動きは、いまや誰もが知っているコンボです。1ターン目から可能な「2発の《思考囲い》をしながら戦場に威迫持ちを残す」コンボを決められてしまうと、そのまま何もできずに敗北してしまう面白くないカードという評価を受けてきました。

《悲嘆》はラクドス想起に始まり、ネクロドミナンスやエスパー御霊など、黒を含むデッキの多くにその姿を見ることができます。

白を擁するエスパー御霊では《儚い存在》でも《悲嘆》を再利用しています。

モダンが楽しいフォーマットになることを願って《悲嘆》は禁止となりました。

レガシー

禁止:《悲嘆》

悲嘆

レガシーでも《悲嘆》は脅威でありつづけました。モダンでは《まだ死んでいない》などで戦場に戻される《悲嘆》ですが、レガシーでは《再活性》《動く死体》であとから戦場に戻すことも可能です。

再活性動く死体

《悲嘆》の登場以前からレガシーには強力なリアニメイト戦略がありました。当然ながらそれは墓地対策カードとの戦いを余儀なくされるものです。しかし《悲嘆》マジックの歴史の中でも屈指の墓地対策カードをそもそも唱えられる前に、それを取り除くことができます。それもマナを支払うことなく!

暴露

従来から存在した、同じくピッチコストを持つハンデスである《暴露》と比べ、自身がリアニメイト可能でゲームを押し進めるのに十分な威迫・3/2というクリーチャー・カードである点も優秀でした。

意志の力超能力蛙

青の打ち消しでバックアップしながら、これまたリアニメイト戦略と相性がよく、アドバンテージ装置でありフィニッシャーも兼ねる《超能力蛙》を駆使するディミーアリアニメイトが支配率を伸ばしています。リアニメイト戦略を抑え込むべく、レガシーでも《悲嘆》が禁止となりました。

ヴィンテージ

制限:《ウルザの物語》

ウルザの物語

ヴィンテージでは、ほとんどのデッキにパワー9をはじめとした0マナのアーティファクトが複数枚採用されています。《ウルザの物語》から生成される構築物・トークンを強化すると同時に、第Ⅲ章のサーチも非常に強力に使えるということです。《ウルザの物語》ヴィンテージそのものと強力にシナジーしているのです。

《ウルザの物語》を制限にすることで、ヴィンテージのプレイパターンを多彩にすることが期待されます。

登場から間もないころから「《ウルザの物語》は制限すべきではないか」と考えるプレイヤーは少なくありませんでした。それでもここしばらくは「もはや共生していくしかない」と多くのプレイヤーの心境が変化していたようで、この制限指定はある意味、青天の霹靂といえるでしょう。

制限:《苛立たしいガラクタ》

苛立たしいガラクタ

一方で《苛立たしいガラクタ》の制限指定に胸をなでおろしたヴィンテージプレイヤーは多いことでしょう。このカードはモダンにおけるピッチスペルや「待機」呪文を咎めるためにデザインされたものですが、ヴィンテージではこれに加えて《Black Lotus》や「Mox」をプレイできなくしてしまいます。

Black Lotus

ヴィンテージ最大の魅力のひとつは、《Black Lotus》をプレイできることであることに違いありません。すでに制限カードである《虚空の杯》《三なる宝球》と異なり、《苛立たしいガラクタ》は重ねて引いてしまってもドローに交換できてしまう点でも「優れすぎ」ています。ヴィンテージをヴィンテージらしいフォーマットにするべく、《苛立たしいガラクタ》は制限カードとなりました。

展望

この1年の間、禁止制限告知は新セットのリリースにあわせて行われていましたが、そのタイミングが競技イベントの日程とちぐはぐになっていました。今後はプレイヤーが競技イベントにあわせてデッキを準備できるよう、禁止制限告知を地域チャンピオンシップや地域チャンピオンシップ予選のシーズンに合わせて実施されます。

次回の禁止制限告知は2024年12月16日と予告されました。

フォーマットからカードが去ってしまい、デッキを失うのは何度経験しても悲しい出来事です。しかし、禁止制限はそのフォーマットをより楽しく公平に保つために実施されているのです。

最後に、マイケル・メジャース氏の言葉を引用してこの記事を終えます。

最後になりますが、マジックは実に複雑なゲームであるということを強調しておきたいと思います。私たちは常に物事を正しく進められるわけではなく、フォーマットの反応を常に予測できるわけでもありません。それでもこのゲームの制作に携わる仕事は、心から好きでやっている仕事です。解決策が明白な失敗に陥ったときはそのことを真摯に受け止め、ゲームの作り方を改善する道を常に探し求めていきます。

『モダンにおける《有翼の叡智、ナドゥ》の禁止について』より引用。(※一部文章を強調)

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