長い長い1日が終わりを告げようとしている。断っておくが、「長い1日」というのは決して比喩表現ではない。
その証拠に、決勝の3本目は会場が閉場した後にカラオケボックスに場所を移すこととなってしまった。GPにも匹敵する長大なラウンドを乗り越え、栄光を掴むのは果たしてどちらか。
Game 1
先手の藤井はワンマリガン後に力強くと「やります」と宣言。
対する槙島は後手でもみ消し2枚を含む7枚の手札をキープする。
互いに土地を置いてエンドするのみの展開が淡々と続き、槙島が3ターン目にエンドを宣言したところで藤井は並べていた3枚の《溢れかえる岸辺》をひとつずつ起動。これには待ってましたとばかりに、ひとつふたつと順に《もみ消し》がキャストされ、藤井の場には《平地》が僅かに1枚残るのみとなってしまった。《溢れかえる岸辺》からは《Tundra》ではなく《平地》をサーチするところを見ると、《不毛の大地》を警戒しているのだろうか。ただでさえ減った土地をこれ以上減らされたくないのもよく分かる。
藤井は返すターンで《翻弄する魔道士》をプレイし、槙島は《Force of Will》《土を食うもの》《渦まく知識》《思案》という手札と睨めっこしながら熟考し、これをスルーする。現状、仮にこの手札の中にあるものを指定されても困らないし、仮に指定されたものを複数枚引いて腐ったとしても最悪、《渦まく知識》とフェッチランドの組み合わせで有効牌に変えれば良いだけの話だ。フェッチランド1枚を引き込むのもそう難しい話では無い。おそらく槙島はそのように判断したのだろう。
案の定《翻弄する魔道士》は《聖遺の騎士》を指定してきた。してやったりの槙島はどや顔で《土を食うもの》をプレイ!これには藤井も渋い顔。
槙島 「《土を食うもの》はタダツヨですよ!確実に《タルモゴイフ》や《聖遺の騎士》くらいには大きくなりますし、そもそもフィニッシャーは8枚じゃ足りないと思ってるんで」
槙島によれば、かのデイビッドプライスが原形を作ったというこのデッキは、ニューホライズンと呼ばれているらしい。さすがにこれには藤井も驚いた様子。この《タルモゴイフ》の親戚に対して、藤井はとりあえずの回答を見出さなくてはならない。
さらに、この攻防の間にいつの間にか通っていた本家《タルモゴイフ》が藤井のライフを削りにかかる。《タルモゴイフ》のアタックで藤井のライフは12に減少した。藤井は「回答」にあたる《剣を鍬に》を《土を食うもの》に打ってみるも、これには《Force of Will》を合わせる完璧な展開。たまらずチャンプブロックに回った《翻弄する魔道士》が墓地に落ちる頃には《聖遺の騎士》を上手く引き込んでいたりと絶好調の槙島。駄目押しに更にもう1体《タルモゴイフ》を引いてきたところで、藤井が投了。
《神の怒り》でも打たない限り、この局面は崩せないように思うが…。実は藤井のデッキには《神の怒り》の代わりにこの局面を打ち崩せるカードが入っていた。そう、ご存じ《Moat》である。2戦目、槙島はこの《Moat》にいたく苦しめられることになるのである。
藤井 0-1 槙島
Game 2
フィーチャーマッチの度にマリガンしているイメージのある藤井であるが、今度は紛れもない7枚キープで、槙島もそれに応える形で両者マリガンなしでのなった。
藤井は先手2ターン目に《翻弄する魔道士》をキャストし、これが無事に通って《目くらまし》を指定する。実は槙島は後手を取った段階で《目くらまし》を4枚サイドアウトして《クローサの掌握》に替えており、槙島としてはしてやったりの展開。筆者の中では、槙島は完全に策士のイメージが板についてしまった。きっと《クローサの掌握》も、未だ見ぬ《Moat》を想定してのことに違いない。
この返しで槙島は《タルモゴイフ》を通し、ギャラリーの誰もが1本目と同じ展開を思い浮かべる。このまま藤井は《タルモゴイフ》に撲殺されてしまうのだろうか?いやいやいや、そうはいかぬがマジックの面白さ。
ここから先の藤井の追い上げをとくとご覧あれ。
更に2体目の《タルモゴイフ》を追加してクロックをかける槙島であるが、これに対して藤井は精神を刻むもの、ジェイスで対抗。
だがそれすらもダブルアタックで即座にいなされてしまう。
だが返しで藤井の手札から現れたのは……《Moat》!!!これには頭を抱える槙島であるが、《クローサの掌握》はしっかりサイドインされているだけにどこまで本気なのかは筆者にもわからない。棒立ちになってしまっている《タルモゴイフ》を見つめながら「《Moat》つえええええ!!」と呻く槙島であるが、これが演技なのかどうかも筆者にはわからない。実質藤井はたった1枚の《Moat》に支えられてる状態なのだが、この牙城をなかなか破れずにいる槙島。どうやら今回はただ単純に《Moat》の存在に苦しめられているようだ。
しばらくドローゴーが続く中、ようやく引き込んだ槙島の《クローサの掌握》によって静寂は打ち破られた。2体の《タルモゴイフ》がうなりをあげて襲いかかるが、そのうちの1体には《剣を鍬に》が。だが、次のターンを迎えればどの道、残った《タルモゴイフ》のアタックによって藤井のライフはマイナスまで落ち込むこととなる。つまるとこと藤井は首の皮1枚で繋がった状態であると言わざるを得ない。次のドローで何かを引かない限り、藤井に未来はないのだ。
深いため息の後に「死にたくないでござる……」と呟く藤井に対し、祈るように「死んでください!!」と言う槙島のやり取りは、真剣な局面とは裏腹にどこかズレていて珍妙だ。いや、勿論実際には珍妙では済まないくらいに切迫していたのだが。
まず藤井は次のドローで引いた《渦まく知識》をそのままキャストし、フェッチランドを絡めつつ引いたもう1枚の《渦まく知識》をキャスト。これで手に入れた《謎めいた命令》をバウンス+1ドローのモードで《タルモゴイフ》に使用し、そして満を持して放たれる《妖精の女王、ウーナ》!!地
これに対し槙島は手札で腐っていた《剣を鍬に》を《妖精の女王、ウーナ》へと打ちこむが、これには藤井もとっておきの《Force of Will》で応える。ちなみにこれで藤井の手札は正真正銘、ゼロである。
この《妖精の女王、ウーナ》に対して槙島ができることは最早皆無であり、勝負は3本目へと持ち越されることになった。
藤井 1-1 槙島
Game 3
「さて、ぶんまわりぶんまわり」と呟きながらシャッフルをする槙島。だがぶんまわりたいのは藤井も同じである。
実質の初動は3ターン目の槙島の《聖遺の騎士》。キャストする直前に土地を3枚寝かせた段階で「《土を食うもの》か《聖遺の騎士》?」と呟くところを見ると、藤井も徐々に槙島のデッキに慣れていっているのだろう。「どうせ《剣を鍬に》打たれるんだよねぇ」と言いながらキャストすると、これには注文通りの 《剣を鍬に》が。一見、軽口の叩きあいに見えても、その内容は実に的確であり、聞いていて感心してしまう。
Game 1の《もみ消し》連打が頭をちらつくのか、「タップアウトな今がチャーンス♪」と、メインでフェッチをどんどん起動していく藤井。最終戦に臨んで気分が高揚しているのか、いつになく饒舌である。槙島がもう1枚《聖遺の騎士》をキャストするも、これにはゴキゲンで《対抗呪文》を合わせる。
槙島は負けじと引き込んだ《タルモゴイフ》をキャストするも、これには更に《対抗呪文》が。槙島もよく攻めるが、藤井もよくいなしている。まさに1進1退の攻防である。そして遂に…藤井の場に精神を刻むもの、ジェイスが現れる。Game2はアタッカーがいたからこそ簡単にさばけたものの、無人の荒野に降臨するプレインズウォーカーはまさに鬼神の如き強さを発揮する。この精神を刻むもの、ジェイスをどう処理するかが運命の分かれ道であると言えよう。
とりあえず、そのアタッカーを出さんと槙島は《タルモゴイフ》をプレイしてみるも、これにはきっちり《剣を鍬に》を合わせられる始末。そしてなんとかねじこんだ《土を食うもの》も《仕組まれた爆薬》で対処されてしまい、踏んだり蹴ったりの槙島。あまりにきれいに対処されてしまい、またも槙島は呻き声が止まらない。
《アカデミーの廃墟》の対消滅によって《仕組まれた爆薬》の無限ループこそ回避したものの、精神を刻むものジェイスのバウンス能力で時間を稼がれ、《遍歴の騎士、エルズペス》まで繋げられたとあっては立つ瀬が無い。何よりもプレインズウォーカーに触りたい局面で、嘲笑うかのように2枚目の《クローサの掌握》を引いてくる噛み合わなさもあり、槙島は舌打ちをしながらターンを返すしかない。
ちょうどここでエクストラターンに入り、自分のターンを迎えて冷静に考え、自ら勝ち目が無いことを悟った槙島は、負けを認めて右手を差し出したのだった。
藤井 2-1 槙島
「やはり、もっとも使いこんでいるデッキですから」という藤井の言葉が脳裏をよぎる。
《渦まく知識》を愛し、《対抗呪文》を愛し、故に青白を愛する。
勿論、彼はマジックそのものも、深く愛していることだろう。
そして、「愛機」と共に優勝できるのは、どんなにか幸せなことだろう。
おめでとう、藤井秀和!