24年9月統率者戦ルール改定について
2024年9月24日、Commander Rules Committee(以下、CRC)によりルールアップデートが告示されました。以下に内容を要約し、解説します。
【お知らせ】このたび統率者戦ルール委員会にて、統率者戦フォーマットにおける禁止推奨カードリストの更新が行われました。今回そちらの告知内容の翻訳版を掲載いたします。詳細は記事をご確認ください。 https://t.co/1skyJ2yNsl #mtgjp https://t.co/cZQ0pyDcRB
— マジック:ザ・ギャザリング (@mtgjp) September 23, 2024
禁止改定の内容
《波止場の恐喝者》禁止
《宝石の睡蓮》禁止
《魔力の墓所》禁止
《有翼の叡智、ナドゥ》禁止
解説
統率者戦は「出る杭は打たれる」が基本で、有利な状況を作ったプレイヤーは3人から妨害を受けることになります。しかしながら、近年は序盤に生み出したマナ・アドバンテージがもはや誰も叩けない高さの杭を生み出すことがしばしばありました。『ストリクスヘイヴン:魔法学院』以降、そうした傾向が強まったとCRCは指摘し、こうしたプレイパターンの頻度を下げることが今回の禁止改定の目的だと説明しています。
《魔力の墓所》
1ターン目に3マナ、2ターン目に4マナ以上のマナを使えるようになる《魔力の墓所》は、ほとんどのデッキにとって「入れない理由」がほとんどありません。デメリットであるダメージも恩恵に対して軽いものになっています。ライフが40点で始まる統率者戦ならではの強みを持つ強力なカードとして、統率者戦を象徴してきました。
0マナで唱えられて、継続的にマナを生み出せるアーティファクトとしては《魔力の墓所》だけが唯一何の条件もなくマナを生み出すことができました。その点数も2点と破格です。
1ターン目に0マナで出てくるこのカードは、《魔力の墓所》から「印鑑」や「タリスマン」、土地、そしてさらなる「印鑑」といった爆発的なスタートを実現させ、2ターン目には5マナを使えるようになります。ゲームが12ターン以上続けば《魔力の墓所》から受けるダメージの蓄積も代償として無視できないものになるのですが、その爆発的な力で6~8ターン目にゲームを決着させる場合は欠点になりません。
–マジック:ザ・ギャザリング日本語公式ホームページ『2024年9月23日 統率者戦禁止制限告知』より引用。
一方で、《太陽の指輪》を禁止しないとCRCは明言しました。
《太陽の指輪》は《魔力の墓所》よりも強力と評されることもあるマナ・アーティファクトです。《魔力の墓所》を禁止にするなら《太陽の指輪》も禁止にするべきではないでしょうか。
私たちは《太陽の指輪》を禁止しませんし、そのつもりもありません。たしかに前述した基準に則れば、《太陽の指輪》も禁止される条件を満たしています。しかし《太陽の指輪》は統率者戦というフォーマットを象徴するカードであり、他のカードでは真似できないような法則を超越した方法でこのフォーマットの独自性と強く結びついています。《太陽の指輪》を禁止すれば、統率者戦のアイデンティティを根底から変えることになります。
–マジック:ザ・ギャザリング日本語公式ホームページ『2024年9月23日 統率者戦禁止制限告知』より引用。
私たちは爆発的なスタートをすべて排除しようとしているのではありません(たまに起きるのはむしろエキサイティングなことです)。他の3枚(編集注:《魔力の墓所》、《宝石の睡蓮》、《波止場の恐喝者》)を取り除くことで、マナ・カーブを逸脱したマナを最初の数ターンで安定して生み出せる手札を揃えられる可能性は減るでしょう。
–マジック:ザ・ギャザリング日本語公式ホームページ『2024年9月23日 統率者戦禁止制限告知』より引用。
CRCの意図することは、序盤のマナ加速から圧倒的なアドバンテージを得てそのまま優位を維持して勝利するゲームのパターンを「減らす」ことで、「なくす」ことではないといいます。「ゲームバランスを考慮して《魔力の墓所》を禁止にするなら《太陽の指輪》も禁止にするべき」という主張はもっともですが、ときおり起こる程度なら、それもまた統率者戦の楽しみのひとつだと考えているようです。
《宝石の睡蓮》
『統率者レジェンズ』の目玉カードとして登場した《宝石の睡蓮》は統率者戦で《Black Lotus》が使えるとして非常に注目を集めました。
0マナから3マナを生み出す《宝石の睡蓮》はコストの重い統率者や単色の統率者をサポートする強力なカードとして《魔力の墓所》ほどではないものの、多くのデッキで採用されるカードでした。
《宝石の睡蓮》もまた2ターン目に5マナを実現しますが、こちらは特に良い手札を揃える必要もありません。生み出したマナでできることは制限されているものの、近年の4マナや5マナの統率者はかなりのパンチ力を備えており、消費したマナを埋め合わせるドロー能力を持っていたり、ゲームの序盤に干渉することが難しい護法のような除去耐性を持っていたりするものも多くあります。
–マジック:ザ・ギャザリング日本語公式ホームページ『2024年9月23日 統率者戦禁止制限告知』より引用。
マナ・コストの重い統率者をサポートするはずが、2ターン目に4~6マナ程度の統率者をプレイするパターンを生み出してしまっていました。《宝石の睡蓮》1枚分のアドバンテージを失うことなどまったく問題ではありません。プレイされた統率者がテンポだけでなくカードアドバンテージをも回復させます。
《宝石の睡蓮》もやはり《魔力の墓所》と同様に「圧倒する杭」を生み出すカードでした。
《波止場の恐喝者》
《波止場の恐喝者》は『統率者2019』で登場したカード。後に登場する《偏向はたき》や《死の国からの脱出》とあわせて「赤を使う理由」となっていました。
マナを支払ってクリーチャーを出し入れできるカードと組み合わせて無限マナを生み出すコンボも多くのパターンが存在します。
2マナから10マナ以上を生み出すことさえある《波止場の恐喝者》は、これまでもたびたびCRCに監視対象とされながら禁止を免れてきました。
We’ve publicly had our eye on Dockside Extortionist for a while now, and have ultimately concluded that, unless there’s a sudden surge into more casual spaces – where it hasn’t really thrived due to the lower density of cheap, fast mana – we don’t anticipate taking action on it. It’s a ridiculously powerful card, but scales with the rest of the table, and at the point it becomes broken, plenty of other broken stuff is already happening.
–CRC『January 2023 Quarterly Update』より引用。
我々は《波止場の恐喝者》についても監視を続けてきましたが、よりカジュアルなテーブルで急増しない限り、介入しないと結論づけました(カジュアルなテーブルでは軽くて早いマナ関連のカードの使用度が低いため、あまり活躍していません)。
《波止場の恐喝者》は非常に強力ですが、テーブル次第でその強さが変わります。これが壊れた強さを発揮したとき、すでにそのゲームは壊れた状態になっているでしょう。
–晴れる屋メディアによる翻訳
これまでは「《波止場の恐喝者》が強く使われる場面では、ほかのプレイヤーが大量のアーティファクトやエンチャントを展開しており、すでにまずい状況になっているはずだ」というのがCRCの主張でした。
《波止場の恐喝者》は、通常であれば先の2枚ほどゲーム序盤から爆発的な力を発揮するわけではありません。それでも2ターン目に多くのマナを生み出せる可能性があり、その後であっても手堅く宝物・トークンを生成する手段となります。このカードは数年にわたり境界線上にありましたが、パワーレベルに応じてうまく収まっていたため、これまで行動を起こすことは避けてきました。しかしながら、それはたびたび序盤から雪だるま式に差を広げる展開を引き起こすようになっているのです。
–マジック:ザ・ギャザリング日本語公式ホームページ『2024年9月23日 統率者戦禁止制限告知』より引用。
《波止場の恐喝者》はマナ加速とコンボパーツを兼ねるたのしいカードでしたが、やりすぎていたようです。近年ではマナ・アーティファクト以外にもアーティファクト・トークンやアーティファクト・クリーチャー、エンチャント・クリーチャーが戦場に多く並ぶようになり、カジュアルなゲームであっても《波止場の恐喝者》は爆発的なマナを生み出すに至っていたのです。
《有翼の叡智、ナドゥ》
統率者戦を意識した調整を行った結果、プレイテストをする機会を逸し、“デザインに失敗した”ともまで言わしめた《有翼の叡智、ナドゥ》ですが、統率者戦でも問題を起こしていました。
《手甲》のほかにも《稲妻のすね当て》や打ち消されない《Ancestral Recall》こと《Sea Kings’ Blessing》などさまざまな方法でアドバンテージを得るだけでなく、ライブラリーを掘り切ったり、《忍耐》を利用した無限ループを形成することもありました。
ときにはコンボが完遂されないこともあり、コンボが成立するまで《稲妻のすね当て》が履き替えられる様を見届ける必要がありました。プレイ体験としては楽しいものではありません。
《有翼の叡智、ナドゥ》を統率者にした場合はもちろん、青緑を含むデッキでもアドバンテージ装置兼コンボパーツとして採用が見られました。こうしたデッキはときに統率者の名を差し置いて「バントナドゥ」「4cナドゥ」などと呼ばれることさえありました。
《有翼の叡智、ナドゥ》は現時点で他のフォーマットにおいて禁止されており、私たちが統率者戦における動向を詳しく見たことに驚きはないでしょう。他のフォーマットで大きな問題となっているカード(《王冠泥棒、オーコ》や「相棒」など)が統率者戦では問題ないということもあるのですが、《有翼の叡智、ナドゥ》を観察したところ、このカード固有のプレイ・パターンが問題となることが示唆されました。
問題の一部は、省略できず最終的に失敗する可能性もある不確かな手順をかなり長い時間行う《有翼の叡智、ナドゥ》の勝ち手段にあります。これは、専用構築が必要になる一連のコンボではありません。「普通の」シミック・デッキに《有翼の叡智、ナドゥ》を投入するだけでも、ゲームがリソースをゆっくり削り出すような展開になるリスクを抱えているのです。《有翼の叡智、ナドゥ》はカジュアル・プレイにおける主力カード、中でも《稲妻のすね当て》と強烈な相互作用を持ち、デッキに悪用する意図がなくとも、ゲームの時間を独占してしまう状況を生み出す可能性があります。それは、私たちがリスクを抱えてでもやりたい体験ではありません。そのため《有翼の叡智、ナドゥ》も禁止となります。
–マジック:ザ・ギャザリング日本語公式ホームページ『2024年9月23日 統率者戦禁止制限告知』より引用。
展望
「今回禁止になったカードがいずれも高額で取引されるものであったこと」「カードデザインをするウィザーズと統率者戦のルールを司るCRCがべつの組織であることのいびつさ」など、コミュニティからは不満の声も聞こえてきます。CRCのリーダー的存在であったシェルドン・メネリー/Sheldon Menery氏の亡きあと、CRCの運営に不安を感じているプレイヤーも多いことでしょう。
統率者戦を象徴するカードが一挙にゲームを去ってしまう告知となってしまい、非常に残念に感じる方もいるかと思います。これにより、カジュアルなテーブルだけでなく、統率者神挑戦者決定戦などのトーナメントでも大きくメタゲームが動くことになります。
その一方で、統率者戦の根本的な楽しさは揺るぎません。多人数戦ならではの豊富で活発なコミュニケーション、幅広いカードプールがつくる奥深いゲーム性には変わらないのです。
これを機に統率者戦やマジックと距離を置くことを選択する方もいらっしゃるでしょう。願わくば、またいつの日か《太陽の指輪》を握ってキープを宣言する日が帰ってきますように。
それではみなさん、統率者戦のテーブルでお会いしましょう。