Translated by Tetsu Furukawa
(掲載日 2024/10/21)
はじめに
最近お気に入りのマジックの遊び方に、MTGアリーナでの全知ドラフトがある。コンセプトはいたって単純。各プレイヤーは《全知》の紋章がある状態でゲームを開始し、手札からマナコストなしで呪文を唱えることができる。また1ターンに1回、追加コストや起動型能力を支払うために、すべての色のマナを1点ずつマナプールに加えることができる。
この大きなルールの変更は、従来のマジックの制約を再定義することになる。マナコストや色の要求といった制限要素がなくなると、カードのコストは無視され、その効果のみが重要になるのだ。このフォーマットでは、我々は新たな視点からマジックを考え直し、従来の常識を再考察することを余儀なくされる。
たとえば、ドロー呪文が非常に価値のあるものになり、ゲーム開始時に良い手札を引けば、1ターン目ですべてのカードを使い切ることも可能だ。
しかし、このフォーマットをMTGアリーナで遊ぶ際には、1つ大きな問題がある。それは、ドローできるカードがあまりにも多すぎる点だ。ドラフト時にBotによる妨害がない限り、それらを組み合わせることで簡単に1ターン目にキルを達成できてしまう。この状況では、片方のプレイヤーはほとんどまともにゲームをプレイすることなく終わってしまい、フォーマット本来の楽しさが損なわれてしまうのだ。
さらに悪いことに、ピックしたカード(45枚中40枚)をほとんど使わなければならず、このフォーマットは通常3枚の手札でスタートする。全知ドラフトでは、パックの最後のカードがほとんど役に立たないことが多く、結果的に不利な初手になりがちだ。これでは、一方的で楽しめないゲーム展開になってしまう。
元Hareruya Hopesのレオ・ラオネン/Leo Lahonenと私は、ここである1つの疑問にたどり着いた。
「もし全知ドラフトのコンセプトを基にキューブをデザインしたら、どんなことが起こるだろうか?このフォーマットの独特な利点を活かしながら、欠点を取り除くことはできるだろうか?」
最近のキューブドラフトの詳細はここから確認することができる。
《全知》キューブを構成するにあたっての基本方針
自分だけの《予言》を構築する
レオと最初に話し合ったことは、デッキに強力で楽しい動きを加えつつも、それがあまりにも強すぎないようにするべきだということだった。このキューブが完成したあと、友人はこれを「自分で《予言》を構築するキューブ」だと表現したが、これは私たちが目指していたことを的確に表していると思う。
具体的に言えば、プレイヤーが簡単にデッキ全体をドローしてしまう状況は避けたいと考えていた。そのため、特にドローできる手段はあまり簡単に得られないようにしている。確実に得られるカードアドバンテージの量は非常に限られており、それなりに工夫が求められるのだ。
《予言》に最も近いカードは《天才の記念像》だが、これは起動にマナを消費し、タップ状態で場に出るため、ほかのカードタイプに比べて”悪用”しにくくなっている。
実はカードを直接ドローしなくても、カードアドバンテージを得る方法はたくさんある。たとえば、《ドミナリアの大修復》は追加のカードを手に入れられるが、特定のカード・タイプだけが対象となり、効果が発揮されるまでに時間がかかる。《たなびき織りの天使》もカードアドバンテージをもたらすが、ブリンクして嬉しいクリーチャーを対象にする必要がある。また、《致命的な訪問》は「フラッシュバック」を持つカードを墓地に送ることで、その価値を引き出すことができたりするのだ。
このようなアドバンテージの小さな積み重ねは、プレイヤーのリソースを増やし、より強力な動きを実現してくれる。その結果、意味のある選択をたくさん取れるようになり、なおかつゲームの最初のターンで勝つような壊れたデッキが生まれることはなくなるのだ。アドバンテージエンジンが機能するために異なるシナジーを必要とする場合、ドラフトピックはよりダイナミックになり、デッキは明確な個性を持つようになるだろう。
選択肢を生み出す
《予言》というカードには別の欠点もある。全知ドラフトには基本的に制限がないため、どの全知キューブでも使える万能なカードになってしまい、重要な選択肢が生まれないのだ。これでは、非常に退屈なカードになってしまう。
選択肢を増やす別の方法は、プレイヤーが制約されるリソースに焦点を当てることだ。全知キューブおけるこの明確な例が、マナに焦点を当てていることである。
《全知》の紋章によって、呪文はコストなしで唱えられるが、能力を起動したり追加コストを支払ったりする際には役立たない。ただし、起動コストや「キッカー」を持つカードが複数ある場合、限られたマナをどれに使うか選ばなければならないのだ。
この方針は、《ギトゥの年代記編者》や《一瞬》を採用している一方で、《排撃》や《古術師》を採用していないなど、個々のカードの選択にはっきりと表れている。
これらの「キッカー」呪文はゲームの選択肢を増やしてくれるだけでなく、簡単に決着がついてしまうのを防ぐ役割も果たしてくれるのだ。「キッカー」を持たないこれらのバージョンでは、2枚コンボで即座にデッキ全体を一気に引いていしまうため、デッキが強力になりすぎてしまう。
《排撃》と《一瞬》のように、効果が似ていても微妙に異なるカードがMTGにはたくさんある。似たようなカードでキューブがごちゃごちゃになるのは避けたいので、ドラフトとゲームプレイの両方で最も面白い選択肢を生み出すものを優先した。
また、マナを重要視させるもう1つの方法として、《発展/発破》のようなカードがある。片側はプレイ可能とはいえ面白い能力ではないが、もう片方は追加のマナを生み出す方法を探す動機付けとなる強力な見返りがある。
認知度の高いカードを優先する
キューブドラフトでパックを開ける際、馴染みのあるカードやすぐに分かるカードが含まれていると内容を把握しやすくなる。象徴的なカードを優先することで、初めてそのキューブをプレイする人には敷居が低くなり、より楽しみやすくなるのだ。
これはほかのキューブにも言えることだが、特に全知ドラフトにおいては重要だと感じる。というのも、全知ドラフトでは自分の使わない色のカードを無視することができないからだ。もし仮にすべてのカードを1枚ずつ読まなければならないとしたら、楽しいはずのドラフトはたちまち面倒な作業になってしまうだろう。
カードに書かれたテキスト量も考慮すべき重要な要素だ。デザインがシンプルで洗練されたカードは、情報をすぐに把握しやすい。しかし、無関係なテキストや紛らわしい表現を含むカードは、たとえキューブに合っていても避けるべきだ。たとえば、《本能を穢すもの》は、テキストに含まれる能力説明の半分がこのフォーマットでは重要でないため、このキューブでは採用しないほうがいいだろう。
サーチ系カードを使わない
次に決めた明確なルールは、特別な理由がない限りサーチ効果を持つカードを使わないことだった。サーチ効果は、プレイヤーがデッキからカードを探した後に再びシャッフルする必要があるため、単純に時間がかかってしまう。
ウィザーズ・オブ・ザ・コーストがパイオニアの初期段階でフェッチランドを禁止したのは、非常に適切な判断だと思う。そこで私たちはこの方針をここでも採用したいと考えたのだ。現在、例外として数枚のサーチ効果を持つカードを許容しているが、それでもできる限りその数を減らすべきだと考えている。
アーキタイプの構想
キューブを作成する次の段階は、アーキタイプの選定だった。通常のキューブであれば、色の組み合わせから方向性を決めて進めるが、誰もが自由にカードを唱えられるこのキューブではその方法はまったく通用しない。
さらに全知キューブでは、カードパワーを限られた範囲に納める必要がある別の難しさがある。そのため、たとえば同族シナジーはほとんど成立しない。これは、同族カードの多くが弱すぎるか、エルドラージのように強すぎるためだ。
キューブを作るこの部分は大変な「仕事」だ。私たちは、キューブに適したカードを見つけるために、膨大な時間をかけてカードリストを徹底的に調査した。一度アーキタイプが決まれば、特定のキーワードやカードタイプに絞って候補を探すことができるようになるが、それでもまだ大量のカードを精査しなければならない。
最終的に私たちは、いくつかのコンセプトを決めた。これらのなかには、デッキ全体のアーキタイプに影響を与えるものから、デッキ内でちょっとしたシナジーを生み出すものもある。
墓地の再利用と切削
実際にカードをドローせずにカードアドバンテージを得る簡単な方法のひとつは、プレイヤーに墓地からカードを再利用させることだ。墓地からの再利用はリソースが増えるまでに時間がかかり、1ターンでデッキのカードを使い切ってしまうという問題も起きないため、この目的に非常に適している。
墓地の再利用するカードやフラッシュバックと相性が良いのは、ほかのカードを墓地に送る効果を持つカードだ。
個人的にキューブで一番好きな動きのひとつが、《死体の鑑定人》で《世界心のフェニックス》を墓地に落とすことだ。なんてバリューのあるプレイなんだろう!
横展開/トークン
広範囲にクリーチャーを展開する”ゴー・ワイド”戦略は可能だが、ほかのフォーマットとは少し異なる。多くのトークンを生成するカードは、サイズの小さいトークンを数体生成するものだが、このフォーマットではそれだけでは力不足だ。
全知キューブのトークン生成カードは、通常よりも大きなトークンを作れるか、能力を持つトークンであるか、または効果が繰り返し使えたり、ほかのなんらかの形でシナジーを持つトークンが望ましい。
トークンをコンセプトにしたデッキの利点は、全体強化の代わりにトークンを生け贄にして何らかの効果を得られることが多い点だ。
アーティファクトとエンチャント
次に注目すべきアーキタイプはアーティファクトだ。エンチャントも多少関連するが、中心となるのはアーティファクトになる。マジックの歴史においてアーティファクトやそれに関連するシナジーを持つカードはたくさんあり、選択肢も豊富にある。
このアーキタイプはさきほどの2つのアーキタイプとも自然に組み合わせやすい。たとえば《つむじ風のならず者》や《先駆のゴーレム》はトークンデッキでも採用できるし、《楕円競走の無謀者》や《航行長ハナ》は切削戦略と非常に相性が良い。
また宝物・トークンを生成するカードは、アーティファクト間のシナジーを強化するだけでなく、通常のマナでは支払えないコストを支払うためにも役に立つ。
インスタントとソーサリー
「スペル重視」というテーマは、マジックのフォーマットではお馴染みである。しかし、全知キューブでは「カードを引く」と書かれたカードにあまり頼ることができない。このアーキタイプをサポートするようなキャントリップ呪文は、ほかのどのデッキでも同様に素晴らしい効果なのだ。そのため、このテーマで上手く機能するカードを見つけるためには少し工夫が必要だった。
良い知らせとしては、キューブ内の多くの妨害呪文が偶然にもインスタントやソーサリーであるため、それらと相性の良いカードを組み合わせることで、相手を妨害しつつ自分のゲームプランを遂行できることだ。
また、インスタントやソーサリーから得られる強力な効果は、ほかのコンセプトとも相性が良い。たとえば、《ジェスカイの隆盛》はクリーチャーを展開する戦略と相性が良く、《サウロンの口》や《護符破りの小悪魔》は墓地を再利用したり切削する戦略ともシナジーを生み出すことができる。
戦場に出たとき
戦場に出たときの効果を繰り返し誘発させることで、カードを引かずに価値を生み出すことができる。たとえば、《微光角の鹿》や《上天の貿易風》《儚い存在》はさまざまなシナジーをより強化してくれる。ただし、これらのカードは強力なコンボを生み出す可能性もあるため注意が必要だ。
たとえば、《古術師》はバウンス呪文を組み合わせることでいとも簡単にループできるし、《大クラゲ》は自身をバウンスすることで《ハゾレトの碑》のようなカードの能力を無限に誘発させることが可能だ。これらのコンボはそれぞれ単体では無害だが、キューブに両方入れないよう注意しなければならない。
このアーキタイプの長所は、ほかのアーキタイプとも非常に組み合わせやすいことだ。戦場にでたときにトークンやアーティファクトを生み出すカードは多い。
サイズ重視
いくつかのコンセプトを試したが、思ったほど上手くいかなかったテーマもあった。そのひとつが大型クリーチャーを使ったビートダウンで、基本的にこのキューブにおけるアグロデッキ担当にするつもりだった。ほかのテーマとのシナジーをあまり重視せず、大型クリーチャーを使って強引に勝ちにいこうというものだ。
また、このカテゴリーに含まれるカードには、《重力殴打》や《群れの統率者アジャニ》《天使の贈り物》のようなカードもあった。
しかし、このコンセプトには1つ大きな問題があった。「単純に面白くなかった」のだ。大型クリーチャーに優秀な能力があると強すぎるし、なければ退屈だ。《重力殴打》のようなカードは当たり外れが大きく、何の役にも立たないか、瞬時にゲームを終わらせるかのどちらかで、どちらにしても楽しいゲームとは言えなかったのだ。一部のカードはまだキューブに残っているが、それは単体でも良いカードだからだ。
しかし、コストの重いカードをどのように扱うかを考えることで、より楽しい挑戦に目を向けることもできた。それは、コストの軽いカードをどのように活かすのかということだ。《全知》があれば高コストのカードをプレイするのは簡単だ。しかし、低コストカードのカードをピックしたプレイヤーは、そのリターンをどう受ければよいのだろうか?
これにはいくつか方法がある。《セラの模範》は墓地にある低コストのパーマネントを再利用してアドバンテージを得られるし、《徴兵士官》はデッキを掘り進めてそれらを見つけ出せる。高コストのカードとは異なり、軽いカードは《野獣の擁護者、ビビアン》のようなカードからもプレイ可能だ(追放されたカードは実際のマナコストを支払う必要があるので注意)。
カウンター
もうひとつ、あまり上手くいかなかったものに《増え続ける成長》や《植物の喧嘩屋》のようなカードを含む「カウンター」をテーマにしたアーキタイプがあった。
このテーマは、適切なパワーレベルのカードを見つけることや、ほかのアーキタイプとのシナジーを持たせるのが難しいという課題があったのだ。また、これ以上追及しても期待したような結果は得られなかった。
ただこれらの中には、単体で見れば面白いカードもあり、それらを活かす方法もあったため、今回のキューブにいくつか残っている。
世界を変える力はあなたにある
キューブを作る最後のステップは、終わりのない「チューニング」である。そして、自分でキューブを作る醍醐味のひとつは、気に入らない部分があれば自分の手で変更できることだ!カードをプレイし続けることで、どのカードが機能し、どれが機能しないかというデータが蓄積されていき、自由自在にカードリストを更新しつづけることができる。
自分のゲーム経験から学ぶだけでなく、一緒にプレイしている友人たちからフィードバックをもらうのも良いアイデアだろう。たとえば全知キューブでは、カードのパワーレベルを評価し、各アーキタイプのバランスを取ることが重要だ。そうすることで、すべてのプレイヤーが楽しめるゲーム環境を作ることができる。
以下の質問は、キューブをより良くするための良い議論のきっかけとなるだろう。
キューブ改善Q&A
Q. 1巡目で必ずピックされるようなカードはあったのか?また、そのカードだけでゲームの勝敗が決まってしまうことがあったか?
A. そうだとすれば、いずれもそのカードが強すぎるというシグナルである。
Q. パックのなかで、いつも最後の1枚になってしまうカードはないか?
A. もしそういうカードがあって、誰もそのカードをデッキに入れたがらない場合、そのカードは弱すぎるかもしれない。
Q. どのアーキタイプが頻繁に勝利しているか?
A. 8人でドラフトをして毎回同じようなデッキが勝つ場合、それはアーキタイプ間のバランスが取れていない証拠だ。
Q. 強弱にムラがあるカードはあったか?
たとえば、私たちは《思考のひずみ》をキューブから外した。というのも、このカードは先手で使うと一方的にゲームで勝ってしまうことがあるが、後手だとまったく役に立たないことが多かったからだ。
全知キューブは通常のマジックとはまったく異なる遊び方だ。プレイヤーが慣れるのに骨を折ることもあるが、個人的にはドラフトすることにとても満足しているし、ゲームもとても楽しい。MTGアリーナの全知ドラフトが好きな人や、特殊なルールのキューブに興味がある人は、ぜひ試してほしい。
レオと私は、もともとのアリーナフォーマットにあった問題をしっかりと解決しつつ、新たな問題が起きないよう工夫ができたと思う。最も強力なカードと最も弱いカードの両方を削ることで、ゲームのバランスがより取れて互いに干渉しあうようなゲームを楽しめるようになった。
通常のマジックと比べると、プレイヤーは1ターン目から強力な動きをとれるため、非常に豪快なゲームが展開される。また、デッキは呪文だけで構成されているので、マナが止まる「マナスクリュー」や、土地ばかり引いてしまう「マナフラッド」に悩まされることもないのだ。いろいろなアーキタイプが交錯することで、ドラフトの過程は活発になり、新しい方法でカードのシナジーを作る創造性も発揮されるだろう。
この記事が、斬新なコンセプトに基づいたキューブの作り方に役立つヒントになれば幸いだ。ここで得たことを参考にして、あなた自身のキューブをぜひ作ってみてほしい!
マッティ・クイスマ (X)